第95話 救助活動
見つけられればどうにかなるというストロングスタイルの救助活動。救助員全員が猛吹雪の雪山を1日元気に走り回れます。
シグルさんと別れて、傾斜を頼りに山の奥を目指す。とりあえず上に登ろう。一応大雪の際の行動は冒険者ギルドで指導されているらしく、動けそうな者は街道を目指して下山、動くのが難しい者は風を避けられる所で一時避難をしているはずだとのこと。
『すみません、遅くなりました』
ズルリと影からナイトが現れる。猛吹雪に声が消されないように影がドームのように俺たちを覆う。
「アヌカには入れた?」
「入ろうと思ってお二人に書状を頂いてきたのですが、再び門に戻ったときにフィニス様が門までいらっしゃっていまして。その場でお話を伺ってきました」
フィニスさんが外壁まで出てきたのか。
「やはり複数組の冒険者が帰還できていないようです。街道で騎士団と、救助に当たっている冒険者のパーティメンバーの方々が避難拠点を設営、避難者を受け入れています」
シグルさんのパーティメンバーが作っていると言っていた拠点かな。アヌカは街のそばが平地じゃないから外に出て依頼をこなす冒険者はほとんどが入山してるんだよな。
「わかった。俺もさっきシグルさんと会って簡単に聞いてるから、とりあえずはこのまま捜索に参加するよ。ナイトはどこか場所を見つけて拠点を作っておいて。アースに火を強めに熾してもらって、休憩拠点を設けておきたい」
大きな拠点を作っていれば吹雪の中無理に下山する必要もないし、救助員が発見した遭難者を一時預かりしてみんなで動けばリスクも分散されるだろう。低ランクの子の総数が増えるけれど、シルバーやカッパーの冒険者の数も増えるならそれだけ監督できる目も増える。
「承知いたしました」
頷いたナイトに天幕と絨毯、一番大きい桶と、俺とナイトが使っている大きな毛布を預ける。ウォームシープの毛布は念のため俺が持っていよう。携帯食やコーンスープが出る水差しも。
ナイトとも別れて山を歩く。全力で走り回ったら音とか姿に気づけない可能性があるので早足で進む。
しばらく進んでいるとボムが急に顔の前で小さく弾けた。
「どうした?」
訊いてみるとポンポンと小さく弾けながら飛んでいく。慌てて追いかけていると人影が見えた。
「ボムすごいぞ! お手柄だ!」
プスーンと若干ドヤ感が感じられる爆発をしたボムを肩に乗せて人影に近づく。
「おーい! 大丈夫か!?」
声を張ると聞こえたのか人影が大きく動いた。たぶん手を振っている。耳がいいな。獣人か?
近づくと予想は当たっていた。オリバーたちより少し体格がいいヒョウの獣人だった。男の人かな?
会話のために土壁を作ると少し驚かれた。
「君は救助員ではないな? 一人か?」
「はい」
確認するとやはり遭難者の一人だった。ランクは……シルバーか。なら下山しようとしていたんだろう。
「怪我は? 指先の感覚がなかったりはしないか?」
「俺は平気です、種族柄冷えにも強いですし。ただ、ここを登ったところに子供たちのパーティがいるので保護して頂きたいです。怪我をしていたので一緒に下山は危険だと思って比較的安全だと思われる樹の洞に避難させました。崖の近くで、途中の樹に目印になるように黄色い布を巻いています」
下山して救助を要請するつもりだったのか。
「了解した。その子たちは私が責任を持って連れ帰る。ちなみに、ここから下山するとどのくらいの時間がかかる?」
「お願いします。ここからの時間ですか? 雪で遠回りをしなければならないから、4時間くらいでしょうか」
この猛吹雪の中、4時間雪中行軍……。
「ボム、他の子を1体ここに呼べないか?」
いくら寒さに強いと言っても無茶だろう。この世界の人が丈夫とかそう言う次元の話ではない。
ボムに訊いてみると、少し考えるように浮かんでから俺の手を押してくるので素直に従う。手の平が陰になるように手を上げると、その陰からボムが現れた。
……その陰でいいの? いや、というかその陰である必要あった? 普通に今日影を出入りしてたよね? 何? 気分? 呼んでもらったから単純な出入りとは違うのかな?
「ぷー!」
……鳴いた!?
え、いやちょっと待って? なんで急にそんな特技を披露し始めるの? 困惑がすごい。どこで発声しているのかめっちゃ気になる。
「ボムって鳴くんですか?」
「私も初めて聞いた」
ぷっぷっと鳴き続けているボムを撫でながら褒めて礼を言うと静かになったので、褒めて!という意思表示だったようだ。知らない間に育っているなぁ……。でもリーダー格の赤い子以外は無理なのかな。今来てくれた子は赤い子を真似して跳ねているけれど鳴いてはいない。この子も撫でておこう。来てくれてありがとうね。
「ボム、この人をナイトの所に案内できるかい?」
撫でながら訊くと、ボムが元気に跳ねた。よし、じゃあ頼もう。
「休憩拠点を用意しているから、この子について行ってくれ。拠点でナイトという首無し騎士が作業しているから、元気ならそちらを手伝って欲しい」
「首無し騎士?……いえ。わかりました。子供たちをお願いします」
「勿論だ。任せてくれ」
いろいろ疑問を飲み込んでくれたらしい。ボムたちを送り出そうとして空が明るくなったことに気づいた。
ボンボンと花火のように複数回空で光が弾ける。あっ、合図忘れてた。えっと、彼は救助完了で、この場ではないけれど不時泊してもらうから、二、三、二、それから三秒間。そして一回を四度。
「では気をつけて。頼んだよ、ボム」
ポンと軽く弾けたボムとヒョウの人を見送って、山の上を目指す。とりあえず崖に着くまで登ってしまおう。
少し速度を上げて走り、崖まで行き着いたので、目印の布を探す。ほぼ直線で登ってきたつもりだけど大幅に逸れている可能性もあるし。ボムと二手に分かれて布を探していると、視界の端でひらひらと布が揺れた。
「ボム、あったよ!」
この近くにいるはずだ。寄ってきたボムと一緒になって子供たちを探す。パーティと言っていたからには複数人だろうし、大きな木の洞に入っているだろうから目立ちそうなんだけれど、如何せん視界が悪い。
これ、知覚できないけどだいぶ気温も下がっているだろうな。早く見つけないと。というか、背後で結構な頻度で合図が上がるからすごく焦る。俺めちゃくちゃ遅いのでは?
しかし焦って見落とすのは絶対に避けないと。遅いのだって仕方ない。だって雪山での救助活動とかしたことないし。見つけてしまえばどうとでもできるだろうからとにかく見つけることを考えよう。
そう思っていると、ボムが目の前に来て弾けた。
「見つけた?」
ギュンっと飛んでいくボムを追うと、違うボムが大きな樹の下で1体跳ねていた。
「そこか!?」
「ぷ!」
ぽんと弾けたボムに照らされて洞の中に子供たちが見えた。毛布か何かを被って暖を取っているようだ。ボムには気づいていないようだけれど、これだけ風が吹いているとボムの弾ける音はかき消されるか。
雪を撥ね除けながら近づくと、さすがに重たい音で気づいたのか子供の一人が顔を上げる。見えた顔がぱっと明るくなる。
「全員無事か?」
洞を覗き込むと子供は五人。頷きながら女の子が口を開く。
「救助の方ですか?」
「ああ、君たちを助けに来た。確認なんだが、シルバーランクのヒョウの獣人にあったかい?」
「はい。その人が毛布を貸してくれて、助けを呼んでくれるって」
当たっていた。よかった。
「ボム、近くを一通り確認してきてくれるか? 私はこの子たちを連れて帰る準備をしておくから」
了承するように弾けたボムか2体別々に飛んでいく。ボムが行ってしまったのでランタンを出して灯りを確保した。
「怪我をしている子は?」
「あ……俺です」
見せてもらうと足首がかなり腫れていた。酷い捻挫か、もしかして折れてる? 無理に連れ歩かなかったのは正解だな。回復薬を鞄から取り出して渡す。
「このランクの回復薬で完全に治るかはわからないけれど一応飲んでおきなさい。他に怪我をした子は?」
「擦り傷くらいなので大丈夫です」
ならよし。
鞄から俺の着替えのシャツを取り出す。
「全員装備の上からでいいから被って。だいぶマシになるはずだ」
俺のシャツを羽織って暖かいと驚いている子供たちに毛布も被せて、スープをマグカップに注ぐ。シャツで寒さは防げても失った体温が戻ってくるわけではないから、内側から温めるしかない。
蜂蜜たっぷりのパウンドケーキも大皿ごと出して食べさせる。かなりハイカロリーなケーキだけれど今のこの子たちには何よりもカロリーが必要だろう。
しかし、どうやって運ぼうか。
雪はいつの間にか膝丈まで迫っている。子供の身長では太腿の半ばまで埋まるだろう。歩かせるには過酷だし、担ぐにしても五人はいくらなんでも多い。重さ的にはいけるだろうけれど下敷きになる子が可哀想すぎる。
しかしこれ、自然な気候変動では無いよな。さすがに降雪量が多すぎる。魔物のせいか?
『ナイトかロボ、どちらか手空いてる?』
『今はぼく無理!』
『私も怪我人の輸送中です』
『いや、忙しいなら大丈夫だ。ありがとう』
さて、どうするか。二人の手が空くまで待ってもいいけれど、そろそろ日が暮れる。これ以上暗くなる前にできればもう少し捜索したいし、怪我をしている子だけ担いでなんとか休憩拠点まで行ければいいんだけど……。
『お兄ちゃん、ネコが行くって!』
『え?』
ネコが? ごめんだけどネコが来てもできることはかなり少ないというか、ほとんど無いぞ。
そう思ってロボに返事をしようとしたとき、影が不自然に大きく広がった。
ネコが出てくるには大きすぎる。咄嗟に剣を抜いて待ち構えると、ドシッと大きな前脚が影から出てきた。
そこから姿を現したのは、なんと言えばいいのか。ライオンが雪国に適応したらこうなるのか?って感じの、鬣以外の部分も増毛したホワイトライオン?だった。
「…………ネコ?」
「ぐるるん」
返事しおったぞ。鳴き声が猛獣。
いや、確かに妙に細長い二等辺三角形の耳もピンクの鼻もネコっぽくはあるんだけどね? サイズ感が狂っている。
ロボほど大きくはないけれど、地球のライオンよりは二回りくらい大きいだろう。ネコとは比べることもできない。顔の上に寝転がれるであろうサイズ。
あとネコは灰色が強いキトンブルーの目だったのに、このライオンの目は赤みがかった金色だ。何? 大きくなったから目の色が変わったの?
「魔物?」
子供の一人が怯えたように呟くのでどうしたらいいのかと考えていると、戻ってきたボムが平気な様子でライオンの頭の上に乗った。
「……心配ない。私の随獣だ」
剣を鞘に収めて子供たちに声をかける。ボムが平然としている以上あの子はネコなんだろう。なんで今日みんな急に特技を披露し始めるの? びっくりするから事前にそれっぽい気配を出しておいてほしい。
『ユウ、その、ネコで大丈夫ですか?』
『うん。大丈夫そう』
ナイトから心配そうな念話がきた。その心配は俺も同意。今説明してもたぶん混乱させるだけだからあとでちゃんと説明しよう。
「ネコ、お手伝いしてくれるか?」
「ぐるん」
むふんという顔で寄ってきたネコを撫でる。
「ボム、他の人はいなかった?」
「ぷぅ!」
ネコの頭の上に乗ったボムに訊くと跳ねるけれど飛んでいく様子はないのでいなかったんだろう。
「ありがとう。助かるよ」
では行動に移ろうか。子供たちを見るとスープは飲みきっている。
「体は温まったか? そろそろ移動しよう」
「はい!!」
よし。声に元気が戻ったな。
「二人は私が抱えるから、三人はネコの背中に乗ってくれ。急いで休憩拠点まで向かおう」
五人パーティで男の子が二人に女の子が三人か。回復薬を飲ませたけれど怪我をしていた子は踏ん張らせないほうがいいかな。女の子にネコに乗ってもらって、男の子を俺が抱えよう。
「あの、自分で歩きます」
「いや。しばらく待っても吹雪が収まりそうになければこの吹雪の中を下山することになるかも知れない。少しでも体力を温存しておいたほうがいい」
あとたぶんこの子たちを抱えて俺が歩いたほうが子供たちに歩かせるより速いと思う。
「毛布にしっかり包まって、雪が毛布の中に入らないように気をつけて。濡れると一気に体温が持って行かれるぞ」
合図の火を打ち上げ、穴から出てきた子供たちをネコに乗せる。
「女の子はネコに乗ってくれ。ネコ、重くないか?」
「ぬーん」
どんな感情の返事なのそれ。平気そうに立っているからまあいいか。
もう1体のボムも帰って来たので、1体に先導してもらい、もう1体に周りを探してもらいながら拠点を目指す。
万が一にも落とさないようにネコの後ろを歩いているけれど、雪も、子供の重さもものともせず元気にどんどん歩いて行く。
除雪車並みに雪を撥ね除けているので、もしかしたら子供を歩かせてもよかったかも知れない。まあ今になって降ろすのはなんか格好がつかないのでこのまま行くけれど。
ボムが鳴き始めたのは主人公の血液を大量摂取していたためですが、ネコが大きくなったのはネコ自身がなんとなく大きくなろうと思ったから。




