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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第75話 テンカレの街

タイトルが思いつかない。

「あれが世界樹?」

「いえ、あれはただただ巨大なモンキーポッドです」

「この木なんの木!」

「はい。その不思議な木ですね」

 テンカレの街は巨大な樹の枝に覆われた街だった。外壁の上にこんもりと緑が茂っている。崖に登ったとしても街の中の様子を見るのは難しいだろう。ウリオの話ではテンカレのダンジョンは木の下にあると言っていたけど、あの木の下なんだろうか?

 アヌカの街を出て、平地ではナイトもバターに騎乗して進み、予定どおり3日目の昼前にテンカレが視界に入る距離まで近づけた。バターの本気は昔より速くなっているらしい。大きくなったからだろうか?

 街道から大きく外れた森の高台から門の位置を確認する。

「森のギリギリまでぼくが行って、そこからお兄ちゃんだけで行く?」

「この街にはテイマーも多いらしいから、縮んだら一緒に入れると思うよ。アースは一応フードの中に隠れていこうか」

「やったー! 街の中見る!」

「ぎゃう」

 ロボは縮んでしまえばチャーチ・グリムで通るだろうけれど、さすがにドラゴンは誤魔化しきれないからな。

「ナイトはどうする?」

「私は影の中にいます。目立つでしょうから」

 まぁ、そうか。魔物の中でも人型は相当珍しいって話だもんな。ナイトを人型と断定していいのかという議論は不要だ。俺は少し前まで人間だと思ってたんだから。言われてみるとおかしいってわかるんだけどな。全然疑ってなかった。

「テイマーが多いのでしたら鍵付きのケージもあるでしょうから、ギルドに向かう前に買っておいてくださいね」

「わかった」

 バターに乗ったナイトの膝でゴロゴロ喉を鳴らしているネコを見て頷く。タオルを切って作った簡易ハーネスで繋がれているので大人しくしているけれど、まー、この子が動くこと動くこと。

 併走するバターの背中からロボの背中に飛び移ろうとして落っこちかけたり、走っているバターの頭に登ろうとして落っこちかけたり、影を利用して抜け出して気づいたらいなかったり。最終的にナイトが一旦影を閉じてハーネスを作成、装着した。

 ロボたちみたいな賢い魔物か害獣的な魔物しかいないのかと思ってたんだけど、こんな地球の子ネコそのものみたいな子がいることにちょっと驚いた。フリーダムにゃんこ。

 とにかく、戦闘時にネコが大人しく影の中に隠れていてくれるとは思えないので、ケージに入れておこうという話になったのだ。影の中には調理器具なんかもあるので影に入れるだけでなく、ケージに入れてから影を閉じるらしい。

 そんな話をしてから、森の端まで移動する。外壁の警備に見つかる前にロボから降りて、ロボが縮んでいる間にマントのフードを被りアースを隠す。

 ネコはロボの背中に乗りたいようなので、ネコのハーネスから伸びる紐をロボのハーネスに括りつけておく。あんまりきつくしても可哀想だし、地面に降りても問題ない長さに紐を調整しておいたほうがいいかな。ナイトは影の中に入って影を閉じた。バターも一緒に入っていったけど、このまま地球に帰るかな?

 簡単に身なりが怪しすぎないかを確認してから検問に近づくと、列の最後尾近くにいたドワーフの男性が近づいてきた。なんだろう? 騎士ではないようだけれど、この格好で魔物連れは拙かったか?

 じっと見てくる人に首を傾げると、ふむ、と頷いて更に近づいてくる。

「お前さん、『血塗れの鎧(ブローディ・アーマー)』だな」

「え? あ、ああ。そうだが。貴方は?」

 どなたでしょうか? 会った覚えは無いんだけどな。ドワーフの男性は髭面の下でもわかるくらいにっかり笑って胸を叩いた。

「儂はガンジ。ここテンカレの街の冒険者ギルドのギルドマスターだ」

 ギルドマスター! なんでこんな所に。

「これは、失礼した。私はユウという」

 握手をして挨拶をする。フスフスとガンジさんの手の匂いを嗅ぐロボをガンジさんが撫でた。

「昼頃にはってことだったからな、出迎えついでにギルドに着くまでに事情を説明しておこうと思ったんだが……」

 そこでガンジさんが言葉を切ってロボを見る。ロボの頭の上まで登ったネコがロボの真似をしてフスフスとガンジさんの手を嗅いでいた。

「この黒いのがフェンリルなんだろうが、この化け猫(ケット・シー)はなんだ?」

「ぼくはロボだよ。この子は弟のネコ! でね、お兄ちゃんのフードの中にネコのお兄ちゃんでぼくの弟のアースがいるよ!」

「んなー」

「ぎゅ?」

 ロボが尻尾を振りながら紹介すると、それに合せてネコが鳴いてアースがフードから顔を出す。

「おうおう、ドラゴンはそんなとこに隠れてたのか。えっと、ロボとアースとネコだな。覚えたぜ」

 わしわしと撫でられて満足そうにアースはフードの中に戻り、ネコはもっと撫でろとガンジさんに登る。止めなさい。他所の人の服に爪を立てないの。回収して抱っこすると鎧の指を吸われた。この子なんにでも吸い付くんだよな。

「ドラゴンまでは聞いていたが、化け猫(ケット・シー)はいつ?」

「アヌカを出た直後に。わざわざ戻る必要も無いかと思って」

「そうなのか。ん? 首無し騎士は?」

「影の中に。さすがに目立ちすぎるかと」

 確かになぁ!と笑うガンジさんは見るからに豪快なお爺ちゃんというか、こういう人のことを豪放磊落というのだろうか。

「じゃ、まあ登録はギルドに着いてからとして、ちいとばかし時間が無いんだ。ギルドまでに大体のことは説明しちまいたいんだが、どっか寄りたいところはあるか?」

「ネコを入れておくケージが買いたいのだが……時間が無いというのは?」

 ギルドマスターが直々に迎えに来るほど急がなければならない状況なのだろうか。

「この街はダンジョンに挑みに来る冒険者相手の商売が多いから、ダンジョンに潜れねぇってのは冒険者だけじゃ無くて街全体の活気に関わる。方々からせっつかれてるんだよ」

 そうなのか。……確かに、言われてみると検問の列が短いように思える。これはダンジョンの異常が理由だったのか。

 話は通してあるとのことで列の横を通らせてもらう。一応門を通り抜けるときに登録証の提示だけはしておいた。検問していた騎士も見ただけで頷いて行ってよしとジェスチャーしてくれたのでこれでいいのだろう。

 街の中は外から見ていたとおり、完全に空が木の枝に覆われていた。しかし思ったより暗くはないので夏場は快適に過ごせそうだ。

 もう冬なんだけど、モンキーポッドって常緑樹だっけ? この世界の種特有?

「レニアの街より鉄の匂いがするね」

「そうだな。武具の工房がレニアより多いんだろう」

 ロボがフンフンと鼻を鳴らしながらそう言うのに頷く。ダンジョンの異常のせいか人出はそれほど多くはないけれど、たくさんの工房の煙突から煙が出ている。

「ガンジさん、異常としか聞いていないのだが、具体的にどんな異常が?」

「あー、そうだったな。お前さんはウチのダンジョンについてどう聞いてる?」

 テンカレのダンジョンについて。

「ダンジョンというものを学ぶのに一番適していると」

 ウリオの話では、テンカレのダンジョンは50階層から成る中級から上級者向けのダンジョンで、魔物は獣系が中心。何よりも一押ししてくれた理由が、このダンジョンは虫が出ない。やったぜ。

 1階から10階までは広い草原のようなフロアになっているけれど、11階から40階までは迷路のようになっていて、41階より下は洞窟のようになっていると。各フロアにセーフティエリアと呼ばれる魔物が出現しない場所や部屋がいくつかある。

 10階までは初心者でも潜ることができるようになっていて、11階以降はカッパーランク以上と制限が付く。30階まではシルバーやゴールドランクのパーティなら比較的安全に進むことができるけれど、31階以降はミスリルやオリハルコンランクがいなければ難しい。41階より下に潜れる冒険者はほとんどいない。

 直近で50階のダンジョンボスを攻略したのは勇者パーティが10年前に。その時のダンジョンボスはベヒモスという、大きいサイみたいな魔物だったらしい。

 一通り聞いたことを話すとガンジさんが頷く。

「大体はそのとおりだったんだがな。今は20階までしかゴールドランクのパーティが入れない状況だ」

「ゴールドが20階まで?」

「ああ。原因はわからんのだが、どうしてか21階以降の魔物のランクが急に跳ね上がった」

 ダンジョンボスが倒されると魔物のランクが上がることがあるとは聞いたけれど、特定の階層のみというのは初耳だ。

「それは突然?」

「ああ。全くなんの兆候も無かった。勇者パーティは戦士を除いてみんな帝都に集結していたらしいし、シオンはお前さんと一緒にレニアの東で討伐依頼中だった。ダンジョンボスが攻略された訳では無かろうよ」

 ダンジョンボスの攻略も無しか。

「そこまでいきなりだと、怪我人などは?」

「たまたまミスリルのパーティが潜っててな。そいつらが指揮を執って全員を安全圏まで連れ帰ってきてくれたから重傷者はいない。リストと照合して確かめたから、申請せずに潜っていない限りは大丈夫だ」

「それは良かった」

 重傷者がいなかったのなら一安心だ。のんびり野営なんてしている場合では無かったんじゃないかと焦った。

「あ、ここでケージが買えるぞ」

「わかった。少し待っていてくれ。ロボ、ネコを頼む」

「はーい」

 ロボの背中にネコを戻して店に入る。ワイルドボアが入れそうなケージもあるけれど、あんまり大きいとネコがはしゃぎすぎるかな? でも逆に小さいと可哀想だしな。大型犬用くらいの大きさのケージがあったのでそれを売ってもらった。座布団みたいなものもあったのでそれと小さい毛布もついでに。

 ナイトに声をかけて影の中に入れる。中でいい感じにセットしてくれるだろう。

「すまない。待たせた」

「いや、むしろ急かしてすまんな。ここまでもとんでもない速さで来てくれたってのに」

「それは気にしないでくれ」

「いろんな道を走れて楽しかったよ!」

「ははっ。そりゃ良かった」

 わしわしとまたロボを撫でたガンジさんが俺を見上げる。

「ところで、来てくれたもんに訊くのは礼を失するかもしれんが、なんで来てくれたんだ? 料金交渉も無しに。ギルド職員の遠征費くらいしか提示していないし、美味い依頼では無かっただろう」

 頭を掻きながらそう訊かれて、初めて料金が交渉できる事実を知った。そうだったのか……いや、まあ交渉できたところでしないけども。

「正直に言うと、ダンジョンに興味があっただけなんだ。どこかのダンジョンに行ってみたいなとぼんやり思っていたときにここのことを小耳に挟んで、せっかくだし人の役に立てそうな所に行くか、と。その程度で。観光気分で来てしまってすまない」

 まさか街単位で困ってると思っていなくて。

 鎧越しに顎を掻くとガハハとガンジさんが大きく口を開けて笑う。

「そのくらい気楽に来てくれたほうが有難いさ。助けに来てやったぞ!と勇んでこられるよりよっぽどいい。そういう奴はプライドが高くて指示を聞かんことが多いからな」

 それはそうかも知れないけど、観光気分は観光気分で問題だと思いますよ。反省します。

 ギルドに着くまでに今回俺、というか本来はウィルが呼ばれていた理由を教えてもらう。ダンジョン内部の調査のための戦闘補助要員だったらしい。他所の街のギルドに出向するほどウィルは強いのか。

 俺だけじゃなくて、ギルド職員と冒険者も緒に潜るらしい。

「メンバーはもうこちらで選抜している。お前さんは魔導剣士だってことで、前衛を任せたいんだが、パーティでの戦闘経験は?」

「ほとんど無い」

 見栄を張ってもしょうがないから素直に言おう。ウィルとシオンさんと組んだあれをパーティでの戦闘経験に数えるのは無理がある。

「パーティを組んだことはあるが、ほぼ単独行動だった。だが、そうだな。壁役としてはある程度頼りにしてくれていい。いざとなれば反則もできる」

 前衛というなら、監督依頼の時に《架け橋(アーク)》の前衛を代わったときの経験のほうがよほど役に立つだろう。要は、後ろに魔物や攻撃を通させなければいい、はずだ。

「反則?」

「単純に頭数が増やせる」

 ナイトだけじゃなくロボやアースにも頼めば四方向固められる。ネコはケージに入れるけどね。危ないからね。

「そりゃあウィルにもできん芸当だな」

「だろう?」

 笑うガンジさんに肩を竦めて返す。俺の力で足りないのならどんどん頼ります。


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