第82話 素材加工と魔物のランク
もっとうまい説明が浮かべば、一部修正します。
21階の階層ボスはなんというか、ウシ版ケンタウロスというのか……四足のウシの首がありそうな所から人間の上半身があり牛頭という、魔物というかクリーチャー寄りの生物だった。アレなんなんだろう。
しかもすごく速い。
しかし咄嗟に床を全面氷張りにしたら可哀想なくらい滑り回っていたので、別に四足でも滑らないとかはないんだな。肉球と蹄で違うかもしれないけれど。
……雷魔法で一掃してから思ったのだけれど、ギガントボアやミノタウロスよりもケルピーの方が余程戦いにくかった気がする。成長したから、とかなら嬉しいのだけど違う気がする。
気になることはあとで聞くとして、22階に降りると今度はケンタウロスが向かって来た。ケンタウロスは魔法と弓矢を使うので、どちらかというと接近戦が得意な俺は戦いにくい。
なので、大人げない戦い方をするとしよう。
ケンタウロスに向かって、1ブロック通路全体を凍らせる。防御に使うことが多い氷の壁だけど、山を凍らしたときのように魔物を氷に閉じ込めて倒すことにも転用できるな。
氷を解除して、鬣と矢を回収する。鬣か尻尾の毛かはいまいちわからないけど、まあ鬣扱いでいいだろう。どこからがケンタウロスの鬣なのかは知らない。頭の毛は髪扱い?
ケンタウロスの素材はそのままディーナさんに渡す。矢は風の加護が宿っていて、鬣は弓の弦に加工できるらしい。
オリバーも頻繁に確認していたけど、弓矢は他の武器に比べると消耗が激しいな。基本的に矢は使い切りだし、強力な矢を使うと弦が摩耗する。
16階以降出現していたマウンテンクロコダイルの枝も、何に使うのかと思っていたらディーナさんが矢に加工していた。先端には牙なんかを加工して付けるようだ。
「とりあえずセーフティエリアに向かってくれ」
「わかった」
ガンジさんに言われ、キルニスさんに道を訊きながらセーフティエリアに向かう。セーフティエリアに着いたら、心を落ち着かせるために一旦ここでしっかり休もうということになった。
桶に湯を張って、ちゃんと体を洗えるらしい。やったー! 濡らしたタオルで拭いたりしてはいたけど、やっぱりちゃんと体洗いたい。
セーフティエリアの中に天幕を張るのも不思議な気持ちだけれど、天幕を張って中で体を洗う。お風呂入る?と訊いたらアースがワクワク顔で現れたので、アース用に小さな桶で風呂を作るとプカプカと浮いて満喫していた。
はー……さっぱりした。
アースを拭きながら天幕を出て女性陣と交代したところで、ガンジさんが俺を見上げて腕を組んだ。
「ユウ、お前さん儂を背負って走り回ったりできるか?」
「可能だと思うが」
ジェシカさんを背負って走り回ったりしてたし。深く考えずに返事をすると、ガンジさんはうーんと眉間を掻いた。
「休憩すると言っておいてなんだが、ちょいと用事を頼みたいんだ。いいか?」
「構わない。まだまだ元気だからな」
用事を頼まれるのは構わないのですが、それとガンジさんを背負って走り回るのとなんの関係が? ジンさんも首を傾げた。
「何をするつもりなんだ?」
「魔物がどの辺に出るのか確認しておきたい。儂を背負ったユウが走り回るのが一番速くて安全だろうと思ってな」
なるほど。俺だけで行ければいいんだけど、ルート知らないからな。
「ミノタウロスがいるからユイに《抵抗》を重ね掛けしてもらって、準備ができたら行こう」
「わかった」
《抵抗》って重ね掛けできるのか。もしかしてさっきは複数人へ掛けていたから重ねられなかったのかな?
「ムギィウ」
「アースも一緒に行きたいのか?」
「ぎゅい」
腕の中でむいむいと動き出したアースを撫でながら訊くと元気に返事が返ってくる。よしよし。いいよ。
「では戦闘はアースに任せようかな」
「ミィ」
なんか鳴き方ネコみたいになってない? 吸われすぎてなんか浸食とかされた? まあ満足そうに喉を鳴らしているからいいか。
アースに干し肉をあげつつ天幕から出てきたユイさんに《抵抗》を重ね掛けしてもらい、アースとガンジさんと一緒にセーフティエリアから出た。ついでにお湯の入った桶も持って出る。
「これ本当に捨てて大丈夫なのか?」
「ああ。見ててみろ」
ガンジさんが桶を立てると、溢れた水がすぐに消えていった。へぇぇ。アースが不思議そうに水が溢れたはずの床に降りる。理解ができないのか何度も桶と床を見ているのが可愛い。
「水魔法で出した水だからか?」
「普通の水でも大丈夫だ。血が吸収されるのと同じ原理だろうな」
へー。不思議だけど、もうダンジョンならなんでもアリな気がしてくる。
桶だけ中に戻して、では行きましょう。
ガンジさんを背負うと思っていた倍くらいの重量でびっくりした。まあ背負える重さなのでいいんですけど、なんで? ガンジさん鎖帷子でも着てるの?
「ガンジさん、重たくないか?」
「ドワーフはガッシリしてるからな」
そういうレベルじゃない気がする。なんかもう、密度が違うと思う。
「んじゃあ、ルートは指示する。行ってくれ」
「了解。アース、前を飛んでくれるか?」
「ぎゅっ」
戦闘はアースに任せて俺は走ることに集中しよう。走り出してすぐは魔物と遭遇したのに、しばらく走っているとやはり魔物がいなくなる。そして階層ボスがいる部屋に近づくとまた一気に増えてきた。
アースのブレスで溶けているギガントボアを見ると、アースのブレスは魔法耐性を抜けるのか。さすがのドラゴンクオリティー。ロボの魔法はどうかな?
俺は……みんなの安全を考慮に入れなければいけるんだろうな。つまりそれは「いけない」ということなんですけれども。雷ならいけるか。氷は氷柱以外は範囲攻撃しか浮かばない。氷柱って飛ばしたら氷の槍になるのかな。
二時間程走り確認したところ、どうもどのルートを通っても入ってきた階段と階層ボスの部屋の前に魔物が集中しているようだ。
「……ユウ、そろそろ戻ってくれるか」
「了解した。アース、戻ろう」
アースに声をかけてセーフティエリアに向かって走る。ガンジさん途中から静かだけど大丈夫かな?
セーフティエリアの前でガンジさんを降ろすと、顔色が悪い。
「大丈夫か?」
「内臓が揺れてる」
あー……酔ったのですね。すみません。揺れとか考えずに走ってました。自分で走っている分にはわからないな。俺がロボの背中で酔うのと同じか。
「方向転換のために壁に着地をする意味がわからん」
「……やってみたらできたから……?」
「人を背負っとらん時に試してみてくれ」
「以後気をつけます」
ごめんなさい。
部屋の中に入ると、いい匂いが漂っていた。ビーフシチューかな?
ライヌさんがこっちを向いて手をあげて呼んでくれる。
「あ、おかえり。ちょうどできたところだから食べながら話を聞くよ」
はーい。
カリカリのバゲットをシチューに浸けていただきます。膝の上にいるアースにもお皿に分けてバゲットを浸してあげると喜んで食べている。
「出入り口に集中しているとなると、警戒しているのか?」
「警戒なのか上に進むための準備なのかはわからないが、極端に集中しているなら戦闘はどうしても挟撃される可能性が高いな」
階層ボスの部屋の前は通路が多くて複雑だからなぁ。戦闘対策を話し合っていたキルニスさんが俺を見る。
「ユウの氷の壁でギガントボアは止められるか?」
「できるだろうとは思うが、万が一破られたときに反応が遅れそうだな」
油断してたらバーンとかありそう。それに驚いて魔法の暴発とかもすごくありそう。
「絶対に破られないであろう強度で壁を張ろうとするとみんなを巻き込みかねない。雷を一方向に飛ばして一掃するほうが安全だろうな」
「じゃあ、戦闘になると前はユウに任せて他は全員後ろで対応するか」
「了解した。前が終わり次第私も後ろに参加しよう」
「おう。頼む」
進むしか選択肢がないので、作戦は結構早く決まる。アースがウトウトし始めたところで会議は終了した。
まだ眠るような気分ではないので、アースを膝で寝かせたままディーナさんが素材を加工している様子を見せてもらう。他のみんなも各々武器の整備や落ちた素材から魔物の強さとかを話し合っているのだけれど、俺はできることが無い。
マウンテンクロコダイルの枝と砕いたギガントボアの牙を布の上に置き、その上に術式が浮かぶ。浮かんだ術式が落ちていって素材に吸い込まれるように消えると、素材が光って完成した矢ができあがる。すごい。改めて魔法って感じだ。
そういえば、この世界の矢には矢羽根が付いていない。飛距離や方向性は魔法や魔術で強化修正できるから必要がないのかな?
一本借りて見せてもらう。やすりを掛けたようにツルツルだ。牙で作られた鏃は……なんだったか。柳葉っていうんだっけ? 真っ直ぐな細い葉っぱみたい。指に掛けてみると、かなり短い。和弓感覚で持ったけれど、弓自体の大きさが全く違うからまあそうだよね。和弓は世界的に見てもどうして?ってくらい大きいからな……。
ディーナさんが首を傾げる。
「ユウさんは弓も使えるのですか?」
「叔父が趣味できゅ……弓を使っていたから教えてもらったりしていたが、動く的に当てるような技量は無いな」
叔父の良助兄さんに教えてもらって弓道の真似事はしてたけど、実戦なんてできない。動かない的に当てるだけでも必死なのに、型をなぞっている間に魔物に突撃されてしまう。
そもそも和弓感覚で引くと弓を壊しかねない。弓が折れるか弦が切れるかどちらかな気がする。ちっちゃい弓ってどう引くんだろう。アーチェリーでもやってればよかったかな。
矢をディーナさんに返して、弓も見せてもらう。
「これには何を使っているんだ?」
「弓はジャイアントボアの牙、弦がケンタウロスの鬣ですね」
牙って弓にも使えるのか。あんまり曲がるイメージがないから槍とか剣とかにしか使えないのかと思っていた。
「ギガントボアやミノタウロスの骨のほうが強い弓にはなるんですが、さすがに私の力では引けなくて」
あのでっかいのも弓になるのか。
「弦はケンタウロスの鬣がメジャーなのか?」
一本の糸に見える弦が魔物の毛からできているというのが不思議。ナイロン糸とまでは言わないけれど、毛糸ではないな。
「初心者やシルバーランクくらいの冒険者が使う物はメリーシープの毛やバイコーンの鬣が多いですね。消耗品ですから比較的安価なものが好まれます。初心者ですと特に、手が乱れたりして弦が傷んでしまいますから特にメリーシープの毛が多いかと」
メリーシープの毛って服になるだけじゃなかったんだ。武器にも使えるのか。
「ゴールド以上になるとケンタウロスなんかが増えるのか?」
「そうですね。あとは、高級品ですがユニコーンの毛でしょうか。魔法が掛けやすくて癖がありません」
ユニコーン。やっぱり聖獣なだけあって高級品なんだな。でも高級だけど使っている人が多いってくらいには出回っているのか。好戦的な性格にも程がないか?
あ、好戦的で思い出した。
「ディーナさん、魔物のランクのことでわからないことがあるんだが、質問いいか?」
「勿論いいですよ。私がわかる範囲でしたら」
わーい。手が空いたのがガンジさんも俺の横に移動してきて腰を下ろした。
「ミノタウロスやギガントボアよりも、以前戦ったことがあるケルピーのほうが強かった気がするんだ。しかしランクはミノタウロスたちのほうが上だろう? 何故なんだ?」
「ああ、それはわかりにくいですね」
頷いたディーナさんが簡潔に教えてくれた。
ケルピーのほうが確かに戦闘力で言えばミノタウロスよりも強いらしい。しかし、綺麗な水場にしか出現しないケルピーに比べ、ミノタウロスやギガントボアは洞窟や山など、ある程度の範囲は決まっているけれどどこにでも現れる。
そして遭遇したとしても住処から遠く離れた場所までは追ってこないケルピーに対して、ミノタウロスたちは倒さない限り追ってくる。しかも数体から数十体の群れで。
「それと、襲ってくる理由ですね」
「理由?」
「はい。ケルピーが襲ってくるのは基本は捕食のためです。縄張り争いなどの場合もありますが、ただ襲うために現れることはまずありません」
「ミノタウロスたちはそうではないと」
「群れで暮らす種族ですから、群れの中で地位を示すために人や他の魔物を襲います。大きな街なら高ランクの冒険者も多いですし籠城という手も打てますが、街と街の間にある村落はそうはいきません。村一つ滅んでもおかしくないのです」
村が滅ぶ規模なのか。まあ、そうか。ミノタウロスの大行進とか、とんでもないだろうな。
「被害規模の大小でランクが決まると聞いたことがないか?」
ガンジさんに言われて思い出してみると、確かウィルがそんなことを言っていたような気がする。そういうことだったのか。
「なるほど。なんとなくだが理解できた気がする」
危険が大きい方がランクが高いのか。名前を聞いたりしただけだと判断が難しいな。
僻地に住んでいる、人を襲いにくい超強い魔物<近場にいて大きな被害を出す強い魔物
という魔物のランク付け。魔物の強さも考慮されるけれど、被害範囲と危険度が大きな割合を占める。高ランクの魔物の討伐なら高ランクの冒険者を招集しやすいとかの事情もありそう。
依頼を受けれるランクは冒険者ギルドが管理しているので、ランクの低めな超強い魔物に低ランクの冒険者が出会すことはない。とか。
ただし天災級、幻想級はそういう問題じゃない。




