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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第91話 戦乙女

 父さんが帰ったあとナイトを呼び、ダンジョンに異変の兆候が無いのを聞いてガンジさんたちが事務手続きに入った。世界樹の種子を鎧にしたままだったので、仮面に戻す。セーターは……とりあえずはいいか。室内だから許して。

「旦那様はなんとおっしゃっていましたか?」

「父さんもペンペンを見たことはないらしい、1体連れて行ってしまった。ひとまずの問題は解決したし、あとのことは任せてしまっていいだろう」

 一冒険者が手伝えるのはここまでかな。規制の解除とかはギルドと領主で話し合う問題だと思うし。仲間を連れて行かれてしまったけれど、ペンペンたちは特に気にしていないようだ。

 事務手続き、ということで部屋で待っていると依頼の成功報酬が出た。所持金が金貨1000枚を超えたよ。わーい。どうするんだよ、これ。細々とした出費はあるけれど、こんな一気に使うことなんて無いだろうしな……。

「この街に孤児院はあるか?」

「ん? ああ、そりゃあるが。どうした?」

 口調を戻したので一瞬詰まったけれどガンジさんはすぐに教えてくれた。

「寄付をしたいから、すまないが金貨を銀貨に替えてもらえないだろうか」

 そう言うとお金を持ってきてくれたトールさんとガンジさんが揃って目を丸くした。

「そんな理由なら、構わないが……いいのか?」

「ああ。今のところは持っていても使い道がないからな」

 ガンジさんが頭を掻く。

「急に入り用になるかも知れんぞ」

「余程のことが無い限りは足りるだけは持っているから心配ない」

 話し合い自体はもう終わったので、受付で両替してもらうことになりホールに降りる。

「じゃあ受付に……」

 トールさんが言葉に詰まった。あらー、いっぱい並んでるね。時間感覚が麻痺しているけれど、もう夕方だったのか。

「ギルマスの部屋に戻るか?」

「いや、待つよ。私が言い出したことだ」

 両替のためだけに戻るのもね。

 並んで待っているとチラチラと見られている気がする。まあ、みんなマントなんかを着ている中で、薄着の見慣れない仮面の男がいると俺も見ると思う。ロボたちを連れていなくても目立っちゃうなぁ。

 しばらく並んでいると、背中に何かがぶつかってきた。

 振り返ると冒険者が二人。

「どこ見てんだコラァ!!」

 嘘だろ。こんな因縁の付け方あるか? 交通事故なら10対0でそっちが悪いぞ。こっち動いてないんだから。

「君たちがぶつかってきたんだろう。私は立っていただけだ」

「んだとコラ、テメー見たこともねぇ低ランカーがイキってんじゃねえぞ!」

「防具も買えないくせに仮面なんて付けて、馬鹿じゃねえのか?」

 今ランク関係ないでしょ。というか俺が低ランカーならアダマンタイトランク以外の冒険者全部低ランカーですが。この人たちは……ゴールドランクか。なんでこの人たちは登録証を確認しないのだろうか。

 待って、そもそももしかして俺今絡まれているのか? 人生初。日本にいたときはザ・不良みたいな人にも絡まれたこと無かったからなんか感動。感動している場合ではないんだけど。

 どう返すのが正解なのかがわからなくて黙っていると、調子に乗るなよ、ビビってんのか、と更に煽ってくる冒険者の後ろから角材が飛んできた。

 は?

「おい、危な」

 ゴッ。

 遅かったか。衝撃で倒れ込んできた二人を受け止める。さすがに角材で後頭部強打したあとに顔から床に倒れるのは可哀想だ。

「大変申し訳ありません。ユウ様、その恥さらしたちは捨て置いてくださいませ」

 声の方を見るとラランさんだった。え? 角材を投げたのラランさん?

「何すんだよラランさん!!」

「俺らは調子に乗ってる新人に根性入れてやろうとして!」

「お黙りなさい! 対峙している相手との実力差もわからない者がこの街を拠点とする冒険者だなんて、恥ずかしい限りです」

 復活した二人がラランさんに食って掛かるけれど、ぴしゃりと言い返される。

「こんな見たことも無い奴が実力者なわけないだろ!」

「俺らはゴールドランクだぜ!?」

 ラランさんに言われても納得できないのか文句を言う二人に、ラランさんが深いため息を吐いた。気持ちはわかる。登録証を確認したらいいだけなのに、何故しないのか。

「そんなにユウ様の実力が知りたいのなら見せて頂きましょう」

 見せて頂きましょう? ラランさんがこっちを見る。

「ユウ様、お疲れのところ恐縮ですが。手合わせをお願いします」

 …………はい?



 どうしてこうなったんだろうか。

 あれよあれよと話が大きくなり冒険者ギルドの訓練場を貸し切ってラランさんと手合わせすることになってしまった。あの、俺ラランさんとの実力差わからないのですが。恥さらし認定される?

 ガンジさんたちまで降りてきている。というか、さっきの二人はともかくとしてギャラリーが多い。副ギルドマスターが手合わせすることが珍しいのか?

「訓練場を壊されては敵わんから魔法、魔術の使用は禁止だ。お互いに体技のみで戦うこと。身体強化のみ許可する。勝利条件は相手の背中を地面に着かせるか、地面に引いた枠の外に吹っ飛ばすかだ」

 結局ガンジさんが仕切っている。枠線は話が決まって急遽訓練場に書かれた。サッカーコートくらいの広さだろうか? 訓練場自体がレニアの街のものより広い。

 絡まれてから1時間くらいで準備が完了してしまった。今更やりたくないですなんて言い出せないし、《烈火の戦士》の横でワクワク顔のロボの上に乗ったアースとネコもワクワク顔だ。ペンペンたちも何体かロボの上に乗って見ている。あんな期待の目で見られたらお兄ちゃん嫌とか言えない。

 万が一の自体に備えてナイトが影の中で待機してくれているからまあ大丈夫だろう。俺が怪我するならいいんだけどラランさんやギャラリーを巻き込んだら大変だ。

 距離を空けてラランさんと向かい合う。ラランさんのフリルのスカートが無くなっていた。あのスカート取り外し可能だったのか。ずいぶん動きやすそうな格好だと思ったけれど、さっきガンジさんが体技でと言っていたということはラランさん肉弾戦タイプ? 人は見かけによらないな。

 ラランさんがお辞儀をするのに合せて俺も頭を下げる。

「改めまして自己紹介を。私はここテンカレの街の冒険者ギルド、副ギルドマスター。『戦乙女』のラランと申します。以後お見知りおきを」

 ……二つ名持ちか! え、ガンジさんじゃなくてラランさんが二つ名持ち? ニッコリ笑うラランさんに驚きながらこちらも自己紹介を。

「『血塗れの鎧(ブローディ・アーマー)』のユウだ。お手柔らかに頼む」

 名乗るのに合せて世界樹の種子が仮面から鎧に変わる。

「では、始め!」

 ガンジさんの声を合図にラランさんが走り込んでくる。速いけれど、対処できないほどではないか? そう思った矢先。あと一歩で接触するというところでラランさんの姿が消えた。

 横! もう蹴りの体勢に入っている。

 防御、片手で、い、や。駄目か。

 工事現場みたいな金属同士がぶつかる音が響く。ギリギリ両手での防御が間に合ったけれど、力負けして踵が地面を擦る。

 嘘だろ。150センチあるかないかの小柄なラランさんがタロス並みのパワー持ってるの?

 押し返そうとした力を利用されて距離を取られる。体勢を立て直すのが間に合わなくて着地点に襲撃することはできなかった。

 ぱんとズボンを叩いて砂埃を払ったラランさんが笑う。お人形みたいな顔して、一撃がえげつないぞ。

「残念です。油断して片手で受けてくださったら一撃で決まりましたのに」

「勘だけは良くてな。みっともない負け方を晒すことにならなくてよかったよ」

 一発KOはさすがに恥ずかしすぎて泣くよ。これ、防御を失敗すると普通に吹っ飛ばされるから注意しないと。

 何度か打ち合うけれど、ラランさんのスピードに翻弄されて防戦一方だ。シオンさんみたいに全く見えないわけではないけれど、瞬間的な加速がすごい。一歩でトップスピードに持っていくんだな。

 直前まで目で追える速さだから、対比で余計に速く思える。俺に対して横にしか跳ばないのはそれが限界なのか、それとも欺瞞か? 完全な死角に入ってこない。

 上段蹴りしかしてこないのはわざとだろうな。これだけ動ける人が足払いできないなんてことはないだろう。

 しかし、反撃の手段が無い。たぶん腕力自体は俺が勝っているんだろうけれど、スピードが完全に負けているから掴まえられなくて攻撃ができない。

 ラランさんはテクニカルファイターなんだろうな。ラランさんと比べるとシオンさんがパワーファイターというのが納得できる。

 ギリギリで蹴りに反応できているのは直感と戦闘行動のおかげだろう。それでなんとか相殺に持って行けている。俺の力のほとんど父さん譲りの身体性能頼りなのが情けないな……。

 防戦一方なりに、なんとか目が慣れてきてどっちに跳ぶかはわかってきたところで足払いを掛けられた。

 慣れたと思ったらこれだよ! しかし想定していたので反応できた。即座に上体を捻って、地面を殴りつける。地面が割れて隆起し、足場が不安定になったのでラランさんは追撃を止めて距離を取ってくれた。

「さすがにその対処法は想定外ですね」

「想定外のことをしないと私に勝ち目は無いと思って」

 ラランさんが苦笑いを含んだ声で言うのに返しながら、視界を塞いでしまった場所から抜け出す。2メートル近く抉れて浮いている。あとで直します。

 防御にはできるがこのまま攻撃には転用できないな。ラランさんの速さだと逃げられる。それにしても、最初の蹴り以外は押されずに受けきれているけど、あれが最大火力だったのかそれすらも欺瞞か。

 どっちにしろ掴めないと勝負にならないので、接触する瞬間タイミングを計り、次で掴む、と思ったところで跳んだはずの先にラランさんがいない。

 いないと脳が判断するより先に体が反応した。しゃがんだ頭の上スレスレをボッと風が爆ぜる音をさせながらラランさんの脚が通過する。

 やっぱり横にしか跳ばないのは欺瞞だったか!!

 この位置関係なら二撃目はないはずから俺の体を蹴って離脱するだろうと思って、体を捻って脚を掴もうとしたのに避けられた。体勢が悪いのもあるけど、スピードの差が埋められない。

 俺が慣れたと思ったり、行動しようとしたタイミングで行動を変えてくるってことはラランさんも俺の行動を見て動いているんだな。手を抜かれていないことを喜ぶべきか?

 お互いに再び距離を取る。

 ラランさんの戦い方を見ていると、ヒットアンドアウェイってこう戦うってこういうことなんだろうなと学べる。俺は一々離れすぎだな。攻撃が届かない距離まで退いてからすぐに次の攻撃をしないといけなかったのか。悠長に次の手を考えている場合じゃ無かったんだな。

 対人戦闘はやっぱり楽しい。

 楽しいのはいいけれど、どうするか。このままいっても勝てる想像ができない。もう掴むことを諦めるか? 俺とラランさんの身長差なら、蹴ってきたときに一歩踏み込んでしまえば腕と脚のリーチ差なんて関係ないし。膠着状態になるだけだからラランさんが攻撃してこないということもないだろう。

 腕だけ身体強化すれば蹴りを片手で受けられるだろうし、よし、やってやるぞ。

 再度飛び込んできたラランさんの蹴りを一歩踏み込みながら受け、カウンターをお腹に叩き込もうとしたとき、気づいたら何かに激突していた。

 え? 何? というか腕痛い。

 状況を確認してみると、俺はどうやら場外に吹っ飛ばされたらしい。そのうえ土の壁に背中から叩きつけられていたようだ。天地が逆になっているなあとぼんやり思っているとズルズルと壁を伝って下に落ちた。

 悲しい。俺が何をしたというのだ。

 ラランさんに何か起こったのかと探すと、さっきまで俺が立っていたと思わしき場所でナイトが抱えていた。え、本当に何が?

「ギュー!!」

「お兄ちゃん! 危ないでしょ!!」

 突然ロボとアースが目の前に現れて怒られた。ロボにはしきりに危ないと怒られ、アースは尻尾でべしべしと叩いてくる。危ないって何?

 ラランさんを降ろしたナイトが近寄ってきたので、立ち上がってアースを宥めて抱っこしようとしたら、左手が上がらない。

あれ? とりあえず右手で抱っこしよう。

「ユウ、貴方はしばらくシオン様、ウィル様以外との手合わせは禁止です」

 めっちゃ怒ってる。え、俺何か悪いことした?

「ユウ、あの勢いで殴るとヒトは腹部に風穴が空く程度では済まないのですよ」


ラランさんの見た目は15,6歳くらいの小柄な可愛いお人形のような女の子です。年齢はギルド最大の謎。

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