第2筆 銀と白い黄金の評議
「今が好機なのだ!」
評議の間で、椅子に座ったフィルバード公爵が机を叩く。
「銀と、岩塩の需要が高まっている。今こそ、採掘量を増やすべきだ!」
幾人かの貴族が頷いた。他の貴族は、隣同士の席でひそひそと声を交わす。
「フィルバード公爵」
王が口を開いた。しん、と評議の間が静まり返る。
「採掘量を増やせば、それだけ枯渇の時間が早まる。銀も、岩塩も。無限ではないのだ」
「だからこそ!」
フィルバードが声を上げる。
「価値が高いうちに、貨幣に変えるのです。国庫に貯えがあれば、たとえ銀と岩塩が枯渇しても、銀雪の国は栄える!」
まばらな、それでいて盛大な拍手が湧いた。フィルバード公爵に近しい貴族たちが笑い合う。
気を良くしたフィルバードが言う。
「貨幣があれば。陛下の大好きな書物を買い占めることができますよ」
「……余の趣味で、命令を出したわけではない」
静観していたラウルが口を開いた。
「フィルバード公爵。納本王令――『フルミア国内における書物及び図画及び資料等を収集かつ保管する王令』は、知識の継承と発展を目的としたものだ」
ふん、とつまらなそうにフィルバード公爵が鼻を鳴らす。
「その王令も、貨幣があってこそ可能なのです」
「……罪科帳に載った者が、よく言う」
呟かれたその言葉に、フィルバード公爵は眦を吊り上げた。
「誰だ! 私を侮辱したのは!」
貴族たちは視線で互いに探り合う。誰も名乗り出ない。
王が指で机を叩く。
「今日の評議は、ここまでだ」
貴族たちが一斉に席を立つ。王へ退室の礼をして、評議の間から出ていく。
同じように席を立ったラウルは、苦々しい表情のフィルバード公爵を見送る。貴族たちが退室すれば、評議の間に静けさが満ちた。
椅子から腰を上げない父王に、ラウルは声を掛ける。
「陛下。いかがなされましたか」
「ラウル……」
王の声がかすれた。せき込む。
「体調が優れませぬか?」
心配そうに眉根を寄せたラウルに、王は手の平を向けた。
「いや、少し噎せただけだ。大事ない」
「ですが」
王の表情は暗い。
「しばし、ひとりで政策について考えたい」
「……はい」
ラウルが頭を下げ、出ていく。
誰もいない評議の間で、王は空席を眺める。
「財貨と、罪科か……」
呟きは静寂に溶けた。
「まったく、あの分からず屋が!」
興奮気味に廊下をフィルバード公爵が行く。
向こう側から、侍従が姿を見せた。
「フィルバード様」
「何だ」
不機嫌を隠そうともしない声音に、侍従はびくりと体を震わせる。
「あ、あの方が。王城にお着きになられました」
「ほう」
フィルバード公爵の目が大きくなった。
「それは朗報だな」
嗤う。