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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第94話 暴風雪警報

 ガンジさんが見送ってくれるとのことで一緒に門に向かっていると道がやたら混んでいる。

「何かあったのだろうか」

 荷車が詰まっている? 道の脇に荷車がたくさん並んで順番待ちをしているようだった。事故にしては混乱はしていないみたいで静かだ。

「ああ、外に出るのに時間がかかるんだよ。荷車を外用に替えないといけないからな」

「外用に替える?」

 なんとなく呟いたことにガンジさんが返してくれた言葉の意味がわからず、なんのことだと思っていると、遠くに門が見えたので理解した。門の向こうが一面雪で真っ白に染まっている。

 街は薄暗いけれど外は快晴らしい。暗さに慣れた目に光が眩しい。

「お外真っ白!!」

 興奮してロボが走り出してしまったけれど、しっかりした子だから勝手に出て行ったりはしないだろう。背中に乗っていたのでアースとネコもロボと一緒だったのにアースだけ戻ってきた。

「ギュウ……」

 なんだか急に元気がなくなったな? 肩に止まって首に顔を押しつけてくる。

「寒かったそうですよ。ユウ、マントを出してあげてください」

 あー、そっか。まあドラゴンって爬虫類っぽいもんね? 寒いのは苦手か。マントを羽織るとボリュームのある襟の中に入ってきた。そこ好きだねぇ。

「動けないほどではないんだな」

「ドラゴンですからね。この程度の寒さで動けなくなったりはしませんが、好きではないのしょう」

 好きじゃないだけか。どうにもできない不調でないなら大丈夫かな。ナイトもシャツにニットベストだけだし、強い魔物は寒さにも強いのか?

 門のギリギリで尻尾を振りながら外を見ているロボとネコを呼び戻して冒険者たちの列に並ぶ。外用の荷車ってなんだろうと思っていたけれどソリだった。まあこれだけ雪が積もっていると車輪じゃ無理か。

 ここでソリに荷物を移し替えて外に出て行くからこんなに並んでいるんだな。

「ソリに何が被せてあるんだ?」

 荷台の下の板に毛が生えている。何あれ。

「ボアの皮だな。毛が雪を弾いて進みが良くなるんだ」

 へー。

 大変な作業だろうけれど、慣れているのか意外とテキパキと積み替えていくのを横目に見ていると俺たちの番が来た。

「見送りまでしてもらってすまない。世話になった」

「気にすんな。というか、呼んだのはこっちだからな。追加でお使いまで頼んじまってるし。まあ心配ないとは思うが道中気をつけて。また夏の初めにでも遊びにおいで。モンキーポッドの花が見事だぞ」

「これだけ大きな樹でお花見か。それは楽しみだ。是非また来させてもらう」

 街を覆うモンキーポッドに満開の花が咲くのはとても見たい。仮面が鎧になったので、雪をキラキラした目で見ているロボを促して大きくなってもらい背中に登る。ナイトはガンジさんに一礼してからネコを抱えて影の中に入っていった。

「では、さようなら」

「おう」

「さようなら、ガンジさん!」

「ギュー!!」

「はいよ。さようなら」

 手を振って別れ、ロボが外壁の外に飛び出す。

 本当に見事な銀世界だな。メリーシープみたいな平地にいる魔物は山に籠もったんだろうか? 足跡も何も付いていない真っ新な雪は見事としか言いようがないのだけれど、それにしても積もりすぎでは?

 街道は踏み固められているので下がっているけれど、積もりっぱなしの所は1メートル近いんじゃないか? ロボの通った跡が深々とした轍になっている。

「ロボ、走りにくくない?」

「全然平気だよ。ボフボフして楽しい!」

 それならいいんだけど。雪がすごい舞っている。

「アースは? 寒いなら影に入ってるか?」

「ギュイ」

「楽しいから見てたいって。襟の中あったかいから平気って言ってるよ」

「そっか。それなら良かった」

 襟から顔だけ出しているアースは楽しんでいるらしい。雪は深いけれどいい天気なのでボムを陽光に当てておこう。瓶からボムが出ると卵が動いて危ないかと思ったけれど、卵はアースが持ってくれたので安心。

 雪を巻き上げながら走るロボは遠くから見るとどう見えているんだろう。英智に見せてもらった、雪をものともせずに走るヘラジカの動画みたいになっているんだろうか? それにしても、自分で出しておいてなんだけれど、ボムたちはいつの間にロボに併走して飛べるようになっていたんだろう? ロボが巻き上げた雪の塊を撥ね除けながらついてくる。

 街道を逸れて真っ直ぐに南下する。ロボの脚のおかげでかなり進んだけれど、それでも1日では雪が積もった地域を抜けなかった。

 今日は雪中泊だな。まあロボとアースが雪を溶かして地面も乾燥させてくれたので、ただの雪見泊って感じになったけれど。

 ナイトが影の中で下準備してくれていたご飯を温めている間、ロボたちはアースが尻尾を使って雪の中にボールを投げロボとネコが雪に突撃して取ってくるという遊びをしていた。寒さよりも遊びたい欲が勝ったらしい。

 今晩のメインは鯖の塩焼き。肉じゃがと味噌汁、きんぴらゴボウを添えて。白米が進む。食後に洗い物を終わらせて焚き火を見ているとナイトがココアを淹れてくれた。

「どうしました? ぼんやりとして」

「んー、いや。昨日言われたことを考えてた」

「昨日言われたこと?」

 首を傾げるように上半身を揺らしたナイトに頷く。

「俺が自分をジャイアントボアだと思い込んでいるフェンリルだって話。全く実感が無くって」

 何度考えてもそうこまで言われる程の力があるとは思えない。魔物相手ではラランさんのほうが上だとも言われたし、どういう評価だと受け取ればいいのだろうか。

「私は適正な評価であると思っていますよ。そう思えるような力が出ないというのは、なんと言えばいいのか……おそらくユウは肉体のポテンシャルに対して精神が追いついていないというか、これまで地球で過ごしていた経験から無意識に理性がストップを掛けてしまうのでしょう。だから咄嗟の瞬間であったり、発狂していたりする思考が介入できないときだけ本来の実力に近い力が出るのでしょうね」

 ナイトが言うならそうなのだろうか?

 咄嗟の瞬間はともかく、発狂したときの山氷漬け事件に関して確かに理性のストッパーは外れていただろうけど。自分があんなことができるとは思ってないから考える余裕があるときにはあんなことしないしできないだろうな。

「今のままがいいのかな? ただでさえ制御が利かないのに、力だけ強くなっても困るよね?」

「どうでしょう? 暴走の可能性がある状態をコントロールの方法もわからないまま放置するのが良いとは思えませんし、どなたか適切な方に師事できれば良いのですが」

「師事……となるとシオンさんやウィルとかかな? でも二人とも忙しいよね」

「そうですね。旦那様に頼んだところで怪獣二号ができあがるだけでしょうし、旦那様のご友人にお願いできればいいのですがそれは難しいとなると、もういっそダンジョンなどで缶詰して体に限界を叩き込むかですね」

 父さんは怪獣一号なの? あと、缶詰は嫌です。ゲームのレベル上げじゃないんだから。

「ナイトは無理そう?」

「私は発生したときから今と同じ力がありましたので……ロボの修行もアドバイスをしながら危なくないように見ていただけですし、そもそも魔法では得意ではありませんし、自力で制御できないユウに教えるのは難しいですね」

 ロボの修行ってそんな風に行なわれていたのか。

 どうしたものかな、腕を組んでみるけれどなんの案も出ない。

「少なくとも今の力のなら暴走しても私たちが止められますから、今のところは心配ないでしょう」

 それは、心強いと思っていいのか?

 父さんが友達を和解?するのを待つしかないか。父さんが友達に俺のことを説明することを和解と言うのかはともかく。

 打開策がないので、そのまま話は流れて風呂に入って寝た。



 テンカレを出て数日は晴れていたのだけれど、あと数時間でアヌカに着くだろうというときに急に天候が崩れた。北から迫ってきていた分厚い雪雲が想像以上の速度で広がり、ロボが追い越されてしまった。

 日陰に少し雪が残っている程度だったのに、雪雲が空を覆ってからは一気に吹雪いてどんどん積もっていく。

「ロボ、大丈夫か?」

「ぼくは平気!」

 アースは堪らず影の中に避難したようで襟の中が空く。

 昼前にも関わらず空は真っ暗だし、視界は吹雪で覆われていて数メートル先も危うい。完全にホワイトアウトだ。

「ボム! 戻っておいで!」

 散っていたボムを呼び戻していると顔を出したネコが一瞬で引っ込んでいった。寒かったんだね。1、2、3……よし、13体全部いるな。

 ネコが戻ってすぐにナイトが出てきた。

「これは酷いですね」

 ロボがキョロキョロと首を回す。

「寒くはないんだけど雪で方向がわかんないよ……」

 確かに。真っ直ぐ進んでいると思っていても違う方向に進んでいそうだ。

「アヌカの街の外壁の影をマークしておきましょう。魔力を辿れば街に着きます」

「わかった」

 便利だな。

 それにも、この時間からの吹雪っていうのはちょっと拙いことになっているかも知れない。

「ナイト、アヌカに行って様子を見てきてくれる? もしアヌカの近くも吹雪いているようならヴァネッサさんとガンジさんから話を通してもらって、アヌカの冒険者ギルドマスターのフィニスさんの所に行って街の外にいる冒険者たちの人数を教えてもらってほしい」

「承知しました」

 一応信用証もナイトに預けておく。

 ナイトが影に入るのを確認して風に煽られるだけのマントを仕舞いロボにアヌカに向かってもらう。吹雪が収まる気配は無い。

 山道をロボの脚で2時間ほど走ったとき、光が見えた。

「ロボ」

「うん」

 光に向かって行くと、人影のようだ。

「ユウか!?」

 近づいていると吹雪に負けない声で名前を呼ばれた。知っている人か? ロボから飛び降りて半分滑りながら顔がわかる距離まで近づくと、平原での討伐依頼に参加していた冒険者だった。顔にドラゴンの入れ墨があって印象的だったのでよく覚えている。

「シグルさんか!」

「おう! でっかい影だったからまさかと思ったが、あんたで良かった!」

 風が強すぎてほとんど怒鳴り合っていても聞こえにくい。風上に立ってくれたロボにひっついてようやく普通に会話ができるようになった。

「パーティメンバーは?」

「あいつらは街道で拠点を作って待機してる。元々レニアからアヌカまでの護衛依頼だったんだが、この天気だ。街道にいる商人たちは騎士団が保護した」

「では、シグルさんは帰還していない者の捜索中か」

「話が早くて助かる。ゴールドランク以上は全員ギルドと騎士団からの依頼を受けてかり出されてるんだ。手伝ってくれるか」

 ナイトが街も吹雪いているとは言ってたけど、やっぱり急な吹雪で街に帰れていない人が多いんだな。

「勿論だ。どこを探せばいい?」

「山の奥の方を頼みたい。どうしても機動力が必要だからな。もし発見したら火を二回、三回、二回の順番で打ち上げてくれ。そのまま救助できそうなら続けて三秒間。単独での救助が困難なら三回を二度」

「発見で二、三、二。救助成功なら三秒間。救援要請は三回を二度」

 復唱して覚える。

「救助要請があったら近くにいるなら二回を二度上げてやってくれ。救助後は街道に降りて近くにある拠点に預ける」

 救援に迎えるのなら二回を二度。救助後は街道に出る。オッケー、覚えた。

「救助員はみんな光を持っているか?」

「ああ。目印になるからな」

「了解した。ロボ、手分けして探そう。それで、もし救助要請があったら影を通って助けに行ってあげてくれ」

 雪と風で自然の影を探すのは難しいだろうけれど、ランタンとかで作られた影ならはっきりとしているから大丈夫だろう。

「光があるなら大丈夫だと思うけど、ぼく怖がられないかな?」

「大丈夫だろう。さっきも言ったが救助員はゴールドランク以上だ。ユウの噂は届いているし、俺みたいにレニアから来ている奴もいるはずだ」

「わかった! 頑張ってお手伝いするね」

 ごめんね。お願いするよ。

「ボム、君たちも手伝ってくれるか? 何体かは私とロボの近くで目印役を、残りは遭難者を捜してほしいんだが」

 少しでも人手が欲しい。瓶ではなく影に入っていたボムに呼びかけるとみんな出てきてくれた。2体がくっついて大きめの灯りになりになってロボの上に乗り、リーダー格の赤い子が俺の横についてくれた。残りの10体は散っていく。

「あ、もし発見した場で吹雪が止むまで待機させるなら一回を四度だ」

「了解した」

 その場で待機してもいいならナイトの状況がわかれば避難拠点を作ってもらおう。

 それにしてもこの世界、マジックバッグがあるとはいえ、救助員一人一人が要救助者を複数人抱えて雪山で不時泊(ビバーク)できるだけの能力があると思うととんでもないな。無線が無いから連携が取りにくくて不便とかそういうのを力尽くでねじ伏せていく。


数十年に一度の大雪にぶち当たる程度の幸運値。

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