表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

その1

「ムゥゥゥ……ウウン!」

パチィィィン!!凄まじい殺気と共に叩きつけられた銀将(シルバージェネラル)の駒が盤面を……そして対局室の空気をも揺らがす。

対局相手の命を直接奪いかねないほど強烈の一手を打ったのは挑戦者「ハンドレッド」。並大抵の棋士であれば詰みを待つまでもなくショック死していたであろうが……対面に座るはなお涼しい顔で戦況を見つめる王者「コブラ」。エクストリームアドバンスドタクティカル将棋界において最強を意味する【龍王(ドラゴンキング)】の称号を賭けた戦いは今まさに……佳境を迎えている!


***


「10秒」

記録係は努めて淡々と読み上げたものの、その声は震えていた。当然である。最強を決めるこの場において正気を保ち続ける事は容易ではなく、むしろ気絶していない事を賞賛すべきであろう。

だがやはり恐るべきはコブラの所作であろうか。必殺の一手を受けてなお表情は崩れず……むしろ楽しんでいるようですらあった。

(つまらん虚勢だ)

ハンドレッドはそう確信していた。一瞬にしてセフィロトの樹の如く無数に広がる可能性のうち最善手を選んだ。


ここで改めてエクストリームアドバンスドタクティカル将棋のルールについて確認しておきたい。

勝利条件は大きく分けて3つ。まずは相手の王将(キング)を討つこと。次に敗北を認めさせ切腹に持ち込むこと。最後は気絶やその他外傷により対局続行不可能とすればその時点で勝利となる。

ハンドレッドの狙いは王将であった。このままじわじわと包囲を狭め命を絶つ……。そうなるのが数十手先であろうとその道筋は見えていた。


「20秒」

現にどうする事も出来ないまま時間が過ぎていく。さっさと投了すればよいものを。

「最強と呼ばれたコブラもこのザマか。打てる手が無いならとっとと諦めろ!俺は忙しい」

なんという無礼!対局中にこのような発言が許されるのであろうか!?

しかしエクストリームアドバンスドタクティカル将棋においてはこのような挑発行為は日常的に行われているのである。この程度の挑発に乗って精神を乱すようであればすなわち未熟。挑発されるような盤面を作られてしまうのもまた未熟。未熟者がどんな言葉を吐いたとしてそれは負け犬の遠吠えと等しい。


言葉を無視するようにコブラが一手を打つ。歩兵(ヴァンガード)での受け。あまりにも弱気に見える一手であった。

即座にその歩兵は討たれまたコブラの手番となった。思考時間を与えない事で益々苦境に立たせる精神攻撃である。

スッ、パチィィィン!スッ、パチィィィン!戦が進むにつれ戦局は一方的になりつつあった。しかしだからこそ……何か不穏な気配が流れていた。

(本当に打つ手がないのか?)

コブラの手は弱気を通り越し安直ですらあった。まるでルールを覚えたての素人が定石も知らず場当たり的な対処を繰り返しているかのようだった。それがかえって不気味であった。

(俺が何かを見落としているのか?)

ハンドレッドの心に僅かな不安がよぎる。もう一度盤面を読む。やはり優勢である。

その時コブラは……口元を歪めて笑った!


***

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ