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第11話 最終日、騎士達に可愛がられる。


 ついに一ヶ月の修行が終わった。


 最初の永遠にも思えるランニングから始まり、崖に落とされ川に流され、魔物と対決し、アレックスと対決し、フルビアにボコられ、最後はアリアに一方的にボコボコにされた。


 強くなった自覚はある。

 でも、自信が無いない。


「そんな時はご飯だよ、シオン君!」

「え、えっ!?」


 悩んでいるとベリンダが満面の笑みでシオンの手を引いた。


 この騎士団本部には騎士団総勢三百名が収まり切る広さの大食堂がある。団長のアリアの方針で、可能な限りはこの大食堂で集まって、同時に食事をする事になっている。

 当然、シオンもこの騎士団にいる間はその様にしていたし、楽しみの一つでもあった。


 しかし、今日は趣が違った。いつもよりも豪華な料理が食卓に並び、騎士達もシオンが食堂に入った瞬間に道を開ける。


「これって……」


 シオン頑張れ!&よく勝ったね!の会!、と書かれた垂れ幕が食堂の奥に垂れ下がっていた。


「今日はシオン君のお別れ会と祝勝会だよ!」

「え、でも、まだ勝ってませんけど」

「だってシオン君、しばらくは寮から帰ってこないでしょ? だから今のうちにやってしまおう!って事になったの」

「いやそうじゃなくて、僕が勝てる保証もないのに何で……」

「シオン君なら余裕でしょ!」


 ベリンダがグッと親指を立てて、ニカッと笑った。それに続く様に騎士団一の男気があると自称していたブルースからも「その通りだぜ、シオン!」と言われた。


「シオンなら絶対に大丈夫だよ!」

「学院の何ちゃら?だって余裕で倒せるって!」

「アレックスの攻撃が当たらないなら、ここにいるほとんどの騎士の攻撃がシオンには当たらないよ」

「ていうか、最後の方にアレックスから一本取ってたじゃん」

「そうだよ! 騎士団うちで最速のアレックスに当てられるなら、たかが学生に当てるくらい余裕余裕!」


 みんながみんな、励ましの言葉をシオンに送って来る。しかもその一つ一つが、嘘偽りない本音だって、彼らの瞳が告げていた。


 シオンは思わず流れ落ちそうになる涙を堪えて、手で目元を拭った。


「さっ、それじゃあまずはお姉さん達の相手をしてもらおうかしら!」

「そうそう! シオンにゃん、こっちにおいで〜!」


 と、騎士団のお姉さん方に手を引かれて、席に座った。そこは女性ばかりの席で、左右はおろか前後も囲まれてしまった。


「はい、あーんっ!」

「こっちも美味しいわよ?」

「ほらほら、もっと食べないとね〜!」

「うちの美味しいご飯ともしばらく


 詩音はそのまま、お姉さん方にもみくちゃにされた。美味しいご飯は自分で口に運ぶ手間も無く、お姉さん方の手にやって運ばれて来た。

 とんでも無い量なので途中で限界と言おうとしたが、お姉さん方の勢いが凄まじく、あれよあれよと食べさせられた。


「けぷっ」


 夕食が終わった時にはシオンの腹は膨れ上がり、本人も歩く事すら苦しそうに長い廊下の一歩一歩を踏み締めていた。


 もう今日はこのまま部屋に戻ろうかな、そう考えた時、ガシっと誰かに肩を掴まれた。妙に筋肉質な上に力強かったので、恐る恐る振り返る。


 そこにはーーーー上半身裸の筋肉男が沢山いた。


「やあ、シオン! 男同士で裸の付き合いと行こうじゃ無いか!」

「ぎゃああああああああ!!!」


 その日、シオンの悲鳴が本部中に響き渡った。






 騎士団の浴場は当然、男女に分けられている。しかも女子風呂は覗き対策で結界を張っているため、騎士達であっても容易に突破は出来なかった。

 と、すぐ隣にいるブルースがシオンに語っていた。


「それって実体験ですか?」

「おう! 団長の裸を見る前に消し炭にされるかと思ったぜ!」

「うわ最悪だこの人」


 覗きをしたと白状したブルースが清々しい笑顔だったもので、シオンも思わず本音が漏れてしまう。


 ここは男子風呂。

 五十人近くの男性騎士が浴槽に浸かってる、大変むさ苦しい状態になっていた。


「いやあ、それにしてもシオンよ。お前がこんなに強くなるとはな……」

「いえ、そんな事ないですよ。ブルースさん達とやり合っても、10本に9本は負けてしまいますし」

「いや、1本は勝てるじゃないか」


 他の男性騎士が突っ込んだ。


「いや、だって皆さんは木剣で僕は真剣ですよ? それだけハンデを貰ってるのにこの体たらくはちょっと……」


 そう。最後の一週間からはシオンは剣の重みに慣れるために、真剣を使う事になっていた。

 剣はフルビアに黄金の剣を作ってもらい、それを使用した。

 

 しかし、他の騎士達は不満な顔だ。

 

「でもなあ、お前まだ学生だろ?」

「そうですけど……」

「俺達だって現役の騎士だし、学生に1本取られるって」

「やばいよな」

「いや、だって僕、学院でも最下位ですし」

「それこそおかしいだろ」

「何で今まで最下位だったのかが気になる」

「俺らの剣術や技だってスポンジみたいに吸収して行くしな」

「スキルこそ獲得出来てないけど、そろそろ剣技も覚えられるレベルだぞ」

「やばいだろ、王国騎士の合成騎士キメラ・ナイトかよ」


 などと男性騎士達の会話が続いた。シオンは途中でついていけなくなったが、流石に合成騎士キメラ・ナイトにはツッコミたくなった。


 けれど、どんどんと話は進む。


「そうだ! シオン、最後くらい背中流せ!」

「あっ! 確かにそうだ!」

「俺の背中も頼む!」

「次俺な!」

「その次俺!」

「次の次、俺!」


 シオンは結局、五十人分の背中を流した。その後、シオンも五十人に背中を流された。





 シオンは個室を与えられていて、風呂から戻ったシオンは大の字になってベッドに寝転んだ。


「はー、今日は楽しかったな」


 美味しいご飯を食べて、風呂ではみんなに背中を流して貰えて……。


 あれ、何か緊張が無くなってる?


 自信はまだ持てないけど、緊張は無くなっていた。


 寝返りをうって、窓から外を覗くと綺麗な星空が見えた。不思議と落ち着いて、目を閉じるとスッと眠りについた。


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