表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/35

第4筆 王姉の遺児


 昼下がりの陽光が、大窓から降り注ぐ。

 謁見の間の中央に立つ青年の髪を、金色に輝かせる。


 広い謁見の間は騒めきに満ちていた。

 一階のフロア左右には、貴族たちが居並ぶ。毅然(きぜん)とした表情で王を待つ青年を指差し、ひそひそと会話を交わす。


 ――金髪に紫の瞳だ。

 ――王位継承権の条件、〈彩色の掟〉通りじゃないか。

 ――歳はラウル王太子より二つ、三つ上か?

 ――見ろ、あの堂々とした佇まい。王族に相応しい。

 ――王族と認められたとしても。王太子はおひとりだ。


 二階のバルコニーから、職位が高い政務官たちが見下ろしている。


 ――あれが、〈噂の三番目(サード)〉か。

 ――また、偽物なんじゃないのか?

 ――しかし。あの有名な〈悲恋の塔〉の、イリカ王女に似ていないか?

 ――亡くなられた王女の面影があるのか。

 ――待て。本物の王族なら、今までどこに隠れていたんだ。

 ――それがどうも、西のニーナ神殿らしい。


 政務官たちの中に、ジンとリットが滑り込んだ。


「やあ。来たね、リット一級宮廷書記官」

 バルコニーの最前列で、初老の男が微笑む。


「セイザン宮廷書記官長」

 ジンが頭を下げる。


「お待たせしました」

「うん。呼びに行かせて悪かったね、ジンどの」

「いえ。私もリットも気になりますから」

 当の本人がジンの背を叩く。


「ジン。場所を交代しろ。腹立たしくも、お前の長身で見えん」

 ジンが身を避ければ、リットがセイザンの隣に並んだ。一階のフロアに立つ青年を眺める。


「ふーん。やや長めな金髪ということはわかるが、この距離では瞳の色はわからんな」

 ちら、とリットがジンを見る。ジンが頷く。


「光の加減もあるが。スミレのような可憐な薄紫の瞳をしている」

「装飾された言葉はいらんぞ、友よ」

 リットが眉を寄せる。

 ジンが言い直した。

「ラウル殿下より色彩は薄い。青みがかった紫だ、友よ」

「ジンどのは目が良いねぇ」

 ふっふっふ、とセイザンが笑う。


 トランペットを手にした三人の楽人が現れた。荘厳なファンファーレが鳴り響く。


「夜空を統べる月神(クーナ)の守護を! ラウル王太子殿下の御成り!」

 式部官が声を張り上げれば、無表情のラウルが現れた。フロアで一番玉座に近い場所に立つ。


「夜空を統べる月神(クーナ)の守護を! 国王陛下、王妃殿下の御成り!」

 王と王妃が玉座に座れば、人々は声を揃える。


月神(クーナ)の守護よ、永久(とこしえ)に! 銀雪の国(フルミア)よ。栄え給え、輝き給え!」

 人々の声が消え、静けさが謁見の間に満ちた。


「……さて」

 王が口を開く。

 こほん、と少し咳き込む。


「余の、前に立つ、汝の名は?」

 青年が唇を吊り上げた。


「ナルキ・フルミアと申します」

 ざわ、と人々が驚く。臆することなく国名(フルミア)を名乗ったナルキに、視線が集中する。


「不遜な隠し名(ヴァーチャス)だな」

 ラウルの言葉に、ナルキが首を横に振った。


隠し名(ヴァーチャス)ではありません。正式名(フル・ネーム)です」

 ナルキが紫の目を細めた。


「疑うのも当然です。ラウル殿下にとって、私は目障りな存在でしょう」

「ほう」

 ラウルが面白そうに息を吐いた。


「王太子の座を脅かされるから……か」

「しかし。それは誤解です」

 ナルキが床に膝をつく。


「私は、王太子の座など望んでいません」

「では、何を望むか?」

 朗々とした王の声が響く。はい、とナルキが答える。


「ただ、亡きイリカ王女の遺児と認めていただければ。それ以上のことは望みません」

「王族と偽ることは死罪ぞ」

 厳しい王の声に、びくりとナルキの体が震えた。


「お、畏れながら。私は……王族の彩色を持っております」

「それが偽りでないことを、示せ」


 王が宮廷医薬師長を呼ぶ。

 白衣を着た老爺が(こうべ)を垂れる。


「宮廷医薬師長よ。そこの青年の彩色は、(まこと)のものか?」

「はっ」

 王の問いに答えるために、宮廷医薬師長は膝をつくナルキに近づく。


「待たれよ」

 フィルバード公爵の声が響く。


「その白衣に仕込まれているものは、何か?」

「へっ?」

 宮廷医薬師長がきょとんとする。厳しい表情で、フィルバード公爵が白衣の襟を掴んだ。


「な、何をなさいます!」

「こちらの台詞(セリフ)だ」

 フィルバード公爵が手を放すと、宮廷医薬師長がその場に尻もちをついた。


「これは、何だ!」

 フィルバード公爵が掲げる。


 大窓から差し込む光を、大針がきらりと弾く。

 ナルキが目を見張った。


「それは……、毒針でしょうか」

「し、知りません!」

 宮廷医薬師長が悲鳴を上げた。


「ほほほ本当です! まったく身に覚えがない!」

「この愚か者が! 王族を暗殺するつもりだったのか!」


 フィルバード公爵の言葉に、謁見の間に居並ぶ人々が凍り付いた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おおお…公爵、役者ですね。大御所過ぎて誰も何も言えない役者ですね。 さて、フルネームでフルニアを名乗る青年。魔法のないリット様シリーズ。その色彩の理由が楽しみですねぇ。 ʕ•ᴥ•ʔにやり。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ