その2
コブラの凄絶な笑顔!その蛇めいて鋭い視線!ハンドレッドは思わず怯み、思考は淀む。
「フオオオオォォッッ!!」
パッチィィィィィン!!コブラが雄叫びと共に角行を叩きつける!
ハンドレッドは予め歯間に仕込んであった興奮剤タブレットを飲み込んだ!備えが無ければ失神してもおかしくはない。失神はすなわち時間切れでの敗北を意味する。
危ういところではあったがこれで分かった。コブラの狙いは王将を討つことではなく対戦相手を再起不能にすることだ。実際に対戦相手を切腹させる事に長け、それ一本で高位の棋士となったものもいる。
だがこれはしょせん脅しであり、一回限りの奇襲に過ぎない。ハンドレッドはこれを耐えきり勝利を確信した!
「この程度だったか」
侮蔑、失望……様々な心境が巡る中でハンドレッドは呟く。多少の高揚感はあれど、自身が最強だと思っていた彼にとっては想定の範囲内であった。
パチィィィン……。そして死刑宣告めいて厳かに、詰みに向けた一手を打った……。もはや逃げ道は無い。はずであったのだ。
「……?」
駒から手を離した瞬間、強烈な違和感に気付く。何かが、おかしい。戦況が先ほどと変わっている……!?
「待った!」
「認められません」
記録係はルールに基づき淡々と答える。ハンドレッドは激しく狼狽した。そして自身がコブラの狙いを読み違えていた事に気付いた!
角行の強烈な叩きつけによりハンドレッドの意識が吹き飛びかけたが、それと同時にコブラの王将を追い詰めていた銀将が180度回転して吹き飛び、逆にハンドレッドの王将を追い詰めていたのである!
このような場合、一手を打つまでは「待った」をする事で異議申し立てを行い、認められれば盤面を戻す事ができる。しかしハンドレッドは手を打ち……それはこの盤面を既に承認したことを意味する。
その事実を認めた瞬間、ハンドレッドは精魂尽き果て失神していた。
「以上、対戦相手の対局続行不可能により、コブラ棋士のKO勝ちとなります」
記録係が読み上げ、即座に後片付けと救急搬送が始まる。
コブラは一礼し風のように去っていった。
銀河最強棋士の伝説は今日も続く……!