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第16筆 星々が見ている


 夜の帳が下りて。


 書物を小卓に置いたナルキは、懐から点眼薬を取り出した。上を向き、差す。


 瞬きをしていると、廊下に慌ただしい気配。点眼薬を懐に戻す。


「ナルキ!」

 唐突に扉が開いた。


「これは、これは。ノール大神官様。王都にお着きになったのですね」

「王は、お前を、疑っているぞ!」

 唾を飛ばすノール大神官に、ナルキは眉をひそめた。


「それは、最初から予想されたことでしょう。王へ、説明申し上げたのですか? 今まで隠していたのではなく、状況を見定めていたと」

「あ、ああ……」

「ニーナ神殿の窮状も?」

「それは……」

 ナルキがため息をついた。


「駄目じゃないですか」

 諭すように、ナルキが言う。


「二十数年前は栄えていた。だから、ノール神殿に預けられた。

 しかし、ニーナ銀山が枯渇して、状況は悪化。神殿の維持もままならなくなった。

 この教訓を活かして、他の銀や岩塩が枯渇する前に、貨幣に変えなければならない――」


 ぎこちなく、ノール大神官が頷く。


「財貨があれば、民を救える。国が栄える。そのことを伝えるために、ぼくは姿を現したのですよ?」

「ああ。わかって、いる」

「しっかりしてください。ノール大神官」

 ナルキが彼の横に並び立つ。


「あなたはもう、()()()()なのですから」






 篝火が燃える庭園のベンチで、リットは夜空を見上げていた。

 月はなく、星々が輝いている。


「ここにいたのか」

 リットが視線だけで見る。ジンが小さな籠を持っていた。パイと肉の匂いがする。

 ジンはリットの隣に座った。


「トウリは?」

「今日の執務は終了。侍従詰所に帰った」

「そうか」


 ジンが籠から包みを取り出し、リットに渡す。油紙に包まれた、温かなミートパイ。


「ニンジンが入っているのに、どうしてミートパイは美味いんだろうな」

 油紙を剥いて、リットが(かぶり)りつく。


「細かく刻まれて、他の野菜と味がなじんでいるからじゃないのか?」

「正論」

 もぐもぐとリットは口を動かす。

 その横で、ジンもミートパイに口をつけた。


 何層ものパイ生地に、野菜と挽肉のソースが包まれている。野菜の甘味、肉の旨味。食べ終えれば、腹が温かくなった。


 二人分の油紙を籠に片付け、ジンがカップに紅茶を注ぐ。リットへカップを渡した。


 紅茶を飲んで、一言。


「……濃い」

「文句言うな」

 ジンが自分のカップに口をつける。


「西領のソラド産だろ?」

「そうなのか? 厨房で適当に淹れた」

 リットが息をつく。


「お前、変なところで雑だよな」

「リットは、意外なところで繊細だよな」

 ジンの言葉に、リットが口を噤む。


「落ち込んでいるだろう?」

 ふるふる、とリットが首を横に振った。


「嘘をつくな」

「……嘘、じゃ、ない」

 かすれた、小さな声。


「少し、頭の中の、整理ができないだけだ」

「父君のことか」

 リットは動かない。首肯もしない。


 ジンがリットの頭に片手を置いた。わしゃわしゃと撫でる。


「おい、やめろ!」

 強引にジンの手を振り払う。


「それぐらいの元気があれば、大丈夫だな」

 ジンが微笑んだ。

 む、とリットは唇を尖らせる。


「そういえば。どうして、髪を伸ばしているんだ?」

 リットの三つ編みを、ジンが手に取る。毎朝、自分で編んでいるらしい。


「俺の隠し財産」

「隠せていないが」

 ふん、とリットが鼻を鳴らす。


「人毛は売れるんだ」

「売れる――」

 灰青の目が丸くなった。


「う、売るのか?」

「今のところ、売る予定はないな。ただ、一文無しになったら、売る」

「こんなに美しいのに。もったいない」

 ジンがため息をつく。


 リットが頭を振って、ジンの手から三つ編みを逃がした。


「そういう台詞(セリフ)は、シンバルの女騎士どのに言え。ジン」

「シズナどのを巻き込むな」

「ほー」

 翠の目が輝く。


「俺は一言も、シズナどのとは言っていないんだが」

「ぐっ!」


 にやりと、リットが嗤う。







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― 新着の感想 ―
[一言] 三つ編みの理由が世知辛すぎる。 リット様。ジンにかまわれて、からかって、いつもの調子を取り戻す。良き。(*´ー`*)
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