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プロローグ 〜罰ゲームでお姉さんに告白する〜

新作です。これからよろしくお願いします。

 僕、シオン・トレスはアルカディア王立学院の一年生だ。


 アルカディア王立学院は、王国で最も有名な学院で、過去には王国最強剣士と呼び声の高い騎士団長や、あらゆる傷を癒す聖女などの英雄級の人材を輩出し続けている超名門校だ。


 理事長の方針で世界各地から国籍、種族を問わずに、才能ある若者が集まり学びを受けている。一癖も二癖もある人物ばかりだが、才能は飛び抜けていた。

 

 そんな学院にシオンの様な平凡で取り柄もない男が入れたかと言うと、この学院では制限が少なかったからだ。


 世界各地とは言ったが、才能はあってもまともな教育を受けられずに育った者も多くいた。

 それで才能ある者が入学できないのならば、いっそのこと誰でも入学できる様にしてしまおう、と理事長が考えたのだ。


 だからこそ学院は犯罪者以外、何者の入学も拒まない。シオンは平民だったが、簡単に入学することが出来た。


 しかし、学院の本当の地獄は入学した後から始まる。


 学業としては世界情勢、簡単な文字の読み書き、計算など、正直言って誰でも出来るような簡単なものだ。


 しかし、学院ではそれぞれの才能に合った『実技』の授業がある。


 入学生はまず、才能を見せつける側と才能の差を見せつけられる側の二つに分かれる。


 学院は世界で最も才能が集まる場所だ。


 誰でも入学できる、じゃあ試しに入ってみよう。程度の考えの持ち主ならば、最初に圧倒的な才能を見せつけられる。


 普通よりも速く上達し、自分達の技も通じず、相手にもならない。結果的に挫折する。


 最初、シオンの学年の生徒は千人を超えていたが、今では150人しかいない。


 そのほとんどが学院から、才能から、逃げ出したのだ。


 その中でもシオンは残っている。

 文字に書けば見栄えはいいが、ただ単に逃げ出す勇気が無かっただけだ。本人はそう自負している。


 成績は常に最下位だし、剣や魔法の才能も無かった。


 それでも剣は幼い時から振っていたので、剣士として授業を受けていた。


 学院の先生からも、遠回しに退学を進められた事だってあるし、他の生徒からも煙たがられている始末だ。


 本当は逃げ出したい。

 馬鹿にされるのが嫌だ。

 もう、死んでしまいたい。


 そう思うのも仕方が無い事だ。





 入学から二ヶ月。 


 試験で中々合格点をもらえないシオンは、学院から与えられる順位制度で常に最下位の301位に位置していた。


 今日の試験でも最下位だったシオンは、いつもの様にクラスメイトに揶揄われていた。


「ギャハハっ! また最下位かよ! ダッセェな!!」


 彼は学院124位 アルロ・バーゲン。

 シオンと同い年の12歳だが学院では剣の才能を発揮し、学院順位で2年生に割って入るほどの逸材だ。


 試験でいつも組まされていて、その度にボコボコにされている。その時にシオンは目を付けられて奴隷の様にアルロのストレス発散に付き合わされていた。


「てことで罰ゲームだな!」

「……ッ」


 嫌だ。今すぐそう叫びたい。

 でも、アルロに反抗する気持ちなんて浮かばなかった。


 アルロは強い。シオンが反抗すると殴られ、暴行される。それで剣を振るえなくなるのは嫌だった。


 だから、我慢するんだ。

 我慢して、我慢して、我慢して、いつの日か……。







 シオンはアルロに連れられて人通りが多い、噴水広場まで移動した。


 ここは王国の王都。学院があり、それ以外にも王国の主要な施設はここに集まっている。必然的に国籍、人種、性別、年齢を問わずに多くの人が集まる。


 他種族の獣人族やドワーフ族の女性にも綺麗な人は多いが、特にエルフなどは美女美少女ばかりだ。


 しかし、そんなエルフ族の美しさでも霞んでしまう存在がそこにはいた。


 アリア・ベルファーム。学院の卒業生で、現在はこの王都で騎士団の団長をしている、王国最強とも呼ばれる剣士だ。


 学院の生徒にとって憧れの存在であり、同時に目指すべき目標でもあった。


 それはシオンにとっても同じだ。

 

 剣士として王国の最強と呼ばれ、世界的に見ても5本の指には入ると言われる最強の剣士。


 剣士の頂点だ。


 いつの日か、話してみたい。

 願わくば、稽古を付けて貰いたい。


 そんな事を考えていると、アルロと目が合った。

 アルロは少し考えた仕草を見せると、ニタァと卑しく笑った。


「罰ゲーム、な」


 まさか、有り得ない。

 アルロのその一言で、シオンは全てを察した。


「お前、アリアさんに告白して来い」


 最悪だ。


 シオンがアリアに憧れていると知りながら、そんな命令をしたのだ。

 初対面の相手から急にそんな事を言われば、アリアは怒り、二度と話す事なんて出来ないだろう。

 当然、稽古だって付けてもらえない。


 嫌だ。やりたくない。そんな事したくない。


「あ? 何だよ、文句あるのか?」

「っ、な、ない、です」

「……ふん。なら、さっさとやって来いよ」


 ……逆らえない。逆らえなかった。

 シオンは結局、弱虫のままだった。




 アリアは誰かを待っているのか、噴水の淵に腰を掛けていた。


 シオンはこれから罰ゲームのためにアリアに声をかける。

 

 もしかするとアリアはこれから誰かとデートなのかもしれない。あんなに楽しそうに待っているなんて、きっと大切な人なんだろう。


 でも、これから台無しにする。


 シオンは一度、深く大きく息を吸ってから、アリアに声をかけた。


「あ、あの!」


 ッ!!!


 緊張のあまり、声が裏返ってしまった。

 恥ずかしい。死んでしまいたい。


 物陰に隠れてコチラを窺っているであろうアルロがゲラゲラ笑っている姿を想像すると、羞恥心で頭と顔が燃え尽きそうだった。


 けれど、もう後には戻れない。シオンはアリアに声をかけてしまったから、もう止まれない。


 振り向き様にアリアの赤髪が風に揺れた。


「ん? どうしたの?」


 アリアは優しく微笑んで、思わずシオンはその笑顔に見惚れてしまった。


 宝石の様な緋色の瞳だった。

 烈火の様に赤い髪だった。

 胸や身体を守るのは軽装の鎧だ。

 決して派手じゃない、赤い服。

 腕章には騎士団の紋章が刻まれている。

 スラッとした体型は剣士として理想形だ。


 ああ、綺麗だ。

 そしてカッコいい。


 シオンの目にも立ち振る舞いから、背中に一本の芯が真っ直ぐに通っているのが分かる。


 優しい声色からは想像できないほど、その緋色の瞳の奥に鋭さを秘めている。


 これが、王国最強の剣士。


 ごくり、と緊張から息を呑んだ。


 大丈夫だ。すぐに終わる。

 覚悟を決めてシオンは勢いよく頭を下げた。

 

「す、好きです! 僕と付き合って下さい!」


 頭を下げて、アリアに手を差し出して、シオンは高らかに言った。


「え、何?」

「告白?」

「あれ、騎士団長様じゃ」

「まさか」

「何て命知らずな」

「まだ子供じゃ無いか」


 街中であれだけ大きな声で叫べば、当然注目も浴びた。街行く人が悉く足を止め、シオンを、アリアさんを凝視する。


 その視線にシオンも気が付き、羞恥心でさらに顔が赤くなった。


 恥ずかしい……。

 お願いだから、早く断って……。


 しかし、返事は中々返って来ない。


 中々返事が来ない事を不思議に思ったシオンは恐る恐る頭を上げて、様子を伺った。するとアリアはポカン、とした表情を浮かべていた。


 それから手を顎に当てて、「うーん……」と唸って何かを考えている。


 一瞬だけチラッとシオンの後ろに視線を向けた気がした。けれどそれも束の間、視線はシオンに向けられる。


 学院で向けられる、好奇と嘲りの視線では無い。

 見定め、観察し、シオンを知ろうとしている。


 優しい目だった。そして、アリアは何度か頷き、こう言った。


「うん。よし。いいよ。付き合おっか!」


 へ?


「え、えええぇぇぇっ!!?」


 シオンの絶叫が、街中に響き渡った。


「もう、何? その反応。もしかして、受かると思って無かったのかな?」

「え、いや、それは、だって……」

「まあ、とにかく行こっか! ここじゃ人目もあるし」

「っ、ええっ!?」


 有無を言わせずにアリアは僕を抱え込んだ。

 女性にお姫様抱っこをされる形だ。

 とても恥ずかしく、人に見られたくない。


 けれどその心配も杞憂に終わった。


 次の瞬間、アリアは凄まじい速度で疾走した。


 風を切り、群衆の合間を潜り抜け、人混みが面倒だと屋根へ飛び、屋根から屋根へと飛び移る。


(これが、最強の速度……)


 抱えられたシオンは、何とかその光景を目にする事ができた。


 屋根の上から見下げる街並みはいつもより明るく、綺麗で、遠くに見える王城も山も何もかも、すごく美しかった。

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