第7話「システムに関するチュートリアル」
マイ・スイート・エンジェル・フリューちゃんが落とした天使の居場所へと至る道標、自らの危機と自身の居場所を知らせるための目印たる天使の羽根を拾い集め、時にそれに擬態した醜悪な臭いを放つゴミそのもののハトの羽根と悪戦苦闘しながら、ついにフリューちゃんが連れされられた場所を特定したのだった。
そこは毎度ギャングがたむろする事で有名なワルの聖地、不良たちのランドマーク、マフィア同士の抗争回避の交渉会場、もしくは大人数で睨み合って合図と同時に走り出して大乱闘を繰り広げるいつもの闘争ステージ、極道どもの溜まり場である赤レンガ倉庫街であった。
あの魔族3人組め、何ともひねりのない、ありきたりな場所にフリューちゃんを連れ去ったものだ、許せん!
今頃フリューちゃんはきっと恐怖に身を震わせて、ヒーローの登場を……そう、一秒でもはやく僕が颯爽と現れるのを願っているはずだ!
待ってろフリューちゃん!君のSOSはちゃんと僕に届いてるよ!今、君の愛しの王子が助けに行くからね!!
思わず気持ちも高ぶり鼻息も荒くなる。
しかし、そんな最高潮のテンションを駄々下がりにする声が脳内に轟く。
『キミ、よくもまぁそこまで都合のいい妄想を敵のアジトを前にできるよなぁ? たまげたわ』
「神様、都合のいい妄想って何ですか? 事実ですよ? ありのままの真実ですよ?」
『あ、うん……そうだね? なんていうか、ストーカー犯罪ってこういうところから始まるんだなってよくわかったわ』
「言い方!!」
思わず叫ぶが、叫んだところで特に問題はなかった。
ここはグルホスの町の中でも寂れた場所だ。
人気はなく、それ故に犯罪者やアウトローにはひどく好まれる場所で、小さなお子さんを持つお母さんは必ず口酸っぱく言い聞かせるものだ。
「あそこにだけは近づいちゃダメ」と……
そんなわけで騒いでも別段問題はないのだが、かと言っていつまでもここで騒いでいたら別の犯罪集団に絡まれて別の面倒ごとに巻き込まれそうなのでさっさとフリューちゃんが監禁されてる場所に凸撃したいと思います!
待ってろフリューちゃん!今君のハルが助けに行くからね!!
この時、そのフリュー本人はとてつもなくゾクゾクとした悪寒を感じて全身を震わせていた。
身の危険を感じる何かとてつもなくヤバイやつがきた!魔族の勘がそう告げていた……
「よーし! それじゃガチャを回すぜ!! フリューちゃんを助けるための力を与えてくれ!!」
そう言って宙に浮かんでいた紋章を押そうとする。
すると脳内にテンションがMAXとなった追放神の声が轟く。
『待ってました!! 待ってましたよ!! うひょ~~~い!! ようやく課金の時だ!! きたよきたきた課金がキタ――(゜∀゜)――!!! ガチャを回すぜ課金課金!! 課金しまくりガチャ回せ~、あー天井なし天井なしガチャ課金! 課金ガチャ! つべこべ言わず全額ふりこめ、ぽ~~~~~~ん!! ヽ(∀゜ )人(゜∀゜)人( ゜∀)ノ━ ━━ 』
まったく意味がわからない、でもずっと頭の中から離れなさそうな歌を歌ってきた。
やめろ、夢に出るやろ!
「あの、頭の中で変な歌、歌わないでくれます?」
『あん? 堅いこと言うなや、ワイはな、嬉しいんじゃ……ようやくキミが、あの貧乏ハナ垂れ小僧が廃課金勢の仲間入りをしてくれた事が……泣けるぜよ……泣けるぜよおとっさん! あんたの子はこんなに立派に散財できるようになったぜよ!! さぁ天国にいるおとっさんに漢を見せてやれ!! 課金を悪く言う無課金勢の人でなしどもに課金のすごさを思い知らせてやれ!! 廃課金勢にあらずんば人にあらず!! あぁ、天井なし30000連ガチャだぁぁ!!!』
「いや、そんな回さねーよ!!」
思わず叫ぶと追放神がビックリと言わんばかりのトーンで聞き返してくる。
『は? 30000連ガチャ回さないの? なんで?』
「いや、さすがにそんなに回したら残金がヤバイから」
『は? キミ何言ってるの? そんなちっちゃな事気にするなや!! 男だろ!? キンタマついてんだろ!? 言ったやろ!! がむしゃらに課金しろって!! 後先考えず金を溶かす事に意味があるんだって言ったよな!? ここで課金しなくていつ課金するの? ねぇ? 今やらないでいつするの? 今でしょ!!』
「いや、だからネタがいちいち古いって!」
『ダマらっしゃい!! いい事? 課金は根性!! そしてノリと勢い!! それなくしてガチャは回せない事よ! 覚えてらっしゃい!!』
「なんで急にオネェキャラになったの!?」
『えぇい! もう煩わしい!! ここまできて無制限課金プランに躊躇する子だとは思わなかったわよ!! こうなったらルーク! 我が子よ! お前を課金サイドに引きずりこんでやる!! そうだわたしが父だ! さぁ一緒に課金サイドに堕ちて無限の課金パワーで銀河を支配しよう!!』
「ちょっと!! さっきから意味不明な事言い続けないでくれます? 突然脳内で父親宣言しないで!?」
『うるさい!! いいから課金するんだ!! 課金するぞ~~えい、えい、むん!!』
「ぎゃー! タンホイザーーーーーー!!!」
謎のかけ声の直後、体が勝手に動いていた。
自分の意思とは裏腹に指が宙に浮かんでいた紋章をポチっと押す。
まじかよ!?これ完全に追放神に操られてるやん!
こんなの無効だ!クーリングオフだコラ!
アデ○ーレに相談だ!!弁護士どこですかー!?
こ○ろ○いくんーーーー!!
『有償スタートダッシュざまぁガチャ300連を回します』
脳内に追放神とは違う声が響く。
しかし300連?
追放神は30000連ガチャとか言ってなかったか?
すると。
『あ、桁間違えちった……てへ、ぺろ~ドンだけ~~~』
「だからネタが古いって、マジで……」
とにかく、せっかく手に入れた8005万ガネーが即溶けてなくなる事態は回避できた。
『有償スタートダッシュざまぁガチャ300連の結果です』
宙に浮かんだ紋章の横に結果が浮かび上がり、もう一回まわしますか?というメッセージも浮かび上がる。
もう1回も何も、300連も回せばそれなりの結果があるだろうと思ったが……
「なぁ、神様よ」
『なんじゃ、ガチャの子よ』
「この結果っていいの?」
思わず尋ねてみた。
RやSRもそれなりにあるがSSRはあまりなく、Nも多い。
何より意味不明なものが多数混じっていた。
『信じるも信じないもあなた次第です』
「いや、答えになってないし、それ多分回答として使うところ間違ってるから」
『堅いこと言うなや、結果に不満なら迷わず新たに課金してまたガチャを回せばいい。世の中そういう風に……課金しなくてはいけないようにできている。課金は人生、わかったか?』
「意味がわからん……まぁ、もう一度回すのはいいんですけど、これって何です?」
言ってガチャの結果について尋ねた。
・上限解放チケット←NEW!
・限界突破チケット←NEW!
うん、読んでもさっぱり持ってわからん!
『いや、読んで字のごとくじゃね?』
「読んでもわからんから聞いてるんだが?」
しかし、追放神は説明を拒否した。
『こまけぇこたぁいいんだよ!! わからねーなら今はほっといて、とにかく課金だ!! 一番になるっつったよな? 諦めんなよ! 諦めんなよ、お前!! さぁ次のガチャだ! 天井なしだ! 課金するぞ~~~えい、えい、む……』
「いや、まずは説明して?話はそこからだよ?」
『ったく仕方ねーな? しゃあなしで一回だけ説明するぞ? ワイは○進の講師じゃないんだから何回も解説しないぞ? こんなの受験に出る以前の問題なんだからな?』
そう言って追放神は渋々といった具合で説明しだした。
というか○進って何だよ?
上限解放チケット、これはどうやら「ざまぁ」の結果のレベルを上げられるらしい。
「ざまぁ」のレベルの結果を上げるって意味がそもそもわからないが、とにかくそういう事らしい。
そして「ざまぁ」の結果のレベルはレア度ランクがNだろうとRだろうとSRだろうとSSRだろうとURだろうと、どれも最大でLv100までのようなのだ。
ではカンストするとそれ以上は強く出来ないのか?と言えばそうでもないらしい。
そう、ここで登場するのが限界突破チケットだ。
上限解放チケットでレベルがカンストした「ざまぁ」は限界突破チケットを使う事によりレア度を引き上げる事ができるという。
例えばスタートアップざまぁチケットガチャ5連で引き当てたレア度Nの「足の小指をタンスの角にぶつけ無様に泣き叫ぶ」という「ざまぁ」。
これを上限解放チケットでカンストさせ限界突破チケットを使うとあら不思議!
レア度Nからレア度Rの「足の小指をタンスの角にぶつけ無様に泣き叫ぶ」に「ざまぁ」が進化するのだ!!
そしてこれを繰り返していけばいずれはレア度URの「足の小指をタンスの角にぶつけ無様に泣き叫ぶ」が完成する事になるのだ!!
なんてこった!こいつはとんでもねぇ!
ガチャの結果がNばかりだと嘆いている場合じゃねぇ!
たとえNしかなくても上限解放チケットと限界突破チケットを大量にゲッツ!できればURを自力で生み出せるのだ!!
これは迷わず課金しなくては!!こんなところで飯なんか食ってる場合じゃねー!
こいつは伝説になるぜ!!
「いや、最後もう解説じゃなくなってね?」
『とにかく、そういう事だ! 結果が悪くても迷わず恐れず課金すればガチャは答えてくれるという事さ! 希望で胸が膨れただろ? さ、なら勇気を持ってもう一度愛と平和の課金ソルジャーに』
「いや、まだ聞きたい事あるから」
『あ、まだあるの? キミ慎重派だね? もしかしてソフトをハードにセットする前にトリセツ全部読む派? もしくはチュートリアルはスキップせず全部見る派? それとも運営からのお知らせは毎日欠かさずチェックする派? なんならアプリ内のヘルプは全部読まないと始められない派? まさかとは思うけど攻略wikiの掲示板には毎日質問書き込む派なの?』
「いや、ほんと言っている意味がさっぱりなんですけど人の言語でコミュニケーションとってくれます?」
思わずため息がでた。
うん、この神様疲れるわ……
まぁ、聞き流せばいいんだろうけど、そういうスキルもガチャで手に入らないかな?
『それは「ざまぁ」とは違うやろ』
「あ、そっすね……で、いい加減聞いてもいいっすか?」
『まぁ、それでキミが納得してまたガチャを回してくれるなら喜んで質問に答えるさ。課金してくれるためならバイトバイトバイト~』
「だからネタが古いって……」
ため息をついてガチャの結果について尋ねる。
・才能開花チケット←NEW!
・進化促進チケット←NEW!
うん、さきほどと同じく読んでもさっぱり持ってわからん!
しかし……
『いや、読んで字のごとくじゃね?』
さっきと同じ事言われた。
ダメだこいつ、いい加減出版社は担当編集変えろ!
「またそれかよ!! 読んでもわからんから聞いてるって言ってんだろ!」
『あーはいはい、メンゴメンゴ。まったく最近の若者はほんとすぐキレるね? カルシウム足りてないんじゃない? ……あれ? もしかしてキレてます?』
「いや、キレてないっすよ! って言わねーよ! いちいちネタが古いっての!」
『またまた~言いたかったクセに!』
「言わねーよ!! てか話が進まないからいい加減はやく教えて!?」
『話を進めたいならわからない事は置いといて、とりあえず課金すればいいだけでは?』
「あんたそれしかねーな、ほんと!!」
そこから永遠とこの問答が繰り返され、ようやく追放神が説明しだした。
才能開花チケット
これは「ざまぁ」の結果に別の効果も付与できる事ができるらしい。
とはいえ、あくまで付与できる別の効果はおまけ程度なもので100%発生するとは限らないのだとか。
才能開花で付与した効果を高確率で発生させるには、チケットを使いまくって才能開花レベルをあげレベルをカンストさせる必要があるのだとか。
そして才能開花がカンストすれば付与効果が高確率で発生する可能性があるが、その先を見たい時に使うのが進化促進チケットだ。
これには才能開花カンストと上限解放カンストで限界突破していない事が条件だが、この状態で進化促進チケットを使えば、未知の「ざまぁ」に進化するというのだ!
うん、なんじゃそれは?まったく意味がわからん!
意味がわからんが、たとえガチャの結果が満足いくものでなくても、各種チケットを多く所持していれば自分の手で思い通りの「ざまぁ」を作り出せたり、カスタムできるという事らしい。
「なるほど? つまりガチャの結果がよくなかったからと言って無理にまたガチャを回す必要はないわけか……自分でカスタムしたり作れるんだし」
『まぁ、それをするには各種チケットを大量に所持してないといけないがな。そして各種チケットはガチャを回さない限り手に入らん、後はもう言うまでもないわな?』
「はいはい、つまり課金しろって事だろ?」
『そういう事だよ、わかってきたじゃねーか? 理解したならレッツ課金だ! 未来は待ってくれねーぞ? 躊躇せず課金する事が明日を掴む第一歩だ! 破産を恐れるな!! 金を溶かせ!! 天井なしだ!!』
追放神がノリノリで言ってくるが、その前にまずは実戦だろう。
見たところ、300連ガチャの結果でそれなりのチケットは入手している。
「はいはい、ガチャは今はいいから、まずはその才能開花とやらを試してみたいんだが?」
そう言うと追放神が少し覚めた口調になった。
『は? まぁ、それは構わんが限界突破するにも進化促進するにもチケットは足りんけどええんか?』
「いや、まずは上限解放と才能開花がどういったものか試さないとだろ?」
『はぁ……長いシステム説明のチュートリアルはユーザーから嫌われるぞ? アンインストールされる原因だぞ?』
「意味不明な事言ってないでどうやったらチケットを使えるんだ?」
『はいはい、ちょっと待てよ? 今アプリをアップデートするからデータのインストールに時間がかかるぞ? とりあえず落とすのは最小データでいいか?』
「いや、マジでさっきから何言ってるの? ちゃんとヒトが理解できるように言って?」
『気にするな、キミはただ通信制限がかからないようにwifiがある環境にいればいいから』
「何の話だよ? ちゃんとヒトの言語でコミュニケーションとって? ほんと」
そうこう言ってるうちに突然脳内に軽快な音楽が流れ出した。
「ファッ!? 何、いきなり頭の中に謎の音楽が!?」
『メニューで取得「ざまぁ」管理画面に入った時に流れる音楽やないけ、気にすんな』
「気にするわ!! てか頭の中に何音楽垂れ流してはるんすか? やめて気が狂いそうなんすけど!?」
『は? キミ、まさかソシャゲはサイレント、もしくはバイブでプレイして音は出さない派け? それでどうやって声優さんのCV楽しむの? アホなの? 声優さんに失礼よ?』
「いやほんとさっきから意味不明な事ばっか言わないでくれます!?」
『あーはいはい、わかったからとにかく前を見ろ。ガチャの紋章の横に新たな紋章が浮かんでるやろ』
見れば確かに浮かんでいた。
そしてその紋章に触れると、取得した「ざまぁ」がレア度ごとに分かれて表示され、どの「ざまぁ」にどのチケットを使うかの選択肢が出てくる。
「ほう、これで上限解放したり、才能開花したり、限界突破したり進化促進したりできるわけか」
『まぁ、今はお試しとしてN「足の小指をタンスの角にぶつけ無様に泣き叫ぶ」に才能開花してみんしゃい』
追放神に言われるがまま「足の小指をタンスの角にぶつけ無様に泣き叫ぶ」に才能開花チケットを使ってみる。
『才能開花の結果です』
脳内に追放神とは違う声が響き、「足の小指をタンスの角にぶつけ無様に泣き叫ぶ」の横に追記がされた。
N「足の小指をタンスの角にぶつけ無様に泣き叫ぶ」Lv1/付与効果「タンスの角にぶつけた時に棘も刺さる」(発生率0.05%)
「え? いや、ショボくね?」
『レア度Nの上限解放もまったくしてない「ざまぁ」に1回だけ才能開花しても、そりゃいい結果なんて得られんだろ? 何期待してたんだ? もっとすごい「ざまぁ」にカスタムしたけりゃドンドン課金してガチャ回してチケット大量にGETしろ!! 何度も言わせんなや! キミは課金する以外に道はねーんだからよ!!』
そうか……結局ガチャを回すしかないのか……
OK、よ~くわかった。
だったら回してやるよ!!そしてチケットをGETして最強の「ざまぁ」をカスタムしてやる!!
タンスの角に小指をぶつけたドジを後悔させてやるぜ!!
『いや、なんでそれのカスタムにこだわるの?』
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