第31筆 劇幕の横に黒幕
「王妃様も、お気付きでしたでしょう?」
サフィルドの言葉に、王妃は首を傾げる。
「さあ? なんのことでしょうか。ふふふ」
「私の代わりに、リットへ八つ当たりするのは、やめてあげてください」
「あら。庇うのですか」
「魔書のこと。お聞きになっているなら、知っているはず」
サフィルドが左の人差し指を立てた。
「魔書は希少書。高価な書物。財力がないと手に入らないのですよ。ましてや、たがが一級宮廷書記官の給金で、買えるものじゃない」
リットがサフィルドを睨みつけた。
「経験者は語る、ってか」
「さあ、どうかな」
一歩踏み出したリットの肩を、ジンが掴んだ。
「リットでは、魔書は手に入れられない」
王が呟く。
「では、別の誰かが魔書を贈ったのだな」
「そのようです」
サフィルドが頷く。
「あ、ちなみに」
楽しそうに、彼が笑う。
「ナルキはまったくの偽物ですよ」
「なっ!」
突然の告白に、ナルキが息を呑む。
「う、裏切るのか!」
「裏切るも何も。味方にはなり得ませんし」
サフィルドが肩をすくめる。
「どう、いう、ことだ?」
ノール大神官の唇が戦慄く。
「サールド・フィルドは筆名です。正式名は、サフィルド・リトン」
ジンとトウリと王族を除いた全員が、リットを見る。
「息子と違って、隠し名はありませんが」
「うるさい黙れどの口が言うか」
「え、何? 反抗期?」
驚いたように、サフィルドが翠の目を丸くした。
「つーか、なんで隠し名持ちって知ってるんだよ!」
「こらこら。お口が悪いぞ、リトラルド・リトン・ヴァーチャス。それとも王前名のほうが良かったか?」
艶のある低い声が、その名を呼ぶ。
「リトラルド・リトン・フルミア」
リットの顔が強張った。




