第14筆 星灯りの下で
王とラウルが退出すると、謁見の間には静寂が訪れた。
大窓からは、星々が輝く夜空が見える。
「うーん……」
窓越しに夜空を見上げ、リットが唸った。柱に背を預けている。
「何か、気にかかることがあるのか? リット」
同じように柱にもたれたジンが訊ねる。
「ノール大神官の利益が見えん」
「利益?」
そー、とリットが頷く。
「こんな大芝居を打つからには、何かしらの利益があるはずだ。慈善活動で、己の首を賭けないだろ」
「まあな」
ジンが首肯する。トウリは壁際に控え、無言で首を捻った。
「ニーナ神殿へ多額の寄付があったとして。その見返りに適材を差し出す?」
「待て、リット。寄付?」
知らなかったらしい。ジンへリットが言う。
「フィルバード公爵から」
「わざわざ、西領の寂れた神殿に?」
「そう、それ。おかしいだろ。絶対、裏があると思うだろ」
「うーん……。貴族として当然のこと、と言われてしまっては、それまでだが」
「ジン」
リットの目が据わる。
「お前、その性善主義やめたほうがいいぞ。いつか騙されて、身ぐるみ剥がされて、国外に売り飛ばされるぞ」
「怖いこと言うな、友よ」
ひくりとジンの頬が引き攣った。
「忠告だ、友よ」
リットが睨む。うう、とジンが言葉に詰まる。
「――それは、経験談かい?」
艶のある低い声が響いた。
ジンが長剣の柄に手を置く。
リットが身構える。
二階のバルコニーの向こうから、男が歩いてくる。悠然とした足取り。やや長めな茶髪に、整った顔立ち。両手に白い手袋。
特徴的な――翠の目。
「やあ。久しぶりだね、リット」
星灯りに照らされた、その顔が瓜二つ。
ジンとトウリが、リットを見た。
「……こんなところで、何を、企んでやがる」
リットの表情が歪む。
「サフィルド!」
「おや、口の悪い子だ。実の父を呼び捨てにするとは」
サフィルドが嗤う。