第93話 ペンペンさらば
反省会兼慰労会を終え、両替したお金を受け取ってダンジョンに入る前に借りていたギルドの部屋に戻る。久々にベッドで寝られる。そして何よりも風呂に入れる!
何故か汚れていないペンペンたちがベッドに転がり、ナイトは寝てしまったネコを濡れタオルで拭いてから入ると言ったのでロボとアースと一緒に先に入る。ロボが結構砂埃を含んでいたけれど、一度流してしまえば二度目の泡は綺麗になっていた。この石鹸がすごいのか?
ロボは湯船には入らないでいいらしいので俺とアースが入っている間に体を魔法で乾燥させていた。便利ぃ。
毛を渇かしたあとロボが念入りに毛繕いしている間にゆっくりと体を伸ばす。
そんなに疲れていないと思っていたんだけど、お湯の温かさが染みる。左腕はユイさんがすぐに治してくれたので見た目では折れていたなんて全くわからない。治癒魔法すごいなぁ。
十分に温まり、パジャマ代わりのスウェットを着てアースをタオルで拭きながら部屋に戻りナイトと交代する。ネコは枕の上で完全に夢の中のようだ。
ロボはネコがいるベッドに上り、俺はアースを抱えてその横のベッドに入る。アースもすぐにでも寝ちゃいそうだな。
ロボがシーツから顔を出す。
「ペンペンちゃん、減ったね」
「そうだね……半分くらいかな?」
二つのベッドの上で好きに転がるペンペンたちの数がだいぶ少ない。
ナイトの話ではダンジョンから出た時から少しずつ減っているらしい。本当に外に出たかっただけなんだな。
……これ、ロボたちがペンペンに囲まれているのは可愛いけれど、俺とナイトもこのぬいぐるみが大量に転がっているベッドで寝るの? 地獄絵図では?
ピヨピヨと鳴きながらコロコロと転がるペンペンが可愛いので考えるのを止めよう。
「ボムたち、ご飯?」
どうだろうか? 瓶から出してみるけれど部屋を漂うだけで寄ってこないのでお腹は空いていないのかな?
「まだ平気みたいだ。明日陽光に当ててあげるよ」
「わかったー。あ、明日ゆき見れる?」
「見れるよ。帰りは雪の中を走ってもらうことになるから、疲れたらすぐに言うんだよ」
「うん!」
元気な返事を聞きながら瓶の中を確認してみるけれど卵に変化は見られない。無精卵なのかな……。それとも温度が低い? 孵卵器みたいなのに入れないと駄目か? でもボムがぽかぽかしているから結構温いと思うんだけど。
風呂から出てきたナイトに寝なさいと促されて布団を被る。すぐに眠気が来た。
翌朝起きるとモンキーポッドに積もった雪のせいでやはり薄暗い。室内にいると寒さをほとんど意識しないでいいのは西洋風の建築だからだろうか? そんなことを考えながらベッドを見るとペンペンの数がまた減っている。
もうナイトの存在もバレているので一緒にダイナーに向かうと一瞬ギョッとされたけれど、昨日見学していた冒険者が多かったのかすぐにそれぞれのテーブルで会話が再開された。
端の方にテーブル席が空いていたのでそこに座る。俺とナイトはスクランブルエッグとポテサラサンドを食べ、ロボたちはテーブルの下に潜り込んでワイルドボアのステーキにかぶり付いている。ペンペンたちはポテトサラダがいいようだ。
食事をしているとガンジさんもダイナーに現れた。
「おう、おはようさん。一緒していいか?」
「勿論だ。どうぞ」
ガンジさんはBLTサンドか。
「今日中に立つのか?」
「ああ。孤児院に向かってそのまま帰ろうかと思っている」
そうかと頷いたガンジさんがテーブルの下を覗く。
「ペンペンたちはどうするんだ?」
「好きなタイミングで好きなところに移動しているようだ」
ポテトサラダをつついている数ですら起きたときよりも減っている。ダンジョンにずっといたということはこの子たちご飯を食べなくても平気みたいだし、思い立ったら即行動なんだろう。
曖昧に頷いたガンジさんに出る前に着いてきてほしい場所があるとのことで、食事終わりで同行することになった。
食事の代金を払ったあとガンジさんと一緒に外に出ると、俺とナイトの肩やロボの背中に乗っていたペンペンたちが地面に降りる。
「どうした?」
「ピヨー、ピヨッ! ピヨヨッ!」
可愛いペンギンのぬいぐるみが整列して敬礼している。どうしたんだろう、と首を傾げている間に、ペンペンの下に石のようなものが出現した。こう、ニュッと。雨後の筍ってこんな感じなのかな……。
卵? それにしては大きすぎるか。体長とほとんど変わらない。産んだわけではないだろうし。
「ピヨヨ」
出現した石?卵?から降りてそれを俺のほうに転がしてくるので、とりあえず受け取る。残っていた12体全員から預けられた。ナイトにバスケットを出してもらってタオルを敷いてその中に入れる。
「ピーヨ」
受け取ったのを確認したペンペンたちは満足そうに消えて行ってしまった。
「えぇ……?」
「お礼のつもりなのでしょうか?」
「どうなんだろうな」
持った感触は完全に石なんだけど、なんとなく光る卵に似ている気がする。これは鞄には入れないほうが良さそうだ。持ち歩けはしないけれど冷やさないほうがいいかな。
「本当になんだったんだろうな、あの子らは」
「調べてくれるのを待つしかないな」
父さんたちがどうにかしてくれるでしょう。
気になるのか匂いを嗅ごうとするロボとアースを止め、バスケットに入り込もうとするネコを阻止しつつ、冷えすぎないように女帝の織り糸製のシャツを上から被せてナイトの影の中に仕舞う。
これ孵化するのかな?
考えていても何もわからないからとりあえずガンジさんについて街を進む。
たくさん冒険者ともすれ違ったのでテイマーと思しき人もいた。連れているのは化け猫やイヌっぽい魔物が多いみたいだ。小さいサラマンダーみたいな魔物もいた。ウサギとかコウモリっぽいものも。
結構色んな種類がいるんだな。ロボもアースもネコも積極的に挨拶しに行くから、一瞬冒険者にも魔物にも驚かれるけれど、すぐに挨拶を返してくれる。怯えられなくてよかった。
案内されるままにたどり着いたのは、竈の前でハンマーが交差している旗が掛かった大きな建物。
「職人ギルドか?」
「お、よくわかったな」
「旗が冒険者ギルドと似ていますね」
建物は冒険者ギルドよりもゴツイ感じがする。なんと言うんだろうか、冒険者ギルドは役所とかの相談窓口って感じだけど、職人ギルドはここが工房だと言われても大きな工房だなと思いつつ納得してしまいそう。煙突から煙が出ているし、鉄の匂いがしている。
促されてギルドに入ると冒険者ギルドとは違ってホールにソファーやテーブルが置いてあった。向かい合って座り話し合っている人たちが何組かいる。受付カウンターはあるけれど冒険者ギルドのような掲示板は無いようだが店舗のように素材が陳列してある一角があった。
職人が情報交換をする場所といったほうが近いのかな?
ソワソワと見渡すロボたちを止めながらカウンターに行ったガンジさんを待っているとライヌさんが裏から出てきた。
「呼び立ててごめんよ。アヌカに寄るって話だったから頼みたいことがあってね」
いえいえ。
ライヌさんの頼みはダンジョンで採れたダイヤモンドをレニアとアヌカの職人ギルドに届けてほしいとのことだった。
「悪いね、お使いなんて頼んじゃって。お駄賃と言ってはなんだけれどギルドでの買い取り金は遠慮せずに貰っとくれ」
「そんな、帰る途中の街で寄るだけなんだから駄賃なんて貰えない」
完全についでだからと断ったけれど、断り切れなかった。こういうときの女性の押し切る力はすごいと思う。貰ったお金は寄付しよう。
ところで。
「ライヌさん、その、肩の上」
「ああ。どうにも懐かれちまったみたいでね」
ペンペンー。何してるの。
ライヌさんの肩の上でペンペンが1体ドヤ顔をしていた。
「土魔法を使うようですし、土と鉄の匂いが強いライヌ様のそばが心地よいのかも知れませんね」
そうなのかな? ライヌさんから鉄の匂いとか全然感じないけれど。魔物だと人っぽくても鼻が利くのか? いや、ナイトの鼻が利くってなんだよって感じなんだけど。
「何体かモンキーポッドに棲み着いたようですが、ヒトにも懐くとは」
「まあ、悪い子ではないだろうし大丈夫だろうけれど」
モンキーポッドにもいるのか。ご機嫌だしいいのかな。この街には父さんもそのうち戻ってくるし、問題がありそうならなんとかしてくれるだろう。
「突然家に現れたのには驚いたけどね。邪魔するわけでもないし、好きにさせるよ」
「そうか」
気まぐれでどこかに行くかも知れないし、なんかいるなぁ、くらいで連れているのがいいのかも。
ペンペンを撫でていたライヌさんが職員の一人に話しかけられて、そうだった、とロボたちに何かを差し出す。
「ロボちゃんたち、これ貰ってくれる?」
「なにー?」
差し出されたのは竹で編んだように見えるボールだった。バレーボールくらいの大きさだろうか。
「おもちゃ!」
ロボたちの目がキラキラと輝く。
「ダンジョンの鉄球ほどではないけど、強化魔術を刻んであるから力一杯噛んだりしないなら壊れないと思うよ」
鉄球をおもちゃと呼んだことをしっかり聞かれていたのか……。
「ありがとう。本来なら私が用意しなければならないのに」
「いいんだよ。こういう魔物向けの加工品ってのはあんまり売ってないだろう?」
そうなんですよね……。
ガンジさんが腕を組んだ。
「魔物をおもちゃで遊ばせるということ自体考えないからなぁ」
魔物は地球の愛玩ペットとは違いますもんね。牧羊犬とか猟犬に近いのかも。
一応雑貨屋に行ったときに探したりはしていたんだけど、人間用ではネコはともかくロボやアースが遊んだら壊れてしまいそうなものしか無かったから結局買えていなかった。
地球で買ったものに父さんに強化魔術でも掛けてもらおうかと思っていたけれど、この世界で手に入るとは。
「ありがとーライヌさん!」
「ギャオ!!」
「にゃー!」
三人がお礼を言ってロボがボールを受け取る。中に鈴が入っているようで、振るとチリンチリンと綺麗な音が鳴った。これは転がして遊んでも楽しいな。
ボール代は必要ないと言われたけれど、わざわざ作ってもらったこととロボたちが喜んでいるのでとなんとか受け取ってもらった。
魔石に魔術が刻んであるということで、魔石の中の魔力が切れてしまうと強度が下がるらしいのだが、魔石さえ用意すればサリカさんが直してくれるだろうとのこと。
違う街の職人ギルドのギルドマスターに名前が知れてるサリカさんって何者。
重ねてお礼を言い、街に届ける用のダイヤモンドを受け取って職人ギルドを出る。そのまま孤児院までガンジさんが案内してくれることになった。いきなり高ランク冒険者が訪ねたら驚かれるだろうとのことで、紹介もしてくれるそうだ。
「しかし、普通の冒険者は金が貯まると装備を新調したりするもんだが、真っ先に寄付とはな」
「今のところ新調しなければならない装備は無いし、博打もしないからな」
お酒もギルドの打ち上げで飲むくらいだし、お金を使う先が無い。物欲がそこまで強いわけでもないし、ナイトも同じく。ロボとアースも欲しがったのはお皿くらいだしな……あ、ネコに専用のお皿買ってあげよう。今のところどんな皿で出しても喜んで食べているけれど、もう少し育つと欲しがりそうだ。
孤児院でガンジさんに紹介され、優しそうなおばあちゃん院長先生に銀貨200枚入った袋を渡すとこんなに貰えないと言われたけれど、レニアのように頻繁に顔を出せないだろうから是非受け取ってほしいと頼み込む。
この孤児院は大きな金庫もあるそうだし、孤児院出身の冒険者も多く日頃から中堅の冒険者が寝泊まりしているとのことなので防犯面でも安全だろう。
「子供たちのために使ってもらえるのなら鞄の肥やしなっているよりもはるかに意味があります。私は稼ごうと思えばすぐに稼げますから、気にせず受け取ってください」
実際今回の依頼だけで寄付金の十倍は稼いでいる。魔物のランクが高かったから素材の数は少なくても買取り金額がえげつなかったので。スレイプニルの角とか。
しかし、言っててなんだけど鞄の肥やしってなんだよ。タンスの肥やしだよね。
「ですが……貴方様の生活もありますのに」
「心配なさんな先生、この兄さんは本当にめちゃくちゃ稼いでるから」
ガンジさんも説得に加わってくれ、なんとか納得して受け取ってくれた。よかった。ガンジさんがついてきてくれたのはこうなるだろうと予測していたのかも知れないな。
すごくお礼を言われたけれど、本当に、子供のために使ってくれるのならそれが一番ですから。
院長先生に見送られて孤児院を出る。よし、用事はとりあえず完了。
主人公は勇者が解決するだろうと思っているので自分がわかること以上はしません。
ペンペンの卵はそのうち解決します。




