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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第66話 水中調査

 ジェシカさんが急遽依頼されたのは北にある川の調査だった。なんでも漁獲量が数日前から急に落ちたらしい。

 できればすぐに出て欲しいとのことで、駈け足で孤児院に寄って寄付だけして、食料を調達して街を出る。孤児院の子供たちには遊んでくれとせがまれたけどまた次の機会ということに。ルークさんにはものすごい感謝された。子供が増えたので冬の備えをどうするか悩んでいたところだったらしい。間に合って良かったです。

 アースはロボの修行に戻っていった。甘えるのも好きなんだろうけれど、ロボの修行に付き合って遊ぶのも好きなんだろうな。

 街の北側って来たことがなかったけれど、住宅が多い。西側は冒険者ギルドがある関係で工房が多く、南側は色んな大店、東側は菜園や果樹園が多いそうだ。壁の中に菜園があるって不思議。

 二角獣(バイコーン)が引く荷車に混ざってコシュタ・バワーとケリュネイアはすごく目立つが門を抜けるまでの間なので我慢だ。悪いことしていないのでチラチラ見ないでください。

「すみません、急で」

「構わない。何か異変が起きているならのんびりしている訳にもいかないしな」

 俺たちは機動力が高いんだから、せっかくならば活かさないと。

 門を抜けてそれぞれ騎乗して北に向かう。

 街道を外れて森を突っ切り、昼前には大きな川に着いた。普通に歩くと2日掛かるらしいから、魔物の脚すごい。

 それにしても。

「……川?」

 でっか。対岸が霞んでるんですが。川幅何キロあるの?

「はい。ユクナ川です。帝国第三の川幅を誇る巨大河川ですよ」

 この川幅で三番目なの? 一番どんなだよ。この川でも明石海峡大橋クラスの橋がいるんじゃないか? 島国出身には大陸の規模怖い。

「どうやって対岸に渡るんだ?」

「流れは緩やかなので、中州を渡して橋が架けられています」

 明石大橋は無かったか。ブルブルと不機嫌に首を振るバターを宥める。

「渡らないから大丈夫だ。遊んでおいで」

「コシュタ・バワーは本当に川が苦手なんですね」

 降りて馬具を外しているとジェシカさんにそう言われた。

「水を飲むのは川でも平気なんだけどな。渡るのは嫌みたいだ」

 ジェシカさんもビクターから降りて装具を外す。揃って近くの森の中に入っていったのを見送り、川沿いに進む。

 綺麗なエメラルドグリーンの川は川底まではっきりと見える。岸に近いところはそこまで深くないようだけれど、この川幅なら中央部は数十メートルあってもおかしくないな。それにしてもこの世界の川、基本的に透明度がすごく高い。こんな透明な川で魚がいるのか?

「水中を調べるのか?」

「いえ、ひとまず周りの植物を調べます。植物に異変が無ければ水中に原因があると考えられます」

 了解です。慎重だなと思ったけれど、魚も魔物だということなので慎重に調べるに超したことはないか。

 上流に向かって歩きながら調べてみたけれど、川岸に特に目に付く草は生えていなかった。背の低い草が群生している。ススキっぽいのは無いな。森から岸までも距離があるし、道は街道として整備されていて見晴らしがいい。

「漁はこの辺りで行われているのか?」

「ここからもう少し上流が漁場のはずです。どうかしましたか?」

「いや。ここは人通りもあるし、冒険者の姿も見る。これだけ見晴らしがいいのなら密漁の可能性は低いだろうなと思って」

「そうですね。漁場近くには見張り小屋もあるはずですし……」

 隊商の護衛っぽい傭兵や冒険者だけでなく、単純に移動中と思われる冒険者も多い。密漁者なんかは捕まえて騎士団に引き渡すと賞金が貰えるらしいから、不審な人間を放っておいたりはしないだろう。

 街道沿いの川辺なら野営するパーティも多いだろうし、登録証を見る限りシルバーやゴールドランクの冒険者たちが行き来しているので密漁者に負けはしないと思う。

 しばらく歩いていると木製の大きな橋と橋の上に小さめの家みたいなものが見えてきた。そこに冒険者には見えない人が集まっている。……あれ?

「ラウさん!」

「おや。ユウさん」

 依頼主かと思って近づくとラウさんがいた。声を掛けると手を振って招いてくれたので急いで近づく。あ、小屋は橋の上じゃなくて水上に建ててあるのか。

 ラウさん、今日はお店にいなかったと思ったら、ここに来ていたのか。魚も売っているお店だから不漁なんて聞いたら出向いてくるか。

 集まっているのは商人ギルドの人たちか。

「どうしてユウさんがここに?」

「ジェシカさんが不漁の原因の調査を頼まれて、私はその護衛と水中調査の手伝いだ」

 ジェシカさんを手で示すと二人してお辞儀をしていた。

 髭の男性が首を傾げる。

「来てくれたのは有難いが、今日依頼が出たところだろう。早すぎないか?」

「森を突っ切ってきたからな。早めに対応した方がいいと思って」

 森を?と俺を見る男性にラウさんが笑う。

「マルコ、彼が『血塗れの鎧(ブローディ・アーマー)』ですよ」

 マルコと呼ばれたおじさんが俺の登録証を見て手を打った。

「あんたが新しい二つ名持ちか! なら森を突っ切るくらい訳ないな。俺は商人ギルドのギルドマスター、マルコだ」

「ユウという。よろしく頼む」

 ギルドマスターだった。なんだか意外だな。商人ギルドはラウさんみたいな人が多いと思っていたのだけれど、マルコさんはどちらかと言えば冒険者ギルドの方が似合いそうだ。

「色々訊きたいこともあるが、とりあえず仕事を頼もうか。どう調査するんだ?」

 それは俺じゃなくてジェシカさんから説明した方かいいかな? ジェシカさんを振り返ると頷いてマルコさんに近づく。

「ハンナのとこのお嬢さんじゃないか。あんたなら間違いないだろう」

「ありがとうございます。今日はひとまず森と、漁場近くの水草を調べようと思います。土地全体に異常が出ているなら植物にも変化があるでしょうから」

「おう。ちなみに訊くが、密漁の可能性は?」

「ユウさんとも話しましたが。その可能性は低いと思います」

 水上コテージ風なのには驚いたけれど、見張り小屋も思ってた以上にしっかりしているし、漁場付近が荒らされている様子は無く見晴らしは更にいい。ここで密漁は難しいだろう。

 マルコさんとラウさんも頷く。商業ギルドの方でも密漁の可能性は考えてたか。

「見張りを強化してみたが何も起こらなかったからな。一回でここまで獲られるとは思えん」

 漁業って地球でも毎回漁獲量が安定しているわけではないもんな。見た感じ基本は投網と定置網っぽいし、この漁法で一気に漁獲量を減らすほど獲るのは難しいだろう。

「ユウさん、簡単に昼食をとってから浅場の水草を調べてください。一株ずつ採って来てくれたらいいので」

「了解した」

 買ってきた玉子サンドとカツサンドを詰め込み、鎧を水中仕様にして川に入る。

 浅場とは言っていたけれど、ちょっと泳げるくらいの所まで行ってみるか。


「……全く躊躇いなく飛び込んでいったが、あの兄ちゃん、まさか泳げるのか?」

「そう言っていましたよ」

「どこで練習したんでしょうねぇ」


 しかし綺麗な川だなぁ。視界良好。水深は大体3メートルくらいか。水草はいくつか生えているけれど、苔なんかは少ない。ジェシカさんから預かってきたガラス容器に水草を一株ずつ入れていく。苔も一応。探せばクレソンとかありそうだな。

 水流に任せて流されていると、コンブだかワカメだかわからないものが深場に掛かる岩肌に群生していた。

 ここ川だよな??

 近づいてみるとコンブだった。なんで? とりあえず採っておこう。昆布締めが食べたい。

 ついでに川の中央も覗いてみたけれど、これは本当に川なのかと訊きたくなるくらい深かった。川底まで綺麗に見えるけれど、相当だぞ。

 しかし、本当に魚がいない。

 水深が膝丈くらいの所に行けばアブラハヤみたいな小さい魚はいるんだけれど、この大きさじゃお店には並ばない。イワナやヤマメなんかが見当たらない。

 一旦橋まで戻るか。

 ジェシカさんも戻っていたので採取した水草を見てもらったけれど、特別おかしいものは無いそうだ。コンブおかしいものじゃないのか……。淡水で栄養足りるの? こんなに透明な川なのに。

 森を調べていたジェシカさんもおかしいものは見つからなかったらしい。

「この時期ですから異常繁殖していたり、逆に枯れていたりすれば目立つのですが、そんな兆候は無いですね」

「となると、問題はやはり水中か」

「そうなりますね」

 浅場や水深が5メートルくらいまでの所はひとまず調べたから、残るは中央の深場だけだよな。

 しかし、水深5メートルが深場じゃない川、恐ろしい。

「そろそろ日も暮れる。一度深場を見てみて、今日の調査は終わろうか」

「わかりました。お願いします」

 お願いされました。

 橋の真ん中から飛び込む。

 川だとわかっているのに、左右の陸が遠すぎて海の中に入ってしまったみたいだ。崖のようにそびえ立つ中州が異様。中州って本来こんなのじゃないだろう。底まで潜ってみると川底は細かい石で覆われている。

 鎧があるから水圧は大丈夫だけど、これディープダイビングクラスの水深だろ。修学旅行でダイビング経験してて良かった。こんなに深く潜ったことはないけど。

 簡単に沈んだり姿勢をキープしたりできるのはポセイドンの外皮の補正でも働いているのだろうか?

 しばらく川底を探したけれど、やっぱり魚はいなかった。中州未満の崖の間を進んでみても水草と苔のようなものが少し生えているだけだった。念のためそれらを採取して戻る。

 橋の上に上がるとジェシカさんをはじめ、商人ギルドの人たちが慌てて駆け寄ってきた。

「どうかしたのか?」

「どうかって、ユウさん10分くらい潜ってたんですよ。みんなで下流に探しに行こうかと思っていたところだったんですから!」

 ま、じで? そういえば息継ぎしてなかった。涙目のジェシカさんに申し訳なくなる。

「心配をかけてすまない。大丈夫だ」

「大丈夫ならいいのですが、なんで大丈夫なんですか?」

 なんでなんでしょう?

「ポセイドンの外皮のおかげだろうか?」

 全然苦しいと感じなかった。たぶんもう少し潜っていられる。

 とりあえず採種してきたものを確認してもらったけれど、やはりおかしいものは無かった。

 念のため夜は見張り小屋から離れて見回ってみたけれど密漁者のような人影はない。黒い鎧で月光だけを頼りに見張っていたから、バレたということもないだろうし、密漁の線は完全に消えたかな。

 翌日、ジェシカさんと商業ギルドの人たちはビクターに付いてもらって膝下くらいの水辺を確認し、俺は深場を調べてみることになった。

「昨日一睡もしてないだろう、大丈夫か?」

「1日くらいなら問題ない。世界樹の種子のおかげで水中でも体への負荷はほとんど無いからな」

 心配してくれるマルコさんに手を振って川に飛び込む。

 ひとまず下流を調べてみるか。どのくらいまで魚がいないのか確認しておきたい。

 水深が深いから視界の緑色は強く見えるけれど、透明度は変わらないので周りはよく見える。

 流れに沿って下流に向かって泳いでいると、しばらく泳いだ所で目を疑う光景に出会した。

 濃いエメラルドグリーンの川の中、さも当然のように竹が茂っていた。風に揺れているみたいに水に葉を揺らしている。

 すごい。異世界って感じ。

 一旦息継ぎをしてから、陽光差し込む竹林の中に突入する。嵐山の竹林の小径みたいだ。水で光が緑に染まりながら屈折して差しているから、こちらの方が幻想的かも知れない。ダイビングスポットとして人気になりそう。所々2メートルくらいの通り道ができているのは一体……?


 わぁい、サメだ。


 君のための道だな!! 淡水にサメって! オオメジロザメか!!

 サメにとっても想定外の遭遇だったのか、しばらく見つめ合ってふいっと方向転換して竹林の中に消えていく。オオメジロザメは好戦的な性格だから向かってくるかと思ったんだけど。

 不思議に思っているとサメが戻ってきた。くるくると何度かその場で回ってまた竹林の中に戻っていく。

 ついて来いと? もしかして川の主なのか?


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