第4話「魔族襲来」
予想だにしなかったフリューからの唐突なるビンタをくらい、わけがわからぬまま地面に突っ伏す。
え?何で?どゆこと?
なんで僕ビンタされたの?
頭の中がこんがらがっていると脳内に追放神の声が響く。
『いや、むしろビンタだけですんでよかったなってレベルだぞ? いきなり抱きしめるとかキミ思ってた以上にやべー奴だな? それ、犯罪です』
「いや、ちょっと待って! その評価はおかしい! だってフリューちゃんはちゃんと手を取ってくれたんだぞ? 付き合ってくれるっていったんだぞ?」
『いや、手を取ったで何で愛の告白にOKを出したって結論に至るのかが謎なんだが? もしかしてキミ頭のネジ相当ぶっ飛んでる?』
「言い方ぁ!!」
そんな脳内で追放神と戯れてる中、現実ではビンタしたフリューがガクガクと震えながら怯えた表情で自分の腕で自分自身を抱いてさーっと離れていく。
「いきなり何するんですか!? 怖い!! 怖いですあなた!! 何なんですかいきなり!? 信用できるかなと思ったのに!! 助けてくれるかなと思ったのに!! さいてー!! へんたい!! 近寄らないで!!」
フリューは涙目で怒鳴ってきた。
その言葉すべてが心を抉っていく。
え?最低?僕が?変態?僕が?近寄らないで?僕に言ってる?
「ちょ……ちょっと待ってフリューちゃん!! 今のは誤解なんだ!! そんの些細なすれ違いからくる勘違いなんだ!! そう、僕は変態じゃない!! 君の味方だ信じてくれ!! 僕は怖くないよ!! 優しいよ!! 君だけを愛してるよ!!」
そう言って落ち着かせて安心させようとするが逆効果だった。
さらにフリューちゃんは怯えた表情となり、より一層距離を取られる。
「近寄るな変態!!」
そんな悲鳴にも似た絶叫を浴びせられた。
なぜだ!?何がいけないというんだ一体!?
こんなのに無害だとアピールして愛を伝えているのに!!
『思うにそれがいけないんじゃね?』
「やかましい! ちょっと神様黙っててくれます?」
とりあえず落ち着くんだ僕!今は自分も彼女も興奮状態だ、警戒されてまともに話も聞いてもらえない。
そんな状況で何を言ってもきっと無駄だ。
ではどうすればいい?
どうすれば信用を取り戻せる?
考えろ!考えるんだ!!
フリューちゃんと笑って手を繋いでキャッキャウフフなハッピーライフの未来を取り戻すために!!
その時、脳内にひとつのひらめきが開花した。
そのひらめきは、まだ小さな、まことに小さな蕾であったが、しかし今まさに開花期を……
『しょうもないモノローグを脳内で垂れ流してる暇あったら、さっさとそのひらめいた作戦を実行せんかい!』
「ちょっと追放神さん!? 空気ぶち壊すのやめてくれます!?」
『どうでもいいからはよイベント終わらせろや! いつまでチュートリアルイベントやっとんねん! ええ加減にせなメインシナリオ全部スキップしてまうぞ?』
「ほんと理解不能な単語ばっか並べて言わないでくれます?」
とりあえず話を前に進めたければ追放神さんが絡んでこなければいいと思うよ?
まぁ、これを言うとまた騒ぎ出しそうなので心の片隅に留めておく。
「ふぅ……深呼吸しろ、暴走しないように心を落ち着かせるんだ。まずは僕が無害であるとフリューちゃんにわかってもらわないと」
深く深呼吸してリラックスする。
大丈夫だ、僕はやれる!
「ごめんフリューちゃん、怖がらせてしまったみたいで、でもし………」
そこまで言った時だった。
自分の背後に誰かが立ち、目の前にその誰かの影が生まれた。
「ん?」
振り返ると背の高い3人の魔族の男たちがいた。
3人のうちの1人は立派な鬣がダンディーな超マッチョなライオン男で目つきが鋭く厳つい、近寄りがたいオーラを放っており恐らくは彼が3人のリーダー格なのだろう。
もう1人はそんなライオン男とは対照的に体つきはガリガリで、あばら骨が浮かび上がっているほどの超痩せ細った体型の角を生やした鬼であった。
その鬼はそんな体型にも関わらず背中にはパンパンに中身がつまった重そうな大きなザックを背負っており、見ていて大丈夫?重くない?こけたら絶対骨折するよね?と心配になって声をかけそうになる困った鬼さんだった。
最後の1人はヤギの顔をした男でそれ以外の表記する特徴が特になかった。
モブのような印象に残らないタイプの魔族である。というか多分モブだ。
そんな3人の魔族の男たちは自分を見下ろすと。
「邪魔だ、どけ」
「へ?」
そう言ってライオン男が自分の顔に裏拳をかましてきた。
「ぐほぉぉ!?」
その裏拳は見事に決まり、そのまま真横に吹っ飛んでしまった。
そして、道路沿いにある店の軒先に立てかけられていた立て看板に頭から突っ込んでしまい、そのまま頭だけが看板をブチ抜いて突き刺さったような状態になった。
「ゴホ!?」
ライオン男はそんな吹っ飛んだこちらにかまう事なくフリューの元へと歩いて行く。
「よぉ羽根女、ったく手間かけさせてくれたな? けどもう逃がさねーぞ?」
ライオン男はそう言ってニターっと笑う。
フリューはライオン男を見るとビクっとして怯えた表情となったが、すぐに逃げだそうと翼を広げる。
しかし……
「おっと、そうはいかねーぜ?」
「へへへ! そう何度も同じ手をくらうかよ!」
いつの間にかフリューの背後に回り込んでいたガリガリ鬼とヤギ男がフリューの左右の翼を掴んで飛び去ろうとするのを防ぐ。
「ひ!!」
背後に回り込まれていた事に気付かなかったフリューは慌てて翼をバタつかせて2人の魔族の男を振り払おうとするが、掴んだほうも必死でくらいつく。
「うわ!? 羽根をバタつかせるなコラ!!」
「暴れるんじゃねーぞ!! くそ!! 大人しくしやがれ!! 羽根を飛び散らすな!! クシャミが出そうになるだろ……ヘ、ヘクシュ!!」
「うわ!!汚ねーなお前!! こっち向いてクシャミすな!!」
「うるせ!! この女が暴れてるからしゃーねーだろ!!」
2人の魔族の男は暴れ回る翼をなんとか抑え込むとフリューの背中に手を伸ばす。
「きゃぁぁぁぁぁ!!!! いやぁぁぁぁぁ!!!」
しかしフリューも必死で抗うが抵抗むなしくガリガリ鬼とヤギ男に地面に倒されて押さえつけられる。
「へへへ! 手間かけさせやがって!!」
「ぐ……く! や!! 離して!! いやーーー!! お願い誰か助けて!! 誰かーーー!!」
それでもフリューは何とか逃げだそうと抵抗しべく身をよじって暴れ、叫んで助けを求める。
「うるせー!! 暴れんじゃねーぞコラ!! 騒ぐな!!」
だが、そんなフリューの顔をヤギ男は掴んで地面に押しつける。
「きゃ!!」
「ちょーっと黙ってろよ?羽根女」
そうヤギ男が言うとライオン男が地面に押さえつけられているフリューの前までやってきて腰を落としす。
そして顔をフリューに近づけて睨んだ。
「ようフリュー、逃げ切れなかった気分はどうだ?なぁ?」
そう言ってライオン男は懐からパイプを取り出すと口に加えてパイプのボウルの中にたばこの葉入れ火を点す。
そしてしばらくフリューを睨んだまま一服するとパイプを口から外し煙をフリューの顔へと吐き出す。
「ケホっ!! ケホっ!!」
フリューはその吐き出された煙を浴びて咽せるがヤギ男に顔を地面に押さえつけられているため顔を背けることができない。
そんなフリューを見てライオン男が口元を歪ませる。
「おいおい、タバコのお裾分けしてやってるのに咽せるなよ? せっかくのオレ様の好意を無下にするんじゃねぇ!」
「へへ、そうだぞ羽根女! あのタバコはここらじゃ滅多に手に入らねぇ極上品だ。味わって吸えよ?」
そう言ってヤギ男はフリューの顔を押さえつける力を強める。
「っ!!」
「なんだよその態度はよ? もっといたぶられてーか? あぁ!?」
ヤギ男がそう言って顔を押さえつけていない方、翼を押さえつけてる方の手に力をこめてフリューの翼をもごうとする。
「が……!! 痛っ!!! 痛い!! や、やめ……お願い、いやーーーー!!!」
「げへへへ!! どうした!? 痛いか? もっと泣き叫べよ!! あはははは!!」
ヤギ男が愉快に笑う。
その笑い声は看板に頭から突っ込み、突き刺さって意識が飛んでいた自分の脳裏に火をつけた。
(あぁ、汚ない笑い声だ……不愉快極まりない)
次にフリューの悲鳴と助けを求める声が聞こえてくる。
(この悲痛な叫びは!? フリューちゃん!? ぐ!! 連中、僕の天使に何をしてくれてんだ!? 許せねー!!)
フリューの泣き叫ぶ声を聞いて、悠長にのびてるわけにはいかないだろう!!
心の中で闘志が湧き上がり、覚醒する。
目を覚まし、腕に力をこめて起き上がる。
「く……ぐぬぬぬぬぬぬ! うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
雄叫びを上げて一気に立ち上がった。
この雄叫びを聞いて、3人の魔族の男たちは視線をこちらへと向けてきた。
「ん?」
「なんだ?」
「あぁ、さっきの……邪魔だったからつい殴っちまったが看板に突き刺さってたか、すまねーな」
ライオン男が謝罪にもならない心がこもってない謝罪を投げかけてきたが、そんな事はどうだっていい。
「おらぁぁぁぁ!!!」
叫んで看板を投げ捨てると3人の魔族の男立ちを睨み付ける。
「てめぇら、よくもやってくれたな!? 絶対に許さねー!!」
その叫びに、しかし魔族の男たちは顔を見合わせると。
「あぁ、ほんと悪かったな? でもまぁ後でコーヒーでも奢ってやるから許してくれや?」
軽い調子で言ってきた。
こいつら……まさか僕が看板に殴り飛ばされたことを怒ってると思ってるのか?
いや、それに対しても怒ってるが、そんな事はどうだっていい!
「勘違いするなよ? 僕はてめぇらの不貞行為に怒ってるんだ!! てめぇら何してる? 今何て事をしてくれてんだ!?」
叫んぶが、やはり魔族の男たち3人は顔を見合わせて「あいつ何言ってんだ?」って顔をしている。
どうやら自分たちの罪をわかっていないようだ。
「なぁ、兄ちゃん一体何に対してそんなに怒ってるんだ?」
ライオン男がそう聞いてきた。
なるほど、口で言ってやらないとわからないらしい……ならば言ってやる!
「わからないか? てめぇら、今僕の女に何してやがる!! 僕の女に乱暴して泣かしやがったな!? 絶対に許さん!! 許さんぞ!!」
魔族の男たち3人を指さして怒鳴った。
しかし3人はポカンとした顔になると。
「え? 兄ちゃん、ひょっとしてこの羽根女の事言ってるの?」
困惑した様子で聞いてきた。
「他に誰がいる!! というかはやくその汚い手をフリューちゃんから離せ!! 僕の女に手を出す奴は絶対に許さないぞ!! 僕の天使に触れるな獣ども!!」
キリっとした顔で叫んだ。
しかし、魔族の男たち3人の反応はまだ鈍い。
今だ困惑した様子だ。
「あのさぁー兄ちゃん、本気で言ってるの?」
「さっき吹き飛ばした時、看板に頭から突っ込んだからそこできっと頭おかしくなったんじゃね?」
「これ病院に連れていってやったほうがいいと思うぜ?」
魔族の男たち3人が言いたい放題言っている。
こいつら僕をバカにしているのか!?
くそ!こうなったら、こいつら全員しばき倒してカッコイイところをフリューちゃんにアピールだ!
まさに姫のピンチに颯爽と現れ窮地を助ける騎士じゃないか!これはもうフリューちゃんも僕に対する誤解を解いて今夜からラブラブ新婚生活間違いなしだぜ!!
「いいからはやく僕の天使を解放するんだ! さぁ、今助けるよマイエンジェル! 見ててくれ君の愛する僕の勇姿を!!」
叫んで拳を構える。
そんなこちらの様子を見て、魔族の男立ち3人は困惑した表情でフリューちゃんに質問する。
「なぁ、フリュー。あの兄ちゃんはあぁ言ってるけど、まさかとは思うがあれお前の彼氏か?」
その質問に地面に押さえつけられているフリューは真顔ではっきりと答えた。
「いいえ、違います。というかあの人変態すぎて意味がわかりません」
…………ん?今何て?
しばし、沈黙の時が流れた。
そして……
「ふ、フリューちゃん!!!! マジでごめんて!! 謝るから!!! 本気で謝るから、心から謝るからほんと!! だから許して!! 本気で許して!! ねぇ許して!! 本気で好きだから許して!!」
堪えきれず泣き叫んで後先考えず突っ込んでしまった。
そしてライオン男からの右ストレートを顔面にくらってしまった。
「ぐはぁぁぁ!!!」
「あ、すまん。つい殴っちゃった」
対して申し訳なさそうに言うライオン男の声を最後に視界が暗転し、そのまま倒れてしまった。
チクショウ……哀れだ情けねー。
『そりゃキミ、勇者パーティーにいた時はただの武器手入れ担当の鍛冶職人モドキだったじゃん……戦闘の時も後衛でいてもいなくてもいい弓使いやってたし、魔族相手に格闘戦とかとち狂ったの?出来るわけないじゃん、アホなの?』
久々に追放神が声を届けてきたが、そんな事言われんでもわかっとるわい!と言い返したかった。
しかし、そうする前に意識がぶっ飛んでしまった。
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