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婚約破棄された軍人令嬢、なぜか第2王子に溺愛される  作者: せんぽー
第2章 大星祭編

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第80話 抑えきれない感情

「なぁ、マナミ………この前のアーサーもこんな感じだったらしいな?」

「ええ。離宮でエレシュキガルを監禁していたわ」


 王城のとある1室の前で話すマナミとクライド。2人はエレシュキガルの見舞いに来たのだが、部屋から返ってきた声はアーサーの「今日のエレちゃんは出れません。お引き取りください」という声だ。2人はなぜエレシュキガルが返事してくれないのかと訝し気に思っていた。


「でも、今回はアーサーの気持ちが分からないこともないのよね」

「というと?」

「エレシュキガル、結構酷いことをされたらしいの。伯爵に連れ去られたっていうのは知ってるでしょ?」

「ああ、聞いたよ。後輩君を助けようとしたんだろ?」

「ええ。そのせいか、帰ってきてからもエレシュキガルの様子がおかしいってナナから聞いたわ」

「へぇ、それは可哀そうだな………それで、伯爵さんは捕まったのか? さすがにアーサーは許さないだろ」


 クライドの問いに、マナミは視線を上に向け「んー」とこぼす。


「エレシュキガルを連れ去ったのは本物の伯爵じゃなかったみたい。偽物は即座にアーサーが殺したわ」

「さすが王子さん。エレシュキガルのことになると容赦ねぇな」

「そりゃあそうでしょうよ。相手は魔王軍幹部だったのよ。殺さないでおく方がおかしい」

「じゃあ、本物の伯爵さんは? どこに行ったんだ? まさか殺された?」

「生きてるわよ………彼も療養中ね。監禁されてて衰弱していたらしいわ。ホント可哀そうよね」

「ドンマイとした言いようがないな………………なぁ、マナミ。今日の所は帰るか。会えなさそうだし」

「そうね。この調子じゃ1週間は出てこないでしょう。お見舞いの品はナナにでも預けておきましょう」


 そうして、花束とお菓子を持ってきていたマナミとクライドだが、エレシュキガルには会えないと察し、結局アーサーのお願い通り帰ることにした。




 ★★★★★★★★




「アーサー様…………先ほどどなたか声が聞こえましたが?」


 ベッドで眠っていた私はむくりと体を起こす。そこにはベッド際に座るアーサー様がいた。


「大丈夫。今日は無理だって伝えておいたよ」

「ありがとうございます」


 クラウンに殺されかけられ、アーサー様に助けられた私。助けられた後眠ってしまっていたのだが、目を覚ませば、王城の敷地内にある別館の部屋にいた。


 どうやらアーサー様が私のために用意してくれたらしく、療養のためにと連れてきてくれていた。


 事件があったのは数日前のこと。だが、私は未だに部屋の外に出ていなかった。別に以前のように外出をアーサー様から許可されていないというわけではない。私自身の問題だった。


 正直外が怖くなっていた。アーサー様から離れる恐怖が強くなっていた。


 あの時の選択は間違っていたとは思わない。私が偽伯爵について行かなければ、ギルが殺されていただろうから。


 でも、もう少しいいふるまいというか、上手く対応ができた気がする。もうあんな目に遭いたくない。一方的に殺されるなんてことは嫌だ。


「………………」

「………エレちゃん」


 アーサー様に近づきぎゅっとしがみつく。彼も抱き締めてくれて、すっと落ち着きを取り戻していた。彼から香る花の香りも心安らいだ。


「まだ思い出す?」

「はい………」


 アーサー様はちゅっと私の額に口づけ、頭を優しく撫でてくれた。帰ってきてからも、ずっと私は彼に甘えているような気がすると思う一方で、彼に触れていないと不安が襲ってきた。


「僕に触れられるのは嫌じゃない?」

「全然」


 むしろ触っていてくれた方が安心する。私は彼の顔にそっと手を伸ばし、頬に触れる。すると、アーサー様はほっと安堵したかのように笑みを零した。


「そっか。よかった………」


 それから、私たちは朝食を取った。ナナとリリィが2人は優しく話しかけてくれたが、長居はせず、すぐに退出。アーサー様と2人で朝食を取った。


 その後はお茶を飲みながら団らんしたり、読書をしたりとソファに座ってゆっくりしていたのだが………。


「エレちゃん、アイツにはどこに触られた? 首は触られたよね?」

「んっ………あっ、さ、さまっ」


 私を膝の上に乗せると、アーサー様は項をちゅっ、ちゅっと何度も口づけ。自分たち以外誰もいない静かな部屋に湿度の高い水音が響く。


 …………一体、どこでスイッチが入ってしまったのだろう。魔王軍幹部のことは伝えた方がいいだろうと思い、クラウンのことを話していると、アーサー様は突然クラウンに触れられた場所を口づけ、傷つけられた場所を癒すかのように手で触れる。手は随分と熱かった。

 不思議と嫌な気はしない。ただ恥ずかしい…………。


「んっ……ま、って………」

「ごめん、待たない」


 口づけられる度にその場所が熱くなるのを感じる。おかしくなりそうだった。


「ここにも触られたよね?」

「っ!」


 アーサー様の大きな手が太ももに伸び、思わずびくっと体を震わせてしまう。自分でも信じられない反応だった。

 でも、これ以上は………もうっ………。


「げんかいっ、ですっ………」

「………………? エレちゃん?」

「うぅ………」

「エレちゃん!?」


 アーサー様の重い愛と羞恥のあまり私はまた気を失った。




 ★★★★★★★★




 また眠ってしまったエレシュキガル。彼女はベッドの上へと運ぶと、アーサーは隣に座った。星のきらめきのように輝く銀髪を救い取り、そっとキスをする。


「やりすぎちゃったかな………」


 白い肌は赤く染まっており、あまりにも愛しすぎたせいだろうとアーサーは1人後悔する。一方で仕方がなかったと言い訳する自分もいた。エレシュキガルを全力で愛撫したい感情が抑えきれなくなっていた。


 それは他の感情にもかられていたせいでもある。


 アーサーは努めて冷静に、尚且つエレシュキガルが安心できるように、怒りを抑えていた。本当は敵に触られたことに、傷つけたことに苛立っていた。


 エレシュキガルを触れていいのは自分だけで、エレシュキガルを可愛がっていいのは自分だけで、傷つけていいのは誰1人いない。彼女を痛みつけるなどあってはならない。


「やっぱり君が行くべきじゃなかったよ………」


 ギルバートの命がかかっていたとはいえ、あそこでエレシュキガルを行かせるべきではなかった。別の方法で彼を助けるべきだった。


「強く止めていればよかったんだろうけど………」


 まさかあんなことになるとは思っていなかったのも正直ある。伯爵が魔王軍との交渉材料に使うとてっきり予想していた。でも、まさか伯爵自身が魔王軍幹部だったとは。


「………………」


 エレシュキガルの首元はすでに絞められていた跡は消えていた。しかし、彼女を助けた直後には、確かにそこにくっきりとあざが残っていた。思い出すだけで怒りが爆発してしまいそうになる。


 彼女は軍で傷ついた。たとえ他の人には強く勇ましい姿を見せていてもだ。もうこれ以上彼女が傷つく姿は見たくない。

 だから、彼女を傷つけるものは全部、全部滅ぼさないと――――。


「アーサー、さま?」


 目を覚ましたエレシュキガル。アーサーが座っている場所とは反対を向いていた彼女は一瞬キョロキョロと見渡し、不安そうな声を漏らした。


「ああ、よかった………」


 さっきからエレシュキガルはこんな調子だった。自分の姿が見えないと、不安そうに探し始め、見つけるとほっとした様子になっていた。アーサーは彼女を落ち着かせるように、手を握りしめる。


「さっきはごめんね。もし疲れが取れていないのなら眠っていていいよ。僕はずっとここにいるから」

「ありがとうございます………」


 そう答えると、エレシュキガルはまた眠り始める。事件から数日が経っているとはいえ、まだ疲れは取れていない。自然と眠っている時間が多くなっていた。


 帰ってからというものの、エレシュキガルは甘えるようになった。アーサーとしては嬉しいことなのだが、エレシュキガルの精神面が心配だ。彼女が完全に回復するまでは片時も離れず傍にいると決めた。仕事はこの部屋でするように準備は整えた。


 学校も休みの手配をしている。完璧だ。


「おやすみ、エレシュキガル」


 聞こえるか聞こえないか小さな声。

 優しくこぼしたアーサーは眠りに落ちるお姫様に口づけた。

 来週もよろしくお願いします!


 追記:3月11日に更新します。すみません<(_ _)>

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