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3話 世界1のバカ

月宮 仁 (つきみやじん)主人公

黒鐘詩音 (くろがねしおん)クラスメイト

垓斗 (がくと) クラス委員長、バカ

森澤 (もりさわ) 垓斗の友達


その演奏は、本当に高校1年生が奏でているのか、疑うほど美しい音だった。


クラシックに疎い俺は、聞いている曲名がなんなのかも分からなかったが、そんな初めて聴く曲に、俺は聴き入っていた。自分が大きな音が苦手なことすら忘れる程に。


さすが、いくら全国常連校だとしても、新入生の時点でこんなに上手いなんて、やっぱりレベル高過ぎだろ。初心者歓迎?ふざけんな!


その中でもやはりというべきか、黒鐘のフルートは特に目立っていた。先程会った花咲さんもなかなかの腕だ。


それにしても、本当に上手いな……先輩達も感動してるし、もしかして今年は特にレベル高いとかない?


俺はまた、天使が奏でているのかのような演奏に耳を傾けた。



「いやー素晴らしいかったよ!今年の1年はレベル高いな!」


吹奏楽部の顧問の先生は、今の演奏を大絶賛した。


「まずはその驚異的な音楽性!素晴らしい楽器の演奏に、完璧なリズム感、そして美しいハーモニー!君たちの情熱的な演奏は本当に素晴らしかったよ」


「ありがとうございます!」


「うんうん!じゃあこれから吹奏楽部についての詳しい説明とかするからみんな楽器片付けてきて」


お、詳しい説明か!よし、ならそろそろ帰ってもいいな!


「仁君も一応、聞いていきなさい?もしかしたら、今の演奏を聞いて、吹奏楽部に入りたいと思うようになるかもしれないだろ?」


「え?僕もですか……」


いやならないから、確かに凄かったけど演奏する側にはなろうとは思わない。っておーい、何聞く流れになってんだー。



部活動体験入部終了後 18時頃


「ねぇどうだった?」


下校中、なぜか隣を俺の隣を歩く黒鐘が俺に聞いてきた。


「おい、その前に、なんでついてきてるんだ」


「ふふふ、私を舐めてもらっちゃ困るよ」


黒鐘は指を横に振りながら言った。うざ。


「確かに昨日はこれ以上関わらないと言った。けれど!それじゃあなんの解決にもならない!」


「はぁ?昨日言ったことと違うじゃねえーか!」


いや薄々思ってはいたんだ。黒鐘はこれからも俺に関わり続けるって、だがまさか本当にそうなるとは……


「……前から聞きたかったんだけど、その、どうして君は誰とも関わりたくないの?」


おーっと、遂にその質問来たかー。どうする、正直に知り合いを自分の能力のせいで亡くしたと言うか、それとも誤魔化すか……いや、待てよ?逆にそれを逆手に取るのもありだな。


『自分の命まで賭けて、他人を幸せにする』そんな度の越えたお人好しなんていないだろ。



俺は高校受験が終わってから、自分の予知能力のせいで親友を亡くしたこと。そして、自分の能力は、人を殺すことを。全て黒鐘に話した。


「そうだったんだ、だからあの時、命にかえてもって言ったんだね……辛かったよね……」


辛かった、まぁそうだな。あの時は生きる気力も無かったし。


「あぁ、これで分かったろ?俺が誰とも関わりたくない理由が、俺に関わった人は死ぬかもしれないんだ、また俺のせいで誰かが死んだら、もう耐えられない」


「事情は分かったけど、やっぱり”君を1人にすることはできない”かな」


「…………俺の話聞いてたか?」


心の底から思う。黒鐘、お前はどうしてそこまでする。今の俺の話を聞いて自分はもしかしたら死ぬかもしれないと思ったはずだ。


それなのに、お前はまだ俺と関わると言った。


「前にも言ったけど、君がひとりなのは可哀想。それがどんな理由でもね、俺と関わると死ぬかもしれない?そんなの知らないよ!」


黒鐘は否定は許さない態度で言った。


「俺も1つ、聞きたいことがある。お前がそこまで俺に関わる、”本当の理由”はなんだ」


可哀想?そんな理由だけな訳ないだろ?なにかもっと

大層な理由があるんだろう。例えば昔誰かに命を救われたとか──


「本当の理由?そんなの無いよ?」


──────────本当の理由は無いらしい。ははは、だったらこいつは世界で1番のバカだな!


「ほんとお前はバカだな」


俺は笑いながら言った。


「私さ、今までにも君みたいに誰とも関わらない1人ぼっちの人と結構関わったけど、君ほど理由が深刻でここまで私のこと邪魔だと言ってきた人はいなかったよ」


黒鐘もクスクス笑いながら言った。


「そうか、はぁーあ、もういいよ、俺がなぜ人と関わりたくないかの理由を聞いて、それでも関わってくるなら、もう俺にできることはない」


黒鐘は本当に俺が可哀想と言う理由だけで俺に付きまとってくる。それなら、もう何を言っても無駄だ。


「うん、てか君さ、前にも言ってたよね?関わりたいなら好きにしろって」


あぁ、覚えていたか、確かに俺は前にそう言った。あぁ、そう言ったんだ、だったら余計にこいつをどうすることもできないな。


「そうだな、それじゃ、俺こっちだから」


「あ、分かったそれじゃ、また明日」


「……あぁ」


そう言って、俺は黒鐘と別れ、自分の帰路についた。



仁の家にて


─────人と関わるとその人は死ぬかもしれない、俺の能力によって……だが、改めて考えると、それは本当なのだろうか。いや、実際龍己は俺のせいで亡くなったが、未だにその力?があるのかは分からない。


…………って、何考えてんだ俺。分かんないなら考えるな。


くそー、黒鐘のせいで変なこと考えたじゃねぇか、はぁ、自分でも分かってる、あいつと関わるのはいいことじゃない。


あいつはそれでもいいと言っているが、実際死んで困るのは俺なんだよ。あいつが良くてもこっちが良くない。


だが、どうしようもない……あいつを折るのは無理だ。なんせあいつは、世界で1番のバカで、お人好しなんだから。


…………寝よ。



時は少し流れ、段々と気温も上がってきた5月上旬。


俺は今日も今日とて誰とも関わらない生活を続けていた。


まぁ正確には1人だけ、黒鐘とは関わっているが。だが最低限の会話以外は誰とも話さないようにしている。


そんな俺、入学してから変わったことが少しある。


まず、弁当を食べる場所だ。


入学してからしばらくは教室で食べていたが、誰とも関わらないとんでもない場所を見つけた、いや、提供してもらった?


そこは、『楽器倉庫』と言う場所で、名前は楽器倉庫とはなっているが、実際はただの倉庫と変わらない。


使わなくなった机や椅子、いつ使ったのかも分からない文化祭の出し物だったらしき物。使い古されたマットも壁にいくつか立てかけられている。あと申し訳程度に楽器もある。


倉庫は狭いわけでも無いが、少し薄暗く、埃っぽい。だが弁当を食べる分にはそこまで問題にはならない。


もちろんここは普段生徒は無断に入ってはいけない場所だ。そんな立ち入り禁止の場所で飯を食っている、つまりここには生徒も教師も誰も来ないということだ。


まさに、俺のためにある部屋だな。


そして、ここで食べればと、最初に言ったのは黒鐘だ。


最初はあんまり乗り気じゃなかったが、黒鐘がしつこく勧めてくるので、1回だけここで食べたが、案外居心地が良かったのでここで食べるようになった。


黒鐘は、『昼休み中は誰もそこに寄り付かせないようにするから安心して食べて!』なーんて言ってたけど、そんなこと言わなくてもそもそもここに来る人なんていないだろう。


まぁでも、ここを勧めてくれた黒鐘には少し感謝はしている。


……廊下から足音、誰か来たようだ、ま、どうせあいつだろう。


「やっぽー、ご飯食べてるー?」


やっぽーってなんだよ、気持ち悪い。


「飯ならもう食べ終わったよ、今は時間潰しにスマホいじってる」


「食べるの早!まだ昼休み始まってから10分しか経ってないよ?」


そう言いながら、黒鐘は当たり前のように持ってきた弁当箱を開けた。


「おいおい何やってんだよ、まさかここで食べる気か?」


「え?そうだけど、悪い?」


悪いわ。なんでせっかく誰も来ない場所を教えてくれたのに、教えた本人が来るんだよ。


「……まさか、黒鐘って意外と友達いないのか?そうかそうか、だからここで、ねー」


仁は知らない。黒鐘には多くの友達がいることを。


黒鐘はムッとした顔で言い返した。


「友達なら沢山いるよ!ここに連れてきてもいいんだけど、それじゃ君に迷惑かなーって思ってるから連れてこないだけだよ?」


嘘くせー、確かに誰かがここに来るのは迷惑だけど、それを言い訳にしてるだけで本当はいないんじゃないのか。


「そうか、まぁいいや。俺はここでスマホいじってるから、お前は黙って食べてろ」


「もー、悲しいこと言うなー」


そう言う黒鐘を無視して、俺は早く時間が経たないかと思いながらスマホをいじった。



「は?肝試し?」


3日後、この前と同じように、倉庫で飯を食べてると、いきなり黒鐘は『一緒に肝試しに行かない?』と誘ってきた。


本当にいきなり過ぎて少し困惑した。なぜ俺にそんなことを聞いてきたんだ?行く訳ないだろう。


「なんかねー私の友達が、何人かで肝試ししたいから人集めてって言ってさー、だから来て欲しいんだけど〜ダメ〜?」


黒鐘は甘えるような言い方をしてきた。


「そ、そんなねだるように言っても、む、無理だ」


「いや動揺してるじゃん、いいじゃんいいじゃん!大丈夫だからさ。実際この1ヶ月、誰も死んでないんでしょ?」


「まぁそうだけど……」


黒鐘の言う通り、龍己が亡くなってから、つまり2ヶ月ほど、まだ俺の能力のせいで亡くなった人はいない。


2ヶ月、期間は決して長いとは言えない期間だが、それでも、時が経つにつれて気持ちは薄れていく。すなわち。


もしかしたら、もう俺にそんな能力は、無いいんじゃないかと、そう思ってしまう日も出てきた。


だが後悔してからじゃ遅い。確実に大丈夫と言えるまでは、極力誰かと関わるのは避けたいと、思っているのだが。


「……まぁ無理に来てとは言わないよ!君が嫌なら全然大丈夫だから」


死ぬまでそんなことは、続けられない。


「わかった、行くよ。だが条件として、その友達に言っといてくれ、『仁には話しかけるな』って」


あくまで行くのは、この能力を持っている上で、人と関わることに慣れるためだ。決して暇だからーなんて理由ではない。


「本当に!嬉しい!んじゃ後で言っておくねー!」


黒鐘はそんなに嬉しかったのか、見とれそうになる、満面の笑みで喜んだ。


そしてまた俺は、いつも通りに、スマホをいじり時間を潰した。



『肝試し』に行ったことはあるだろうか。


今の時代、あんまり行く人はいないと思う。もちろん俺も行ったことは、無いと言いたいところだか実は1度だけある。


あれは今でもよく覚えている、中2の時、龍己とクラスメイト3人で行った。


肝試し定番の季節夏に、そして定番の墓地へと。


まぁ結果としてもちろん幽霊なんて出てこなかったし特に恐怖を感じることは何も起こらなかった。だがみんななんだかんだいい経験ができたと思うのでよかった。


まぁ龍己の話ではその墓地、通称『急鉢(きゅうばち)墓地』には、出るらしいと言ってたんだけど、やっぱ幽霊なんていないんだ、俺はそうゆう『幽霊』とか『UFO』とか『妖怪』とか非現実的なものは信じない。


『予知能力』という非現実的なものが、身近にあるのに。



5月20日 土曜日


時刻は19時頃、綾東高校からほど近い公園には、今夜、肝試しに行く人達6名が集まっていた。


まずは俺、そして黒鐘。そして意外と言うべきか、あのバカクラス委員長の垓斗、その友達の森澤がいた。そして最後に陽気女子2人、名前は知らん。どうせ垓斗の友達だろう。あー嫌いなタイプ。


頼むから肝試しに来たんならスマホいじるのやめろ。何動画撮ってんだ。


全く、雰囲気が台無しじゃねえか。これだから最近の若者は困るだから。


「よしこれで全員だな!」


垓斗は全員を見渡しながら言った。


ちなみに1番最初に肝試しをしようと言ったのは垓斗である。


「それじゃ、早速行くか!」


「てか垓斗、いい加減教えろよ、肝試しはどこでやんだ?」


森澤は早く教えれと急かすように言った。


俺も聞きたかった、まさか当日になるまで教えてくれないとは思ってもなかったが。


「あぁそれはだな、『急鉢墓地』だ」


急鉢墓地、一昨年、龍己と行った墓地だ。何たる偶然、まさか同じところに肝試しに行くとは。まぁだが、実際のところこの地域に肝試し出来そうな場所なんてほとんどないからな。同じになるのはそんなにすごいことでも無いかもしれない。


「急鉢墓地って、こっからそれなりに遠くないか?」


まぁ自転車でも30分はかかるな。


「えー、もしかして今から行くのー?」


陽キャ女子Aが言った。


「当たり前だろ?行かなきゃ肝試しできないじゃないか」


「めんどー、てか急鉢墓地でやるならそこ集合場所にすればいいじゃーん、なんでわざわざここに集合場所にしたのー?」


陽キャ女子Bの言っていることには同感だ。急鉢墓地でやるならそこ集合場所にするのが普通だ。それなのにわざわざここにして、やっぱバカだ。


「まぁまぁみんな、文句言っててもしょうがないから、とりあえず行こ?」


黒鐘がそう言うと、若干イラついてた女子たちは静かなった。


黒鐘の声には人の気持ちを落ち着かせる力があるように感じる。気持ちが昂っている時に黒鐘の声を聞くと冷静になれる、こうゆうのなんて言うんだろうか。



バスなどを使い、19時30頃、俺たちは肝試しをする、急鉢墓地へ到着した。


2年前来た時と何も変わってないな。ここ出るって噂あるけど、言うて普通の墓地だから、あんまり不気味は感じない。


俺以外の人もそんなにビビってる人いないし、もしかして全員、こうゆうの余裕な人か?


「んじゃ、早速引きますか」


「何を引くんだ?」


「そりゃクジだろ?ちょうど6人だし、2人のグループで順番に回っていくぞ」


あーこれはまずいな。ペアになるのは必然的にその人と関わることになるから、こーれ黒鐘当てるのが1番いいな。


黒鐘なら既に関わりをもっているからな。


「クジかー、自由で決めた方が楽しくなーい?」


「それじゃーつまらんだろ」


「うーん、あんまり乗らないけど、引くかー」


森澤はそう言うと、垓斗が出したくじが入ってる箱に手を入れた。


しょうがない、俺も乗らないが、引くしかない。


俺は信じてない神に祈りながら、クジを引いた。

ここまで読んでくれた方々、ありがとうございます!次話も是非お願いします!

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