表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/35

第19筆 壁の裏で悲劇の話


「こんな、隠し通路があったんだ……」

 ミズハが驚嘆の言葉を零した。


「侍従や侍女たちの通路です」

 先頭のトウリが答える。


 続きの間の柱の陰、垂れ幕の裏に通路の入り口はあった。

 足元は平らなレンガ敷きで歩きやすい。等間隔でくり抜かれた明かり取りの窓が並び、暗くはない。


 たまに侍従とすれ違う。


 相手はユヅキ、ミズハの姿にぎょっとなるが、リットが笑顔で「やあ」と声を掛けると、諦めたように微笑んだ。


「探検ですか? リット様」

「うん、そう。内緒で頼む」

「かしこまりました」


 次にすれ違った二人の侍女は、何も言わなかった。くすくすと笑い合い、リットへ頭を下げる。


「愛されているねぇ、リット」

 ユヅキが呟く。


「働く人の味方、宮廷書記官ですからね」

「恋文代筆か」

 一発で看破された。


「私も、頼もうかな?」

「ディエス団長宛ですか」

「そー。長い小言は勘弁してくれって」

 ユヅキが一つに結った髪を手に取る。短くなった毛先。


「怒られました?」

 彼女がリットへ頷く。


「ジンの目撃証言も伝えたけどね」

「ディエス団長どのは何と?」

「やっぱり、物理的な証拠がないとダメだって」

「そうですか」

 うーん、と唸るリットをユヅキが横目で見る。


「リット」

「はい?」

「ナルキが偽物だと、一発で証明できる方法がある」

「ほう」

 翠の目が大きくなる。


「……ユヅキどのは、偽物とお思いで?」

 彼女が首肯した。


「だって。ザイール様は、衆人環視の中で暗殺なんてしない」


 強い声音に、トウリは胸を打たれた。

 上司に対する、深い信頼――。


「やるなら、就寝中の心臓発作だと思われるように、こっそり暗殺するぞ?」

 違った。

 トウリは、がくりと膝から崩れ落ちそうになる。


「こ、こわい……」

 思わず呟くトウリに、ユヅキは鼻を鳴らした。


「宮廷医薬師をなめるなって話」

 ユヅキが不満そうに頬を膨らます。


「それに、おかしい。謁見の間の一件から、私も含めて、誰も宮廷医薬師をナルキに近づけさせない」

「フィルバード公爵が、ですか?」

「そう」

 リットとトウリが目を合わせた。宮廷医薬師と会わせない彼に、会っている。


「……なめられているのは、俺かもしれないな」

「何が?」

 リットの呟きを、ユヅキが拾う。


「いえ、お気になさらず。……っと、話の途中でしたね」

 リットが微笑む。が、その目は笑っていない。


「それで。一発で偽物と証明できる方法とは?」

「〈悲恋の塔〉の話は知っているか」

「まあ」

 曖昧に答えるリットに、ミズハが口を開く。


「陛下の姉君、イリカ王女のことですよね?」

 確か、とミズハが続ける。


「役人との身分違いの恋。先王に恋人との仲を引き裂かれ、失意のうちに夏の離宮――恋人と過ごした塔から身を投げた」


 そうそれ、とユヅキが頷いた。


「イリカ王女の遺児が生きている、という噂は前からあった」

「もしかして、ユヅキ様」

 ミズハが顔を強張らせる。


「ナルキ様が偽物だと、一発で証明できる方法って……」

「そう。本物の遺児が現れること。まあ、生きていたらだけどね」


 リットの足が止まった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 両親のラブロマンス(悲劇)をずっと前から素知らぬ顔で聴き続けるリット様の心境。 [一言] サフィルドの狙いはもしかして…? Σ('◉⌓◉’)おっと、推測のまま黙って続きを待ちます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ