第28筆 陰謀と務め
「違う! これは、陰謀だ!」
フィルバード公爵が叫ぶ。
「瞳の色を変えられるのなら、その女が、ナルキの点眼薬をすり替えたのだ! 紫の瞳を、青色になるように!」
ユヅキが眉を寄せた。
「では、実験してみましょうか? 点眼薬の効果は、一日だけ。ナルキどのの瞳が、青から紫に変わったら、本物の紫です」
ごくり、とフィルバード公爵が唾を飲み込んだ。
「ああ、あと。髪の色」
ユヅキが一つに結った自身の髪を手に取る。
「茶髪を脱色すれば、金色に見えます。一月ほどナルキどのを監視下に置き、観察してみましょう。髪が伸び、生え際の色が――」
「わ、私は騙されたのだ!」
上ずったフィルバード公爵の声。
「ノール大神官に! 王姉の遺児を保護しているという話を持ち掛けられ、だ、騙されたのだ!」
「ななな、何を!」
ノール大神官の目が、零れ落ちそうなほど見開かれた。
「話を持ち掛けたのは……あなた様の方でしょう、フィルバード公爵様! 王姉の遺児を立て、実権を握れば、神殿も豊かになると――」
「知らん、知らん!」
フィルバード公爵が手を振る。拒絶。
「私は被害者だ! 私を騙すとは何事か! ノール大神官とナルキをひっ捕らえよ!」
ジンがため息をつき、首を横に振った。
タルガとユーリがディエスを見る。ディエスは動かない。
「――いけませんわ。お兄様」
ふふふ、と王妃が微笑む。
「例え、うっかり騙されてしまったとしても。これはご自身の意思でしょう?」
王妃が小瓶を取り出す。
それを見たフィルバード公爵が、顔色を失った。
「母上。それは?」
ラウルの表情は険しい。その傍らで、タギが不安げにしている。
「ふふふ。ラウルもタギも知らないでしょう? 教えていませんでしたからね」
「母上」
ラウルが急かす。
「毒薬ですよ。フィルバード家に代々伝わる、秘伝の」
その場の全員が息を呑んだ。
「製法は当主のみが知っている。そうですよね、お兄様?」
ふふふ、と王妃が微笑み掛ける。
「ア、アルシア。お前……」
愕然となる兄に、王妃は微笑みを崩さない。
「私を……、フィルバード公爵家を、裏切るのか!」
「いいえ。お兄様」
王妃が首を横に振る。
「裏切るも何もありません」
艶然とした、笑み。
「わたくしは――フルミアの王妃。アルシア・フルミアです。フィルバードでは、ありません」
ふふふ、と目を細める。
「王妃としての務めを、果たしますわ」
アルシアが、小瓶をユヅキへ渡す。




