第32筆 真実は何処か
サフィルドが、王へ片目をつぶって見せる。
「我が息子に、重苦しい隠し名を与えていただき、ありがとうございます」
「……礼を言われる筋合いはない」
「おや。義弟どのは、つれないですね。体調は大丈夫ですか?」
ふん、と王が鼻を鳴らす。
「陛下が、義弟……?」
ユヅキの瞳が揺れる。にんまりとサフィルドは笑う。
「待って! まさか、イリカ王女の恋人……?」
「イリカは、私の光でしたよ」
翠の目が懐かしそうに細められる。
「夏の離宮の、悲恋の塔……」
タギが呟く。
「や、役人は、斬首されたのでは?」
「この通り。頭と胴は繋がっていますよ。タギ統括官どの」
白い手袋した右手で、サフィルドは自身の首に触れる。
「真実は他人によって作られる。覚えておくといい。元王子様」
ごくり、とタギが唾を飲み込んだ。
彼を見る。
「リット……、お前が、王姉の、遺児なのか」
リットが肩をすくめた。
「ご安心を、タギ様。私はこの通り、茶髪に翠目です。〈彩色の掟〉を持っていません。王位継承権はありませんよ」
「それでも、王族の血を引いているではないか!」
タギが叫ぶ。
ああ、と、サフィルドが言う。
「王族を騙れば死罪でしたっけ。ゼルド陛下?」
王が睨む。
「リトラルドはお主の息子だろう。よく似ている」
「イリカにも、似ていますね。ふふふ」
王妃も微笑む。
両人による公認。
「ありがとうございます。陛下、王妃様」
上機嫌で一礼したサフィルドとは対照的に、リットは顔をしかめた。
「さて」
王が向き直る。
「そこの青年は、何者か」
全員の視線を受け、ナルキが体を震わせた。
「わ、わたしは……」
天窓からの朝陽を受けて、輝く金髪に青い瞳。
「ディエス」
「はっ」
「連れていけ。それと、ザイールを牢から出してやれ」
「はい」
ディエスが頷けば、ほっとユヅキが胸を撫で下ろした。
王が深く息をつく。
「……サフィルド。お主にも、話を聞かねば――」
振り返れば、サフィルドがいない。
「あらあら、まあ!」
王妃が驚きの声を上げる。
「あんの、野郎!」
リットが駆け出す。ナルキに視線が集まった一瞬に、忽然と姿を消した。
「トウリ! 侍従の通用口は!」
「は、はい! 柱の陰です!」
「おい待て、リット!」
ジンの静止を聞かず、リットは侍従の通用口へ飛び込んだ。




