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第3話 休学届と決闘申込

 次の朝、アリアに起こされるとすでに学院の正面玄関に着いていた。


 どうやら寝ている間に抱えて運んでくれたらしい。しかし、あれだけの山道をまだ子供とは言え人一人を抱えて走れるなんて、やはり最強はすごい。


「頑張ってね。いってらっしゃい」


 いってきます、とアリアに手を振ってシオンは正面玄関を通った。





 誰もいない長い廊下でシオンは憂鬱に溜息を吐いた。

 

 どうやって一ヶ月分の成果を見せればいいんだろう。そもそも、ぼく自身が一ヶ月でどれだけ強くられるかも分からない。


 どうしたら良いんだ。

 考えているうちに、教室の前に着いてしまった。


 僕はこの「1年A組」の文字が、大嫌いだ。

 毎朝、ここに入るたびに憂鬱な気持ちになった。


「……よし」


 深呼吸を何度もして、覚悟を決めた。


 ガラガラ、と扉を横に開ける。

 教室中の指す様な視線が、入って来たのが落ちこぼれ(シオン)だと気付いて嘲りに変わる。

 クスクスと笑い声まで聞こえた。


「おお、シオン。珍しいな。遅刻だぞ」

「あ、はい、すみません」


 どうでもいいことだが、シオンはこれまで無遅刻無欠勤の成績最下位の優等生だった。


 担任のエルヴィス先生は、気怠げな顔をしているが生徒のことを考えてくれて、僕なんかのためにも親身になってくれる優しい先生だ。


「おいおい、重役出勤かよ、シオン〜?」


 その時、ドカンっと音が鳴った。

 アルロが自分の机を蹴った音だった。

 それから青筋を浮かべて、表面上は笑顔を取り繕っている。


 若干キレているのは、きっと昨日シオンがいなくなったからだろう。


 おそらくは僕を追跡しようとしたが、最強剣士アリアの速度に追いつけずに、そのまま見失った。

 

 そんなところだろうな。

 

 怖いし関わりたくないので、さっさと要件を済ませてしまおう。


 予め書いておいた休学届を先生に渡した。


「休学届……? ていうか、お前……」

「はい。ご迷惑かけますが、お願いします」


 先生は驚いた表情で僕を見た。

 

 理由の欄に「アリア・ヘルファームと修行のために」と書いたからからだろう。

 王国が誇る最強剣士となぜ? そう聞きたそうな表情をしているので、バレバレだった。


「はい。ご迷惑かけますが、お願いします」


 エルヴィス先生には休学の手続きだとか、色々と面倒な事をお願いすることになるので頭を下げる。

 と同時に、暗にその事は内密にという意味も込めての“お願い”だ。


 流石にその真意が伝わったのか、エルヴィス先生は頭をぽりぽりかきながら、「まっ、受理しとくよ」と何も聞かずに休学届を受け取ってくれた。


(ありがたい。さて、僕はさっさとこの教室からーーーー)

「休学、だと? シオン、お前生意気だぞ!」


 ドカランッ、と机が強烈な勢いで僕の目の前を通過した。壁に激突して粉々に砕け散る。


 破片が散らばって教室に悲鳴が満ちるが、椅子を蹴飛ばした張本人であるアルロはそんな事もお構いなしにとシオンの場所まで移動して来た。

 そしてグイッと胸ぐらを掴まれる。


「テメェ、何を勝手に休学なんてしようとしてるんだよ」

「え、いや、だって、規則上出来るし……」

「知らねえよ。俺が許可してねえのに、何でやろうとしてるかって聞いてるんだよ!」


 滅茶苦茶だ。

 なぜ、休学するのにアルロの許可がいるのか。

 休学は生徒と教師の間でやりとりがされ、教師が許可すらば休学届は受理されるのだ。


「テメェは301位、俺は124位! テメェが俺の言う事を聞くのは当然だろうが!」


 当然では無い、とは言えなかった。

 この学院では順位が全て。

 上位者になるとある程度の権限は与えられるし、噂によると十位圏内には、学院が専用の部屋を作ってくれるらしい。


 それだけの権限を持っていると、以下の順位の人間は逆らえない。


 おかしなルールだと思うがそれに文句を言える立場は僕にはなかった。


「このクラスの連中だってそうだ! 全員、俺様の命令を聞いてるぞ! なあ!?」


 アルロが聞いても「お、おう」と小さめな返事が一つ聞こえた程度だった。


 シオンはアルロに加担したり、同様に悪口を言ってくるクラスメイト達が嫌いだ。

 でも、アルロの命令に従わなければいけないという、妙な同族意識は持っていた。別に友情意識では無いがな。


 しかし同じ身として少しだけ同情する。


 このアルロの命令は、聞いているだけですごく耳障りなんだ。


 そんな暴言に唯一反抗した生徒がいた。

 学院順位297位フレミア・アルグントリア。

 おさげで眼鏡を掛けた女の子で植物の魔法を使う。

 いつも部屋の片隅で本を読んでいる様な大人しい女の子だったので、こうしてアルロに真っ向から反抗するとは思わなかった。


「アルロさんに言う必要なんて無いんじゃ……」

「アルロさんだろぉ!?」

「ひうっ! ア、アルロさん」

「ふん。覚えておけよ、このクラスの連中はみんな俺の所有物だ。どう扱おうと俺の勝手だろうが。こんなふうに、なぁ!」


 と言いながら、アルロはフレミアの髪を無理矢理引っ張っり、浮いた身体を床に投げ捨てた。


 かなり力を入れたのだろう。

 ブチブチっと音がここまで聞こえた。


 なんて奴だ。酷過ぎる。


 痛みでフレミアが泣いていた。

 フレミアは順位も下の方だけど、それでも毎日居残って努力していた。自分の魔法への理解を深めるために植物や花を育てている。

 すごく努力なんだ。


 なのにどうして彼女がこんな目に遭っているんだ。

 こんな事をする必要があるのか?


「フン。虫ケラどもめ」


 プツン。

 何かが切れる音がした。


 次の瞬間には、僕はアルロを引き剥がし、足元に手袋を投げ付けてた。


 古い習わしだが最近の授業で習ったばかりなのでアルロも知っているはずだ。


「アルロ、お前に決闘を申し込む」


 教室がシン、と静まり返った。

 ただ息を飲み、マジかよと僕とアルロを交互に見る視線が動いていた。


「なっ、正気か! そんな事をしたらお前がーーーー」

「クッ、クハハハハッ!!」


 何が可笑しいのか、アルロは腹を抱えて高らかに笑った。反対に焦ってエルヴィス先生が止めようとしたが、遅かった。


 そして散々笑い終わると血走った目でシオンを睨んだ。


「俺を散々にコケにしてくれたなぁ、シオン〜?」


 別にしたつもりはないんだが、いや、やっぱりしてたのかも。

 

 完全にブチギレているが、それでも耐えているのは、アルロが精神トレーニングも行っているからだ。


 ただ怒りは消えているわけではなく、ただ怒りを抑えているだけだった。


 アルロはゆっくりとしゃがんで、手袋を拾った。


「受けてやるよ」


 決闘成立だ。


 一瞬、教室が湧いた。

 しかしそれもすぐに収まった。


「もう後戻りは出来ねえぜぇ?」

「先生。立ち合い人をお願いします」

「っ、分かった……」


 やけに殺気を出すアルロに内心ビビりながら、僕はエルヴィス先生に立ち合い人をお願いした。


 すんなりと受け入れてくれたが、先生なりに僕のことを考えてくれたのだろう。


 決闘の立ち合い人になる教師には意地悪な奴がいて、片方が再起不能になるまで決闘終了を言い渡さない人もいるんだ。

 

 それなら自分がやってやる、って感じだろう。


 普段仕事をやらないから、蕁麻疹が出ているけど、きっと大丈夫だ。うん。



「それじゃあ、一応説明しておくぞ。学院決闘ルールーーーー」




アルカディア学院決闘ルール


①決闘は片方が学院の生徒であれば成立する。


②決闘の成立は学院側に報告する義務がある。


③決闘の日にち、場所、は決闘者双方が決めた立ち合い人が決めるものとする。


④決闘の勝敗における賞品は決闘者同士で決めるものとする。ただし生徒同士による決闘だった場合、勝利者の学院順位が敗者よりも低かった場合、双方の順位を入れ替えるものとする。


⑤決闘が学院の生徒では無く、学院の教師、或いは部外者だった場合も上記と同様のルールで行う。


⑥決闘の前に決められた賞品は必ず与えられなければならない。仮にこのルールが破られた場合は、学院から永久追放の処置を取る。


⑦これら上記でもルールに不足がある場合は、学院と決闘者によって不足を補う事とする。






 まさか、僕がこの制度を使うなんて思わなかった。

 人生は何が起こるか分からないな。


 相手は因縁の相手であるアルロだ。


 順位は僕よりも二十位も高いけど、修行の成果を示すにはもってこいの相手だ。


 アルロに勝つために、僕はアリアさんの元へ修行に向かった。

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