第2話「はじめてのガチャ」
「ちょっと待って……課金?ようするにお金を払えばいいって事?」
脳内に響く追放神の言葉を一度遮り確認する。
追放神とやらはその質問に。
『せやで、何度も言ってるやろ! 金も払わずおいしい復讐なんかできると本気で思ってたんか? てか無料ほど高いもんはないんやで? 無料でしたるなんて言われたら絶対見返りや対価がやべー事になるわ、裏で何か絶対あるわ、そんな恐ろしいもんに手を伸ばしたいんか? ワイは怖くてできまへんな!』
などと返してきた。
いや、言いたい事はわかるんだけど……
「だから金を払えば安心だと?」
『せや! 払った金の額は安心の額やなんやで! 考えてみ? 飯屋のうまい料理は値段が高いやろ? それだけ安心できるってもんや! せやけど安~い値段の料理はどうや? 安いのが納得やろ? で、無料の料理がもしあったら……食べるか? 怖いやろ? なんで無料なん? って警戒せえへんか?』
「まぁ、そりゃそーですね」
『だったら復讐も一緒やろ!! 金払った分だけ満足のいく安心な復讐がある! これって大事やで?』
追放神はそう言うが、どうだろうか?
まぁ、金も払わず殺し屋に殺してきてと頼んでも引き受けてはくれないし、仮に引き受けてくれた場合何か裏があるんじゃないか?と勘ぐるのはその通りではある。
「はぁ……わかりましたよ。まぁ、そこまで言うなら一度だけ」
そうため息交じりに言うと脳内に響く追放神の声はよりテンションを高くして「あざーっす!」と返してきた。
というか、そろそろこの声がずっと脳内に響いているの辛くなってきたんですけど?
「で、この紋章を押せばいいんすか?」
『そうだよ、それを押すんだよ……ポチっとな! ようこそ、課金道へ!課 金がキミを強くする!!』
「いや、そりゃ金をかけたら誰だって強く……ん?」
言われた通り紋章を指で押すが何も起こらなかった。
というより、押したらどうなるのかの説明がまったくなかったのでこれでいいのかもしれないが……
「押したけど、結局何が変わったの?」
聞くとしばらく沈黙があった。
そして先程までとは違って低いトーンで。
『キミさぁ……ナメてんの?』
そう聞いてきた。
え?何?テンションさっきまでとまるっきり違うんだけどどうしたの?
「いや何を突然?」
『さっきから散々言ってるよな? 課金ってよ! か・き・ん! アンダースタン? お金を払わずおいしい思いを享受しようとすんじゃねー!! 金払え!! 何度も言わせんなや!!』
追放神にお金払えと怒られた。
「いや、だから無一文だって言ったじゃん!! お金がないのにどうやってお金を払えばいいの!? ねぇ!?」
あまりにも理不尽だったのでそう言うと恐ろしい返しがきた。
『だったら腎臓売れ!! 臓器売れ臓器!! 体売れば金手に入るだろ!! ママ活しろ! もしくはホモバーで売り込め!!』
「それ人身売買じゃん! 絶対拒否るよ!!」
『ち! まったく、この貧乏人が! 無銭に人権はねーよ常識だろ? 何考えてやがる……飛んだ見込み違いだぜ!』
そもそも、そんな状態になったから復讐しないか?って声をかけてきたのではなかったか?
大丈夫か?この追放神とやら……
『まぁいい……だったら特別サービスだ! 本当に今回だけだからな? いいか、毎回こんなサービスしてもらえると思うなよ?』
追放神はそんな事を言うと右前に前に突き出せと言ってきた。
言われた通りにすると右手が眩しく光りだす。
「な、なにごと!?」
『騒ぐな!ただの演出や』
「演出って何の!?」
そう言ったところで光が消え、右手には紙切れが握られていた。
「え!? 何これ!? さっきまで何も持ってなかったけど!?」
右手が握っていた紙切れを見るが、何か変な文字が書いてあるがさっぱり読めなかった。
『それはガチャを5回ぶん回せる無料チケットや……まぁ最初やし、これはサービスやで? 今後はちゃんと金払ってもらうで? ガチャは課金してなんぼなんやからな?』
「は、はぁ……」
何だかよくわからないが、無料でガチャ?が回せるチケット?を追放神がくれたようだ。
いや、こういうのあるなら最初から渡せよ!無一文ってわかったるだろうにさぁ……
「で、これもらったはいいけど、どうすればいいの?」
『別にどうこうって事はない。チケットが手元にあるって事実があればそれでいい……だから普通にポチっと押してガチャを回せ!』
追放神がそういうので従うことにする。
もう何が何やらわからん。
とにかく押せばいいんだろ?
はいはい、ポチッとな!
紋章を押すと脳内に追放神とは違う別の声が響き渡った。
『無料チケットを1枚消費してスタートアップざまぁチケットガチャ5連を回します』
スタートアップチケットざまぁガチャ?
よくわからないけど、これって最初から無料チケット貰えたって事なんじゃないの?
しかし、この疑問に追放神が答える事はなかった……
それはさておき、手にしていた紙切れのチケットが突然ボン!と小さく爆発して消え去る。
「わ!? 危な!!」
すると直後、宙に浮かんでいた紋章が超高速で回転し始め、すぐに止まる。
すると再び脳内に追放神とは違う別の声が響き渡った。
『スタートアップざまぁチケットガチャ5連の結果です』
・N「足の小指をタンスの角にぶつけ無様に泣き叫ぶ」 ←NEW!
・N「彼女といい雰囲気の時にムードをぶち壊す物凄い音の屁をこく」 ←NEW!
・N「彼女といい雰囲気の時にムードをぶち壊す物凄く臭い屁をこく」 ←NEW!
・N「ズボンとパンツを掃き忘れて外出し通報される」 ←NEW!
・サポートガチャチケット1枚 ←NEW!
『これでいいですか? やり直しますか? リセマラですか?』
宙に浮かんだ紋章の横に結果が浮かび上がり、これでいいの?どうすんの?と急かしてくる。
いや、どうすんのか?って聞かれても……
てかリセマラって何?
「いや、つーか何これ!? 全部内容微妙じゃね? これでざまぁ! って言えるの? こんなショボいので復讐完了です! って言われてもちょっと待て! ってなるぞ!?」
浮かび上がった結果内容を見て思わずツッコむと追放神が笑いを必死で堪えた感じの様子で答える。
「そりゃお前、スタートアップチケットのガチャだぞ? レアクラスNの結果しか出ないに決まってますやん! しかし……ぷぷーなんじゃこの引きの悪さ! こりゃ天井知らずでガッポリ稼げるな! つーか、この内容でざまぁして満足ですってなったらお前……あひゃひゃひゃひゃ!」
その後、追放神の腹を抱えた笑い声は数分間脳内に轟き続けた。
うぜいし、うるせーな……何とかならんのかこれ?この声を消す方法はないのか?
そんなこちらの苛々など気にせず気の済むまで笑い続けた追放神はようやく本題に入る。
『よう、それでやり直すんか? それともリセマラせんとこれでいくんか?』
そう言われても、やり直したところでレアクラスNとやらではスカっとする「ざまぁ」は用意されてないのだろう。
ならまずはお試しなんだし、これでいいんじゃないか?
というか、それよりも気になるものがあった。
「なぁ、ところでこの最後のサポートガチャチケット1枚って……」
そう言うと追放神がよくぞ聞いてくれた!と言わんばかりに声色を変える。
『ふっふっふ……そこに気付いてしまうとはさすがだな』
「いや、普通に結果として出てるのに気付かない方がおかしいでしょ」
『そうとも言うな……でもキミは素人だからまったく気付かずスルーするかもとも期待してたんだよ』
「おい、そう思うならちゃんと先に説明しとけよ!」
『まぁまぁ、そうカッカしなさんな!』
いや、あんたがそうさせてんだろ!とツッコみたかったがやめておく。
話が前に進まないからな……
『そいつは文字通りサポート専用のガチャだ。キミがざまぁするためのガチャじゃない』
「どういう事だ?」
『ざまぁすると言っても追放されたキミは仲間もいない孤独な身……でもこれから先、ざまぁを続けていくためには頼りがいのある仲間は必須だろう? これはそんな仲間をガチャでゲッツ! できるチケットだよ!』
「仲間をゲッツ! できるだって!? マジかよ……てかどういう理屈なのそれ?」
意味がわからなすぎて思わず大きな声を出してしまったが、そんな自分とは対照的に追放神はまた声色を変えて囁くようなトーンで答える。
『ガチャを引いたら仲間が増える……どうしてそうなるのか? どこから湧いてくるのか? その理屈を追求してはならない……それは触れてはならないこの世の真理の一旦なのだから』
「あ、そうっすか……じゃあいいっす」
もう意味がわからないのでこれ以上話を聞かないことにした。
というか聞けば聞くほど頭がおかしくなっていきそうだから、そろそろ真面目に話を聞いて考えるのはやめよう。
「で、このサポートガチャチケット? ってのもさっきと同じで特に気にせず紋章を押したら使えるわけなの?」
そう聞くと、宙に浮かんでいる紋章とは少し違った形の別の紋章が新たに宙に浮かび上がる。
『サポートガチャはそっちの紋章だぜ、間違えんなよ?』
「あ、用途で分けられてるのか」
『そいう事……おっと失礼、醤油こと』
なんで言い直した?面白くもなんともねー親父ギャグをなんでわざわざ言い直した!?
うん、これはスルーしておこう。
「というか、このサポートガチャを回せばどんどん仲間を増やせるって事か!」
『そうやな、でも忘れてないやろな? そいつもガチャ、課金せなあかんからな! そしてサポートガチャはざまぁガチャより要求される金額は桁が違うから気をつけなあかんで! まぁご利用は計画的にってやつや!』
サポートガチャはざまぁガチャより要求される課金の桁が違う……
まぁ仲間をゲッツ!できるってマイルドに言ってるけど、言い換えれば人身売買に近いもんな……
うん、無料チケットがない時のこいつの利用はしないでおこう。
でも今はチケットがあるから遠慮なく引かせてもらいます!
カモーン!これから苦楽をともにする頼もしき仲間!!
サポートガチャの紋章を押すと脳内に再び追放神とは違う別の声が響き渡った。
『サポートガチャチケットを1枚消費してサポートガチャを回します』
直後、宙に浮かんでいた紋章が超高速で回転し始め、すぐに止まる。
すると再び脳内に追放神とは違う別の声が響き渡った。
『サポートガチャの結果です』
・SSR「知り合った魔族」 ←NEW
『サポートガチャのやり直しはできません、承諾をしてください』
宙に浮かんだ紋章の横に結果が浮かび上がった。
今回はリセマラ?とやらはできず、この結果を受け入れろって事らしい……
どうでもいいけど、マジでリセマラって何なの?
なんで追放神は説明してくれないの?教えろよ!
「知り合った魔族……? 知り合いに魔族なんかいないんだけどな?」
そう言って首を傾げると、脳内に再び追放神のやかましい声が轟く。
『ちょ……ちょっと待てーーーーーい!!! 知り合った魔族!? いや、魔族はいいんだよ別にね? 問題はレアクラスだよレアクラス!! SSR!? なんで無料チケットでSSRとか出るの!? 出現率どうなってんの!? アホなの!? ちゃんと調整しろよ!! 普通はレアクラスNの仲間からだろ!! 運がよくてRじゃね? なんでSSR速攻くんだよ!! 「今ならこれもらえる!」って事前登録の特典じゃねーんだぞ! おい、開発者出てこい!! これは不備だ不備! メンテしろ!! 緊急メンテだ!! でも詫び石は配るなよ?』
言ってる意味が何一つ理解できなかった。
できなかったが、要するに超ハイスペックな仲間がゲッツ!できたって事なんだろう。
マジかよ!?でも魔族の知り合いなんかいないんだけど、どういう事なんだろうか?
そう思っていると、向こうのほうから全力疾走で走ってくる人影が見えた。
その人影は相当急いでいるのか、こちらが立っていることも気にせず真っ直ぐ突っ込んでくる。
「え? おいおいおい! ちょっと! ちゃんと前見て走れよ!!」
叫んで避けようと思ったが、その人影は予想以上に速く、そのままぶつかって2人とも倒れてしまった。
「うそやん!!」
「きゃーーー!!!」
真っ直ぐ突っ込んできた何者かの下敷きになる形で倒れてしまったが、すぐに突っ込んできた何者かは起き上がって素早く自分から離れると土下座をキメる。
「ご、ごごごごごごめんなさい! 前を見てなくてほんとごめんなさい!」
そう言って平謝りする何者かの声を聞きながら、頭を押えて体を起こす。
「いてて……あぁ、いいよそんな謝らなくて! 気にしなくていいから顔を上げてよ。でも次からは気をつけてよ?」
「はい……本当にごめんなさい!」
「いいって、それより怪我はない?」
そう聞くと何者かがようやく顔をあげる。
「あ、はい大丈夫です。あなたが下敷きになってくれたおかげです」
そう言った何者かは女性だった。
「え……?」
だたの女性だったならば、ここでドキっとする事はなかただろう。
一瞬、息することを忘れるくらいに硬直する事もなかっただろう。
心を奪われる事もなかっただろう。
その何者かは耳が長く、先が尖っていた。
尚且つその背中からは美しい、見る者を魅了する、まるで天使の羽根のような翼があった。
さらには尻尾も生えている。
どう見てもこの子は魔族……有翼種族だ。
しかし、問題はそこではない。
こんなにも心奪われた理由、それは……
「アキちゃん……?」
追放されたかつてのパーティーのメンバーであり、片思いの相手であるアキにそっくりだったからだ。
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