第1話「神からの課金のお誘い」
「おーい、ハル」
「ん? 何すか?」
今日は町の外にあるアトラクションである「農場に襲撃してきたゴブリンの群れと戦い、蹴散らそう!」に行く予定であり、今は馬を借りるべく馬小屋にいるのだが勇者パーティー(ここでは誰もが自らをそう呼ぶ)のリーダーである勇者マルが呼びかけてきた。
「話があるんだけどよ」
「話? ……まさかとは思うっすけど馬のレンタル料金、またツケといてとかじゃないっすよね? 今回の支払いは割り勘でって決めましたよね?」
そう言うとマルは「金にこまけーな!」と鼻で笑い。
「ちげーよ! そんなんじゃねーよ! もっと大事な話だ」
そう言って肩に手を回して顔を近づけてきた。
「じゃあなんすか?」
ため息まじりに聞く。
このマルという男はどこかチャラく、性格といい素行の悪さといい自分は苦手なタイプであった。
できれば関わりたくない相手だが、それでもマルの勇者パーティーにいるには理由があった。
理由といっても、そこまで大層な事ではないのだが……
まぁ、言ってしまえば気になる子がいる……いるのだ!
その気になる子は女かって?当たり前だろ!女の子じゃなかったら何だって言うんだ!
その子がいるから勇者パーティーにいる。これ以上に何か理由が必要か?
そう、このマルを勇者とするパーティーにはアキという僧侶役のとても可愛らしい女の子がいるのだ!
彼女以外の女の人はマルと昔からつるんでいる、マル同様素行が悪く、見た目も何もかも良い印象がまるでないの女性なのだが、アキちゃんは違う!
あの子は天使だ!女神だ!この世のすべてを包み込む地母神だ!……うん、これは何か違うな。
とにかく、アキちゃんの存在があるから嫌々ながらマルの勇者パーティーにいたのだ。
とはいえ、アキちゃんとはまともな会話をした事など一度もないのだが……
目も合わせてくれないし、挨拶もしてくれない……なんとも悲しい限りであった。
それでもいつかは彼女の目を見て話し、彼女の手を取って一緒に歩き、そして彼女を抱きしめられたらと思っている。
それだけが生きがいと言っていいだろう。
しかし今の自分は自分に自信が持てないため、何も行動をできないままでいる。
情けない事だ。
そんな自分の気持ちを知ってか知らずか、マルは真っ直ぐにこちらを見据えると。
「お前さぁ、もういらねーよ。クビだクビ。さっさと去れ」
そう言ってきた。
「……は? 何言って」
「クビだって言ったんだよ! 何度も言わせんな、この根暗!」
「ちょ……ちょっと待って! なんで!?」
突然の事に驚いているとマルの表情が豹変する。
「お前さぁ、俺の女に手出しただろ? 舐めてんのか?」
「は!? 一体何の事っすか?」
「とぼけるな!! お前、昨夜酒に酔ったコリンナを襲ったんだろ? コリンナが泣きながら訴えてきたぞ?」
「はぁ!?」
コリンナとは同じパーティーにいる女性の事であり、マルの彼女だ。
コリンナはマルとは昔から悪さしてつるんでおり、素行が悪く、同じパーティーに属してなければ関わり合いになりたくないタイプである。
はっきり言って、このパーティーにアキちゃんがいなくても彼女の事を好きになるとかはなかったはずだ。
「そんなわけないでしょ! だって昨夜は僕みんなから押しつけられた武器の手入れを鍛冶屋でやってたんだよ! 鍛冶屋の親方だって一緒にいたし証言してくれるよ!!」
そう訴えた。
昨夜は鍛冶屋に泊まり込みで作業してたんだ。一体どうしてそんな不貞行為ができよう。
そもそも、何でアキちゃん一筋な俺が自分の趣味じゃない、しかもマルの彼女を襲わないといけないんだ!?
意味がわからん!
趣味が悪すぎるわ!!
しかし、マルは。
「その鍛冶屋の親方が証言したんだよ。様子を見に来たコリンナを連れてお前がどこかの茂みに消えていったってな! その後、コリンナの悲鳴と喘ぎ声が聞こえたって言ってたぞ?」
「そんなバカな!!」
思わず叫んで気がつく。
そういえばあの鍛冶屋はマルの親戚がやってたな。
この野郎、嵌めやがったな!
でも、なんで?
そう思った直後、マルがある提案をしてくる。
「まぁ、コリンナも泥酔して無防備だったのも悪いだろう……お前からしたら誘ってるように見えたのかもしれん。そこは彼氏として俺もちゃんと注意して監視してなかった落ち度だろう。だからこの件はお前がパーティーから去ることでチャラにしてやる」
「だから僕は何も!」
「でも、それじゃ犯されたコリンナは納得しないよな? そこでだ……慰謝料としてお前が両親から引き継いだ遺産金すべて寄越せ」
「はぁ!? 何言って……」
「泥酔したパーティーメンバーを襲ったなんて知れ渡ったらお前、もうこの町でやってけねーぞ? バラされたくなかったら素直に渡せや……そんで出てけ! それでこの話は終わりにするってんだからよ?」
ニヤニヤと笑いながら言うマルを見て、最初からこれが狙いだったのかと奥歯を噛みしめる。
自分の両親は数年前に事故でなくなっている。
グルホスの町役場で働いていた両親はアトラクションなんかの利権関係でそれなりの財を持っていた。
それらの遺産はすべて自分が引き継いだのだが、その遺産金目当てで色々と親戚とゴタゴタがあった。
この話はそれなりに広まっており、マルも最初から遺産金目当てで自分をパーティーメンバーに招いたのだろう。
それを見抜けなかった自分が情けない。
いや、見抜けたかもしれないが、アキちゃんと離れたくないという想いが強すぎて気付くのを拒んでいたのかもしれない。
悔やんでいると、別の部屋にいたアキちゃんがコリンナともう1人の別の女がドアを開けて一緒に入ってきた。
思わず硬直してしまう。
「なぁハル、コリンナはまだ俺以外には打ち明けてねぇ。つまりは2人はまだ知らないんだ、お前の不貞行為をよぉ……慰謝料払ってこのままパーティーから去るなら2人には黙っといてやるよ」
そうニヤつきながら言うマルを見て心の中で「このクズが!」と吐き捨て、しかし心の中だけに抑え込む。
ここでアキちゃんに身に覚えのない罪の事をバラされたところで、まともに会話した事も仲良くもない、一方的な恋心を抱いていただけの自分にはそれが冤罪だと釈明して信じて貰える自信がない。
だったら……黙っといてもらえるなら、ここは従っておくべきなのだろうか?
それとも、断固として身に覚えのない罪を受け入れないべきか?
どうすべきか迷っているとコリンナがマルへと声をかけた。
「ちょっとマル~聞いてよ。さっきさぁ……」
ふとその時、視線をアキちゃんのほうへと向けた。
相変わらずアキちゃんは自分には関心がないように明後日の方向を向いている。
もし、ここで抵抗して身に覚えのない罪をマルがアキちゃんに伝えたとして、アキちゃんは自分にそんな顔を向けるだろうか?
自分がそんな事するはずがないと否定してくれるだろうか?
それはない……確実にない。
ならば軽蔑の視線を向けてくるに違いない……それに自分は耐えられるだろうか?
わからない……どうすべきだろうか?
気付けば、空は夕焼けに染まっていた。
どこからかカラスの鳴き声も聞こえてくる。
そんな中、自分は広場の噴水の縁に腰掛けて肩を落としていた。
「はぁ……僕は一体何やってんだろ」
そう呟いて泣きそうになる。
結局、マルに慰謝料を払ってパーティーを抜けることになった。
仕方がない、過去に自分はマルにボコボコに殴られて半殺しのような状態にされた事がある。
あの時の事を思いだして恐怖してしまったのだ。
何とも情けない……そして惨めだ。
「もうアキちゃんとは会えないんだろうな……」
後悔が押し寄せる。
自分に自信がないからと会話すらできなかった事が情けない……
「チクショウ……チクショウ……」
マルのやつはコリンナと付き合いながら、もう1人の名前がなんだたか思い出せないが、コリンナとよく似たタイプの素行が悪そうな女ともこっそり付き合っていた。
二股野郎である……ちょっと待て、そうするとまさかアキちゃんまでマルの餌食になってた可能性も!?
そうだとしたら……そんな事も知らずに自分はアキちゃんにずっと報われない片想いをしていたのか?
なんてこったい……
「いや、これはマイナス思考からくるアレなやつだ、信じるな……疑っちゃダメだ……アキちゃんを信じろ! アキちゃんは純潔、アキちゃんは純潔、アキちゃんは純潔、アキちゃんは純潔………」
そうブツブツと独り言を呟いていると頭の中に突然誰かの声が響き渡った。
『ちょっとキミキミ~何さっきから根暗につぶやいてるの? 暗~い! ものすごく暗~い!』
「は!? え? 何!?」
突然の事に驚いていると、誰かの声は引き続き頭の中に響き続ける。
『はっきり言ってキモいよキミ~それじゃモテないね~振り向いてもらえないね~』
「だ、誰だよさっきから! というか大きなお世話だよ!!」
思わず叫んで立ち上がってしまう。
そして周囲を窺うが、周りには誰もいなかった。
遠くのほうに数名いるが、とても声が届く距離ではない。
「一体誰だ!? どこから話しかけてる!?」
『あ~うん、驚いた? ビビったよね? わりぃーな! 姿は見せられないんだわ! メンゴメンゴ』
「は? 姿が見せられない?」
『そうそう、神様だからね~無理だね~なんで直接キミの心に語りかけてます、はい』
「か、神様!?」
えー?絶対嘘やん!
これ魔族に魔法かなんかで詐欺られてるパターンやん!!
そう思った直後、脳内の声がこんな事を言い出した。
『はいはーい! 神様とか嘘やろ? と思ったそこのキミ! 無理もないよね~? でもさ~ある意味失うものが何もないんだから、こんな胡散臭い奴の戯れ言に乗っかってもいいんじゃな~い?』
「戯れ言って……あなた一体何がしたいんですか!? 僕をからかって遊んでるんですか!?」
『ははは、違うちがーう! もう卑屈だな~? まぁ、金ぶんどられてパーティー追い出された直後だからわかるよ~うん』
「な……やっぱ僕をからかって!」
『だから違うって! も~しゃ~ない、ほな本題いこか!』
「本題?」
『そう、ワイは神。気まぐれに哀れな者に惠を与える追放神さ』
「追放神?」
なんじゃその有り難みがなさそうな神様は?
そんな存在聞いた事ないぞ?
そう思っていると、脳内に響く声はテンションを更にあげて。
『そう! ワイはこの権能で追放されて意気消沈したり、憎しみに心を滾らせている哀れな迷える子羊を救うためにこの世に顕現したのさ! 姿は見せないけどね!』
などとぬかしだした。
なんだろう、怪しいキャッチセールス以上に胡散臭い。
「はぁ……で、結局何がしたんすか?」
『ふふふ……キミ、自分を追放したパーティーに復讐したくないか? したいだろ! 絶対したいよね!! ワイはそれをサポートする! それが追放神さ!!』
「ふ、復讐だって!?」
復讐、それは甘美な響きだ。
うん、いいね!
あの二股やろうをギャフンと言わせられるならそれは気分爽快だろう。
「でも、どうやって?」
そう、復讐しようにも自分には力もない、知恵もない、金も奪われてない……
そんな自分がどうやって復讐をすればいいのだろうか?
そう思っていると、脳内に響く声がますますヒートアップしていく。
『決まってるだろ!! 神頼みだ!! それ以外ねー!!』
「えー……いきなりそんな他力本願で絶対実現しない方向に行くの?」
『おい! 忘れてないか? 今キミに語りかけてるのが誰なのかを!? 神だぜ!? 追放神だぜ!? ワイルドだろ?』
「ネタが古いっすよ神様……えーっと、つまりあなたに神頼みしろと? それで復讐を肩代わりしてくれると?」
そう聞くと素早くツッコみが入る。
『なんでやねん! ワイがなんでそんな面倒な事せなあかんねん!』
「いや、やらんのかい!!」
『返しの速さは合格だな! それだけの反応ができれば適正はバッチリだ!!』
「は? 適正?」
そう言うと、突如、目の前が光り輝き、何かの紋章が浮かび上がった。
「こ、これは!?」
驚いていると、追放神が意味不明な単語を述べた。
『ポチっとガチャボタン』
「……は? えっと、今何て?」
『だからポチっとガチャボタンじゃ! その紋章のようなボタンを押すことでガチャを回す事ができるぞ!』
「え? ガチャを回す?」
この追放神の言ってる事がまったく理解できなかった。
しかし、構わず追放神は続ける。
『いいか? ワイは復讐は手伝わんが、しかし! そのガチャを回して出た効果はちゃんと発動してやろう! ガチャで当たる効果はそのランクN、R、SR、SSR、URと5段階で大きく異なるぞ! あと基本は1回だけ回すのと10連ガチャの2種類だけなんだけど、今ならスタートダッシュ記念で有償300連ガチャ、しかもリセマラOK! 天井なしだ!! さぁ、引きたくなっただろ?』
「すみません、何言ってるかさっぱりわかりません」
呆気に取られてそう言うと追放神とやらは
『ようはお金を使ってガチャを回して、出た効果が復讐したい相手に降り注ぐというわけだ。つまりは課金、課金だ!! ワイに課金しろ!! 課金した分だけワイが復讐してやろう!! 出た効果しかできないけどな!! いいかキミ! 「ざまぁ!」したけりゃ課金しな!! 無課金勢に「ざまぁ!」する資格なし!! さぁ、課金しろ!! ガチャを回せ!! 天井なしだ!! 回せ回せ!! 課金がすべてを解決する!!』
脳内でそんな声が轟きまくった。
まったく意味がわからないが、とにかく金銭を要求されてる事だけはわかった。
なんだ!?パーティーから追い出されて金もなくしたのに、今度は神様からも金を要求されるのか!?
一体俺はどこまで落ちれば気が済むんだ!?
プレ版ですが、課金したい!って方は☆評価多めでお願いします
重課金したい!って方は☆評価多め+ブクマお願いします
廃課金したい!って方は☆評価5つでブクマもお願いします