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第8話「現場に突撃」

 「なぁ、なんで俺たちを裏切ったんだ? あぁ!?」


 ライオン顔の魔族が怒鳴ってフリューの顔を踏みつける。

 フリューはうめき声をあげるが、それを聞いてヤギ顔の魔族にガリガリの鬼が笑い声をあげた。


 ここは赤レンガ倉庫街の中にある倉庫のひとつ、その内部だ。

 その倉庫の中には不思議なほどに荷物の類が何一つなく、とても広い。

 あと廃墟とまではいかないが、ほどよく埃が積もって寂れた感がでている。

 まさに悪ガキがたむろするのにうってつけの場所であった。


 そんな場所で魔族の3人はフリューを囲って痛めつけているが、なぜこの魔族3人はフリューをいたぶっているのかと言うと、要はフリューに騙されたからだ。


 この魔族3人組は町にいるありきたりな不良グループで観光客や金を持ってそうな貴族などから金目の物を盗んでは闇市場に売りさばく窃盗を繰り返していたどうしようもないクズたちだ。


 そんなクズの魔族3人組はその日もいつものように観光客オーラ丸出しの、まるで持ち物を持って行ってくれと言わんばかりの警戒心のないマヌケな人間の男女カップルから財布と金目の物を盗み、溜まり場にしているいつもの酒場で乾杯していたのだが……


 「今日の稼ぎにカンパーイ!!」

 「「カンパーイ!!」」

 「うっひょ~~~!!! バカップルから有り金巻き上げた後の一杯は格別だな!!」

 「ほんとそれな! しかもあいつら、アホそうな男もそうだったけど、女もアホそうでキャーカッコイイとかばっか言ってて会話の内容なかったしな? 笑えるわ! あれは脳みそつまってないぜ? 多分財布すられた事にも気付いてないんじゃね?」

 「あぁ、ちげーねー! でもよ、宿屋に予備の財布置いてきてるかもしれねーぞ?」

 「可能性はあるな? だったらいっそカモにしてやるか? 一文無しになるまで巻き上げようぜ?」

 「ははは、それは面白そうだが、同じ相手ばっか狙ってるとさすがにバレるぞ?」」

 「いや、大丈夫だろ? あいつら知能なさそうだったし、めし旨案件だぜ!!」

 「確かに」


 そんなクズ3人のテーブルにフリューがやってきたのだ。


 「ねぇ、あなた達。今日観光客から窃盗したんだって?」


 突然テーブルの前までやってきたフリューに対して3人はすぐさま表情を険しくして警戒する。

 まだ飲み始めたばかりで酔いが回っていないというのも功を奏したのだろう。

 思考を巡らせ、公安の者か?と勘ぐり、いつでも殴りかかれるように準備する。


 「だったら何だよ? この酒場じゃそんな奴ばっかじゃねーのか? あぁ!? 喧嘩売ってるのか!? てめー、もしかしてあのマヌケなバカップルどもから雇われた傭兵かなんかか?」


 ライオン顔の魔族がドンとテーブルを叩く。

 すると酒場にいた全員がフリューに注目した。

 そんなフリューはため息をつくと懐から1枚の紙を取り出しテーブルに置いた。


 「何か勘違いしてるようだけど、わたしはあなた達に依頼をしに来たの」

 「依頼だぁ?」


 ライオン顔の魔族はフリューに不信感を抱くが、すぐにテーブルに置かれた紙を見て目を見開く。


 「おい、てめー……これマジか?」

 「そうじゃなかったらここには来てない」


 そう言ってフリューはニヤリと笑うとテーブルに置いた紙を指さし。


 「数日後、この町にやってくるサブノブルグ公爵から『天の雫』を奪ってほしい」


 そう3人に告げた。

 ライオン顔の魔族は険しい表情となり、フリューに尋ねる。


 「なんで『天の雫』を欲しがる? わかってるのか? あれはサブノブルグ公爵がもっとも大事にしている宝珠のひとつだぞ?」

 「確かにそうかもね……でもそれ以前にあれはわたしの一族で先祖代々、大切に受け継がれてきた依代でもある」


 フリューの言葉にライオン顔の魔族はなるほどと頷く。


 「そうか、てめーはアーカス族か……3年前のサブノブルグ公爵が指揮する騎士団による大虐殺でとっくに死に絶えたと思っていたが、まさか生き残りがいたとはな」


 ライオン顔の魔族は口元を歪めるとテーブルに置かれた紙を手に取る。


 「一族を無残に殺した元凶。憎き相手への復讐か? それとも、自分達のアイデンティティーともいうべき代物を我が物顔で自身のコレクションと宣うのが許せないか? まぁ、どっちでもいいが……依頼を受けるかは報酬次第だな?」


 そんなライオン顔の魔族の前にフリューは純金の延べ棒を置く。


 「成功報酬はこれ……悪くないでしょ?」

 「お、おい……まじかよ?」

 「すんげ、本物初めてみたぜ……」

 「こいつはとんでもねー額に化けるんじゃね?」


 目を輝かせて金の延べ棒を見る3人の前からフリューは金の延べ棒を回収すると。


 「で、依頼を受ける?受けない?」


 意思確認をする。

 ライオン顔の魔族は口元を歪めると。


 「断るわけねーだろ! 俺たちに任せとけ!!」


 そう言ってサムズアップしてみせた。



 数日後、グルホスの町にサブノブルグ公爵がやってきた。

 彼の取り巻きに警護を担当する護衛の数はとんでもなく多い。

 はっきり言ってどこの町にでもいるような、ありきたりな不良グループにどうこうできるレベルではなかった。


 しかし、そこは地元の不良グループならではの腕の見せ所。

 地の利を生かせば部外者に負けるわけがない。

 なのでそれなりに苦労はしたものの、魔族3人組はなんとか『天の雫』を奪うことに成功したのだ。


 「へへへ! 偉そうにしてマヌケ面してるからだ、ざまぁみろってんだ!」

 「やったな!! これで後は羽根女にこいつを渡せば大金の元が手に入るぜ!!」

 「純金の延べ棒だからなぁ、高値にできる国や地域を調べないとだぜ! しばらくはグルホスとはお別れだな」


 そんな事を言って笑い合っていた魔族3人組はしかし、数時間後には路地裏で傷だらけで倒れ込んでいた。


 「な……んで?」


 ライオン顔の魔族がなんとか言葉を振り絞るが、『天の雫』を手にしたフリューは深くフードを被ると何も言わずその場から立ち去っていく。


 「おの、れ……ふざけやがって……許さねー……絶対許さねーぞフリュー!!!」


 路地裏にライオン顔の魔族の怨嗟の叫びが響き渡った。




 「フリューよ、いい加減答えろよ!! 俺たちに危ない橋渡らせておいてよ!?」


 ライオン顔の男はフリューを踏みつけていた足を上げ、怒りに任せ何度もフリューの腹を蹴りつける。

 そのたびにフリューは悲痛な叫び声をあげるが、その声は何もない倉庫内に響くだけで誰にも届かない。

 ヤギ顔の魔族とガリガリ鬼がヘラヘラ笑うだけだ。


 「クソが!! 何か言い訳でも言いやがれってんだ!」


 そう言ってライオン顔の魔族はフリューの顔を蹴りつけ、そこで蹴るのを止めた。

 顔を蹴られたフリューは口から血を吐いてむせる。

 その吐いた血の中には蹴られた時に折れた歯がいくつか混じっていた。


 ライオン顔の魔族は苛々しながらフリューの胸倉を左手で掴んで引き起こす。


 「あぁ喋る気がねーってんならもう結構、こっちもてめーを殺して本来貰うはずだった報酬分をいただくまでだ。死体ならこの倉庫街にはいくらでも埋める場所はある。バレはしないだろ」


 言ってライオン顔の魔族はフリューをそのまま壁に叩きつけた。


 「がっ!!」


 フリューは背中から叩きつけられ激痛に見舞われるが、ライオン顔の魔族はフリューの反応など気にせず右の拳を握りしめ、そのまま殴りつけようとした時だった。


 「そこまでだ!! この不埒者どもめ!!」


 倉庫内に声が響き渡った。


 「あ?」

 「誰だ!?」


 ライオン顔の魔族はフリューを殴ろうとしていた右手を止めて周囲を見回す。

 ヤギ顔の魔族とガリガリの鬼も公安の連中のガサ入れか?と警戒するが、倉庫内に変化はない。

 声を潜めるが、倉庫の外が騒がしいという事もない。


 つまりは公安のガサ入れではない。

 では一体誰がきたのか?

 魔族3人が警戒する中、ライオン顔の魔族に胸倉を掴まれ壁に押しつけられているフリューだけが何やら薄ら寒い何かを感じ取っていた。


 (な……なんだろう、この寒気は? 何かヤバイ奴がきたような気がする……)


 そうフリューが思った直後、ドーンと大きな音を立てて倉庫の扉が外から開け放たれた。


 「誰だ!?」

 「クソ!! どこのどいつだ!?」

 「今は俺たちが使用中だぞ!! 何勝手に扉を開けてやがる!!」


 薄暗かった倉庫の中に、扉が開いた事により眩しいほどの光が入り込んでくる。

 魔族3人は、たまらず手で顔を覆う。


 扉が開いた先には眩しい光をバックに立つ人影がひとつ。


 「僕のフリューちゃんをこんな薄暗い人気のない陰湿な場所に連れ込みやがって!! 一体フリューちゃんにどんなやらしい事をしようとしていたんだ変態ども!! 僕だってまだ手を出してないのに!! 絶対に許さないぞ!! フリューちゃん、あぁ! あまりの恐怖に愛らしいその顔が絶望に沈んでいる……でも安心して! 今君の運命の人である僕が助けに来たよ!!」


 その人影がそんな事を言い出した。


 「何だ!? アーカス族の生き残りは他にもいて助けに来やがったのか!?」


 ライオン顔の魔族が舌打ちしながらそう言うが、しかしフリューは助けが来たというのにもかかわらず安堵の表情を浮かべなかった。

 むしろ、その逆でフリューの表情はさーっと血の気が引いて青ざめていく。


 「まさか……なんでここに!? い、いや……へ、へへへへへへへへ変態!!」


 まるで悲鳴のように叫んだフリューに対して扉が開いた先の眩しい光をバックに立つ人影が慌てて叫んだ。


 「誤解だよフリューちゃん!! 変態じゃないよ? 僕は君だけのナイトだよ信じて? こうして助けにきたから信じてお願い!! そして愛してるよ!!」


 そんな叫びを聞いてようやくライオン顔の魔族が思いだしたように呟いた。


 「あぁ、この声、さっきつい殴り飛ばしちまった兄ちゃんか……なんだフリュー、やっぱお前の彼氏じゃねーか」

 「ちがいます!!」


 フリューが大声で否定した。


 「ぬほーん、そんな力強く否定しなくても!! フリューちゃん!! こんなに愛してるのに!!」


 そんなフリューの言葉にショックを受けた人影はガックリとしてその場に倒れ込んでしまった。

 その様子を見ていた魔族3人組は困った様子で顔を見合わせて。


 「あいつ一体何がしたかったんだ?」

 「さぁ? ……わからん」

 「助けに来たら助ける相手に突き放されるって格好つかないよな……ドンマイ」


 そう口々に言うのだった。

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