第87話 異常の原因
やっと30階に到着しました。
命の危険がない限りは頑張るとは言いましたが、《烈火の戦士》とガンジさん、ロボもムカデの相手を代わると言ってくれたので、有難く交代制にした。ナイトが事前に罠の対処をしてくれることになったので魔物にだけ注意していればオッケーだ。
キルニスさん、ジンさん、ユイさんで一組、ガンジさんとディーナさんで一組、ロボと俺はそれぞれ単独。四回に一回でいいならだいぶ楽。
キルニスさんの組はユイさんが補助、ジンさんが陽動と防御、キルニスさんが攻撃という感じで、ガンジさんの組はディーナさんが誘導、ガンジさんが攻撃をしていた。ガンジさんもキルニスさんも迷いなく頭を狙っていたので、やっぱり俺が無駄なことをしていただけだったか。
仕方ない。ランクだけは高くなってしまったけれどまだ駆け出しの新人なのだから、何事もトライ&エラーで学んでいかなければ。
ちなみにロボは問答無用でムカデの全身を丸焼きにしていた。ジャイアントボアを雷で丸焼きにした俺を見ていたみんなの気持ちがわかった。
なんというか「おん……」って気持ち。
それにしても、とムカデを倒し終わったところのキルニスさんを見る。
「キルニスさんは魔導剣士ではなかったよな?」
「そうだが、どうした?」
キルニスさんの持っている剣が燃えている。
「それは、火魔法か?」
キルニスさんが魔法を使っているところは見たことがなかったけれど、魔法使えたのだろうか。そう思って訊くと、キルニスさんが剣を振って答えてくれた。
「これは剣に術式と魔石を仕込んでいるんだ。鍛冶職人と細工師に頼んで造ってもらった魔剣だよ」
魔剣って作れるんだ……。
近づくと剣を見せてくれた。剣身は燃えていて見えにくいけれど、柄にある魔石はちゃんと見えた。赤いということは、火の魔石なんだな。
「魔石によって力が変わるのか?」
「安いものならな。私の剣は、これは火専用だ。他の三属性もそれぞれ一振りずつ用意している」
マジで!? 魔剣じゃないのも持っていたから、キルニスさんは五振り以上の剣を持ってるの? すごいな。
キルニスさんが保有している剣の数に驚いているとディーナさんが後ろから補足してくれる。
「ミスリルクラスか、ゴールドでも上位に入る冒険者は複数武器を用意しているのが基本ですよ。剣士だけに限らず、ほとんどの職種が用意しています」
「そうなのか……私はこれの他にはミスリルの剣だけだな。ナイフもありはするが、メインの武器とは言い難いし」
そういえば、シオンさんも折れた剣をすぐに捨てて新しい剣を出してたな。ウィルは……あれ四振り一セットなんだろうか。四の倍数で剣用意しているのか?
「ユウの場合は拳で十分だろう。ギガントボアの頭吹き飛ばしたの、忘れていないぞ」
「忘れてくれ」
あんな風に吹き飛ぶとは思わなかったんですもん。母さんの趣味の洋画と洋ドラでグロ耐性付けてなかったらあの段階で吐いてた。何が役に立つのかわからないものだな。
そんな話をしながら、時折ムカデに心を折られそうになりながら30階に到達した。
なんだか、土の壁が艶々している? 表面が少し光を反射しているというか、確実に土なんだろうけれど、なんだか鍾乳洞の壁みたいだ。
「これは……皆さん、放出系の魔法は使わないように気をつけて」
訝しんでいるとショウさんがそう言った。ライヌさんも土を少し手に取って調べてショウさんに同意した。
「こりゃ、射方土だね。なんでこんな所で」
「しゃほうど?」
ライヌさんの横にいたロボが首を傾げて聞き返す。
「魔法を反射する土だ。外壁の素材や、騎士の訓練場の内壁に使われたりする希少素材なんだけど、まさかダンジョン内でこんなものが……」
魔法を反射する土か。
「ナイトが来たときからこうだったのか?」
「いえ。そんなことはなかったはずです。ロボやアースの火魔法も普通に使えていました」
となると、2日か3日で変化したのか?
「隠れている者たちを刺激してしまったのかも知れませんね。脅威が近づいていると判断されたのかも」
まあ、首無し騎士とフェンリルとドラゴンがうろうろしていたら警戒もするか。しかも魔物を歯牙にも掛けずにマッピング作業してたんだもんな。
そう考えていると突然何かが飛んできた。
咄嗟に体を反らして飛んできたものを掴んだんだけれど、勢いを殺しきれなかったのかゴキッと不穏な音がして腕が上がらなくなる。
え、嘘でしょ、肩抜けた?
「《修復)》!」
ユイさんの声で肩に衝撃があり腕が動くようになる。……痛くはないんですけど、この世界の治療怖い。いや、便利だし、速いし痛くなくていいんだけど。地球出身には怖すぎる。
槍を投擲して魔物を倒したナイトが俺を振り返る。ロボとアース、ネコも俺に近づいてきた。
「大丈夫ですか?」
「ああ。ユイさんが治してくれた」
肩を回してみても違和感も何もない。鬱血が治るのはともかく、肩が外れても骨折しても一瞬で治るんだと思うとすごいけど怖い。いいことなんだろうけれどね。怖い。怪我はできるだけしないようにしよう。
「しかし、タロスまで出てきましたか」
タロス?
「青銅の巨人です。タイタンよりも力が強いので、ユウでも油断して受けると今のようになります」
もう吸収されてしまっているからわからないのだけれど、タロスはタイタンとは違うのか? タイタンも青銅の巨人だった気がするけど。巨人というか、だいぶロボット寄りだったけれど。
「タロスとなるとさすがに全員で受けるしかないな。ユウとジンは防御に専念してくれ。儂とキルニスで攻撃、ディーナが補助、ユイは即時回復を頼む」
「了解」
《烈火の戦士》に続いて返事をしてから気づいたけど、俺まだキャッチした石を持ったままだった。これは、素材?
「これはどうしたら?」
「タロスの素材だな。魔鋼鉄だから、持って帰ったらいい」
魔鋼鉄か。武器の素材になるならゴウルクさんにお土産で持っていこうかな。青銅の巨人なのに違う金属が採れるのは謎。
次に出てきたタロスをしっかりと見てみると、なるほど青銅の巨人。機械のように見えたタイタンとは違い、青銅で作られた人の像のようだった。服装が古代ギリシャっぽい? 彫刻で見た知識だけど。
タロスの他にはサラマンダーも出てきたので大騒ぎだった。あいつら自分は燃えないからって火を噴きやがる。ジンさんが水の盾を出したり、俺がナイフで受けて消したりして対処していた。サラマンダーの火は俺の耐性+女帝の織り糸製のシャツ、ドラゴンスキンを超えるほどの熱でなかったのが幸いだ。
しかし、タロスが何体かまとめ出てこられると結構ギリギリだ。タロスはキルニスさんでは一撃では倒せないらしく、何度か斬りかかる必要があった。ガンジさんは一撃で倒しているけれど、踏み込みが強く隙が多くなってしまう。
俺が攻撃に加わるといいのかもだけど、そうすると守りが薄くなる。調査部隊はナイトがみてくれるけれど、俺たちは自分でなんとかしないと。
タロスが振り回している斧を俺が受け止め、ジンさんは投擲物がディーナさんやユイさんに当たらないように弾いている。ああいう、巧い戦い方がしたいです。パワーファイター卒業したい。
悲しいやら、いっそ振り切ってパワーごり押しでいった方がいいのか考えながら30階を攻略していく。所々道も変わっていたようだけれどガンジさんや《烈火の戦士》がダンジョンの進み方を知っていたので特に苦労はしなかった。
ダンジョンは迷宮みたいになっていても、目印があるらしい。壁にちょっとした特徴があるとか。教えてもらったけれど、うっすらひっかき傷みたいなものだった。場所によって形が違うらしい。皆さんこれ見分けてるのマジ?
「壁が土に覆われていてもダンジョンとしての基本は変わっていないな」
ジンさんは何事もないように言っているけど、罠見分けるより難しいじゃないか。顔を顰めているとガンジさんが笑った。
「儂らだって今はじっくり見れているからわかるだけだ。こういうのを専門で見分けるために鍵開け師がいるんだよ。斥候や、ジンみたいに器用なのが兼任したりもするが、ダンジョンに専門で挑むパーティは基本的に鍵開け師を加えている」
ダンジョンに専門で挑むパーティとかいるんだ。鍵開け師って何するのか謎だったけど、鍵を開けるだけじゃなかったのか。
「皆様、見えました」
角を曲がった先を確認していたナイトに呼ばれて、全員で角を曲がる。100メートルくらい進んだ先が確かに塞がれていた。
他の道の行き止まりとは違って、無理矢理詰めた感がある。
「確かに、ダンジョンが作ったもんではないみたいだな」
壁を触って調べていたガンジさんがそう判断する。ライヌさんとショウさんが土を調べていたけれど、これも射方土らしい。
外殻オリハルコン、内殻をミスリルに変更。魔力強化は……雷でいいか。一番まともに火力を出せる。
「ナイト、壁を頼む」
「承知しました」
全身に雷を纏った俺に、ナイトが察してみんなを囲むように影の壁を張る。
よし、ナイトが殴って駄目ならまあ駄目だとは思うけど、一応やっておきましょう。射方土になっているなら、魔力と反応して破れるかもだし。
せーのっと。
殴ったところから雷が走ったけれど、側面に逃げていってしまった。壁を確認してみたけれど、焦げも見当たらない。わかってはいたけれど駄目だったか。
鎧を戻してナイトを呼ぶ。
「駄目でしたか」
「ああ」
殴った感覚では壁自体はそこまで厚くはなさそうなんだけれど、どうしたものかな。越えられるのがナイトたちだけとなると詳しい調査も難しい。
ロボが壁の足元を掘り始めたのを見たアースも真似をして壁を掘るけれど、掘った端から埋まっていく。
一切努力は実っていないのだけれど、穴を掘るのが楽しいらしく喜んで掘っているのでまあいいか。
「にー!!」
「どうした、ネコちゃん」
どうしようか考えていると、突然ネコが騒ぎ始めた。トールさんに大人しく抱っこされていたのに釣り上げられた魚のようにビチビチ暴れて腕から抜け出す。
そのままシュババッと壁の端に移動してにゃあにゃあと鳴くので何事かと覗き込むと、壁に一部穴が空いてた。
そこから、なんというか……水族館とかのお土産でありそうなペンギンをデフォルメしたモフモフのぬいぐるみが覗いていた。薄い水色なのがよりぬいぐるみ感。
微妙な距離を空けて鳴いているネコを押さえて突っ込んでいかないようにする。
「これは……なんだろうか」
「見たことがない魔物……魔物?ですね」
ナイトも戸惑っている。そりゃそうだ。
「儂も見たことがないな」
「私もだ」
ガンジさんとキルニスさんも見たことがないとなると、相当珍しい魔物なんだろう。ライヌさんも知らないようだし、ショウさんも首を振る。
ネコにロボとアースが近づく。
「ネコのお友達?」
「にゃぁん」
「ギャウ」
「違うかー」
こんな所にいる子がネコのお友達なことはないだろうねぇ。
「ピヨッ」
一鳴きしてぬいぐるみが穴の中に引っ込んでいった。今絶対はっきりと「ピヨッ」って鳴いたぞ。あんまりな鳴き声に呆気にとられてしまい、手が緩んでネコが飛び出した。
そのままぬいぐるみが消えた穴に突撃し、頭が嵌まってしまったのでどうしようかと思ったら、後ろ足でもがいて入っていってしまった。猫は頭が入れば通れるって本当だったのか?
「勇猛果敢?」
「猪突猛進でしょうね」
ですよね。まさか突っ込んでいくとは。
穴からビヨビヨビヨビヨ!!と、秋の夕方に街路樹に止まって大音量で大合唱をしているムクドリのような鳴き声が聞こえてくる。
あのぬいぐるみたちにとってはネコでも脅威なのだろうか?
ネコを助けに行こうとしたロボが鼻先の時点で穴に詰まり、交代したアースも頭が抜けなくなってもがいている。流れるようなハプニング。可哀想だけど可愛い。こういうとこ、まだまだ子供なんだな。
「ナイト! お兄ちゃん! アースが詰まっちゃった!」
「大丈夫ですよ」
半泣きでロボが俺たちを振り返る。
もがいていたアースがすっと消えてナイトの腕の中に現れた。
「ユウ、アースをお願いします」
「ああ」
抜けなかったのが怖かったのか、渡されたアースが小さく震えていた。ごめんね、止めればよかったね。アースを撫でていると俺を支えにして後ろ足で立ち上がったロボもアースを慰めるように舐める。
一度影の中に消えたナイトがすぐに戻ってきたのだけれど、脇を持たれてぶら下がっているネコが満足そうにぬいぐるみを咥えていた。
ぬいぐるみは絶望したように鳴いているのだけれど、どう頑張っても子ネコがお気に入りのおもちゃを自慢しているようにしか見えない。ネコのお目々がキラッキラ。これで遊ぼうって顔に書いてある。
リオムさんが言っていた外に出たい子たちって、もしかしてこの子たちのことなんだろうか?
治癒魔法で治っていくのはどんな感覚なんだろうと悩んだので、この世界では治癒魔法での治療でも違和感があることにしました。大きな怪我を治療しても痛くはないけれど、ずれた骨が元に戻っていく違和感はしっかりある感じです。




