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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第84話 首無し騎士

同伴していた保護者がようやく見えるところで戦います。

 セーフティエリアで食事の準備をしながらネコにザントマンの被害が無かったか確認したけれど、自主的にお昼寝タイムだったのが良かったのか無傷でスヤスヤしていた。うん。オッケー。

「この子は大物になるぞ……」

「まあ今でもドラゴンの尻尾吸うくらい肝が据わっているからな」

 結構大きい音が鳴っていた気がするんだけど気のせいだね、うん。

 今日のご飯はバゲットにハムとチーズを挟んだサンドイッチと豆たっぷりのコンソメスープ。ナイトが作ってくれていたパウンドケーキが残っていたのでそれも追加で。

 甘くて美味しいパウンドケーキはここでも好評だった。

「一瞬でかい携帯食かと思ったが、これは美味いな」

 ははは。確かに切ってないと見た目ゴツいですもんね。起きたネコも、今はユイさんの膝の上でゴロゴロと喉を鳴らしながら、ディーナさんとキルニスさんにちぎったパウンドケーキをもらっている。王様かな?

 パウンドケーキを囓りながらガンジさんが頭を掻いた。

「しかし、ザントマンの眠り粉か……ウチだけで捌くには荷が重いな。ユウ、色々頼んで悪いが、レニアにも持って帰ってくれるか」

「それは構わないが、理由を訊いても?」

「貴重品だからな。一つの街で捌くとこの辺の物価価値を下げちまう可能性があるんだよ」

 へー。経済のお話ですか? 俺は文系なのでそういうの苦手です。

「そうなのか。ではせっかくだからアヌカでも卸しておこう」

「おう。そうしてくれると助かる。アヌカからなら上手い具合に調整して流通させてもらえるだろう」

 交易拠点ですもんね。フィニスさんに預ければどうにかしてくれるだろう。

「お待たせいたしました」

「ナイト。おかえり」

「はい。ただいま戻りました」

「お兄ちゃん、ぼくとアースもただいま!」

「ああ。ロボもアースもおかえり」

 ヌッと影から現れたナイトを迎えると、ナイトの陰からロボとアースが飛び出してきた。はい、おかえり。

「あ! ネコ、ケーキ食べてる」

「ギィ!」

「ロボたちの分もあるぞ」

 ロボとアースにもケーキを出し、ナイトにはフォークも付けて渡す。わーいと食べ始めたロボたちを撫でながら、ナイトの報告を聞く。

「道順はそこまで変わっていませんでしたよ。ただ、行き止まりになっているルートが幾つかありましたのでそれはマークしています」

 ナイトに預けられていた地図を見ると、幾つかの道がバッテンで消されていた。これが塞がっている道か。

「どのルートを通っても魔物との遭遇率はあまり変わらなかったように感じます。あと、26階以降は今よりも更に魔物のランクが上がりますので、私たちもお手伝いしますが、お気を付けください」

 魔物のランクやっぱりまだ上がるかー。

「ナイト、ロボが頑張れと言ってきたのだが、どんな魔物が出るんだ?」

「……それは現地でのお楽しみです」

 お前、絶対面白がっているだろ。声が笑ってるぞ。こうなったナイトに何を言っても教えてくれないだろうから覚悟だけはしておこう。なんだか嫌な予感もするし。

 疑惑の視線を向けていると地図を見ていたガンジさんがナイトに向き直った。

「ナイト、ザントマンに関してはあんたに任せてしまっていいんだな?」

「ええ」

 自信満々なのすごい。そう思っているとナイトが胸に手を当てた。

「首無し騎士はザントマンの天敵ですから。アレごときに遅れは取りません」

 天敵?

 カイチさんが手を叩く。

「なるほど。首が無い首無し騎士には眠り粉は効かないし、だからといって抉れる目玉も無いからですか」

「そういうことです」

 物理的な意味で天敵なの止めない?



 睡眠を取って再出発。今日からはロボとアースが調査部隊の護衛に加わりネコはロボの背中の上で満足そうにしている。

 ロボも戦闘に参加したがっていたけれど、冒険者のみんなの修行だということで納得してくれた。

 出発して早々、目の前に黒い棒が突然出現する。何これ。と思うより先に「ギャッ」と短い悲鳴が聞こえて棒の先にザントマンが串刺しにされていた。すぐに消えるとは言え、人間っぽい見た目なのがすごく嫌だ。

 軽い音を当てて落ちた袋を回収すると、ザントマンを串刺しにしていた棒も消えていた。

「今のは?」

「影です」

 ……影が宙に立ち上って魔物を串刺しにしてましたが、突っ込んでは駄目なやつですか? 魔法だもんね。細かいことは気にしたら負け。

 キルニスさんも気になったようで、歩きながら俺の横を進むナイトに質問する。

「影を槍のように使うのか」

「はい。ある程度の距離に影があればそこから影を延ばすことができます」

「自分の影じゃなくてもいいのか?」

「はい。多少の縛りはありますが、魔力空間内にある影であれば全てに干渉できます。基本的には対象の影から槍を出しますね」

 自分の影から敵の武器が出てくるとか、絶対に逃げられないやつじゃないか。

「縛りというのは?」

「家の中など、区切られた空間にある影にはあまり繋ぎません」

「繋げないわけではないのか?」

「繋ごうと思えば繋げますよ。ただ、なんと言いますか……他人の家に勝手にお邪魔している感覚というか、落ち着かないのであまりしません」

 気分的な問題なのか。それはナイト個人がしないだけでは?

「そうか。だから首無し騎士は戸口から指差すだけなんだな」

「はい」

 まさかの首無し騎士共通の感覚なの? 戸口から指差すってなんだろうか。

「あとは、ダンジョンの中ですね。これに関しては本当に移動することができません。空間を扱う魔物の体内ですからね。ダンジョンに入ってしまうと首無し騎士だろうと一層ずつ攻略していく必要があります」

「普通に移動していただろう?」

「ユウがいましたから」

 はて。

「ユウが主人ですからね。私とユウの間でしたら移動が可能です。ロボたちは私とユウの間でしたら行き来できますし、私もユウの元に戻ることだけでしたら可能です。なので、地図を作成し終えるまでは戻れなかったのです」

 はーん。なるほど。

「それは、ダンジョンの外からでもユウの元に戻ることは可能なのか?」

「はい」

「外に出ることは?」

「どこにでも、というわけではないですが可能です。ユウがいる場所か、マーキングをしている場所ですね。今はレニアのユウの部屋でしたら戻れますよ」

 俺の部屋は区切られた空間なのですが。でもまあ気分の問題なら別に自分の部屋に戻る感覚だし平気なのか。便利だな、影魔法。そんなに色々できるなら使える種族が限られているのも納得できる。それにしてもキルニスさん質問攻めだな。と思ったら他のみんなも興味深そうに聞いていた。

「質問いいですか?」

「はい。どうぞ」

 遂に我慢できなくなったのかヤルニさんが手を挙げる。

「ザントマンのように透明になっている魔物は影がありませんが、どうやって対処するのですか?」

「ああ、それは」

 そこでナイトが何かを通路の反対側に向かって何かを投げた。黒い棒のように見えたのでまた影かと思ったけれど、違う気もする。

 ガツンと壁に刺さった棒は途中でザントマンを貫いていたのか、一瞬ぶら下がる人型が見えたけれどすぐに消えていった。

「こうします。直接当たらなくても、刺さった槍から影を伸ばせますし」

 あれ槍だったのか。影が無ければ作ってしまえばいいと? 姿が見えていないことが一切不利に働かないのすごいな。

 ナイトが指を動かすと槍とザントマンの素材が影の中に回収されていった。そのまま槍だけがナイトの手元に音も無く飛び出してくる。真っ黒な槍は装飾が少なくてシンプル格好良い感じ。螺鈿の無い日本号って感じかな。ナイトが持って大きく感じるということは3メートル近いか。長い。

「本当に強いんだな」

「今更ですか」

「ちゃんと戦っているのを見る機会が無かったんだから仕方がないだろう」

 バジリスクの真体を相手にしたときは目を伏せていたし、それ以外は基本別行動だったし。

「ウェストたちを止めたときはどうしていたんだ?」

「影を固定しました。影が動けないと本体も動けないのですよ。面白いですよね」

 面白いかなぁ?

 さて、とナイトが手を叩く。

「曲がり角の先からギガントボアです。ユウ」

「了解」

 剣を抜いて飛び出す。大きく離れても心配しなくていいのは気が楽だな。ギガントボアを倒して戻ると、列の後ろからもギガントボアが来ていたようだけど、ガンジさんたちが対処していた。

 魔物の出現範囲は上の階とあまり変わらないらしい。サクサク進もう。

 25階で一度休憩を挟んだ際に、再びナイトの話になった。

「ナイトさんよ、さっき魔力空間内にある影が云々言っていたが、魔力空間というのは?」

 ジンさんがロボをもふりながらナイトに聞いたので、魔力空間っていう単語が初耳なの俺だけじゃなかったのか。

「魔力が届く範囲ですね。皆様にわかりやすく言うなら、火魔法を飛ばすとして、飛ばせる距離だと考えてください」

 魔法って飛ばせる距離個人差があるの? それも初耳。でもあんまり遠くに飛ばすことはないし、まあいいのか?

「ナイトの魔力が届く距離は?」

「そうですね。とりあえずここからレニアまででしたら余裕で届きます」

 は? いや、そうか。レニアの部屋に帰れるって言ってたな。みんな無言になっている。そりゃそうだ。俺ですら常識外だろうということがわかるもの。

「それは……首無し騎士はみんなそうなのか?」

「いえ、さすがに私だけでしょうね」

 それはよかった。いくら強いと言われていても首無し騎士全員がそんなのだったら怖すぎる。

 ……ん?

「そういえば、首無し騎士のランクがおかしくないか?」

「ランク?」

「ああ。ナイトは特例的に幻想級に分類されたが、対策をしていれば逃げられる天災級と聞いていたのだが、首無し騎士がそこまで大きな被害を出すことがあるのか?」

 街を襲ったりするイメージが全く浮かばないけどランクが高いのが謎。そもそも対策していると逃げられる、というのもよくわからない。

 ガンジさんがそうさな、と腕を組む。

「首無し騎士は極端な魔物なんだよ。ちょっかいをかけると追いかけて来ることもあるし、逆に迷子になった新人冒険者を街まで送り届けたりもする。まあ追いかけられたところで、首無し騎士が騎乗するコシュタ・バワーが流水を嫌うから魔法で水を発生させるか、川を渡ってしまえば追ってこない。首無し騎士はそもそも積極的にヒトや他の魔物に干渉しないから気が済めば勝手に帰っていく」

 影を越えたらいい気がするけれど、そこまで追いかける気がないのか。

「では、何故?」

「首無し騎士は一瞬にして街一つ滅ぼした逸話がある」

 ……一瞬で、街を?

「ランクが高く設定されているとは思っていましたが、その話は初耳ですね」

 ナイトも聞いたことが無いのか。まあナイトが滅ぼしたんじゃないなら知らないこともあるか。

 ガンジさんが頷いて話を続ける。

「まあ、結果はともかくとして、原因は人間なんだがな。昔、とある阿呆が首無し騎士の()()()()()

 ……首を。

「首があるのか?」

 思わずナイトを見る。

「ありますよ。特に使い道がないので私は仕舞い込んでいますが……ある……はずです」

 え、15年間見たことないけど。っていうかその反応、まさか行方不明にさせてないだろうな? 生首どっかに放置してあるとかないよね?

「首無し騎士はコシュタ・バワーに騎乗し、甲冑姿で自分の首を脇に抱えているのが普通だぞ。じゃなくて、その首を盗んだ阿呆は街に逃げ帰り酒場で意気揚々と言いふらしていたらしい」

 まあ、珍しいものだろうし、自慢したくなったんだろうな。俺には生首を盗んだことを自慢する気持ちはわからないけれど。

「そして、突然死んだ。その阿呆だけでなく、その場にいたほとんどの人間が突然串刺しにされて絶命した」

 ヒェ。

「外に出てみると生き残ったのは子供や獣人、ドワーフなんかの極端に体格の違う者たちだけだったらしい。突然のことに呆然としていると、首無し騎士が現れて、首を回収して消えていったそうだ」

 どうしてそんなことに、と思うのだけどナイトは納得したようだ。

「首だけは影を使って回収できませんし、せっかく探してもまた逃げられると面倒だと考え、全員殺してしまえば早いと判断したのでしょう。一応体格で選んでいるだけマシなのかも知れません」

 最悪の効率主義。マシだと思えないよ……。

「街の人口の半数以上が死に、しかも残った半数以上が子供だ。街としては機能を完全に失い、その街はもう存在していない。生き残りがその話を広めた結果が今の首無し騎士のランクだな」

 うわー……そりゃ目に見える死とか言われるわ。

「半信半疑だったが、ナイトの戦い方を見てあの話が本当だったのだと納得したわい。そのくらい容易にやってのけるのだろうな」

 ガンジさんの視線にナイトが肩を竦めて返した。できるんだろうな、きっと。しかもたぶん街一つどころの規模ではなく。


ナイトの槍について。

「ところで、首無し騎士の武器は大鎌じゃないのか?」

「鎌の使いづらさすごいのですよ。内側に向かって湾曲しているから機能する範囲が尋常でなく狭いですし」

「そうなのか……その槍はどこで手に入れたんだ?」

「ダンジョンを渡り歩いている時に、ダンジョンボスを攻略したら報酬として出てきました。使い勝手がよくて愛用しています」

「……思ったより、魔物も世界を満喫しているんだな……」

「ある程度知性のある魔物は好き勝手に過ごしていますよ」

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― 新着の感想 ―
[一言] 首なし騎士とかち合ったザントマン、本当に出来る事無いなぁ。めっちゃオロオロしてそう・・・
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