24話 容疑者達
月宮 仁 (つきみやじん)主人公
黒鐘詩音 (くろがねしおん)クラスメイト
石垣美由希
星翔流星
神条神
隅影誠
黒鐘から誘拐事件の話を聞かされてから、数日経過し、今日は金曜日の昼休みであり、今はいつもの場所に向かっている。
いつもの場所、そう、楽器倉庫だ。
あそこなら誰も来ないし、事件について話すなら丁度いい場所だろう。
火曜日、あの事件のことを聞かされてから、今後どのような捜査をしていくか二人で話し合った。
その結果、結局のところ俺は吹奏楽部とはなんの関わりもないので捜査は出来ない、なのでまず黒鐘が怪しい人物を吹部内から絞って、その人達を俺が刑事みたいに捜査する、という流れだ。
それに丁度今週から、俺の通っている高校では文化祭準備が始まる。
その時間に捜査しようと思うが、はっきり言って何をすればいいのか全くわからん。仕方ないだろ、俺はただの平凡な高校生なんだから、捜査のやり方なんて知るか。
廊下を曲がると、楽器倉庫が見えてきた。
「仁っていっつも倉庫でお昼食べてるけどさ正直寂しいとか思うことあるの?」
俺の隣を歩く黒鐘はいきなりそんなことを聞いてきた。
「無いな」
寂しいなんて思うことなどある訳ない。そもそも寂しいと思うならわざわざあんなところで飯なんて食べない。ただ誰かと一緒にいること、それすら叶わないから俺はあそこで飯を食べているんだ。
そんなことを思いながら楽器倉庫の扉まで着き、俺はいつも通り倉庫を開けた。
相変わらず薄暗く埃っぽいのだが。
…………なんか、違和感あるような……先生でも来たのだろうか?
昨日と若干、物の位置が変わっているような気がした。
「どしたの?」
黒鐘は不思議そうに扉の前で立ちすくむ俺に聞く。
「あぁいや、なんでもない、それより事件について話すか」
いつものボロい椅子に座って、俺は弁当箱を開けながら、事件についての話を始める。
「そうだね、なんか、私達ほんとに探偵みたいじゃない?」
黒鐘も弁当箱を開けながらそう言う、まだ何もやっていないんだが。さすがに探偵ぶるのはまだ早いぞ。
「んで?吹部の中で怪しい人はいたのか?」
火曜日、事件の話を聞かされてから、俺は特別何かをした訳では無いが、頭の片隅では事件について、俺が考えれることは俺なりに考えた。
その中で、一つ危惧していたことがある。
それは、もしも吹奏楽部に怪しい人物がいなかった場合の事だ。
そもそも怪しい人物を探す黒鐘が、そう言う人物を見つけることが出来なければ、捜査もクソも無い。
さすがに吹奏楽部全員を容疑者として捜査するのは無理だ。そんなんじゃ絶対犯人を見つけることなど出来ない。
「うん、“何人か“いたよ」
ただ俺の危惧は杞憂だった様だ。さらに、いた、ではなく、何人かいたらしい。
容疑者が一人なら捜査も楽だったかも知れないが、まぁその一人が白だったら詰むし、むしろ何人かいて良かったと思うべきか。
「んじゃその容疑者達について、詳しく聞かせてもらおうか?」
聞きたいことは、まずどうしてその人物を怪しいと思ったか、そしてその人物の人柄や性格、夢先輩との関係などだな。
黒鐘は昨日までに怪しいと絞った容疑者達についてを思い出しながら話し始めた。
「えーっとね、私が怪しいと思った人は4人いてさ、一人目が『石垣美由希』先輩、クラスは三年A組ね」
三年A組、石垣美由希。
美由希は一言で言うならば、カースト上位の陽キャ女子である。
吹奏楽部内にある女子グループのボス的な存在だ。
そして、一番の特徴は、校内美女ランキングトップ3に入ると言われている容姿だ。
美しい体に、全てが整った顔、そしてその場にいるだけで感じられる圧倒的な存在感。その姿には誰もが魅了され、三年男子だけでなく、後輩からも人気である。だが彼氏はいない。
性格も酷い、と言われる性格では無く、誰にでも優しく接するが、たまに周りが見えなくなるほどはしゃぐ時がある。
「それで怪しいと思った理由は何となくだけど夢先輩のことを嫌っていた印象があったんだよね」
ただ嫌っていることを表には出していない。表面上では仲が良いように見えているが、裏では嫌っている様に見えた、そう黒鐘は言った。
なるほど、夢先輩を嫌っていた、それがどれほどなのかは分からんが、夢を嫌っていたことで、まぁ容疑者にはなるか……
ただ誘拐するほど嫌っているならわざわざあんなメッセージ送らないと思うが……
「二人目は星翔流星先輩っていう二年C組の人ね」
二年C組、星翔流星。
彼は吹部内の男子三人グループのボス的存在で、少し常識に欠けているところがある。
先輩に向かってタメ口は普通に使うし、部活の練習を真面目にやらないで三人でふざけている時も多々ある。が、それでも演奏の腕は確かだ。
そして、黒鐘が流星のことを疑った一番の理由が、流星が一番ちょっかいを出していたのが夢だったからである。
ちょっかいと言っても軽く悪口を言う程度で、暴力を振るうという訳では無い、だがそれでも吹部の三年女子からは嫌われている。
「そもそも夢先輩って吹部の中でも皆から愛されてる先輩でさ、あんまり不仲な人がいないんだよね、だから疑うには弱い理由だけど一応容疑者として私は見たの」
なるほど、夢先輩はすごくいい先輩で、そもそも恨まれることがない、だから少しでも反抗的に態度の人でも疑いに入れたのか。
「なるほど、三人目は?」
俺がそう言うと、夢は容疑者の話を再開する。
「三人目は神条神先輩っていう三年D組、夢先輩と同じクラスだね」
三年D組、神条神。
神は美由希と同じように、容姿が整ったイケメンである。
趣味でダンスをやっており、スタイルは良く、吹部はもちろんのこと、多くの女子から好かれている。
ただ裏では性格が悪いという噂も仲のいい男子から言われているが、それを女子達は聞く耳を持たない。
また、美由希同様恋人はいない。
「神条先輩は別に夢先輩になにかしていた訳じゃないんだけど、逆に夢先輩が神条先輩を好きって言ってから、一応容疑者にしといた、それに月曜日、夢先輩が消えた日は部活を珍しく休んでたから、もしかしたらあるかもしれない」
うーん、夢先輩が好きな人か、今まで一番動機が薄いな、そもそも神条先輩が夢先輩のことを意識していたのかも分からんからな、正直犯人ではなさそうだな。
「そして最後が、隅影誠、一年D組だね」
一年にも容疑者がいたか……捜査するならまずそいつからだな、一番気楽に行けそうだし。
一年D組、隅影誠。
彼は仁と同じ俗に言う陰キャだ。
友達はあまりいないため、基本的に部活では一人で黙々と練習をしている。
これと言って語ることもない、本当にどこにでもいる普通の高校生だ。
「疑っている理由は、隅影はよく夢先輩のことコソコソ見てたんだよね、それも睨むような目で、多分これに気づいているのは私だけじゃないかなー、隅影、ほんとに影薄いからいるのにいないみたいな扱い何度か受けてたから」
ははは、まるで俺だな……
えーっと、隅影に関しては何かはありそうだな、夢先輩を睨んでいた、単純に嫌いだったのか?
まぁそれは今日からでもやる捜査で明らかに出来ればいいか。
「容疑者は四人か、黒鐘は誰が一番怪しいと思う?」
部活で俺よりも容疑者を見ている黒鐘の意見をまず聞かせてもらおうか。
黒鐘は食べようとした自分で作った卵焼きを口元で止めて、少し悩んでから答える。
「うーん、正直この人だっていう程の理由の人がいないから難しいけどー」
確かにそうだ、もう一度何故黒鐘が疑ったのか、それぞれのを理由を整理すると、
石垣美由希は『夢を嫌っていた風に見えた』という理由。
星翔流星は『夢によくちょっかいを出していた』という理由。
神条神は『夢が好きだったから』という理由。
隅影誠は『夢をよく睨んでいた』という理由。
黒鐘という通り、誰にも誘拐するほど夢先輩を恨んでいた、憎んでいた人はいない。
だからこの中に犯人がいるのかすら信じられないが、この容疑者以外に吹奏楽部内で怪しい人物はいないと言う。つまり犯人はこの四人の誰かで、その犯人はクソしょうもない理由で誘拐なんて愚行を起こしたということだ。
犯人は相当のバカか、内心は夢を超嫌っていた奴だな、はぁ、そんなことで人生を無駄にするなんて、人生終わった者ととしては許せんな。
話を戻し、黒鐘が一番怪しいと思う容疑者を聞く。
「私的には……美由希先輩、かな……」
黒鐘が何となく夢先輩を嫌っていたように見えた美由希先輩か、なるほど、まぁ可能性はなくは無い。
人とよく関わっている黒鐘がそう見えたのなら、恐らく美由希先輩とやらは夢先輩が嫌いなのだろう……だからといって誘拐なんてするのかは定かでは無いが、容疑者の中では犯人の可能性は高いと思う。
「美由希先輩か、ありがとう、参考にするよ、とりあえず放課後にでも隅影の様子見に行ってみるか……」
今日から綾東高校では文化祭準備が始まるため、全ての部活は休みとなる。
吹奏楽部も例外では無い。部活は休みになり、容疑者達クラスの部活動準備に参加する。
ただ、文化祭準備は基本的に17時まで、ということになっているので、もし自主練をしたいという生徒がいればそれはOKになっている。
「仁って結局文化祭なんの準備係になったんだっけ?」
ちなみに俺のクラスの出し物は、ド定番の焼きそば屋だ。
ド定番だが面倒な仕事はないので俺的には問題ないが。他のクラスメイトも俺と同じ気持ちだったのか?皆こんな普通の出し物で良かったのか?
そんで話を戻して俺の係は焼きそば屋の看板作りで、そんなに時間はかからないと思うし、少し抜け出す時間はあるだろう、ということを黒鐘に話した。
黒鐘は納得した様子で「なるほど〜」と言う。
「黒鐘は?抜け出す時間作れるのか?」
「まぁね、私も捜査するから、みんなには申し訳ないけど楽な仕事としたよ」
「ふーん、ちなみに何にしたんだ?」
黒鐘は「うん?」と言って真顔で仕事を言う。
「みんなを応援する係だよ?」
ろくな仕事じゃないとは思っていたが、仕事ですらなかった。
応援する係、応援するなら仕事しろ、と言いたいところだが、今回ばかりは仕方ない。正直文化祭なんてやってる暇じゃないんだから。
「あー、まぁわかった、んじゃ放課後D組行くぞ、まずは隅影からだ」
俺がそう言うと黒鐘は「了解〜」と言いながら敬礼のポーズを取る。
俺は黒鐘の同意を確認してから、弁当の残りを口にかきこんだ。
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