第73話 神造兵装
フィニスさんが頭を掻きながら棚から紙を取り出す。
「せっかくだから教えてあげるよ。代わりと言ってはなんだけど、あとでちょっと鎧の性能を見せてほしいな」
それは勿論構いませんが。広げられた紙を見ると、いくつか武器が描かれていた。……明らかに武器でないのも混ざっている。
「神造兵装はその名のとおり創造神が創り出した武器だ。全てがアダマンタイト製だと伝わっている。実際今確認されている神造兵装は全てがアダマンタイト製だ。というかアダマンタイトの武具は創造神が創ったものしかないはずだから簡単にアダマンタイト製=神造兵装だと思えばいい」
創造神とアダマンタイトの話はウィルから聞いた。ウィルは神造兵装とは言ってなかった気がするから繋がらなかったのか。
世界樹の種子がアダマンタイト製って扱いかは謎だけど、アダマンタイトの性質を持っているから神造兵装ってことになるんだろうか。
「まず所有者がわかっているものからいこう。一番有名なのは勇者選定の剣『拒絶の剣』、これはその名のとおり勇者が持っている」
選定の剣が名前じゃないのか。今度父さんに見せてもらおう。
「次に勇者パーティの大神官が持つ『神託の杖』、大賢者が持つ『叡智の槌』、戦士が持つ『回帰の斧』」
とんとんと紙に描かれている絵を指差しながらフィニスさんが言葉を並べる。父さんのパーティみんな神造兵装持ってたの? そりゃ魔王に勝つよ。魔王の強さ知らないけど。
「それと、シオンが持つ『最優の盾』。レニアにいたなら見たことあるんじゃないか?」
「模擬戦をした際に白銀の盾は見たが」
シオンさんも神造兵装持ってた。勇者パーティに比肩する英雄とか言われてるなら持っててもおかしくないか。黒色じゃなかったけど、討伐依頼の時使っていた盾よりはあの白銀の盾の方がそれらしい気がする。
「それだな。くっそ、『最優の盾』と『万能の鎧』の模擬戦見たかった」
頭を抱えるフィニスさんは本当に悔しそうだけれど、見応えはそんなに無かったかと。鎧関係なく魔法火力で押そうとしてボコボコに負けました。
「アダマンタイトは漆黒の金属だと聞いていたのだが。色が違う場合もあるんだな」
いろいろ性質が変えられる鎧ですらアダマンタイトの時は黒なのに。そう言うとデオンさんが頷いた。
「確か、シオンは元から白銀の鎧を着てたらしくて、盾を持ったら勝手に色が変わったらしい」
合わせてくるスタイル。拒否することを許さない感じだな。
「とにかく、今言った五種と君が持つ『万能の鎧』が加わって、確認されている神造兵装は全部だな」
フィニスさんが鎧の絵を指したところで確認すると、まだ四つ残っている。
「所有者がわからないものがこんなにあるのか」
「所有者どころか所在も不明だよ。『虚構の弓』『不破の槍』『不落の砦』、どんな武装を指しているのかもさっぱり不明な『終焉の器』」
終焉の器とやらも気になりますが、砦が武装扱いなの面白くない? どうあがいても持ち運べないだろうに。
「そもそもこの十種だけなのかも謎だしな。古い文献をあさって、とりあえずはこれは間違いなく存在しているだろうものがこれらだ」
剣に斧に杖に槌……はハンマーのことだよな。わかっている限りは結構基本的な武器って感じなんだ。いや、砦とかあるんだけど。それは置いておいて。
フィニスさんが描かれた槍を指差す。
「私的に一番気になるのは槍だ。他はともかくこれだけ特徴がわかりやすすぎる」
「「不破」か。しかし、アダマンタイト製のものはそもそも壊れないのでは?」
「それがね、『拒絶の剣』を使えば壊せるらしい。壊れた神造兵装はまた創造神によって造り直され世界のどこかに安置されるのではないかと考えられている。斧と弓は少なくとも一度は破壊されたような記述があるのに、斧が戦士の手元にあるからね。全部壊せるのかどうかはわからないけれど、槍だけは壊れないことを謳っている。ということは、この槍はもしかすると「勇者を殺すための武器」なんじゃないかと思うんだよね」
勇者を殺す武器か。
「当代勇者には効果が無さそうだが」
「あいつは寿命以外では死なないでしょ」
物理無効ですもんね。槍で突いた程度で死んだらびっくりする。そしてちょっと安心した。
「確証は無いけど、盾と鎧も壊れないとは思うよ。本来は攻撃系の武装ではないし」
そうなの? 試すには怖いからしないけど。防御面を鎧に頼りきってるから無くなったら死ぬ気しかしない。
デオンさんが紙を片付けながら俺を見た。
「そもそも『万能の鎧』をどこで手に入れたんだ?」
ンッ。まあ気になりますよね!
「父がずっと持っていたらしい。いつから持っていたのかは聞いていないが、父が持っていても何も起こらないので、私か弟が適合者だろうと。そして私に譲られた」
嘘は吐いてないです。父が勇者だと言うことを言ってないだけ。二人ともそうか、と深く疑問には思わなかったらしい。
「いずれ生まれてくる適合者を待っていたのか。神造兵装ならそういうこともあるんだろう」
神造兵装ってだけで、生まれる前の適合者を待っているとかいう不思議事象が受け入れられるのか。まあ実際にそんな感じだったみたいだけど。勇者である父さんより俺が選ばれた理由はよくわからないけど。父さんには鎧が必要ないからか?
「そういえば、神造兵装というのは私のような一般の冒険者が持っていてもいいのか?」
無くなると死ぬけど、なんで勝手にそんな希少なものを持っているのだ!って怒られるのも嫌だ。他の所有者は勇者パーティとシオンさんだから許されるのでは?
「心配しなくていいよ。それに関しては全く問題ない。神造兵装の絶対的所有権は適合者にある。神造兵装は適合者でなければ使いこなせないからな。『万能の鎧』なんて特に、適合者以外の前では植物の種子のような状態なんだろう?」
確かに。持ってていいなら良かった。それにしても。
「何故適合者しか使えないとわかっているんだ?」
「勇者選定の剣が勇者にしか持てないことから「そういうものである」という認識があるっていうこともあるけど、以前開かれた御前試合ではっきりしたかな。およそ全能と謳われる勇者ですら適合しない『回帰の斧』の能力は使えなかったんだ。勇者が使うとただの頑丈な斧としてしか意味を成さない」
父さんにも使えない武器なのか。御前試合って王様の前で戦うやつだよね。それはそうと斧振り回してる父さんはちょっと見てみたい。
「斧の能力は?」
「簡単に言うと分解だ。普通、魔法攻撃を相殺するには向かってくる魔法の属性と威力と範囲を理解しなければならないんだけど、斧の能力を使えば相当量の魔力は持って行かれるらしいが全く性質のわからない魔法でも魔素状態に還せる。魔法による設置型トラップなんかは通用しない」
マジかよ。
「日常生活では使えないけどな」
「日常生活?」
「外壁が壊れたときになんとなく叩いてみたらしいが、真っ二つに割れただけらしい。」
……分解されて土に還ったり、超分解されて魔素にまで還らなかっただけマシなんじゃないかな。
「人や魔物にも使えないしな」
「そうなのか?」
「命を持つものには普通に斧としてしか使えない」
「斧としてしか」
「うん。斧としてしか使えないけど、斧としては使える」
そっかぁ。まあそうだよね。父さんも借りて斧として使ってたんだもんね。神造兵装とは。
とりあえず、とフィニスさんが手を叩く。
「話し込んじゃったけど、ちょっとだけ鎧の性能を見せてくれるかい?」
「勿論。何をすればいいんだ?」
「そうだな、腰布で試させてほしいことがあるんだけど、いい?」
腰布で? 何をするんだろう。
腰布を持ち上げて机の上に置くと、フィニスさんが棚にあった木箱から書類を取り出して、木箱のほうを机に置く。
「触っても?」
「どうぞ」
腰布を触った二人が目を見張った。
「感触は完全に布だな。絹か、それに近い」
「軽いし、ちょっとごめん。うん。繊維質だし織り目もある。これはちゃんと布として構成されている」
布を持ち上げて光石に透かして確認したフィニスさんがそう言うので、デオンさんと一緒に覗き込んでみると確かに繊維が織られているのが見えた。
作り込みすごいな。おしゃれ以外の意味が見出せないとか言ってごめん。
「それで、この布を、こう!」
確認が終わったフィニスさんが箱に被さるように布を置き、錐のようなもので突き刺した。
勢いよく突き立てられた割になんの音もしなかったけれど、突然どうしたんです? ご乱心?
「フィニスさん?」
「んー……。ん。やっぱり。布も破れていないし、箱にも損傷が無い。『万能の鎧』は内殻と外殻とで性質が違うって記されているんだけど、本当?」
もう一度光石に透かして確認したフィニスさんに普通に訊かれる。これはエルフは変人が多いと言われても擁護不可避。せめて一言ください。びっくりするでしょ。
デオンさんが片手で額を覆ってため息を吐く。
「悪い。こういう奴なんだ。悪気はないんだが」
「デオンさんも苦労してそうだな。鎧は基本は外殻がアダマンタイト、内殻がドラゴンスキンだ」
「基本は?」
「それぞれ自由に性質を変えることができる」
今回の旅では一度も戦闘をしていないし、変える理由が無いから世界樹の種子の判断で変えているということもないだろう。
今更だけど不思議だよな。鎧の一部だからそういうものだと思っていたけど、布が金属とか革の性質を持っているの謎。万能だから仕方ないね。
「それが『万能の鎧』の能力か。ヴィーシャから聞いた話では仮面にもなるんだろう? 身に纏うという条件はあるんだろうけど、どんな形にも変わり複数の性質への変化も可能。本当に、個人を守ることにおいては「万能」なんだな」
へぇぇ。いや、本当に適合者俺でいいの? たぶんもっと有効活用してくれる人いると思うよ。
そう思っていると世界樹の種子が手首でもぞりと動いた。
これは失礼。認めてくれている世界樹の種子に対して「俺でいいのか?」は良くなかったね。
「はぁー、満足。ありがとう。間近で見れたどころか触らせてもらえるなんて、最高」
「どういたしまして」
とっても良い笑顔ですね。満足いただけたのなら何よりです。
「やっぱりギルマスやってて良かった。冒険者やってたらこんな機会無いだろうからね」
ギルマスやってて良かった、か。この短時間でもフィニスさんの性格なら自分で探しに行きそうなものなのに、なんでギルドマスターをやっているんだろう。
「自分で探しに行かないのか?」
「それも楽しそうなんだけどな。私は別に神造兵装だけを調べたいわけではないし、いくら長寿のエルフと言っても、個人で行ける範囲では限界がある。それに比べて、ここアヌカの街は大陸最大の帝国第一の交易都市。ここにいるだけで世界中の珍しいものに出会える確率が跳ね上がる。実際、ドラゴンも見たしレヴィアタンのパーツも捌いた。ギルドマスターだから呼ばれた御前試合の観覧で『拒絶の剣』以外の神造兵装も見ることができた」
ああ。そういうことか。己の欲望に忠実で何より。
「権力を持たせては駄目なタイプの人では?」
「これでも一応仕事はちゃんとするし、権力を笠に着て強引に品物を回させることもない。収集癖があるわけでも無いから見たら満足する。基本は知りたがりなだけの善人なんだ」
デオンさんと話しているとフィニスさんが咳払いをした。
「こら、本人の目の前でそういう話をしない。とにかく、私たちの目的は果たされたから、君の本来の用事もきちんと済ませておくよ。レニアを出たのは4日前になるのかな? テンカレまでも同じくらいかかる?」
あ、本来の目的忘れるところだった。
えっと、テンカレまではレニアからここまでよりも距離があるけれど、平地に出るから速度が上げられるだろう。
「たぶん3日後の昼には着くだろう。そう連絡してもらいたい」
「了解。もし帰りに暇だったらまた寄ってみて。この街の食事は美味しいよ」
「ああ、是非」
いろんなものが集まる街ならいろんな料理があるだろうし、ゆっくり楽しみたいな。
こういう設定を考えるのが楽しくて仕方がないです。
主人公がロボで酔うのか、というご意見がありましたが、
自分の意思でアクロバットしているのと、どう動くのかがわからないロデオに腕力だけでしがみついたまま数百メートルのアップダウンを繰り返しているのは違うかな、と思ったので、慣れるまで主人公は酔います。




