第89話 身バレ
階層ボス部屋の扉が復活したのを確認して一旦セーフティエリアへ移動する。念のためナイトが扉が開かないように影で蓋をしておくらしい。
そして移動したセーフティエリアにて、ロボたちが影から出てきたぬいぐるみたちと一緒に遊んでいる横で俺とナイトはガンジさんたちの正面に座って話し合いの時間です。ガンジさんだけではなく、全員が座っているということはあの花はそんなにわかりやすいものだったのだろうか?
「で、単刀直入に訊くが、お前さんリアムの息子だな?」
わーい。断定された。しかしこれはもう完全にバレてるもんなぁ。
「ああ。顔を見せたほうがわかりやすいか」
鎧を解除してそのままバングルになってもらう。俺の顔を見たみんなが目を見開いた。ガンジさんが手で顔を覆う。
「頑なに顔を隠すとは思っていたが、そこまで似ていると隠すしかないか」
言い逃れができないレベルって言われたからね。ジェシカさんたちは他人と信じてくれていると思ってるんだけど……ジェシカさんには実はバレているかも知れないけど。知らない振りをしてくれているのだとしたら優しい。オリバーたちはたぶん信じてくれていると信じている。
「ちなみに、あの花が出てこなければ疑われなかったか?」
「まあ、リアムの関係者だとは思わなかったな。とんでもない実力者はちょくちょく現れるから」
良かった。顔バレさえしなければいいんだな。ライヌさんが首を傾げた。
「なんで顔を隠しているんだい? 《楽園の守護》を仕込んでいるくらいだし、リアム様に認知はされているんだろう?」
ガー、何?
「あれが《楽園の守護》でしたか。初めて実物を見ました」
ナイトがなんか納得している。
「それはなんだ?」
誰か俺にも教えて。説明を求めようとしていると目が合ったジンさんが教えてくれた。
「さっきの花に見えた魔術障壁だ。天災級どころか幻想級の魔物の攻撃すらはじき返す、勇者リアムが誇る絶対防御」
あの花、そんな厳ついものだったのか。いや、確かにスレイプニルの攻撃を防いでいたのだから弱いものではなかったのだろうけれど。
「その障壁というのは、結界とは違うのか?」
「結界は使用者から離れたところでは使用できませんし、先程のように状況に反応して発動するようにすることもできないです」
似たような魔術を使っていたユイさんに訊いてみると教えてくれた。結界よりは障壁のほうが使い勝手がいい感じなのかな? ちゃんとした違いはわからないけれど、たぶんどちらも俺には使えないだろうからなんでもいいや。
「本来、障壁は結界よりも勝手が利く代わりに強度は劣るんですが、リアム様は結界と同強度の障壁を展開できるそうですよ」
父さんは安定のチート。でも、俺も反結界なら破ったことあるんだよな。結界といっても全部が同じ強度というわけではないのか? 話を聞いているとガンジさんが咳払いをした。
「話を戻すぞ。なんで身元を隠しているんだ?」
あ、そうでした。ライヌさんに訊かれたのはそれだったな。
「父の希望だ。貴族に関わったりして面倒ごとに巻き込まれても困るからと」
「……リアムの息子で超強力な魔物を連れた随獣師、おまけに本人の実力も化け物クラスとくれば貴族連中としては繋がりを持ちたいだろうな。そりゃあ、リアムが関わらせたくないと思う気持ちもわかる」
「性格的にリアム様のように関係がないと突っぱねるというのも難しいだろうしな」
ショウさんに言われて気づいたけれど、父さんがどうやって貴族との距離を取っているのか聞いたこと無かったな。
「父はどうやって断っているんだ?」
「あー……「私は自分が手を貸したいと思った者にしか手を貸さん。どうしてもというなら力尽くで従わせてみろ、できるものならな」とか」
確かに俺にその断り方はできないな。というか父さんなんで喧嘩腰なの?
「しかし、そんな対策をするくらいならどうして冒険者になんてなったんだ? 今まで全く存在を感知されていなかったのだからそのまま静かに過ごしておけばよかっただろうに」
気になりますよね。そりゃそうだ。どう説明したものか。別世界にいたんですけれど勇者召喚に巻き込まれまして、とか言えないしな。
どう誤魔化そうかと考えているとナイトが手を挙げた。
「皆様、直近で行なわれた勇者召喚をご存じですか?」
ピリと空気が硬くなった気がした。ガンジさんとライヌさん、ショウさんが目配せをする。その様子を見ていたカイチさんが目を細めた。
「初耳ですね。ギルマスは知っているようですが」
ギルド職員でも教えられていなかった人がいたのか。キルニスさんたちも揃ってガンジさんを見ているということは、冒険者にも知らされていなかったのか。
「……箝口令が出ていたんだよ。レニアのように直接の被害が出たわけでもないから、ほとんどの街ではギルド職員のごく一部しか知らんはずだ。正式に宣戦布告をしてきたわけでも無いし、特にテンカレは内地だ。開戦したとしてすぐには戦闘に巻き込まれることはないから、儂の他にはラランと主力の戦闘職員にしか教えられておらなんだ」
あらー……ラランというのは副ギルドマスターだろうか。本当に一握りだったんだな。
「ショウも知っていたのだな?」
「文官とはいえ騎士団に所属しているから。ギルドの一般職員や冒険者、傭兵、商人や職人への一斉通達は戦争を回避することが不可能だと判断されてから行なう予定だったんだ」
キルニスさんとショウさんがこそこそと話し始める。
「すまない、一応は家族には個人裁量で言ってもいいことにはなんていたんだけど、君はメンバーと一緒に聞いたほうがいいかと思って」
「そうか。いや、理由があったならいいんだ」
なんだろう、このやりとりは。話し合い始めた二人に首を傾げているとディーナさんに手招きされた。体を寄せると耳打ちされる。
「あの二人は夫婦です」
マジか。全然そんな雰囲気を感じなかった。公私をしっかり分けてるんだな。
「まあ、知られちまったモンはしょうがない。その勇者召喚がどうしたと?」
ガンジさんに訊かれてナイトが指を振った。
「旦那様……リアム様のことですが、旦那様によれば先の勇者召喚により、世界の魔素が著しく損なわれました。ユウはその魔素変換率の高さからこの魔素不足を補うために旦那様に依頼されて冒険者になったのです」
嘘は言ってないんだけどね。
「わざわざ冒険者になる必要があるか? それに何故帝国に出てきたんだ?」
「ユウもいい歳ですので冒険者として働くのもいい経験になるだろうと。魔法を使う理由にもなりますし。帝国に来たのも旦那様の希望です。万一の時すぐに対処できるように近くにいてほしいと」
嘘も方便とは言ったものだなぁ。まあギリギリ嘘ではないけれど、本当のことをほとんど言っていない。今度から冒険者になった理由訊かれたらこんな風に返そう。
いい歳だったので故郷を出て就職しました。
ガンジさんが本当か?といいたげな顔で俺を見てくるので頷く。友達に怖いと言われた表情に乏しい顔はこういうときに便利だ。表情を変える努力をしていないと無闇に真剣な顔をしているらしいから。
しばらく無言だったけれど、ガンジさんがガリガリと頭を掻いて深いため息を吐いた。
「まあ、そういうことにしておいてやろう。少なくともリアムの息子であることは間違いないだろうしな。全員、勇者召喚のこともユウの素性も正式に発表があるまでは他言無用だ。漏らした場合は降格処分も覚悟しておけ。ショウ、リアムの希望だ。騎士団でもユウの素性は不明のままで頼む」
「了解」
「承知した」
ありがとうございます。
「ありがとう。助かる」
「お前さんの素性がわかったのはおまけみたいなもんだからな。リアムが隠そうとしているのをバラして目を付けられるなんてリスクを冒したくない」
勇者に目を付けられるとかいうパワーワード。勇者ってなんだ。ところで俺の素性を不明のままにというのはどういう意味でしょう? 俺もしかしてスパイかなんかだと思われていた? ダンジョンから出たら一回確認しておこう。
ガンジさんがライヌさんと顔を見合わせた。
「しかし、問題はダンジョンだな。結局わからなかったことのほうが多い。階層ボスが部屋から出てくるなんて聞いたことも無い」
確かに。ナイトが腕を組む。
「土の壁はあのペンギンたちがやっていたとして、どうして魔物のランクが高くなっていたのかがわかりませんね」
ペンギンって言っちゃったよ。ヤルニさんが首を傾げたけれど、声を出したのはネコが先だった。
「にゃんにゃん?」
ぬいぐるみたちと遊んでいたはずのネコがいつの間にか俺とナイトの間にいた。ナイトの言葉に反応して首を傾げている。
「いえ、ペンペンではなくペンギンと言ったのですよ」
いや、たぶんペンギンでもないけどね。
「にゃんにゃんにゃん!」
ピーンとご機嫌に尻尾を上げてぬいぐるみたちの所に戻っていくネコを見送るナイトが片手を上げて固まっている。何があったんだろうか?
みんなで集まりにゃんにゃんと鳴いているネコを見ていたナイトが俺のほうに体を向けた。
「……あの子たちはペンペンちゃんとなりました」
「ペンペンちゃん」
ネコにはまだちょっとペンギンちゃんは言いにくかったのかな。そう思っているとロボがこちらに来た。頭の上にアースも乗せている。
「あのね、アースが、スレイプニルが出てきた理由わかるって」
「え」
マジ? うちの子優秀すぎでは? アースを見ると胸を張っている。よしよし。いい子いい子。
「なんかね、土の壁になっていた階は魔素が多かったんだって。この階は特に多かったって。ペンペンちゃんたちが壁を戻したら一気に魔素が減り始めたらしいんだけど、魔物が元に戻るよりも魔素が減る方が速かったから扉の強度よりも中の魔物の方が強くなっちゃったんじゃないかなって言ってるよ」
ペンペンちゃんがすでに広がっている……というか、うちの子本当に優秀すぎでは?
「魔素が多い?」
「うん。いっぱい溜まってたって」
ライヌさんに聞き返されてロボが答える。正確にはアースが鳴いたのをロボが通訳している。
「確かに、魔物は人間よりも魔素に影響を受けやすいと言われているが……アースは魔素感知ができるのか?」
トールさんが首を傾げるとアースも首を傾げた。
「魔素感知かはわからないけど、魔素の色が濃かったから魔素が多いって言ってる」
魔素の色? ガンジさんが顎を掻く。
「魔素感知は個人で感知の仕方が違うらしいからな。アースは魔素に色が付いて見えるタイプなんだろう。音が聞こえたり、匂いがしたり、空気に味が付いて感じる奴なんかもいるそうだが」
なんだろう、共感覚に近いのかな? でもそもそも魔素は感知できるものじゃないから違うか。
「ギャウ」
「味が付いてるのが面白そうでいいなって」
「ははは。不味いかも知れんぞ」
空気が常に不味いのは嫌だなぁ。アースも嫌だと思ったのかキュウと鳴いてロボの毛に顔を埋めた。その様子に和んでいると、コンコンと音が鳴った。
見てみると、仮称ペンペンの一体が俺の腰元にあるボムが入っている瓶を突いていた。その嘴、音が鳴るくらい硬いのかぁ……。ふわふわして見えるんだけど。
「この子たちとも遊びたいのかい?」
「ピヨッ!」
おお。元気。いいよいいよ。
瓶を開けるとボムが飛び出して、ペンペンと一緒にネコや他のペンペンが待っているところに飛んでいく。いつも俺の頭を狙ってくる個体だけ残って肩の上に乗った。視界の一部が発光しているの不思議な気分。
この子だけなんかちょっと赤っぽくなってきているけど、大丈夫なのかな。ほんのり芯が赤く見える。血を飲ませすぎたのかな。他の子よりも一回り大きいし成長しているだけかな。ボムのまとめ役みたいになっているし、一番お兄ちゃんなんだろうか。
「……魔素が多かったせいで出現する魔物が変化して、ダンジョンの内部にも変化が出ていたのはまあ納得ができるんだが、結局、魔素を増やすことができるあのふわふわの魔物はなんなんだ?」
ロボとアースも戻っていったのを見送ったガンジさんが呟いた言葉は全員が聞かなかった振りをした。
「そう言えば、父のガー……障壁は見たらすぐにわかるようなものなんだな」
晩ご飯になった馬刺しと馬肉の焼き肉を食べながらガンジさんに訊いてみる。ちなみにペンペンたちも肉を突いていた。ふわふわのぬいぐるみが肉食……。
「《楽園の守護》な。普通の魔術障壁は術式が壁みたいに効果範囲を覆うんだが、リアムの障壁はラナンキュラスの花弁模様だからな。目立つのなんの」
あの花、ラナンキュラスか! 花金鳳花だ、スッキリした。パラディーゾってことはイタリア語に近い意味かな。えっと、楽園の守護者とかそんところか。厳つい。
「何年か前にあの障壁でリヴァイアサンを退けたことがあるから、相当周知されているぞ。早々発動しないだろうが、見られたらバレると思っておいたほうがいい」
肝に銘じておきます。




