第13筆 謁見の演劇
謁見の間の玉座に、王が座っている。
その階段の下、傍にはラウルが控えていた。
「――しかし、何故、今までナルキの存在を隠していたのだ?」
ラウルがノール大神官に尋ねる。
「そ、それは……」
ノール大神官の顔色は悪い。きょろきょろと目が泳いでいる。
「隠すつもりは、ありませんでした。ラウル様の生誕祭の前に、陛下へお目見えしようと思ったのですが……。私が、夏風邪を引きまして。報告が遅れてしまいました」
「ほぅ」
ラウルの紫の瞳に、冷徹な光が宿る。
「オレが王太子になる前に、参上しようと画策していたのか」
「そ、そんな! 滅相もありません! 本当に――」
ノール大神官が長々と、言い訳を口にする。
その様子は、二階のバルコニーの柱の陰から覗くことができた。
「顔色は悪いな、ノール大神官」
ぽつりとジンが零す。
「心労じゃないのか? どう見ても、身の丈に合っていない役を演じている」
はん、とリットが鼻で笑った。トウリは約束通り、一切喋らない。
「ノール……」
ごほん、と王が咳払いをした。
「ノール大神官。お主の話はわかった」
「信じるのですか。陛下?」
珍しく不機嫌を隠そうともしないラウルの声に、王は首を横に振る。
「否。証拠がない。我が姉、イリカの子である証拠が」
「それでしたら、ナルキは、金髪に紫目です!」
ノール大神官が叫ぶ。
もはや、悲鳴に近い。
「ノール大神官よ。六年前の事件を知らぬとは、言わせぬ」
王の厳しい言葉に、ノール大神官は口を噤んだ。
「あの偽物騒動ですか」
代わりに、ラウルが口を開く。
「確か。実権を握ろうとした一部の貴族たちが、金髪の青年を担ぎ出した一件ですね。幼心に、覚えております」
冷めた瞳で、ノール大神官を射る。
「結局、青年の目は紫ではなく、薄青でした。特殊な蝋燭の光の下でのみ、紫色に見えただけ――」
「ナルキは、ち、違います!」
王太子の言葉を、ノール大神官が遮った。
「あれは、本物です! 本物なのです!」
言葉を繰り返すだけで、一向に証拠を示そうとしないノール大神官に、ラウルは息をついた。
「どうされますか? 陛下」
「ふむ……」
王が咳払いをする。
「ノール大神官。王族を偽ることは、大罪であると承知しておるな?」
「ですから、ナルキは本物です!」
堂々巡り。
王が首を横に振った。
「西領から馬車の移動で、疲れておるだろう。今宵は、王城で休むがよい」
「いえ! ナルキの身が心配ですので、フィルバード公爵の屋敷で休みます!」
ぶるぶると体を震わせ、ノール大神官が言った。
ラウルが眉をひそめる。
「何を、怯えているのか?」
「ななな。なにも! 失礼い、いたします!」
逃げるように、ノール大神官が退出していった。
ラウルが天井を仰いだ。深く、息を吐く。
「……疲れました」
「で、あろうな」
くく、と王が喉の奥で笑った。
「偽物ですよね」
ラウルの問いに、王は答えない。
玉座から立つ。
「どんなことがあっても。余は、余の決定を翻したりはせぬ」
「はっ」
ラウルが王へと頭を垂れた。