20話 いきなり抱きいて来るのはご遠慮頂きたい
月宮 仁 (つきみやじん)主人公
黒鐘詩音 (くろがねしおん)クラスメイト
高橋千奈 (たかはしちな)友達。仁と黒鐘に命を救われた。
痣木 龍己 (あざきたつみ)仁の親友、亡くなっている
痣木 ちひろ 龍己の母親
服選びを初めてから数十分、俺の服はついに決まった。
服選びはまず黒鐘が俺の好みの色や服について聞き、それに合った服を選んでいった。
決まった服装自体はめっちゃかっこいいと思うが、いかにも陽キャが着ていそうな服だ、俺に着こなせるだろうか……
陽キャのふりする陰キャが1番痛い奴だと思っているからな。
ただ、それより重大な問題がある、それは、結構な値段がするということだ。
お金は私が出すと言っていた千奈も、これには苦笑い。
おい、もっと金のことも頭に入れて選んでくれよ。あと服にこんな金使った時無いぞ。
「まぁ、実際俺が着る訳だし、足りない分は俺が出すよ」
俺はカバンからスっと財布を出した。ちょうど親からお金もらってるし……まぁ少しぐらいここで使ってもいいだろう。
「なんか、ごめん」
千奈は顔を赤くしながら謝った。その姿には少し愛らしいと思ってしまった。
「ありがとうございましたー!」
レジでお会計をし、購入した服は大きな袋に入れられた。
これ、龍己の家に行く時明らかに不自然だな、今更だけど、買うタイミング間違えた……
さて、時間は2時過ぎになっている、約束の時間まであと1時間ほどか、余裕を持ってそろそろ龍己の家に向かった方がいいかもな。
ここから龍己の家まではそう遠くは無いが、遅れるよりかは早く着いた方がいいだろう。
そう考えている俺のことを察したのか、黒鐘はまた気の利いた事を言った。
「そういえば仁今日なんか予定あるとか言ってなかった?」
おっと、またいいタイミングで言ってくれるな。
「そうだな、これからちょっと行くとこあるし、俺はそろそろ帰らせてもらうよ」
俺がそう言うと、千奈は意外とすんなり納得した。
「そうだったんだ、おっけー、じゃあまた来週」
千奈はなんとも言えない表情で、俺に別れの挨拶をした。
それに俺は「あぁ」とだけ答え、俺はイオンを出た。
駐輪場に向かう途中、俺は考えていた。
はぁ、まさか黒鐘と千奈に会うなんて……ついてねぇ。
100歩譲って会ったことは仕方ないとしても、千奈が一方的に俺のことを友達としたことには納得いかん。
友達になったということはそれなりに千奈も俺にまとわりついてくるようになる。もう何度も言っている通り俺はそれが嫌である。
理由も知っての通りだ。
俺は自分の自転車に鍵を指した。買った服は前のカゴにギリギリ収まった。
さてと、んじゃ龍己の家向かうか、待てよ、なんか忘れている気がするが……なんだ?
俺はゆっくり自転車を漕ぎながら考えた。
何かを忘れている、なんだっけ……確か、何か頼まれたような……
イオンの敷地から出て、道路に出たところでやった思い出した。
あ、結構龍己の家に持ってく物買ってねぇ……
親に龍己の家に行く前に、なんでもいいから買って行けと言われたが、結構何も買わず、もらった金は自分の服に使った、クソガキじゃねぇか。
しょうがない、これもあいつらに会ったからだ、会ってなければ忘れることもなかったんだ、と自分に言い訳しながら俺は龍己の家に向かった。
数分自転車を漕ぎ、懐かしく、相変わらず閑静な住宅街に建っている龍己の家に到着した。
やっぱ、久しぶりに来ると緊張するもんだな……昔はよく家に遊びに来ていたが、来たのは4ヶ月ぶりくらいか。
龍己の家庭は2人暮しだった、龍己の父は、龍己が生まれた時に姿を消したと、龍己本人から聞いた。龍己は母から教えられたのだろう。
ただ、なぜか姿を消した父からは毎月生活に困らない程度のお金が送られてくるという、なんとも不思議な家庭だった。それに対して特に何も言わないのは、失礼ながらどうかと思う。
だってそうだろ?自分の子供が生まれた瞬間姿を消した、そんな人から毎月お金が送られてくる、おかしいだろ?
何度押したか分からない、インターホンを久しぶりに押した。
時刻は3時少し前だったが、龍己の母はすぐに出てきた。
「はーい!」
ゆっくりとドアが開き、その中からは母親とは思えないほど若々しい女性が出てきた。
「仁君久しぶりー!」
「ちひろさんやめてください、恥ずかしいです」
龍己の母改めてちひろさんは、なう33歳である。いやこれも龍己から聞いたから知ってんだぞ?
えーつまり、去年15歳だった龍己、つまり、ちひろさんは18歳に龍己を産んだことになる、まぁ、色々とあったのだろう。そう考えると、ちひろさんの旦那さんが姿を消した理由も何となく分かる、俗に言う望まない妊娠と言うやつだったのだろう。
あといきなり抱きついてくるのはやめて頂きたい、非常に複雑な気持ちなる、あと胸が当たってます。
俺は自分の息子に違和感を感じながらちひろさんのから1歩下がった。
「あ、ごめん!本当久しぶりだったし、心配だったからつい」
心配だった、そりゃそうか、1番の親友が亡くなったのだ、精神が病んでもおかしくない。ただ心配していたのは俺の方も同じだ。
「いえ、僕は大丈夫です、ちひろさんも元気そうで良かったです」
俺より、何よりも大切だった息子が亡くなったちひろさんの方が、受けたダメージは大きかったはすだ、ただ本当に元気そうで良かった。
「ありがとう、ささ、立ち話もなんだし入って入って!」
そう言うと、ちひろさんは家の中に入り、俺は「お邪魔します」と言い、久しぶりに家に入った。
あぁ、なんかこの匂い、久しぶりに嗅いだな……また変態みたいな発言してる、でも自分の家の匂いというのは分からないが、他人の家の匂いというのは分かるだろう?
今は1人暮しということになっているが、1人暮しするには大き過ぎるリビングに置かれている4人がけのテーブルに俺は座った。
「仁またいつものでいい?」
キッチンからのちひろさんの声に、俺は「はい、お願いします」と答えた。
いつもの、というのは俺が当時龍己の家に来た時飲んでいたココアである。
ココアというのはいつ飲んでも美味いのだ。夏場にはアイスを入れると案外美味しかったりする。
俺のためにココアを入れてくれているちひろさんは、キッチンから俺のことを見ながら、どこ懐かしむようや顔で言った。
「今日は龍己のことについて聞くために、家に来たんだよね?」
その通りだ、それについては先日直接電話で話しておいた。
「はい、まぁいまさらなんですが、龍己のこと、詳しく知りたくて────」
「なんで?」
「え?」
俺が喋っている途中、ちひろさんは不意に聞いてきた。俺はあまりにも急だったので、とぼけた声を出してしまった。
「どうして龍己のことについて知りたくなったの?」
まぁそういう疑問も生まれるよな、亡くなった親友のことについて急に知りたいと言われれば。
本当はしっかり理由を教えるべきなのだろうが、それを言うと俺のせいで龍己が死んだと言うことにもある。
ここは申し訳ないが嘘をつかせてもらう。
「それはですね、実は龍己ってあんまり自分のことについて話すこと無かったんですよ、だから今の龍己の内面は全部僕の想像に過ぎないんですよ」
龍己が自分のことをあまり話さなかったのは本当のことだ、例えば予知能力について、あいつの予知能力は『いつ水を飲むのか』というものだったが、その時間を教えてくれた日は1度もなかった。
「だから本当の龍己について、知りたいなって、いまさらなんですけど思ったんですよね……」
俺なりに全力で本当のことを言っている演技をしたが、自分でも分かる。明らかに裏があると思われている……
「そっ、か〜」
ちひろさんは俺を試すような目で見つめた。
やっぱ違和感持ってるよなー、くっ、最悪嘘を混ぜながら本当のことを言うか……
「確かに龍己は自分のことを話すことは少なかっただろうね、だって龍己に自分のことをあまり話すなって言ったの、私だもん」
なんだ騙せていたのかという安堵の気持ちと、ちひろさんが龍己に自分のことを話すなと言っていた事実に驚く感情が同時に来た。
そうなると疑問が生まれるよな。
「今度は僕に言わせてください、どうして龍己にそんなこと言ったんですか?」
決して怒っている訳では無い、ただ非常に気になるのだ。考えられるのは龍己には俺にも言っていない大きな秘密があること、または言えない事情があることなどか。
俺の質問に対して、ちひろさんは腕を組み、唸り声を上げながら少し悩んだ。
だがすぐに答えが決まったのか、1人納得したように頷いて答えた。
「うん、仁君になら、教えてもいいかな、私の息子の"秘密"を」
そう言うとちひろさんは今までの笑顔とは違い、少しだけ表情を固くしたように見えた。
ゴクリと、俺は固唾を飲んだ。
これから1番の親友だった俺にすら言わなかった龍己の秘密が知れる、一体どんな秘密なのか。
俺はその期待と、逆に言えなかった理由を考えると、それは俺の想像より深刻なのかもしれないという恐れみたいな感情もあったが、
俺はこれから話すちひろさんの話に耳を傾けた。
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