怒らせてはいけない人
高校、もしくは学園と呼ばれる生徒の学び舎。
それは中学生に成り立ての子供たちは、ただひたすらに憧れたものであり、大人になって振り返れば、輝かしい青春の数々がひたすらに思い出される。
そんな時期だと僕は思う。
だからこそ、この青峰学園はそういう青春に掛ける男女達の応援をモットーとしているらしいね。
僕はほんとに、女子ともっと戯れたい!って理由で1番いい共学の高校がここだった訳なんだけど……それでも全く後悔はしてない!
だって女子可愛いし、先生たちの授業もわかりやすいしね!……男子達はノーコメントかな、うん。
「おはよー!って、なーに辛気臭い顔してんだよぅっ!」
「んひっ!?い、いきなり抱き着くなぁー!!」
そう言って後ろから抱きついてきたのは、我が親友“遥”。
……背中に当たる感触から察するにこれはFだね、間違いない。
でも親友とはいえ、異性にいきなり抱き着くのはどうかと思うけどね!……女子って思われてるから仕方ないけどさ?
どう考えても僕、イケメン高校生なのになんで女扱いなんだろ。
まぁ、合法的に抱きついてきてくれるからありが(ry
「んふふー、湊って何か抱きついたらいい匂いするし、やわらけぇんだもん。それに親友なんだし、抱き着くくらいいいんじゃんかよぉー!」
「……そ、そうだけどさぁ!」
はい、もういくらでも抱きついてきてください。
あ、もっと近くによった方がいいですか?
なんて、思わず口に出してしまいそうだから、大変困る。
自分からするのはいいんだけどね?他人からされると大変困るものがあるのですよ、はい。
え?理解できない?理解しろよ。
「疑問。湊達はなぜイチャついている?それとおはよう」
と、僕と遥がいわゆるバックハグの姿で校門に居ると、もう1人の僕の大切な親友である雫が首を傾げながらそう言ってきた。
うむ、めっちゃ可愛い。
流石は女子の中でも男子人気が高い雫だ。この世界の男性の落とし方を完璧に把握している。
まぁきっと本人は無自覚なんだろうけどね。
「おはよう雫ー!でも残念、今私と湊はイチャついてんだ。雫の席は用意してねーんだよぉ……ごめんな?」
と、ニヤニヤしながら更に僕へのハグを強める遥。
うっ、この後ろから感じる圧……もしかしてGか!?い、いや、落ち着くんだ僕。
幼い頃から見てきた僕が、今更遥のサイズを間違えるわけがない!これはまやかしだ!
と僕は、頭を抑えながら必死に馬鹿なことを考えていた。
「更なる疑問。湊は頭を抱えてる、からどう見ても嫌がってる」
「え、嘘だろ湊!?そんなに嫌だったか!?」
「……ん?え、いや全く!?」
「ほんとかー?実は嫌がってるんじゃなくて?」
冗談じゃないよ!これを機にもし遥が抱き着かなくなったら、合法的に胸に触れられなくなるじゃんか!
うん、こうしちゃ居られない。
僕のベストスポットがなくなる前に雫を止めなければ!
「えと、本当に僕は全然気にしてないよ?というか寧ろ嬉しい!」
何時もならなんで男だと思われないんだった悲しんでるけど、この時だけは自分のイケメンフェイスに感謝してるくらいだからね。
そんな純粋な『えっち』な気持ちを正直に伝えた。
「き、驚愕───湊のばか。あほ。むっつりスケベ」
………ヴッ!?
「あはははっ!湊言われてやんの!」
「……む、むっつりスケベ………」
僕は……むっつりスケベだったのか?
あんなにえっちって言っといて……実は僕の方がえっちな奴だったのか?
と、僕が軽くショックを受けていると───
「おいおい、そんなに落ち込むなって。このくらい私達ならふつーだろ?」
───遥が軽く励ましてくれた。
まぁ確かに、この世界は男子が少ないから女子同士のスキンシップが激しくなりがちだと思う。
前に他クラスの女の子2人がちゅっちゅしてるのを目撃してしまって気まずくなってたけど、後から聞いてみれば付き合ってないって言うんだもの。
……百合、最高だよね。
でも男である僕が挟まるのはNGだから、外から見守っていたい。
まぁ、そんなんだからクラスメート達と一定以上は仲良く出来ないんだけどね?
「冗談。でもむっつりスケベなのは本当だと思う」
「うぅ、ひどいよ……」
「まぁ、女なのに胸に興味があるってのは確かにむっつりスケベだな。でも胸があっても何の特にもねぇから、正直湊か雫と変わりたいぐらいだ」
……あ、それ雫の地雷踏んd ───ドゴォンッ!!!!───「「……え?」」
「謝罪。私寝起きだから手が滑った。許して欲しい」
……え?
今遥が雫の地雷を踏んだから止めようとしたつもりなんだけど……あれ?
なんで地面に亀裂が入ってんの?
「疑問。なぜ2人とも固まっている?……時間がない、急ぐ」
「……いや、えと、うん。先に行っといてくれ」
「ぼ、僕もちょっと用事あるからさ?先に教室行っといて……」
「ん、了承。では先に教室で待ってる」
そう告げると雫は、スタスタと教室へと進んで行った。
───『雫だけは怒らせないようにしよう』
と、僕と遥は心に誓った。




