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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第88話 スレイプニル撃退

 ムッフーと戦利品(ぬいぐるみ)を咥えているネコにどうしたものかと腕を組む。

 咥えられたぬいぐるみがピヨーっと鳴くのに共鳴するように穴からピヨピヨと聞こえてくる。そちらを見てみると同じようなペンギンのぬいぐるみが二体、穴からこちらに出てきていた。

「ピヨッ! ピッピヨ!」

「ピヨヨッ!!」

「ピヨーッ!」

 相変わらず漫画みたいにピヨピヨと鳴いているけれど、ぬいぐるみそっくりの可愛らしい顔が可愛いながらに緊張しているように見える。

「なんと?」

「わかりません。異国の言葉を聞いている気分です」

 ナイトに訊いてみてもわからないらしい。

「ぼくもわかんない。アースもわかんないって」

 ロボとアースも聞き取ろうと頑張ってくれていたようだ。

「ちなみにネコは?」

「にゃー、だそうです」

 何も考えてない、と。結構言葉がわからない魔物って多いんだな。この子たちは壁を作って様子を窺っていたことから知能が低いってことはなさそうだし。

 真剣な顔で鳴き合っているぬいぐるみたちを見ていると、ふと映画でこんな場面あったよな、と思い出した。もしかしてこの会話。「俺のことはいい! お前たちだけでも逃げるんだ!」「そんな!!」「行くんだ!」みたいなことになっていたりするの?

 すごいハードボイルドじゃないか。画は子ネコとぬいぐるみだけど。

 しかし、そんな会話をしているんだとしたらこの状況は可哀想だな。

「ネコ、その子たちはおもちゃじゃなくてお友達だから離してあげなさい」

「フムーン?」

 片手に収まるサイズのぬいぐるみを手の平に納めるように下から受け取ると、ネコが納得したのかどうかはわからないけれどぬいぐるみを放してくれた。

「ありがとう」

 アースを抱っこしているので、ぬいぐるみを受け取った手の甲で撫でると満足そうに喉を鳴らす。

 さて、次は君だな。

 とりあえずの危険は回避したと判断したのか鳴くのを止めたぬいぐるみを顔の高さに持ち上げる。恐慌状態から復活したアースも腕を登ってぬいぐるみに近づいた。ピイィと小さく鳴くぬいぐるみをフンフンと嗅いでいるアースを止めて距離を空けさせる。

「やあ。いきなり壁を殴ってすまない。私たちはこの壁を調べに来たんだ」

 こちらの言葉はわかるのか、ぬいぐるみが首……首? その、若干頭が傾いたから首を傾げたんだろう。

「もし、君たちが外に出るための拠点としてこの壁を作っているのだとしたら、私たちと一緒に外に出るかい?」

「ピヨ?」

 首を傾げていたぬいぐるみが少し考えてから手の上から飛び降りた。穴の近くにいた他のぬいぐるみたちの所に近づいてピヨピヨと会議をしているようだ。

 会議をしているぬいぐるみから視線を外してこちらも会議。

「こいつらは外に出たいのか?」

「なんとなくだが。上に向かって異常が出ているなら出口を探しているのではないかと思うのだが」

 ガンジさんに訊かれたけれど誤魔化しておく。もしかしたらリオムさんが言っていたのはこの子たちのことではないかも知れないし。

「そもそもこの子らはどこから来たんだ?」

「自然発生ではないだろう。それなら外を目指したりはしないだろうし」

 どこから来たのかはリオムさんも言ってなかったな。あの子たちは外に出たいだけって言っていたし。

「騎士団の記録に似たような魔物は?」

「少なくとも私の権限で閲覧できる資料の中にはこのような魔物の記録は無かったなぁ」

 騎士団の記録にもない魔物か。いったいなんなんだろう。

「ピヨッ!」

 お、結論が出たかな?

 ぬいぐるみを振り返ると三体が揃ってこちらに向いている。

「ピヨッヨ」

「外に出るか?」

「ピヨ!」

 元気なお返事で何よりです。両手を差し出してみるとみんな乗ってきた。なんとか三体手に乗るな。持ち上げて視線を合わせる。

 外に出たいということは、この子たちで間違いないのかな。

「じゃあ、君たちを連れ出す代わりと言ってはなんだが、もし君たちがやっていたのならこの壁や土をどうにかしてもらえないだろうか」

「ピーヨ!」

 今のはなんとなくだけど「いいよ!」って言ったように感じる。

 ザワッと空気が揺れて、土壁が崩れる。土壁の向こうには思っていた以上に多くのぬいぐるみがいた。五十体くらい? 大量のふわふわのぬいぐるみ。俺が幼児なら狂喜乱舞していたと思う。実際ロボたちが大喜びで突撃していた。

 敵意が無いと判断してなのか、ぬいぐるみたちもロボたちの突撃を受け入れ、ロボとアースの背中に乗っていた。さすがにネコの背中には乗れないようだ。

 壁だけでなく、通路を覆っていた土もどんどん消えていく。通路自体は広いままだけれど、それでもずいぶん印象が変わる。

「なぁんか、緊張感が無いなぁ。本当にこれで終わりでいいのか?」

 ジンさんが腕を組んでそう言うけれどガンジさんがいいわけないだろ、と額を抑える。

「むしろここからが大変だ。ダンジョンに影響を与えるほどの魔物、しかも未発見の新種がダンジョンの中にいた。ダンジョンで発生したわけでもないらしい。土の壁はこの子らが原因だったとして、魔物が強くなった理由は別かも知れん。これは本格的に調べないとわからんから。大賢者に依頼を出すしかないか……」

 大賢者って賢者と違うんだったっけ? 上位互換?

「……受けてくれるでしょうか……」

「まあ、面白いことだから受けるだろう。帝城に依頼状を出す」

 大賢者さんも気難しいタイプ?



 これからのことを考えつつも平和ムードだったのに、突然ドッと冷や汗が噴き出してきた。

 遊んでいるロボたちを飛び越えて、階層ボス部屋の扉との間に立つ。

「ユウ?」

 ナイトが声をかけてくるけれど返事をする余裕がない。階層ボスが部屋から出てくることはない。そのはず、なのに。汗が止まらない。100メートル以上距離のある扉から視線が外せない。

 警戒態勢を取っているとビーッ! ビーッ! と謎の機械音が響き、階層ボス部屋の扉が内側から吹き飛んだ。

 粉砕された扉の破片と土煙を纏って推定スレイプニルが飛び出してくる。無理だ、と察した。勝てない。これに俺の攻撃は届かない。

 スレイプニルがこちらに向かって突進してきたのがスローモーションのように見える。巨大な体が向かって来ているのだから、地鳴りと音がしているはずなのに認識できない。

 たぶん数秒にもならない時間が酷くゆっくりと過ぎ、スレイプニルが何かに衝突して吹っ飛んだことで世界に音と衝撃が戻ってくる。

 どぉんと地面にスレイプニルが転がった衝撃で体が浮いた。地響きがしたどころか地面が波打ったのが見えたぞ。

 いつの間にかナイトが俺の前に立っていた。たぶんスレイプニルが出てきたときにはここに移動していたんだろうけれど、全く気づかなかった。

「おかしいと思ったら飛び出す前に私に言いなさい」

「ごめん」

 嫌な予感がしたけど、何が起こるのかはわからなかったから。謎の機械音も消えているので、もしかしてダンジョンが危険を知らせるために音を鳴らしたんだろうか?

 そんなことするかな? でもダンジョンにしてみれば階層ボスに扉を破られるなんてあり得ないはずのことだから非常事態だと判断したんだろうか?

 スレイプニルが何に衝突したのか確認しようと、ぶつかった辺りを見ても一見何も無い。しかし、よく見てみると紫の花が咲いていた。

「あれは?」

 指を差すとナイトも確認しようとしたのか上体が少し反る。その時吹っ飛んでいたスレイプニルが起き上がってまた向かって来た。ナイトが応戦するために槍を構えたけれど、再び何かに阻まれて吹っ飛ぶ。スレイプニルが二回目にぶつかった場所にも花が咲いた。

 大きすぎてわからないけれど、たぶん20メートル近い巨体をあの花が防いでいるのか? そのまま見ていると、二つの花を繋ぐように赤い線が伸びる。花自体も平たくなったかと思うと、解けて線画のように変化していく。

 変化した花は通路いっぱいに線画が広がっていく。線が広がるに連れて花の模様も増えていく。線画っていうか、切り絵か。輪郭だけある。ステンドグラスの輪郭が花柄な感じ? 赤い線で繋がれた紫の花の模様が綺麗だ。

 それにしても、なんだっけなこの花。バラに似ているんだけどバラよりもずっと花びらが多い。ダリアみたいな花びらの多さだけどダリアみたいな特徴的な花びらじゃない。なんだったっけ。おばあちゃーん。

「これ父の匂いがする!」

 地面にまで広がっていた模様の匂いを嗅いでロボが憤慨する。父さんの匂い? アースとネコはただただ模様が広がっていくのが楽しいのか模様を追いかけて走り回っていた。ガンジさんたちは呆然とスレイプニルと花、俺を何度も見比べている。ぬいぐるみはスレイプニルに怯えているようだ。

 俺たちを四角い空間にすっぽりと包んでしまった模様は変わらずスレイプニルの攻撃を退けてくれている。なんかビームを防いでいた。スレイプニルってビーム吐くのか……。

「これは防御のみのようですね」

 模様を触ってみたナイトがそう判断した。確かに、弾き飛ばしてはいたけれど反撃のようなことはしていなかった。

「結界とは違うのか?」

「結界は無色透明ですし、このように模様が浮かぶというようなことは聞いたことがありません。私の影に少し似ているかも知れないです」

 影に似ているって、あの影の壁か。

「しかし、このままスレイプニルを放っておくわけにもいきませんね」

 そう言ってナイトが事も無げにスレイプニルを倒した。ザントマンと同じように、影を槍のように突き刺して。

 全く歯が立たないと思った相手をすごく簡単そうに倒されるとなんか悔しい。スレイプニルが倒されると模様はすぐに消えてしまった。なんだったのだろうか?

 そして、スレイプニルは落ち着いて見ると思ったよりもクリーチャーではなかった。ほとんどウマ。しかしふざけているのかと聞きたいくらいに大きくて、脚が八本ある。この巨体を支えるなら八本あっても納得だ。10トントラックくらいか?

 本体は吸収されて、素材は皮と肉と角と骨。みんなで回収する。いっぱい採れた。

「肉?」

「スレイプニルの肉……」

 肉を回収したトールさんとヤルニさんが困惑している。素材として残されたってことは食べられるかな? トールさんから肉を見せてもらったナイトが手を打った。

「綺麗な赤身ですね。馬刺しにしてみましょう」

 馬刺し好き。

「食べるのか、これ」

「せっかくですし」

「おう……」

 食うのか……と呟くトールさんから肉を受け取る。

 ぬいぐるみたちはナイトの影の中に入っていった。そこでいいの?と思わないことも無いのだけれど、数が多いので全員で抱えても手が足りない。

「とりあえず、セーフティエリアに行くぞ。ユウ、そこで話したいことがある」

「ああ。わかった」

 ぬいぐるみをこれからどうするかの相談かなと思ってガンジさんを振り返ったのだけれど、顔がとても真剣だった。

「……ひとまず、バレた、と覚悟を決めておいたほうがいいか?」

「バレたと思うことに身に覚えがあるなら、覚悟しておけ」

 やーん。


父の過保護発動。

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