第27筆 紫の瞳
彼女の目を見た者が、一斉に息を呑んだ。
「ユヅキ! その目の色は、どうした!」
別の入り口から控えの間に現れたディエスが叫ぶ。
ふふふ、とユヅキが不敵に嗤う。
「似合う?」
「似合う、似合わぬの話ではなくて――」
「あ、小言は勘弁」
夫相手にそっけない。
「似合っていますよ、ユヅキどの」
場違いなまでに明るい声で、リットが言う。
「紫の瞳。本当の王族のようだ」
「畏れ多い所業ですが、陛下公認です」
ユヅキが深々と頭を下げる。王妃に付き添われた王が、ひとつ頷く。
「厄災を呼ぶという魔書。それに記されていた魔の点眼薬だな」
「陛下の仰る通りです」
ユヅキの肯定に、まぁ、と王妃が口を手で隠す。
「点眼薬で瞳の色を変えることができるなんて。お手軽なこと」
「……お手軽な重罪です。母上」
ラウルが顔をしかめた。
「誰でも、王族を騙ることができるのですよ」
全員の視線が、ナルキに集まった。
「おや?」
かつん、とラウルが靴音を鳴らす。
「ナルキ。お前の目は、薄青だったのか?」
ナルキが表情を強張らせた。
「何!」
フィルバード公爵が慌てた様子で駆け寄る。
天窓から降る朝日に、ナルキの薄青が濃くなる。
青い瞳。
「おい!」
フィルバード公爵がナルキの肩を掴む。ナルキが激しく首を横に振った。
「そんな……馬鹿な。いつも通りに――」
はっと、ナルキが何かに気づく。懐に手を当て、壁際に控えている黒髪の侍従を睨んだ。
「……まさか、すり替えたのか……!」
点眼薬から目を離したのは、禊の入浴時以外にはない。
「私を嵌めたのか、ヤマセ!」
「我が身は、ラウル殿下の侍従であります」
黒髪の侍従は困ったように小首を傾げた。
「あなた様の僕ではありません」
ナルキの顔色が消えた。
かつん、と靴を鳴らし、ラウルが歩を進める。
「知っていたのか? 本当の瞳の色を」
成り行きを見守っていたノール大神官の前に、ラウルが立つ。
「ししし、知りません! ナルキは、紫の目を持って――」
「それが偽りだと、証明されただろう!」
ラウルの怒声に、ひい、とノール大神官は悲鳴を上げた。
近衛騎士団の騎士たちが動く。
「詳しい話を聞かせてもらおう」
ディエスの言葉に、タルガとユーリがナルキを囲んだ。
「……王族を騙れば、死罪」
ぽつりと呟かれた言葉に、ナルキの体が震える。
「知らなかったはずは、ないでしょうに」
痛みを堪えるように、リットが眉を寄せた。
「擁立した者も同罪だな」
ラウルの視線を受け、ディエスが頷く。
「フィルバード公爵、ノール大神官。ご同行願います」




