第30筆 白の証明
「潔白の証明ですか。うーん」
リットが首を捻る。
「畏れながら、王妃様」
ユヅキが口を開く。
「この点眼薬の製法を見つけた功労者は、リットでございます」
「あら、そうなの?」
「はい」
「それも、自作自演ではなくて?」
「そんなこと!」
「ない、とは言い切れませんよ。ユヅキ」
言葉に詰まるユヅキに、王妃はふふふ、と笑う。
「聞いたところによると、魔書は始め、ラウルに贈りつけられたとか。贈り主も不明。怪しいですわね」
ちらりと王妃がラウルを見る。
「ラウルのことです。きっと厄介事はリットへ押し付けます。押し付けられた、という大義名分で魔書を手に戻し、ユヅキに渡したのでは?」
「ああ、よくわかってらっしゃいます」
頷くリットの頭を、ジンが叩く。
「いって」
「他人事じゃない。お前のことだぞ」
「と言ってもなぁ、ジン。身に覚えのないことだ。まるで三文芝居を観ているようだ」
「お前なら一流喜劇を書きそうだな。リット」
「わかっているじゃないか、友よ」
「わかりたくなかったぞ、友よ」
ため息をつき、ジンが額に手を当てる。
「どうするんだ、リット。このままだと、フィルバード公爵を陥れたとして、罪に問われるぞ」
「それは困る。身に覚えがない」
リットが首を横に振った。尾のように、茶の三つ編みが揺れる。
「だが、証拠がない」
自らそう口にして、うーんと唸る。
「どうすれば、王妃様は納得してくれますかねぇ」
ふふふ、と王妃が微笑む。
「疑惑を晴らさないと、お兄様に言われ続けますよ。リットに陥れられた、と」
「それは憂鬱」
リットの言葉に、フィルバード公爵の顔が怒りで赤く染まった。
「この……、青二才めが!」
控えの間に、フィルバード公爵の怒声が響く。
「あらまあ、お兄様。そんな大声を出して。歌劇でも歌うのですか?」
あくまで穏やかに言いつつ、王妃は眉をひそめた。
「アルシア!」
「はい。お兄様」
「お前は、誰の味方なのだ!」
ふふふ、と王妃の口元が弧を描く。
「勿論、陛下のお味方です」
全員の視線が、王へと集まる。
「……茶番だな」
ぽつりと、王が呟いた。
「これが、お前が書く悲劇か。サフィルド?」
くっくっく、と場違いな笑い声。
「なぁんだ。バレていましたか」
ぎょっとするトウリへ、サフィルドが微笑み掛ける。
「気配を消すな」
「そう仰られても。今は神殿付き書記官、侍従みたいなものです。ゼルド陛下」
艶然と、サフィルドが嗤う。




