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最愛の友を見殺しにしたエルフ騎士は、静寂を望む。  作者: 神田 貴糸


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14/17

14.敵ですね!

 ジェフリーは私との正式な結婚のため、複雑で面倒な手続きに挑んでくれたらしい。しかし──すべて妨害されて白紙に戻されている。


 そう教えてくれたのは、こともあろうか。目下のところ最大の敵ウラノスだった。


「すでに根回し済みだ。要らんことする暇があったら、警備を見直せ。と、アレ(・・)に伝えてくれるか? ルウ」


 婚約予定者への魅惑的な微笑みと、冷ややかな伝達を両立させる普通でない男は、私たちの考えることなど見切っていた。

 私から伝言すればどれだけジェフリーが傷つくか、理解したうえで、とどめを刺すつもりだ。パレード警備配置変更の急ぎの書類まで持たされれば、行くしかないじゃないか。本当に意地が悪い。


 廊下をすれ違う女性たちが、宰相ウラノスと平民エルフ護衛女騎士である私をチラチラ見て、囁き合う。

 ウラノスが私と連れ添って歩くのは、私と噂になるためだ。目的地への移動さえ、無駄なく利用する。


(そこのお嬢さん方。『お前たち暇そうだな。どこの部署だ?』って思われているので、気をつけて!!)


 そう大声で伝えたいが、すでに遅いだろう。ウラノスは素知らぬ顔でつぶさに観察し、情報を得ていく。最も効果的な人員移動が頭の中で描かれているはずだ。

 

 忙しければ忙しいほど、困難であれば困難であるほど、この御仁はギラギラ燃えてくる。明後日のパレードのため、少々寝不足でオーバーワーク気味。だからますます絶好調。もう誰の手にも負えない……。


 ふわりと香る色気を漂わせながら、砕けた物言いで笑いかけてきた。


「ルウ。世代間(じぇねれーしょん)ギャップは、どうやったら埋まるかな」


 突然なんだろう。私との話でいいですか?


 ウラノス自ら強いた政略結婚。今さら年齢差を気にしてどうする。面白すぎて、今までの私だったら、吹いている。

 しかしここで対応を間違ったら、墓まっしぐら。長生きしたい私は、こう答える。


「埋める必要などございません。私がウラノス様に合わせますゆえ!」

 

 手間をかけさせない。

 それがウラノス対応の鉄則(いち)


「……そうか」


 ウラノスの笑顔は揺るがない。が、何かちょっと変な間できた。

 手がかからない女アピールで合っているはず。でも私は空気が読めない。何か見落としたのか。


「……城下で美味しいと評判の菓子屋があるそうだ。今度一緒に食べに行くか」


「……え」


「ルウは昔から甘い物を食べると機嫌がなおる」


 私は機嫌が悪いのか? お誘いの意図も分からない。……どうする。


「嬉しいです……。一緒に選んでよろしいのですか?」


「もちろんいいさ。好きなものを、好きなだけ頼むといい」


「ありがとうございます! 持ち帰って(・・・・・)ゆっくりいただきます!」


「……」


 時間を取らせない。

 それがウラノス対応の鉄則()

 

 私と噂になることが目的の外出だ。だらだら店にいる必要はない。ギラギラ御仁が店に行くだけで注目されるので、持ち帰りで充分。


 ふう。危ないところだった。言葉通り取って、二人で食べに行ったら、無駄な時間の腹いせに一服盛られたかもしれない。時間を取らせない女アピールで合っているはず。


 しかし……殺されない女になるのも大変だ。ウラノスがいろいろ試してくるから、本当に面倒くさい。

 

 執務室に戻る宰相ウラノスの笑顔に、ほんの少しヒビが入って見える。お疲れなら、私のことなど構わなければいいのに……。


 わざわざご足労頂いたが、肝心の伝言はジェフリーに伝え忘れるつもりだ。伝えなければ傷つかない。私と本気で結婚しようとしてくれたジェフリーが、私のせいで嫌な思いをしないよう、できるだけのことをしたいと思っている。

 



  

 さて。全く気は進まないが、書類をさっさと届けよう。私は足を早める。

 用を終え、急いで王妃護衛騎士控室に戻らなければならない。ウラノスが宰相の権力で強引に私を連れ出してしまった。王妃付き護衛長官は冷や汗をかきながら、今か今かと私の帰りを待っている。ウラノス嫌いの王妃ロゼリーヌに知られたら、ものすごーく怒られるからだ。

 

 全力歩行中に、何とも微妙な人と遭遇した。


「おや。お使い〜?」


 王宮魔導士第二連隊副隊長カーターは、今日ものんびりしている。私は返事の代わりに上位者に対するお辞儀をする。


「第一連隊行くの? ジェフリーに持っていく書類だったら、預かろうか。ちょうど行くところなんだ」


 正直助かる。

 私は書類の束を揃えた。了承と見たカーターが手を伸ばす。


「警備配置変更だね」


 胸の奥でカチリと音が鳴った。私は瞬間的に、彼の手を避け、書類を明後日の方向へ逸らしていた。


「え?」


 遠ざけたのにも関わらず、カーターの手が再び伸びてきた。それを私は再び避ける。

 カーターはからかうように笑いながら、何度も手を出してくる。その度にひらりとかわす。

 彼の手は気まぐれなようで、時々鋭く、何度も奪われそうになった。彼の本気を垣間見て、私は警戒度を上げる。距離を置くため、大きく跳躍した。


「あれれ?」


「……お心遣いありがとうございます。私の職務ですから、自分で全うするのが筋かと思います」


「あっそ。まあ、僕はどっちでもいいけど。書類渡すくらいで大袈裟だなあ」


「失礼いたします」

 

 できる限りの歩きの速さで、王宮魔導士第一連隊の執務室へ向かう。早々に面会してくれたジェフリーに告げる。王宮魔導士第二連隊副隊長カーターが怪しい、と。


 彼は、ああ、と大きく息を吐いた。


「カーターは隣国の出身だ。多分スパイ活動をしている」


「え……。知ってて、上位の王宮魔導士として、勤めさせているのですか?!」


「まあな。あいつ、仕事ができるし」

 

「あの…………でも。隣国に情報流されたら、大変です!」


「そうだな。情報漏洩は良くない。良くはないが、そんなこと言ってられないくらい、我が国は深刻な人材不足だ。多少の漏洩で良い人材が得られるなら、目を瞑る。巨大な王国が立ち行かなくなるよりマシだ」


「ジェフ様………………私。やっぱり分かりません。敵ですよね?! 敵なのに良い人材って、どういうことですか? 私は……もし同じ部隊に敵がいたら、一緒になんて戦えません!!」


「戦場はそうだろう。命の駆け引きをしてるときに、不安分子は一切許されない。でも、政治は違う。使えるものは使う」


 きけばネランドール国には、かなりの数のスパイがいるという。私はパレードがひどく不安定で危ういものに思えてきた。

 とはいえ……話は切り上げだ。

 多忙極める王宮魔導士第一連隊副隊長を、これ以上質問攻めにはできない。私は掻き乱れた心をどうにもできないまま、彼の執務室を出た。

 

 


四日間連続投稿予定です。よろしければお付き合いください。

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