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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第76話 いざ、ダンジョンへ

 冒険者ギルドに入ると中にいた冒険者や職員たちにすごい見られた。何事かと思ったけれどガンジさんと一緒だからか。

「ギルマス、その人がレニアからの助っ人なのか?」

 一番に声をかけてきたのは厳つい鎧を着た紺色の髪の女の人だった。全身を覆う鎧からして前衛職だろうか。

「おう。『血塗れの鎧(ブローディ・アーマー)』のユウだ。ユウ、こいつが件のミスリルパーティのリーダーで、キルニスという」

 件のってことは、ダンジョンからみんなを避難させたパーティのリーダーか。

「まさか本当にオリハルコンを引っ張ってくるとは。はじめまして、私はキルニス。《烈火の戦士》のリーダーだ」

 キルニスさんのパーティも「烈火」が付くのか。人気の名前なのかな?

「ユウだ。魔導剣士で二つ名は『血塗れの鎧(ブローディ・アーマー)』。以後よろしく」

「魔導剣士なのか? 鎧はわかるが、魔導剣士で「血塗(ちまみ)れ」なんて、どんな戦い方をしたらそんな二つ名が?」

 握手をしながら名乗るとそう訊かれた。

「戦い方というか、諸事情あって血塗れのまま街を走り回ったりしていたらいつの間にかそんなことに」

 まあ戦い方にも問題はあるのだろうけれど、物騒な二つ名の理由はきっとそっち。濡れた感触がないからどうしても洗い落とすのが後回しになってしまうんだよな。

「……引かないでくれ」

「いや、引くだろ」

 キルニスさんもガンジさんも「うわぁ」みたいな顔してる。

「冒険者の多いこの街ですら血塗れで走り回っているような奴はおらんぞ」

 そんなぁ。

「お兄ちゃん、ネコの登録は?」

「そうだった。ありがとう、忘れるところだった」

「んなぁん」

 すっかり忘れていた。ロボはともかく、ネコが大人しくしていたからな。街に入ってからも随分大人しいし、もしかして人見知りしてるのか?

 キルニスさんが目をぱちくりと瞬いた。

「……その子、今喋ったか?」

「最近喋れるようになったんだ。私の随獣で、フェンリルのロボ。ロボの上にいるのが化け猫(ケット・シー)のネコ、ここに真性ドラゴン種のアースがいる」

 紹介と一緒にアースがフードから顔を出す。

 順々に三人を見たキルニスさんがガンジさんをバッと見る。

「随獣師だなんて聞いてないが!?」

「言ってないからな。ユウは冒険者としては魔導剣士として登録されているし」

「いや! 言っておいてくれ!」

 ものすごく驚いたんだが!と小声でガンジさんに詰め寄るキルニスさんをなんとか宥めて、ガンジさんの部屋で登録と詳細な話をすることになった。

 ガンジさんの部屋に入って、ハーネスの紐を外してあげると、ネコが恐る恐るといった感じで部屋の中を探索し始めた。やっぱり人見知りしてたのか? そういえば、ネコは街に入ったのは初めてなのかな? 人工物に囲まれているのが珍しいのかな。

 登録のためにソファーに座ると、ロボがまだ撫でてもらっていないキルニスさんの膝に頭を乗せて撫でてくれと要求していた。膝に降りてきたアースを撫でながらネコの登録を済ませる。登録ができるだろうとは思っていたけど、ここにも俺の登録情報が全部載った用紙があることに驚いた。もしかして全部の冒険者ギルドで共有されているんだろうか。

 用紙を持って一度ホールに戻って行ったガンジさんの背中を見送り、疑問に思って訊こうとしたらキルニスさんがやたらと感動しながらロボを撫でていた。

「どうしたんだ?」

「私は魔物に懐かれたことがなくて……友人のテイマーの従魔にも逃げられてばかりだったから、ふわふわがすごい……」

 語彙力失くしましたか? ふわふわに繋がる文脈が行方不明ですよ。

「キルニスさん強いから、みんな怖いんだと思うよ」

 撫でられていたロボがふすーと満足そうに尻尾を振りながらそう言う。

「そうなのか? ロボは平気なのにな」

「キルニスさん強いけど、ぼくのほうが強いから」

 まあフェンリルだしな。でも言葉を選びなさい。すごい煽ってると思われても言い訳できないぞ。今回はキルニスさんが全く気にせずもふっているからいいけれど。

「昔から平気だっただろう」

「ナイトとお兄ちゃんがいたもん」

 そう言われるとなあ。過保護にしてたもんね。俺はともかくナイトはおそらく父さん以外の人には負けないっぽいし、ナイトの庇護っていうのは強力なんだろう。

「んなー!!」

 後頭部に襲撃を受けた。俺の頭に飛び乗って踏み台にしたらしいネコは、棚の上を大興奮で走り回っている。

 あ、これ恐る恐る探索してたんじゃなくて何でどう遊ぼうか考えてただけだな。

 シュバババッと走り回るネコが突然止まったと思ったら、棚の天板から手首が生えてネコのお腹を掴んでいた。こっわ。完全にホラー。プミャーと鳴きながらネコが影の中に回収されていく。

 うーん。フリーダムにゃんこ。

「今、手が生えなかったか?」

「気のせいじゃないか?」

 結局訊きたいことを訊く前にガンジさんが帰ってきた。まあいいか。別に困ることじゃないし。この世界の冒険者に私文書偽造とかの罪はないだろう。たぶん。

「来たばかりで悪いが、明日の朝にはダンジョンに潜る。部屋は横に用意しているからそこに泊まってくれ。食料なんかは商人ギルドからのバックアップがあるが、何か買いたいものがあるならダンジョン前のテント通りで買えるだろう」

「了解した」

 テント通りか。食料や魔道具を売っているテントがダンジョンの入り口付近までずっと連なっているんだっけ。ダンジョンに一度潜ると普通は数日間は出てこないから、マジックバッグに大量の食料や回復薬、日用品なんかを詰めていくらしい。直前になって足りないかもしれない、という不安を相手取った特需なんだろうなぁ。まあぼったくり価格ではないらしいけれど。

 食料は余裕を持って買っていたから心配ないけど、見てはみたい。成り立ちは違うけれどおかげ横丁みたいな感じなんだろうか。

「……ん? 待ってくれ。潜る、と言ったか?」

 潜ってくれ、ではなく。

「ああ」

「まさか、ガンジさんも来るのか?」

「おう。今回のことは前例がなさすぎる。部下たちに任せきってはおけん」

 そ、れは、大丈夫なんですか? 組織的に。

「失礼な疑問かも知れないが、ギルドマスターが離れて大丈夫なのか?」

 ヴァネッサさんは指揮権をウィルに預けてでもギルドというか、街に残ってたけど。ガンジさんが頷く。

「この街にいるギルドマスターにとってはダンジョンが最優先なんだよ。今回の調査部隊には職人ギルドのギルドマスターもいる」

 なんでよ!

「知識がずば抜けているからな。悲しいかな、儂よりもはるかに素材やらなんやらに詳しい。同じドワーフとして頭が上がらん」

 職人ギルドのギルドマスターもドワーフなのか。

「まあ、気にしなくても大丈夫ってこった。副ギルドマスターは残していくし、ここのギルドは職員もほとんど冒険者上がりだからな。暴動でも起こったら騎士団と連携して勝手に鎮圧しているだろう」

 それは本当に大丈夫なので? 暴動起こるの? 若干の頭痛を感じて額に手を当てると心配ない、とキルニスさんが手を振った。

「ドワーフやエルフのように長く生きると時間の感覚が狂うんだ。前回暴動が起こったのは120年前だ。今はその頃より生活基盤の整備もしっかりされているし、ダンジョンが数ヶ月止まったところで街が狂うほどではないさ」

 あ、そうなんですか? よかった。

「なんだ、爺扱いしおって」

「実際に爺だろう」

 はあ、とため息を吐いたキルニスさんが俺を見た。

「君が爺を連れて行くのは不安だと言えば大人しく待っていると思うが」

 え、いや。そんなことは。

「まさか。来てくれるなら非常に心強い。常と違う場所では歴戦の古兵(ふるつわもの)以上に頼りになる者はないだろう」

 経験則とそれに伴う反射行動は腕力体力じゃ代用できないですから。異常が出てるって言われても、何がどうおかしいのかもわからないような素人(俺)を連れて行くのだから慣れている人は多いに超したことないかと。

 ガンジさんがキルニスさんを見てニヤッと笑う。

「最高戦力のお墨付きだ。大手を振ってついて行ってやる」

「はいはい」

 俺が最高戦力扱いなの怖いな。なんか変なこと起こりそう。

 一緒に潜るのは護衛として《烈火の戦士》のメンバーと俺、ガンジさん。調査部隊に職人ギルドのギルドマスターと冒険者ギルド職員数名と、騎士の調査員。

「結構な大所帯だな」

 スピード重視の少数先鋭で行くのかと。

「調査は大人数のほうがいい。気づきが多くなるからな」

 なるほど。

 顔合わせは明日、ダンジョン前でということになった。



「酷い目に遭った」

「ぼんやりしてると危ないぞと言っただろう」

 翌朝、ガンジさんとギルドで合流してやはりモンキーポッドの下にあるらしいダンジョンに向かっていると、なるほどこれがテント通り、と感動できるくらいテントが連なる通りがあった。想像以上のテントの数に呆気にとられていると人の流れに飲まれて芋洗いに遭った。ロボたちは巧く影の中に避難したらしい。

「活気がなくてこれか?」

「外からは来ないが、街の冒険者たちは毎日来るからな。特にウッドやストーンくらいの新人は泊まりで潜らない分、毎日朝は混む」

「そうなのか」

 毎日これかぁ。俺はレニアくらいの落ち着きがいいな。あそこも朝夕は混むけれどここまでではない。この街の本気の活気は岸和田のだんじり祭くらいありそうだな。

 ダンジョンの入り口前で待っているとキルニスさんがパーティメンバーを連れて現れた。四人パーティらしい。

 キルニスさんは剣士で、サブリーダーのジンさんが魔導戦士。ハーフエルフのディーナさんが魔法も使う弓使い、ジャガーの半獣人らしいユイさんが治癒術士。全員ミスリルランクで人数は少なめだけどパーティバランスがいい。全員ゴリゴリに武装してて圧がすごい。

 《烈火の戦士》が着いたすぐ後に調査部隊も到着した。職員がトールさんとヤルニさんカイチさんに、職人ギルドのギルドマスターのライヌさん、騎士団の文官だというショウさん。

 簡単に挨拶を済ませて配置の確認をする。

 ガンジさんは斧使いで前衛職らしいのだけれど、そうなるとこの護衛陣は前衛四人の後衛一人、後方支援一人ということになる。俺が関わる依頼すぐにパーティバランス崩壊するの一体どうしてなの?

 ガンジさんがビシッと指を立てる。

「今回は万が一に備えて前後どちらから襲撃されても対応できる配置を取る。迷宮フロアでは前方にユウとキルニス、調査部隊を挟んで中衛にディーナとユイを置き、儂とジンが後方を守る。草原のフロアは今言った配置を基本に各員全方位警戒しながらとっとと抜けてしまうぞ。ユウ、あまりしっかり見てられんがいいか?」

「勿論。あくまで調査の手伝いに来ているんだ。物足りなかったら仕事が終わってから個人でのんびり回るさ」

 中が少し変わっているとは言っても、10階分あった草原フロアが1階分しか無いという事はないだろうし。

 ジンさんが手を挙げる。

「ユウを信用してないわけじゃないが、リーダーとの連携なら俺のほうが取れるぞ。俺とリーダー、ギルマスとユウのほうが良くないか?」

「二人に連携は求めてないから大丈夫だ。完全に役割を分ける。キルニスは前方の警戒と調査部隊の安全確保、ユウは戦闘メインに進路確保」

「……魔導剣士なんだよな? 役割が逆じゃないか?」

 魔導剣士って進路確保とかしないの? こちらを見るジンさんに首を傾げて返す。ガンジさんが俺を見上げて笑った。

「壁役なら任せろ、とのことだからな。山一つ凍らせる二つ名持ちの実力を見せてもらおうじゃないか」

「最善を尽くそう」

 うわー、ハードルが上がってる。っていうか、そこまで凍らせてないです。3分の1だけだもん。

 よし、行くぞ、というガンジさんの声を受けて、ダンジョンの入り口になっているモンキーポッドの根元にある洞に入る。

 ところで、他の冒険者たちもここから入ってはいるんだけど、本当にこんな所からダンジョンに入れるの?


どこを端折るのが正解かわからないので話の進行が遅くなっていますが、ようやく次からダンジョン内探索に入ります。

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