C級映画の主人公
オーディションだ。聞いたことのない監督の映画。演技はしたことがない。
カメラも苦手だ。でも、映画好き。そして、微量の目立ちたい気持ちがある。
このオーディションで出演者の、すべての配役が決まるらしい。まだ、台本もまったくないようだ。
オーディションの演技で配役を決め、その後に台本を書くみたいだ。
どこかの役には、入りたいものだ。この映画に、ギャラは全然ない。こういうものは、お金じゃないから。
経験だから。タダで演技をしても、得るものの価値は、すごいものがある。
素人のみのオーディションだが、みんな美男美女ばかりだ。僕なんて、地味で暗くて、まわりに全然馴染んでない。
「はい、監督の佐々木です。まあね、これは単館上映のね。C級映画なのでね。気楽にやってください」
緊張体質。細めノッポ。運動神経行方不明。ノミの心臓。ノミサイズなら見合っているボイス。数多の恐怖症。
恥さらしにならないように、頑張ろう。短所はたくさんあるけど、それは同時に長所になる。自分らしく、ありのままやるしかない。
「はい。では、四人一組で、適当に喋ってください。その会話で決めますので」
一番苦手だ。喋ることが一番苦手。セリフを覚えることも、同じくらい苦手だ。もう、苦手の同率一位が、100個くらいある。対人系は、ほぼ苦手だ。
誰も、下を向いていない。僕だけ、下のフローリングの模様が、脳裏に焼き付いている。
これは、アドリブか。変なことを言ってしまう癖がある。でも、やるしかない。空気が重くならなければいい。
一流映画の主人公じゃない。一流映画の主人公じゃない。一流映画の主人公じゃない。そう、心で繰り返す。
ビカビカに輝きたくはない。ほわっとでいい。こんな僕だから。
「合格は君ね」
佐々木監督の人差し指は、僕を指していた。覚悟を決めた。人一倍努力をして、小さく輝いてゆくと。