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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第86話 天敵襲来

虫の描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

 ナイトの不吉な言葉に怯えながら28階に降りたけれど、特に27階と変わったところは見受けられない。少し広くなったように感じるが、それだけだ。

 罠に気をつけながら進んでいると地鳴りと共に土が盛り上がって人型に整形された。何これ? グモーっとなんとも言えない鳴き声?を上げて腕を振りかぶって来たのでとりあえず避ける。

 両腕を不規則に振り回して攻撃してくるけれど、どうやら魔法は使えないようだ。その代わりに大振りだけど速度は意外と速い。かすった土の壁が一部抉れているから威力も相当なものなのだろう。

「ユウ、腕を止められるか?」

「やってみよう」

 一緒になって避けているジンさんに言われて前に出る。巨大な人型が斜めに振り下ろしてきた腕を受け止めると、結構覚悟して力を込めていたのに押された。

 マジか。押し負けたの初めてなんですけど。地味にショックだな。受け止めるのは成功しているけど、負けた感。

 もう一方の腕が頭を狙って横から向かってきたので、それは腕に魔力を流して受け止める。よし、受け止める一瞬身体強化するだけならなんと調整できそうだな。これで動こうと思うから駄目なのか。

 止めたけど、どうするんだろう?

「肩を借りる!」

 すぐ後ろから聞こえてきたと思ったら、ジンさんが俺の肩を蹴って魔物の懐に飛び込む。そのまま殴ると魔物は首を中心に吹き飛びあっさり消滅した。ジンさん、意外と怪力?

 着地したジンさんに近づく。バラバラと色とりどりの欠片が一緒に落ちてきた。

「この魔物は?」

「ゴーレムだ」

「これが? 私が以前見たものと姿が違うが」

 ゴーレムってクモみたいな土でできた魔物でしょう?

「ゴーレムは近くにいる生物の姿を真似するんだよ。ヒトが近くにいるとヒト型に、バイコーンが近くにいるとウマ型になる」

 へー……そうだったのか。そういえば、ジェシカさんもゴーレムをクモの魔物とは言っていなかった気がする。なんか土蜘蛛の話の印象が強すぎてあんまり覚えていない。

 とりあえず水魔法が効くことと宝石が素材として取れることは覚えてる。俺がゴーレムの核を殴り壊したときはジェシカさんにもイアンにも引かれたけど、ミスリルランクなら殴り壊せるのか。よかった。俺がおかしいわけではなかったようだ。

「宝石は……どうする?」

 嵩張らないから持って帰ってもいいのだけれど、別に必要なものではないしな。振り返るとガンジさんを振り返ると顎に手を当てて考えていた。

「一応、何個か持って帰るか。硬度や質を調べたい。ライヌが要るなら持って帰っても良いぞ」

「じゃあ、ごめんだけどダイヤがあれば欲しいな。作業用ナイフに使いたいって話が出てるんだけど、商業ギルドから買い入れるには高くて」

 この世界でもダイヤモンドを刃物にするのか。ミスリルとかオリハルコンとかを使うのかと。

「ダイヤは……これだろうか。すまない、識別は任せる」

 結構ダイヤっぽいものがある。しかし透明だからといってダイヤとは限らないのが宝石の難しいところ。クリスタルとダイヤとジルコニアの違いとかわからない。お祖母ちゃんと母さんならわかるかも知れないけど。

 透明な石はひとまず回収するとして、10個ほど違う石も持って帰る。いろんな種類の宝石が一つの個体から出てくるの不思議だよね。

 しばらくはゴーレムばかりが出てきたので順調に倒す。ネコが宝石を食べようとするのでロボが咥えて阻止したり、アースが土の中から宝石を掘り出す遊びに夢中になるのを止めたりはしたが、何も危ないことは起こらなかった。



「ああ、来ますね」

 何が来ます? ナイトが唐突に立ち止まった。

「ユウは前に。皆様は私の後ろから出ないようにしてください。ユウ、影を張り巡らせておきますので罠が発動することはありませんから好きに動いていいですよ」

 何? 不穏。みんなを背中に庇ったナイトが先を指差す。

 何が来るんだ? 念のため姿勢を低くして迎撃姿勢を取ってみるけれど、なんの音も聞こえてこない。

 少し前に出た瞬間、ゴソリと音が聞こえた。そのままゴソゴソと音が複数重なって聞こえるから、何体かいるのだろうか?

 待っていると、角からずあっと突然姿を現した。

 学名:Chirlopoda 動物界・節足動物門・多足亜門・ムカデ上網・ムカデ網。

 長い触覚と、無数の歩肢が節の入った胴体の左右で蠢いている。要はムカデです。なんでそんな詳しく知っているかって? 彼を知り己を知ればって孫さんが言ってたんでしょ!

「おぅえいああああああ!!!!」

 ただでさえ無理なムカデが、サイズを異世界ライズされて向かってくる。無理。ホント無理。最悪。ウリオの嘘吐き! テンカレのダンジョンは虫出ないって言ってたじゃないか! 今度会ったら酔い潰して黒歴史聞き出してやる!

 ナイトが言っていた「特に気合いを入れろ」ってこのことかよ!

 氷で封じようと思ったのに、ムカデは突破してくる。

 魔法耐性か! 剣の制御下の魔法ではある程度強い魔物は凍り付かせて倒すには至らないようだ。ガッデム。

 となると、剣を捨てるか、接近戦に持ち込むか。

 接近戦はやだよぉぉぉ! ただでさえ大きいから関節の一つ一つが見えているのに! でも剣を放して魔法を使ったとして突破されると泣く。

 接近戦しかないか。マジで最悪。

 益虫と呼ばれる虫がいることも、虫が好きな人がいることも、高タンパクで栄養価が高いとかで昆虫食が見直されているのも知っているけれど、俺の前からは消滅してほしい。好きな人の前にだけ出現して、どうぞ。まあ昆虫食でムカデを食べるのかは知らないけど。

 そもそもムカデって毒あるよな。なら食べないか。俺は……毒耐性でどうにかなるか? 咬まれるのが危ないということだったら、鎧があるから耐性関係なく大丈夫か。

 やってやるよチクショー!!

 剣を握り直して、向かってくるムカデを一旦躱す。くそ、移動している時はそこまで速くなかったのに、攻撃に転換した途端に速いな!

 綱引きの綱くらいの長さで、太さは1メートルくらいか。体の厚みは40センチ程。改めてデッカ。足だけでも60センチくらいあるんじゃないか? キッツ。

 何度か跳んで距離を取ると、振り返ったムカデが頭を上げてギシギシと顎を鳴らす。ムカデって鳴かないよな? 魔物だからか? 顎が軋んでいるだけ? そもそもムカデの顎って顎肢って呼ばれる足が変化したものじゃなかったっけ。

 みんながいた所を確認すると影のドームができていた。なら、どれだけ派手にやっても被害は出ないな。OK、やってやるとも。

 ……正直もうちょっと覚悟を決めさせてほしいんだけど、そんな悠長に待ってくれないよね。勢いよく飛び出してくるムカデをもう一度避けて剣に火の魔力を通す。ムカデは寒いのが苦手なはずだから凍らせてみたけれど、それが効かないのなら次は素直に燃やしてみよう。

 しかし、なんでムカデなんだよ……まだクモの方がマシ。それかゴキブリ。ゴキブリってほぼ甲虫だろ。異論は認める。でも見た目がまだマシ。不快害虫? 知らん。俺にとっては全て害虫。一切合切皆殺しだ。

 ……いつか、誰かが虫を弟って拾ってきたらどうしよう。泣くしかない。

 ああ、駄目だ。嫌すぎてすぐに現実から目を背けてしまう。ちゃんとしなければ。

 ギシギシと顎を鳴らしながら突っ込んできたムカデを避けて胴体を斬ったのに、ムカデは平然と方向転換して向かってくる。

 なんでだ? いくら薄目で見ているといっても斬った感触は確かにあった。それなのに見た目でわかる外傷が無い。幻覚の類いならたぶん狂乱か弱体耐性で防げるだろうし……デコイか? いや、なんとなくだけど違う気がする。

 再び突っ込んできたムカデを避けて、今度は壁を蹴ってムカデの背中に着地して縦に斬ってみた。背中の殻が多少硬いけれど斬れないことはない。

 火魔法の耐性は持っていないのかジリジリと火花を散らして斬れていくのに、裂いた筋組織がすぐさま再生していく。

 は?

 体を跳ねさせたムカデに弾かれて飛ばされる。あれは……超回復か。初めて見た。地球のムカデは生命力が強い虫だけど、この世界では生命力が強い生物は再生力を持っているのか?

 頭に注意しながら考えていると、気づいたらムカデの胴体が俺を囲んでいた。尻尾だけを動かしたりとかできるのかよ。器用。魔物って地球の動物よりも頭良いよね、たぶん。

 ……囲まれてる?

 嫌な予感がしたが、的中。

 とぐろを巻いたムカデが胴体で締め付けてきた。持ち上げられて足が地面から離れる。突っ込んできて咬むだけじゃなかったか。

 別に巻き付かれたところで世界樹の種子の鎧は潰れたりしないから痛くないし、ムカデの体は隙間が多いから苦しくもないのだけれど、目を開けると目の前にどアップのムカデの胴体というのが俺の精神をゴリゴリ削る。

 おえっ。シンプルに吐きそう。

 ほぼゼロ距離にムカデの胴体と蠢く歩肢だよ? 生えているところも節も、なんか体の側面に空いている孔も全部が大迫力で眼前に突きつけられている恐怖。この孔何? これが気門? でっか。

 おえぇ。悲しい。

 どうするか、剣を捨てる隙間も無いし……火魔法が効くなら俺ごと燃やすか。内殻変更、ミスリル。俺を中心に火柱を発生させる。

 焼き切るまではいかなかったけれど、拘束は緩んだので抜け出して距離を取る。

 腹の半分が燃えたのに、もう再生している。マージで。再生力やばいな。

 どうしたらいいの? これ。

『ナイト、影は光魔法も平気?』

『はい。問題ありませんよ』

 よし。じゃあやってみよう。光魔法を意識して剣に流す。あ、これ頻繁に使うのはやめておいたほうが良さそう。とりあえず一回だけ。いつもより強く光る剣を握り直して構える。

 向かってきたムカデに向かって、風魔法の斬撃を放つのと同じイメージで光魔法を放つ。レーザーみたいに光が飛んだけれど、ムカデは頭を振って避けた。

 円を描くようにくねっていた胴体をいくつかに分割した光は影にぶつかって拡散し消えていく。

 光でも駄目かぁ! まあそうですよね! いくら斬る火力を上げたところで、すぐに再生されるとどうしようも無い。回復が速すぎて突進してくる勢いも落ちないし。突進を避けて距離を取り直す。

 ……ん? あの再生力でわざわざ避けたということは、弱点は頭か?

 剣に通す魔力を光から火に戻す。正面から顔を見るのが嫌すぎて胴体ばかり狙っていたけれど、これは、もしかしてかなり無駄なことをしていたのかも知れない。

 また突っ込んできたムカデを正面から迎え撃つ。タイミングがずれると何度もムカデの顔と対面しなければいけないので、心が折れそうだけれどちゃんと見ておく。

 おえっ。

 ムカデが顎肢を開いたところで、頭の真ん中を狙って剣を振り上げた。兜割り逆バージョン。

 バッと濃い緑の液体が噴き出して、頭が二つに割れたムカデが俺を挟むようにして地面に落ちる。ギャフン。

 すぐに消滅したけれど、俺の心に大きな傷を残した。悲しみ。

 そして、例に漏れず頭から被ったこの緑色のなんだろうと思ったけれど、血か。虫の血って赤くないって本当だったんだな。……あ、本当に駄目。

 昼食をオールリバースしてから、口を水で濯ぐ。吐いたものもすぐ吸収されてしまうので、なんだかすごく申し訳ない。ごめんねダンジョン君。でも君、普段内容物ごと吸収しているから特に気にしてないのかな。

 戦闘以外での疲労が激しい。

 影に近づいてナイトに念話を入れて影を解除してもらう。

「お疲れ様でした」

「……つかれた」

 なんか体が傾いている気がする。でも直す気力が無い。自覚しているよりもヨボヨボしていたのかガンジさんが近づいてくる。

「大丈夫か?」

「体力は十分なんだが気力がゼロだ。ディーナさん、すまないが血を流してほしい」

「はいっ」

 ディーナさんがすぐに水魔法で血を流してくれる。血を被ることには不本意ながら慣れたけれど、虫の血だけは無理だ。心が死ぬ。

 俺の消耗が激しいのに加え時間的にもちょうどいいということで、近くのセーフティエリアで休むことに。

 固形物を食べられそうにないので、ナイトが作り置きしてくれていた味噌汁だけをゆっくり飲む。横でビーフシチューを食べていたキルニスさんが首を傾げた。

「そこまで嫌いなら、ナイトや他の子に代わってもらったら良かったんじゃないか?」

 え? ああ、そうか……。

「……いや、私が受けた依頼だ。嫌いだから戦いませんとは言えないよ。ナイトやロボたちがいつもいるとは限らないし、命の危険がない相手なら自分でやるさ」

 依頼に関係のない虫からは全力で逃げるけれど。さっきのムカデは依頼の内だし、戦う分には負ける気はしなかった。無理すぎて吐いたし、倒し方を知らなかったから時間かかったけど。ナイトだってそれがわかっていて俺に相手をさせたのだろう。

 そう思って返すとキルニスさんが眉尻を下げて笑った。

「まあ、君ならそう言うだろうと予想はしていたけどな。君の場合、周りに人がいるとみんなにはそちらを守るように指示していそうだし」

 そ、うですね。だって俺が守るより安全。人がいる場所で魔法を使って戦うしかない強い魔物と戦うとしたら、みんなに周りの人を守ってもらいつつ自分が戦ったほうが精神的に楽だ。守ろうとして巻き込んではどうしようもない。

「どうにもならなさそうなら最終手段もあるしな」

「まだ何か隠しているのか?」

 ははは。何を隠しているのかは言えないので味噌汁を飲んで誤魔化す。しじみ美味しい。


ナイトはわかっていて相手をさせています。スパルタ。

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