5.5話 碧と黒鐘
月宮 仁 (つきみやじん)主人公
黒鐘詩音 (くろがねしおん)クラスメイト
白石 碧 (しらいしあお)黒鐘の友達、女優
私が詩音さんと出会ったのは、中学1年生の時である。
小さい頃から私には、“友達“と呼べる存在の人がいなかった。理由は1つ。
父親が国会議員で、母親はある企業の社長という、小学生すら驚く程の異質な関係に生まれた私に、話しかけてくる人はいなかった。
2人の年収を合わせると、約5000万円程の年収となり、大富豪と言えほどのお金持ちだった。
学校に来ていく服も、母が買ってきた小学生が着るにはもったいないほど高価な服で、周りからすれば「金持ちアピールウザ」と言われてもおかしくない程、私の身につけるもの全てが高価なものだった。
さらに、両親はいい意味では、私の将来の選択肢を広げるために、色々な習い事をさせたり、家庭教師を雇って勉強をさせたりした。
そのおかげで勉強は人よりできるようにはなれたが、その代償と言うべきか、自由な時間はほとんどなく、更にクラスメイトと関わる機会は無くなった。
結構私は誰とも友達になれずに小学生を卒業した。
どうせ中学生になっても、ずっと1人でいるんだろう、と思っていた。
だが、こんな私に、話しかけてくる人がいた。
それが詩音さんだ。
中学校に入学してから3日目の事だった。
いつものように机に座ってぼーっとしていると、誰かが話しかけてきた。
「ねぇねぇ、名前はなんて言うの?」
「……白石と、言います」
「名字じゃなくて名前は?」
詩音さんはいきなり、私に話しかけてきてくれた。だが、その時の私はまだ半信半疑の様な状態だった。クラスメイトが私のことをからかいに来たのかと、そう考えていた。
「……碧と言います」
「碧ちゃんか!私は黒鐘詩音!よろしくね!」
…………詩音さんの笑顔には、「仲良くしたい」と言う思い以外、何も見受けられなかった。
「あ、あの、どうして私なんかに話しかけてくれたんですか?」
「んー?そんなの決まってるじゃん、1人で寂しそうにしていたから」
詩音さんはポリポリと髪を掻きながら言った。
「私そういう人のこと、放っておけない性格なんだよねー」
「どうして、ですか?」
「んー、何となく?はは、深い理由とかないんだよね」
この時、私は確信した、詩音さんは、私にとって初めての友達になる人なんだと。
「そうですか」
「え!?碧ちゃん大丈夫!?どうして泣いてるの?幸せが訪れるのは今なんだけどな……」
「すいません、私、嬉しくて、詩音さん、私と友達になってくれますか?」
「もちろん!」
こうして私は、詩音さんと出会った。
それからは、時々詩音さんと話すようになった。そして、詩音さんには友達が多くいるということも分かった。
「そういえば碧ちゃんの予知能力ってなんなの?」
いつかの昼休み、詩音さんは私にそんな質問をした来た。
ただ、私にはある秘密があった。それは。
“私には予知能力が無い“ということだ。
いつから無いのかはわからないが、父からは、その事は誰にも言ってはならないと、強く言われ続けて来た。
なので私は父が考えた嘘の予知能力を言った。
「私の予知能力は『他人がいつティッシュを使うか』と言う能力です、全然凄い能力でもありませんよ」
罪悪感はあったが、父から言われたことを守るためだ、詩音さんには申し訳ないが、嘘をつかせてもらった。
それから時は経ち、中学3年生になった私達には、受験というライフイベントがやってきた。
もちろん私は、両親が勧めてきた県内一の高校へ進学するために、受験勉強に精を出した。
残念なことに、詩音さんとは別の高校を志望することになってしまい、残念な気持ちもあったが、そんな悠長なことも言ってられず、私はキツキツの毎日の日課をこなし続けた。
そんなある日、受験まであと1ヶ月程となった冬の終わりのある日、詩音さんは受験に疲れたという趣旨の話をしてきた。
「それにしても本当に碧ちゃんはすごいよねー、『凪校』って、全国的に見ても偏差値高い高校だよね?」
「えぇ、そうですね、全国トップクラスに頭がいいとは言われていますね」
「はあーそんなところ受けるなんて、すごいなー、私なんてぜーんぜん頭良くないからさー高校受かるかわかんないんだよね〜」
「詩音さんなら吹奏楽部の推薦できっと行けますよ。詩音さんは本当に演奏が上手ですから」
音楽にはピアノに少し足を入れただけの私だが、詩音の演奏の上手さには驚かされた。全国レベルと言っても過言では無い上手さだった。
「そうかなー、なんか照れる」
そう言うと詩音さんは照れを隠すように話を変えた。
「碧ちゃんは?合格出来そう?」
「塾の模試ではA評価ではありました」
「A評価!?詩音一体何点取ったの!?」
「なんだか言いづらいのですが、満点を……」
私がそう言うと詩音ちゃんはあんぐりと驚いた顔をした。
「満点ってことは500点!?碧ちゃん頭良すぎでしょ!」
勉強は小さい頃からやっていたので、そんなに苦ではなかった。
そして受験当日。
詩音さんから送られてきた、『お互い精一杯頑張ろう!』というメッセージを見ながら、私は執事が運転する車で、凪校へと向かった。
受験する前から、私は既に注目の的になった。
私が乗っている車は高級の外車で、高校の駐車場に入ってからはずっと視線を感じていた。
車から降りてからも、何となく視線を感じながらも、私は受験する教室に入り、試験を受けた。
面接の準備を待っている時、テストについて振り返ったが、よくできた方だと思っていた。解けなかった問題は無いし、自信が無い問題は強いて言うならば数学の最後の問題だけだった。
そして、面接は問題ないと確信していた。なぜなら。
「はい、私が貴校を志願した理由は──」
私は子供の頃から俳優の仕事をやっている、テレビに出ることはほとんど無かったが、それでも俳優の端くれだ。申し訳ないが、高校の面接など、朝飯前だった。
受験終了後、詩音さんと電話をした。
『試験お疲れ様〜どうだったー?』
「そうですね、安心は出来ませんが、恐らく受かっていると思います」
『さっすがー、私は逆にやばいよー面接はまあまあいけたけど、テストは全然分かんなかったから、神に祈るしかないー』
電話越しからも、黒鐘が焦っているのが伝わってきた。
「まぁ、なら私も詩音さんが合格できるように祈りますね」
私がそう言うと、詩音さんは『ありがとうー』と言った。
それから、少し世間話をしてから、電話を切った。
合格発表当日。今回は執事の運転する車には両親も乗っていた。
見るからにお金持ちの服装をしている両親は多くの人に見られていたが、全く気にすることなく、受験番号の発表を待った。
そして、受験番号は発表され、私の受験番号はすぐに見つけることが出来た。
私が合格したことを知ると両親は「おめでとう!」「よく頑張った」と、私のことを褒めてくれた。(後日確認すると、私は満点で合格していると分かった)
帰ってから詩音さんに連絡すると、詩音さんも志望校に合格していた。
私達は互いに喜び合っていた。だが明後日の卒業式が終われば、会うことは少なくなる。そう考えるとどこか悲しい気持ちになっている自分もいた。
時は一瞬で流れ、あっという間に卒業式当日になった。
なんだかんだ、詩音さんには私以外にも多くの友達がいて、色々な人と話していたため、なかなか話タイミングがなかったが、隙を見て詩音さんは私の元へ来てくれた。
「碧ちゃんと離れ離れになるのは悲しいけど、これからもずっと友達でいようね?」
詩音さんは涙目で私に言ってくれた。それを聞いた私も思わず涙を流した。
「はい!これからもずっと、友達でいましょう」
そして、最後には卒業式、と書かれた大きな看板の前で、私と詩音ちゃんはツーショットを撮った。その写真は今でもスマホの壁紙に設定するほど大切にしている。
中学校卒業後は、案の定と言うべきか、詩音さんと話すことは少なくなった。
だが幸いこんな異質な私にも、何人かの友達ができたため、高校でも孤立して生活することはなかった。
そして、高校入学から1ヶ月半程立った頃、久しぶりに、詩音さんから連絡が来た。
なんだろう、と思いながら見てみると、そのメッセージは意外なものだった。
それは、『予知能力の時間が変わる力について何か知っている?』と言うメッセージだった。
私には心当たりがあった、そして、いくら友達の多い詩音さんの友達の中でも、私以外に知っている人はいないだろうと思った。
なぜならその情報は、“国が厳重に管理する“程の情報なのだから。
こっそり、父の書斎で見た情報だが、詩音さんの役にたてるという理由と、単純に面白そうという理由で、私はこの情報を教えることを決意した。
詳しく話を聞くと、詩音さんの知り合いの1人が、予知能力の時間が変わったことがあり、そのせいで友達を亡くしたという話をした。
詩音さん本人が聞きたいと思っていたが、どうやらその情報を知りたいのは友達の方だった。
だが詩音さんの頼みならばと、私はその友達が信用できるか確かめ、信用できる人なら教えるという条件で教えることにした。
そして現在、月宮さんは信用できる人と分かった、だが、その情報を知って、正気を保っていられるかは分からない。
そのために、私はあることを試そうとしていた。
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