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プロローグ

 ここはとるに足らない田舎町グルホス。

 本当に何もない田舎町だ。


 人がいない。

 金はない。

 資源はない。

 産業はない。

 名産品もない。

 観光地もない。


 ないない尽くしのド田舎だ。

 村でないのが不思議なほどのド田舎町だ。


 しかし!そんな王都からすれば辺境地、否、秘境の中の未開の地。

 人類未到の地、そこに人と呼べる何かはいるが文明の恩恵を受けない蛮族ゆえに近寄ったらダメ。

 そもそも言葉通じるの?

 人としての最低限の生活してる?って聞かれてしまうほどの原始人。


 そこまで言いたい放題言われた、このド田舎にも転機が訪れた。

 なんと、魔王軍が現れたのだ!


 そう、誰からも相手にされない、そもそも存在すら忘れ去られた地図にも記載してもらえない辺境中の辺境の地だ。

 そんなノーマークな田舎町、誰が防衛するだろうか?

 するわけねぇだろ!!


 そう、時はまさに人類の命運をかけた、人魔大戦のまっただ中!

 勇者を筆頭とする人類すべての国家の軍隊と魔王を筆頭とする魔族魔物たちのすべてを総動員した魔王軍が激突する大合戦の真っ最中なのだ。


 そんな一大事をしかし、田舎町グルホスの住人は誰も知らない。

 そりゃそーだろ、人類の命運をかけた戦いの事を、そんな情報をこんなド田舎に誰が届ける?

 意味あるのそれ?無駄だよね?


 魔王軍もこんな占領しても価値のない、戦略上意味のない町に来て何するの?

 意味あるのそれ?無駄だよね?


 そんなわけで人からも魔王軍からも相手にされず、世界中が戦火に巻き込まれている中、のうのうと平和を謳歌していたのだが、どういうわけか突然魔王軍が現れたのだ!


 まぁ、正確には激戦の最中、撤退する過程で仲間とはぐれ道に迷い、運悪く辿り着いてしまったってだけなのだが……


 しかし、田舎町グルホスにとって初めて出会う魔王軍はまさに吉報であった。

 これはまさに渡りに船!

 この人も寄りつかぬ限界集落を通り越した哀れな秘境を救う最後の希望!


 あまりのド田舎ぶりに困惑して異世界に迷い込んだのか?と挙動不審になる魔王軍を、町人たちは盛大にもてなし、飼い慣らした。


 そう、町の現状を憂い、なんとか発展させて外界……否、都会の連中と交流を!と考えていた町役場の若い衆は迷い込んだ魔王軍を観光資源にしようと考えたのだ!


 とりあえず適当に作った歴史も何もない遺跡っぽい何かに居座ってもらって遺跡のボスをやってもらい、それをネタに冒険者なりを町に呼び込んで外貨獲得だとか。

 ダンジョンっぽい建物(塔とか朽ち果てた洋館とか古城っぽい何かを建てたり、洞窟っぽい横穴掘って魔物が潜む洞窟っぽくデコレートしてそこのボスになってもらって、それをネタに冒険者なりを町に呼び込んで外貨獲得だとか。


 そんな壮大な魔物を使っての町おこし。冒険者ないし傭兵&どっかの国の兵士、できれば勇者一行を呼び寄せて一稼ぎしよう!作戦が開始されたのだ。


 そうなると、この町に冒険者沢山来ちゃうなー困ったなー何もない町だしなー。

 あれ?これ宿屋いっぱい建てないと来てくれた人困っちゃうよね?

 大変だー!宿屋いっぱい建てないと大変だー!


 お食事処もいっぱい作らないと大変だー!

 武器屋も防具屋も雑貨屋もその他諸々いっぱい建てないと大変だー!


 こうして、田舎町グルホスは欲望丸出しで町を再開発しだした。

 すると今までの秘境の中の限界集落のような町が見事なまでに、様変わりした。

 立派な町に変わり果ててしまった。


 これはいけるやろ!と町役場の人達はウキウキな気分となったが……


 「なんでや……なんで誰も来ないんや!!」


 冒険者もどこかの国の兵士も傭兵も、当然ながら勇者一行も生まれ変わった田舎町グルホスを訪れる事はなかった。

 この事態に町役場の若い衆に町長は頭を抱えた。


 「何がいけなかったと言うんだ!? 観光アピール不足か!? 口コミ不足か!? せっかく訪れた旅人向けの町の魅力がいっぱい詰まったパンフレットいっぱい作ったのに!! 町の周囲に点在する魔物のボスがいるダンジョンをわかりやすく解説した地図(町の飲食店、雑貨類販売店で使える割引クーポン付き)いっぱい作ったのに!! 宿屋をVIP待遇で泊まれる年間パスもいっぱい作ったのに!! なんで!? 町の中に映えるスポットいっぱい建てたのに!!」


 このままではまずい!

 新たな戦略を練らねば!!


 そして誰かがこんな事を言った。


 「いっその事、勇者割引とか始めたらどうっすか?」

 「ん? 何それ? どういう事?」

 「だから勇者割引っすよ! この町に来て、自分は勇者だ! って名乗れば誰でも勇者として町から歓迎されるってサービスするんすよ!」

 「いや、それウケるかな?」

 「ウケますって! むしろ冒険者じゃない、戦闘能力のない一般人にウケると思うっすよ? 誰しも勇者に憧れますからね! 戦う力なくても勇者だ! って名乗ったら勇者だと待遇してくれる。冒険者も兵士になるのも諦めた村人A町人Bといったモブ人にはたまらないサービスっすよ!!」

 「モブ人言うな!! しかし、それもそうだな……アリかもしれん!!」

 「そうすると町の周りのダンジョンもどきもアトラクション要素増し増しにします? ほら、ここは安全に管理されたダンジョンです! 遺跡です! って感じで売り込んで! ボスの魔物も喜んでやられ役やってくれるでしょ! 勇者体験アトラクションっすよ!!」

 「いいねそれ!! 勇者を体験できる町グルホス! いいんじゃないか!?」

 「キャッチコピーはこれでいきましょう! ここでしか味わえない感動とスペクタル! 今こそ勇者となって世界を救おう!! 世界グルホスが君を待っている!」

 「いいよいいよ!! これは絶対バスるよ!! 世界最大のリゾートテーマパークになるよ!!」

 「これは勝ったな!! ガーッハッハ!!」


 こうして新たなプロモーションの元、勇者体験ができる観光の町グルホスは都心部に猛アピールを仕掛け、驚くべき事に観光客がどんどんと訪れるようになったのだ!

 まじかよ!?そんな事ってある!?

 でも、そうなったのだから仕方がない……こうしてグルホスは自称勇者が溢れかえる町となった。



 そしてグルホスが観光地化されて数十年……

 人魔大戦は戦線の過剰拡大による硬直化と魔王と勇者、それぞれの陣営の切り札が独断専行し過ぎて戦略が両陣営取れず、ワンマン行為を繰り返すトップやエースに頭を抱えた両陣営の軍師が密かに密会、会合し秘密裏に休戦協定を結んでいた。


 表面上は勇者と魔王の顔を立てて争ってる風を装うが、事実上戦争は終結した状態になってしまったのだ。

 ちなみに、この事実を知らないのは勇者と魔王のみであり、関係者からの証言によると、彼らは今だ終わることのない戦いを繰り広げているらしい……


 いや、そろそろ周りがやる気なくて戦ってないことにいい加減気付よ!どんだけ鈍感なんだよ勇者と魔王!


 そんなわけで、人魔大戦の最前線。

 人間の支配地域と魔族、魔物の支配地域が交わる係争地、西部戦線は穏やかに今日も異常なしであった。


 そして西部戦線が異常なしであれば、より一層、戦火を忘れた民衆は日常に刺激を求める。

 つまりは勇者になってダンジョンを探検し、魔物のボスを倒す体験ができるグルホスの人気が高まるというわけだ。


 しかもグルホスの町役場の観光課は欲を出して魔族側からの観光客も呼び込もうと新たなアトラクションを建設。

 王城っぽい建物を建てて勇者役を配置し、魔族の方限定で勇者を倒す魔王を体験できるアトラクションを作ったのだ。

 この魔王体験アトラクションは当然ながら魔族の方々に大好評となり、グルホスにはこのアトラクション目当ての魔族が押しかけるようになった。


 こうしてグルホスの町には自称勇者と自称魔王が溢れかえり、町の財政はウハウハで更なるアトラクションが次々と建設される事となった。



 この物語は、そんなすべてがアトラクションで虚像の町、グルホスで巻き起こる廃課金サイドに堕ちた男がくりなす復讐劇である(仮)

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