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21.5話 ちひろの過去

月宮 仁 (つきみやじん)主人公

黒鐘詩音 (くろがねしおん)クラスメイト

痣木龍己あざきたつみ仁の親友

痣木ちひろ 龍己の母


一章最終話です。

20XX年、X県に建っているある学校で。


「ちひろ、僕と付き合ってくれないか?」


授業終了後、クラスメイトは全員下校や部活に行き、誰もいなくなった放課後の教室。


夏の猛暑日、窓から入ってくる生ぬるい風が白いカーテンをゆらゆらと揺らしている中、ちひろのクラスメイトの『九楽(くらく)』はちひろに告白をした。


それは恋愛に興味がある女子が見れば、キャッキャ騒ぐ様な、告白のお手本のような告白だった。


「……うん、別いいよ」


告白された高校2年生の少女、『ちひろ』はすんなりと告白を受け入れた。


ちひろと九楽の関係は、仲のいいクラスメイトだった。


2人とも部活はやっておらず、放課後はよく2人で下校していた。


家に帰ってから2人はまた集まってよく自宅や図書館で勉強会をしていた。これは単純に2人が優秀で真面目な生徒だからという理由では無い、嫌、半分は当たっている。


2人がよく勉強会をする理由はちひろが九楽から勉強を教えてもらうためだ。ちひろは全然勉強が出来ない一方、九楽の学力は学年1位で、委員会では生徒会長をしている完全無欠の秀才だ。


「ありがとう、ちひろ」


九楽はすんなりOKと言われたことに対して驚くことなく、ちひろの返事に微笑みながら感謝した。


ちひろは手を後ろに組み、膝上程の長さのスカートをヒラリと揺らしながら、九楽の方へと寄った。


「付き合うなら呼び方変えようよ、これから九楽は私の事ちゃん付けしてよ?」


「ちゃ、ちゃん付けか……誰かをちゃん付けで呼んだ事なんてなんからな、少し抵抗はあるけど、わかった、これからはそう言うよ」


九楽は少し恥ずかしながらも、ちひろの事をちゃん付けで呼ぶと言った。


「じゃあ試しに呼んでみて?」


ちひろの頼みに対し九楽は頭をかきながら、ちひろの後方にある黒板、に書かれた落書きを見ながら言った。


「ちひろ、ちゃん」


「ぎこちない」


ちひろは確かにぎこちなかった九楽の言い方に呆れた様子で文句を言った。


「仕方ないだろ?初めて言ったんだから、後やっぱりやめないか?違和感が大きすぎて言いづらい」


さっきOKと言った九楽は、自分の安易な判断を反省しながらちゃん付けはやめようと訴えた。


「もーしょうがないなー、じゃあその代わり……キスしてくれたらいいよ?」


ちゃん付けをやめたいならば、キスをしろと、ちひろは無茶ぶりをする。


「ちひろも交渉が上手くなったな……頭は良くならないのに」


「バカ!」


そう言うと、ちひろは1歩前に出て、少し背伸びをして九楽の唇と自分の唇を無理矢理重ねた。


「んっ……」


いきなりしてきたちひろに少し動揺した九楽だったが、すぐにいつも通りの冷静さを取り戻し、生まれて初めてのキスに集中した。


ちひろは九楽の胸に手を置き、九楽はちひろの後ろに腕を回す。


これを恋愛女子が見ればすぐ、友達に熱く語り、瞬く間にこのことは学校中に広がっていくような、キスだった。


ただ2人ともキスは初めて、つまりファーストキス。キス自体はぎこちない。


数秒のキスを終え、九楽はちひろの肩にかかってる髪を撫でながら言った。


「いきなりしてくるとは、ちひろは強引だね」


「ねぇ、なんでキスされたのにそんなに冷静なのかな?九楽って冷静を取り乱す時ってないのかな?」


常に冷静な九楽に対し、ちひろ少し機嫌が悪くなってた。


「自分で言うのもあれだけど、そういう事はないかな」


「へー、さすがだね……それで、どうだった?」


ちひろはなんのことは言わずに九楽に聞く。普通に考えて、なんのことを聞いているのかは誰にでも分かるだろう。


九楽も変に茶化さないで素直に感想を言う。


「そうだな……すごい柔らかかった」


「何その感想、やっぱ動揺してんじゃん」


ちひろはクスクス笑いながら言う。ちなみにキスに舌は入れていなかった。


「……動揺なんてしてない、ただ感想が浮かばないだけ」


「ほんとかなー?」


ちひろはジーッと九楽を見るが、その顔は嘘をついている顔には見えなかった。


「まあいいや、そろそろ私達も帰ろっか」


ちひろは机に置いといたカバンを肩に背負い、教室の扉へと向かった。


「そうだな、帰ろうか」


そう言い、ちひろと九楽は校門へと向かって歩く。



地方にあるこの高校は、少し田舎な土地に建っている。周りが田んぼレベルの田舎では無いが、それなりの田舎ではある。


校舎はお世辞にも綺麗とは言えない、年季の入った古い校舎だ。


さすがに猛暑日のため、学校を出て少し階段を降りた先にあるグラウンドでは野球部やサッカー部は木の影の下で休んでいた。


ちひろと九楽の家は電車に乗っていく距離にある。


そのため学校から出てまず向かう所は駅であり、そこから電車に乗って家に帰る。



「ちょっと今日暑すぎない?」


ちひろは下敷きで顔を仰ぎながら隣を歩く九楽に言った。


午後4時、段々と太陽は落ちてきているが、気温は全く下がらず、日向にいるだけで汗が出てくる。


「確かに暑い、できるだけ日陰を歩いた方がよさそうだね」


そう言うと、九楽は建物で日光が遮られてできている日陰を歩く、ちょうどその先には自動販売機が設置されていた。


「水分補給もしっかりしないとね、ちひろは何飲む?」


当然のように飲み物代を奢ろうと財布を出す九楽、こういう紳士的なところも多くの人から好かれる理由の1つだ。


九楽は500円玉を自販機に入れた。


「あ、ありがとう、じゃあ私これで」


そう言うと、ちひろは110円のフルーツティーのボタンを押した。


ガラガラ、と音を立てながらフルーツティーが落ち、ちひろはそれを拾い取り一口飲んだ。


その間に九楽は100円の水を買った。


「ん、これ美味しい、九楽も一口飲んでみ?」


そう言って、ちひろは九楽に自分の飲んだ飲み物を差し出した。


九楽は一瞬何かを考えたが、すぐにちひろの飲んだペットボトルを受け取り、1口に含んだ。


ちひろの言うように、確かに美味しい味だった。やけにまろやかで飲みやすい、1度飲んだらまた飲みたくなるような味。こんな美味しい飲み物を見つけられてラッキーと思う九楽であった。


「どう?美味しいでしょ?」


「確かに美味しい、僕もこれにすればよかったな」


そう言いながら九楽は買ったただの水を拾い上げ、試しに一口飲んだ。


「うん、美味くも不味くもない、普通の水だ」


そう九楽が言うと、ちひろはふふっと笑って歩き出す。


「さ、早く帰ろ、早く家で涼みたいし」


早くこの猛暑から解放されたいため、駅に向うちひろのことを、九楽は「そうだね」と言い追いかけた。




それから時は経ち、ちひろと九楽は高校3年生に進級した。


九楽は言ってしまえば高校入学した時から大学入学の為に様々な努力をしてきたが、今年は一層気合いを入れる年だ。


そもそも九楽が目指している大学は日本でトップクラスの大学なため、生半可な努力で行ける大学では無い。


一方のちひろは、未だに将来のことは深く考えていなかった。ただなんとなくどこかの大学に行こうというレベルしか考えていなかった。



6月、九楽が受験勉強に集中するため、ちひろに勉強を教える時間は少なくなったが、それでもたまに2人で勉強する日もあった。


ただそれはちひろが分からない問題を九楽が教える、というまるで塾の先生と生徒の様な関係ではあったが。


そして、今日は珍しく九楽の家で2人は勉強していた。


九楽の両親は仕事の毎日で、家に帰ってこない日も多々あり、九楽は1人で過ごす日が多い。今日も両親は朝から仕事に行っているため、家には2人しかいない。


まだ6月なため、さすがにクーラーは付けずに、窓を開け微妙な暑さを凌ぎながら勉強をしている2人。


九楽が数学の二次曲線の問題を解く中、ちひろはあまり集中出来ないのか、テーブルにグダーっと倒れていた。


「ねぇくっくん、今日はなんでくっくんの家で勉強しよって言ったの?」


くっくんとは、九楽のことである。


いつもなら2人が勉強する場所は図書館かちひろの家か喫茶店辺りなのだが、今日は珍しく、本当に珍しく九楽の家で勉強している。


ちひろの家から九楽の家までは電車1本ほどの距離だ。


「たまには気分転換も必要だと思ってさ、あんまり俺の家では勉強すること無かったから今日はここにしたんだよ」


くっくん、もとい九楽は今日自分の家で勉強している理由を問題から顔を上げないまま説明した。


「ふーん、理由はそれだけ?」


何やら納得してなさそうなちひろは九楽に理由はそれだけか聞いた。


ここでやっと九楽は顔を上げ、一口あの時のフルーツティーを飲んで答えた。


「……本当は自分の家が1番集中できるからだよ」


素直に九楽は本当の理由を言った。


だが、それでもちひろはまだ納得していなさそうに、


「…………ふーん、私には分かるよ、それも本当の理由じゃないってことくらい」


目を細めながら、テーブルに肘を乗せ自分の頭を支えながらエスパーの様に言った。


それに対し、九楽は何も言わず、手に持っていたシャーペンをテーブルに置いた。


「じゃあ本当の理由とやらは?」


九楽はちひろを試すかのように聞いた。


窓からは心地よい風が吹いている。外からは生活音などは何も聞こえてこず、部屋の中は静寂に包まれている。


そんな中、ちひろは九楽に体を寄せながら答えた。


()()()()()()()()、私と」


九楽はあえてなのか、なんのことかを聞かずに黙って前を向く。


2人は静寂の中見つめ合う。九楽が何も言わないのはそれが正解ということなのかと、ちひろは勝手に考える。


ちひろは自分の体温が上がっていくのを感じた、ジワジワと汗が出てきている。


「ちひろ、好きだ」


今まで1度も言わなかった台詞を、九楽はいきなりちひろに言った。


ちひろは顔を真っ赤にしつつも九楽に言う。


「な、なに?いきなりそんな事言って、まさか図星────」


「それは想像に任せるけど、ちひろに出会えて本当によかった」


そう言うと、九楽はちひろにキスをした。それもあの時のキスとは違う、熱いキスを。


その後に、2人は()()。何をしたのかはお分かりの通りだ────────




現在────


この後は早い、7月の中旬、18歳で私は妊娠したことを知り、親には散々色んなことを言われたが、結局高校を卒業してからの3月、私は子どもを産んだ。


それは、元気な"()()()()()"だった。


ただ、このことは仁君には言ってない、いや、言えなかった……


こんなこと言っても、困惑されるし、信じてもらえないと思ったのも理由の1つだが、1番の理由は、"本当に私の子どもは、双子だったの、自分でも疑っている"からである。


私の記憶が間違っていなければ、確かに双子のはずだが、産んでから1日後、妹の方は"九楽と一緒に姿を消した"。そしてその事について"誰も何も言わない"、まるで最初から双子なんていなかったかの様な態度で出産後は接せられた。


九楽がなぜ姿を消したのかも、今どこにいて何をしているのかも分からない。


でも、今更九楽に会いたいと思う事は、もう無かった……


きっとどこかで、幸せに暮らしているのだろうと思っている。


仁君には申し訳ないことをしたな、と思いながら、ちひろはリビングに戻って行った。

ここまで読んでいただきありがとうございました!評価やブックマークもぜひよろしくお願いします!


次回からは二章、開幕します。

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