2.窮地と、生徒会長。
主人公の無双は、もう少し先です。
言いがかり野郎へのざまぁ諸々はその時に!
たぶん、第1章の終わりくらいですかね。
応援よろしくです!!
「友達……? はっ、よく見れば噂の転入生じゃねぇか!」
「だったら、なんだよ」
「いや? 知らないんだな、って思ってさ」
ボクを認めた男子学生は、鼻で笑った後にセシルを見る。
そして、まるで事実であるかのようにこう言うのだ。
「こいつ、理事長の孫だろ? だから魔法の才能がないのに、名門であるこの学園に入学できたんだよ!」
「ち、違います……!」
「違わねぇよ! お前が裏口入学したせいで、俺の親戚が落ちたんだ!!」
「…………!?」
セシルは必死に否定するが、相手は聞く耳を持たないらしい。
どうにも感情的になりすぎている。それに、どれもこれも根拠というものが欠如していた。本人の中ではそれが正しいのだろうが、とても肯定できない。
周囲の生徒は取り巻き、だろうか。
リーダー格であろう男子学生に同調し、冷たい視線をセシルに送っていた。
「あと、これも風の噂だけどよ。お前もコネで転入したんだって……?」
「そ、れは……」
そして、次に標的になったのはボク。
彼の言う通り、ボクがここに転入できたのはセシルの口利きだ。だがしかし、ここまできたらもう彼の親戚が不合格だった件は無関係。
完全に八つ当たり。
それでも、相手の感情は歯止めが効かない様子だった。
「理事長の肝入りで転入したんだ。それだったら――」
ぐっと、ボクの胸倉を掴みながら。
男子生徒は、整った顔を歪めてこう言った。
「さぞ素晴らしい才能をお持ちだろうな! 見せてもらおうか!!」――と。
それはつまり、この場で魔法を使ってみせろ、ということだった。
しかし、その条件にボクは窮してしまう。何故ならボクには、魔法の才能というものが欠片もないのだから。
この場で喧嘩を仕掛けられたら、呆気なく敗北するだろう。
だから、何も言い返せなかった。
あまりにも、情けない。
歯痒くて仕方ない。
友達を守ることができない。
そんな、無力な自分が嫌になりそうだった。
「なぁ! どうなんだよ!!」
「くっ……!?」
そうして、いよいよ周囲の魔力粒子が動き始める。
魔法を使う際には必ず、このように粒子の流れが生まれるのだ。
火属性ならば赤、水属性なら青。各々に特徴的な形をした粒子が、やがて使い手のもとへと集まっていく。そして最後に、意思に応じて具現化する。
ボクはその理屈や、動きだけは分かっていた。
だけど、対処方法が分からない。
今だって、暴力的な力の前に身をさらけ出すしかできなかった。
だが、その時である。
「お前たち、なにをしている!!」
「ちっ……! 面倒な奴がきやがった!」
ある男子生徒が、空き教室に駆け込んできたのは。
それを見て、魔力を高めていた男子学生は魔法を中止させる。
そして、周囲の学生に目配せをしてから一目散に逃げだすのだった。
「待て! ……くそ、逃げ足だけは一人前か」
「……貴方は?」
後から入ってきた男子学生は、悔しげにそう呟く。
ボクは唖然としつつ、彼を見て訊ねた。
見目麗しい、という言葉が相応しい。
そう思わされるほどに、上級生と思しき生徒は整った顔立ちをしていた。金の髪に鋭い青の眼差し。スタイルもよく、細身ながらもしっかりとした筋肉がついているのが、制服の上からでも感じ取れた。
背丈はボクより幾分か高い。
そんな彼は、ボクの肩に手を置くと静かに頷いた。
「最後まで手を出さなかった。その勇気は、素晴らしいな」――と。
そして、無抵抗のまま立ち尽くすしかできなかったボクを肯定した。
どうやら彼の目には、ボクが勇敢な生徒のように映ったらしい。とっさに否定しようとするが、彼はそれより先にへたり込んだセシルに手を貸していた。
ゆっくりと彼女が立ち上がるのを認めてから、男子生徒はこう名乗る。
「自己紹介が遅れたね。わたしはクライス・リーガル、この学園の生徒会長だ」
男子生徒――クライスさんは、そう言って笑った。
あまりに爽やかな表情をしており、ボクも思わず呆けてしまう。
しかし、そんなこちらより先に感謝の言葉を口にしたのはセシルだった。
「いつも、ありがとうございます。生徒会長」
「気にすることはないよ。学園の規律を守るのも、わたしの役割だからね」
――清々しい。
頭のてっぺんからつま先まで、すべてが爽やかだった。
そんな彼に見惚れていると、ふと声をかけられる。
「キミはたしか、転入生のアルスくん、だったよね?」
「……へ? はい、そうですけど」
少し間の抜けた返答になった。
だがクライスさんは、気にすることなく続ける。
「少しばかり、今の件について話があるんだ。生徒会室にきてくれるかな」
「え、生徒会室に……?」
その言葉に、ボクとセシルは思わず顔を見合わせるのだった。