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第5話 第三演習場と落下。

「ここが第三演習場だよ」

「え、これって……」


 そこは巨大な山だった。

 見渡す限りの森。森。森。


 アリアは興奮し過ぎて気絶してしまったシオンを抱えて山を登っていた。

 目を覚ましたシオンも、広大な大自然を前にして目をまん丸にして驚愕の色に染まっていた。


「ただの森、ですよね……?」

「そうだね」


 何でもなさそうにアリアは答えたが、本当に木しかなかった。どこか拓けた土地があるわけも無く、演習場とは名ばかりのものだ。


「あ、そう言えば。シオン、例の話はどうなったの?」

「え、」


 突然、「例の話」と言われて、何のことだか分からなくなったが、すぐに休学一ヶ月分の、修行の証明の仕方について聞かれたのだと理解した。


「ええっと、その、百二十六位の人と決闘する事になって……」

「決闘っ!?」


 ああ、やっぱり無謀だ!って怒られるのかな。

 覚悟してキュッと目を閉じると逆にアリアの笑い声が聞こえた。


「あはははは! それは良いよ! うん、最高!」


 何がツボに入ったのは変わらないが、アリアは涙が出るほど笑っていた。


「それがちょうど良いくらいかな」

「でも、僕は……」

「でもって言わないの! 一ヶ月後、シオンにはその子を倒してもらわないといけないんだから!」

 

 倒す。


 確かに倒さないと退学になってしまうから、倒さないといけないんだけど。

 今はまだ全然、現実味が湧かなかった。


 倒せるのか?

 あの、アルロを。


 アルロの強さを思い出し身震いをしながら、何とか話題を変えようとシオンが切り出した。


「あの、ここはどこなんですか……?」

「ここは騎士団が所有する山脈だよ。山での実戦を経験する為に、私が買ったんだ」

「え、買ったんですか、山脈を!?」

「まあ、安かったんだけどね。二百万ゴルドくらい」


 二百万ゴルドで山脈一つを買えたのなら、確かに安い。だがそうなると何故そんなに安い値段なのか?と気になった。


「理由は二つ。一つは魔物が出没するから」


 アリアが言った様に魔物が出没すると言う事は、付近に魔物の巣があると言う事だ。或いは魔物が発生する魔素溜まりがあるのかもしれない。

 魔素溜まりがあるのなら、いつ魔物が現れてもおかしくない状態に常時身を置かなければならなくなる。

 しかし、所有者が王国最強剣士のアリアならば、魔物に殺される心配は皆無だ。都市滅亡級の竜王級が現れない限りは、アリアの敗北はあり得ない。

 だからアリアもこの山脈の購入を決意したのだろう。


 それはそうと、シオンは未だにアリアに抱えられたままだった。

 あの、もういいですよ、と言ってもアリアはシオンを離さなかった。

 それどころか、どこかに向かってズイズイと森を進み、変な場所で止まった。

 そこには何かあるわけではなく、強いて言うならば先を見通せない茂みがあるくらいだ。


「こんな場所で何を」

「そして二つ目がーーーー」


 ポイっ、とアリアはシオンを投げ捨てた。







 崖にーーーー。









「えっ? え、ええええええっっっ!!?」


 絶叫。

 

 浮遊感。


 瞬間、落下。

 

 とてつもない速度でシオンは落下した。


 風を切る轟音が鼓膜を刺激し、風圧に抵抗しようとする手足は耐えきれずに悲鳴を上げる。周囲の壁に何とか掴まろうとするが、つるつる滑ってまともに触る事すら出来なかった。


「何でこんなぁああああああああ!!!」


 シオンの絶叫と悲鳴は途絶えない。

 もし、何も叫ばなくなったら、落ちて粉々に砕け散る自分の姿を想像してしまうから。


 浮遊感が消えない。

 落下感も消えない。

 恐怖感も消えない。

 絶望感も消えない。


 底が見えない。真っ暗闇だ。


(僕がこれから進む道がお先真っ暗だって言いたいのか!?)


 見当違いも甚だしい。

 ただ、この崖は底が見えないほど深いのは間違いなかった。


 いつまで経っても底に着かない恐怖が、いつ落下してもおかしくないと言う恐怖が、なす術なく落下してバラバラになると言う恐怖が、シオンの心を蝕んだ。


 怖い。死ぬ。もうダメだ。



  

 僕は、シオンは、死ぬ。




 恐怖の二文字がシオンの心に満ちた時、時が止まった。


 目の前には地面、いや、水面があった。

 日も入らない暗闇だが、眼前まで迫れば別だ。

 ハッキリとした水面がシオンを写し鏡のように写した。

 そこに写っているのは、シオンか?

 恐怖に満ちた汚い顔だ。


 ゆっくりと、水面に近付いていく。


 まず、鼻先が着水した。

 一滴の雫が水面に落ちた様に波紋が広がって、写されたシオンが波打った。


 スローモーションになった世界で着水した事を知覚するのには時間がかかった。


 次の瞬間、時間は動き出す。

 一気にシオンは水に包まれた。

 泳いで上に行こうと思っても、濁流の如き川の流れが泳ぐ事を許さない。


 助かったと思えば、やっぱり助かっていなかった。


 シオンは濁流に流されながら、大量の水を飲んでしまい、そのまま意識を刈り取られた。




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