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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第72話 アヌカの街

「思ったんだけど、これ氷の橋を崖の間に渡したら降りる必要ないよね?」

「走っているロボに乗って正確に橋が作れるのなら止めませんが、フェンリルといえどもこの高さから落ちるのは危ないですよ」

 ……無理ですね! 途中で崩れたりそもそも向こうまで届いてなかったとかなりそうな自信がある。

「ごめんねロボ。俺が魔法が下手なばっかりに」

「ぼくはお散歩楽しいから気にしないでいいよ!」

 頼もしいなぁ。それならいいんだけどお散歩の規模大きすぎない?

 アップダウンの激しさに更にスピードを落としてもらったので予定よりも少し遅れたけれど、なんとか無事断崖絶壁の砂岩を超え亜熱帯のような蒸し暑い気候の森に入った。冬も間近だというのに群生するマングローブのような樹の鬱蒼とした緑に目が滑る。

「走りにくい」

 茂みや泥に足を取られてロボの速度が落ちるけれど、アースが先導してくれているので突然現れた沼に嵌まったりはしていない。

 バッチバチ枝が当たっているけれどロボは痛くないんだろうか? 気にせず走っているから大丈夫なのか?

「ロボ、痛くないか?」

「んー? 平気!」

 そう? なら良かった。アースは器用に枝を避けているから大丈夫だろう。しかし、北東に直進しているけれど、今どこまで進んだ?

「ロボ、ちょっと止まって。アース、全体が見渡せる高いところを探してくれる? 位置を確認したい」

「ぎゃお!」

 停止したロボに近づいてきたアースに頼むと元気に返事をして飛んでいった。影から姿を現したナイトが地図を広げて確認していた。

「湿地帯に入ったということは、そろそろアヌカの街が近いはずですね」

「砂岩から湿地って、この世界気候がすぐ変わる」

「魔素の影響ですね」

 魔素かぁ。なんでもありだな。

 戻ってきたアースについてロボに崖を登ってもらうと、森を眼下に一望できた。視界の端に街が見える。森を抜けると広い湿原になっているようだ。街は湿原の中央にあるらしい。

「あれかな?」

「おそらくは。湿原の真ん中にある街はそう多くないでしょう」

 オッケー。

「ロボ、あの街を目指して」

「はーい」

 バッと飛び出したロボの前をアースが飛び、ナイトは影に戻った。

 何度か位置を確認しながら森の端に近づいたけれど、そこでロボを止める。

 アヌカの街は湿原の中央にあるからか、門へは橋を通っていくしか無いようなのだけれど、橋に人通りがとても多くロボが行くと大騒ぎになる予感しかしない。

 街道を外れて進んでいてよかった。これうっかりすると騎士団に迎え撃たれていたかも。天災級らしいロボなら勝てるだろうけれど、勝ってどうするのか。

 下からは見えないであろう高台に立ち止まって考える。

「ぼくが行くとみんなびっくりしちゃうかな?」

「そうだね。ロボは強い魔物になったからね。ここでナイトと待っててくれる?」

「うん」

 耳をピクピクと動かしながら首を傾げるロボの頭を撫でて、ロボから降りる。ヴァネッサさんが連絡してくれているとはいえ、フェンリルに乗って突入するのはやめておいた方がいいだろう。

 走りっぱなしだし、ロボには休憩しておいてもらおう。影から出てきたナイトには伝えるまでもなく、櫛を用意していた。ブラッシングする気満々なのはいいんだけど、そんな「ザ・犬用」みたいな櫛この世界にあったか? この間地球に帰ってそれも仕入れてきたの?

「アースはどうする? 一緒に行く?」

 肩に乗ったアースに訊くと、少し考えるそぶりをしてから飛び上がった。

「ピャウ」

「この森見たことないお花とかあるから探検してくるって」

「そう。いつも言うけど、危なくなったらすぐに帰って来るんだよ」

「ギャオ」

 返事をするが早いか、アースは飛び出していった。そんなに面白そうな物があったのだろうか。

「ついでですから、今日はここで野営にしましょう。ユウ、洗濯用の桶を出しておいてくれますか?」

 小さくなったロボの装具を外しながらそう言うナイトに頷いて桶と洗濯板を出す。天幕とかも出しておこう。水がいるか確認したらロボが四大属性の魔法が使えるようになったので要らないらしい。マジ?? 俺が手伝えることどんどん減るね?

 ボムも陽光補給に出しておこう。

「何か買ってくる物ある?」

「そうですね、ではタオルを買ってきてくれますか?」

「わかった」

 タオルはなぁ。鞄の中に入れているとカビたりはしないんだけど、移動してると洗って干す時間が無いから消費が激しいんだよね……。服と違って1日一枚じゃ済まないし。多めに買ってこよう。

「てるてる坊主みたいですね」

「自分でもちょっと思ったから言わないで」

 マントを着るとナイトに笑われた。

 父さんに貰ったマントは踝まで丈がありフードがたっぷりした余裕がある形だから頭にボリュームがある。フードを被るとシルエットが完全にてるてる坊主。

 しかし、真っ黒で柄も無いマントって、黒い鎧と合わさってなんか邪悪じゃない? まあ今更か。『血塗れの鎧(ブローディ・アーマー)』だし。

 マントがなくても寒くはないのだけれど、北上してきたし鎧だけでは目立ちそうだ。

「お兄ちゃん、行く前に撫でて」

 お? よしよしおいで。もっふもふだねぇ。大型犬のエプロンは魅惑のもふもふ。今から洗われてブラッシングされるからもっともふもふになるね。毛足がだいぶ長くなっているのは換毛期なのかな? ビクターが換毛してたしフェンリルだって換毛期ありそうだよな。ロボが満足するまでもふもふを満喫させてもらい、街に向かう。



 橋について最後尾に並んだのはいいけど、列が長いな。レニアではここまでの列は見なかった。

 荷車の幕を眺めていると後ろに子供が並んだので訊いてみようかな。

「すまない、君はこの街の子か?」

「え? あ、はい」

 俺を見上げる子の腕に登録証が見えた。ブロンズランクの冒険者か。

「そうか。なら少し教えてくれないか。私はこの街には初めて来たんだが、いつもこんなに並ぶのかい?」

「そうですね。大体いつもです。アヌカは主要な街同士を繋ぐ真ん中にあるから、物流や交渉の拠点として他の街より人の往来が激しいそうです。検問も厳しくて時間がかかると聞いてます」

「なるほど。ありがとう。祭りでもあるのかと思ったよ」

「はは。初めて来る人はみんな驚かれますね」

 これが常なのか。騒がしい時期に来てしまったんじゃないかと焦ったけれどそうでなくて良かった。

 しかし、湿原のど真ん中にある街が交易の要なのは大丈夫なのか? この湿原、どうやら魔物がいるみたいだし街を攻めにくくはあるのだろうけれど、兵糧攻めとかされてはどうしようもないのでは?

 エリンという名前だった少年と話をしながら1時間ほど待ち、ようやく街に入れた。

「びっくりした……ユウさん、オリハルコンランクだったんですね」

「なったばかりだがな。まさか検問でこのランクであることの恩恵を受けるとは」

 最初めちゃめちゃ不審者を見る目で見られたけど、登録証を見せたら謝られてすぐ通された。全身真っ黒に仮面の男を不審者扱いするのは警備の人として当然の行動だと思いますので別に怒ったりはしません。ただ簡単に通れてラッキー。

 高ランク冒険者は信用が高いっていうのは、こういう役にも立つのか。

 ギルドに帰るエリンについてギルドに向かう。

 しかし、交易の拠点というだけあって街の中の活気がすごい。背負子を背負った人や荷車が行き交い、色んな物が店先に並んでいる。

「レニアとは違った活気だな」

「レニアはこうではないんですか?」

「人も多いし活気もあるが、商店よりも工房が多いな。武器なんかはほとんど工房の前の店舗で販売していた」

 レニアでは武器でもなんでも、基本的には直売だったからな。こういう風に店舗だけっていうのは珍しかった気がする。

 たどり着いた冒険者ギルドはレニアよりも規模が大きいようだった。護衛の依頼なんかが多いだろうし、職員や滞在している冒険者も多いのだろうか。

 エリンと別れて受付に並ぶ。あ、これなんて言えばいいんだ?

「依頼を受けられますか?」

「いや、ギルドマスターに会いたい。レニアの街のギルドマスターから連絡が来ているはずだ」

 笑顔で訊いてくれる男性職員に登録証を見せながらそう言うと、一瞬目を見開いたけれどすぐに頷いてくれる。

「承知しました。少々お待ちください」

 お願いしまーす。

 職員が扉に消えてすぐに、銀髪の美人がその扉から飛び出してきた。尖った長い耳が見えているのでエルフだろうか。カウンター越しにガシッと肩を掴まれる。

「本当に速いな! 連絡が来てから一週間も経っていないぞ!」

 ロボが頑張ってくれましたので。

 後ろについて出てきた髭の男性が咳払いをすると、エルフの推定ギルドマスターがハッとして距離を取る。

「すまない。取り乱した。私はフィニス。ここアヌカの街のギルドマスターだ」

「私はユウだ。こういうときは『血塗れの鎧(ブローディ・アーマー)』と名乗るべきなのか?」

「何の連絡もなく行った街でギルドマスターに用があるときはそう名乗った方が早くはあるかな。今回のような場合は必要ないよ」

 了解です。

「さて、せっかくだから少し話をしよう。訊きたいこともあるしね」

 はい。ところで後ろの人誰ですか?

 ギルドマスターの部屋に案内されてソファーに座ったところで紹介された後ろの人は副ギルドマスターでした。いやまあそんな気はしていたんですが。デオンさんというそうだ。

 紹介した勢いでフィニスさんがデオンさんを指で指す。

「この若造、一々五月蠅いんだよ。やれ仕事しろ、遊ぶな、研究に逃げるなって」

「うるせぇババァ。ギルマスなんだから仕事するのは当然だろうが」

 フィニスさんがエルフだからか外見が若いからなんか会話が面白いな。年齢が逆転している。上司をババア扱いはどうなのかと思うけれど。

「遊ぶなと言いながら彼を引き留めることにはお前も賛成したくせに」

「……神造兵装を間近に見られる機会なんて早々無いからな」

 ん?

「神造兵装?」

 なんだっけ、どこかで聞いたような? そう思って口に出すとフィニスさんとデオンさんがすごい勢いでこっちを向いた。

「君、神造兵装と知らずにその鎧を着ているのか!?」

「鎧というと、世界樹の種子のことか?」

 それなら父さんかナイトが説明の時に口にしたのかな? 神造兵装って。厳つい。

 デオンさんが頭を掻く。

「世界樹の種子はあだ名や通称に近いものだな。神造兵装『万能の鎧』。本当に聞いたことがないか?」

「万能の鎧とは聞いている。神造兵装というのは、おそらくその時に聞いたような?」

 伝えると二人に揃ってため息を吐かれた。許してください。その日覚えることがたくさんあったんです。なんてったって異世界という名の父の故郷に迷い込んだ初日だったもので。


マントについて少し記述を修正しました。

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