第65話 次から次へと
陽が昇るのを待ち、バターとビクターに騎乗して街へ戻る。俺たちが洞窟の中にいる間にいっぱい遊んでいたのか、行きよりも少し速度を落として帰ったのでイアンもくたくたにならずに済んだ。
ギルドに戻り、報告の前にビクターを獣舎に戻す。バターは地球の厩舎に帰って行った。
ホールに入って依頼完了報告と一緒に洞窟内部のことを報告するとヴァネッサさん、ヤナさんに揃って謝られた。
「ごめん! そんなことになっているなんて思ってもみなかったわ!!」
「すまなかったな。入り口が狭いからといって調査を渋るもんじゃないな。ゴーレムが出てくるとは……怪我がなくて良かった」
本当に入り口が狭いのが不人気な理由だったのか。ヤナさんがイアンの頭を撫でながらため息を吐く。イアンの怪我はポーションで治る範囲だったのでちゃんとその場で治療済みだ。
「あの地震、規模の割に被害が少ないとは思ってたけど、やっぱり幻想級案件だったかぁ。シオン帰るのいつになるとか言ってたっけ?」
「勇者に帝都に拉致されたからな。用が済めばすぐに帰ってくるだろうが、呼ばれた事情が事情だから早々帰っては来ないだろう」
父さんシオンさん拉致したの? 事情があるってことはおそらくは勇者召喚関係か。なら時間が掛かるな。
「なんにせよ、一応の非常事態を想定してユウに頼んでて良かったわ。一旦洞窟関係の依頼は止めておいて、シオンが帰還次第、勇者と合同で深部までの調査を頼みましょう」
お願いしまーす! 俺は気まずいので絶対にその調査隊には参加しませんが。
「イアンも本当にごめんなさいね。訓練にしては過酷すぎたわ」
「いえ、貴重な経験でした。索敵の重要性や勝てない相手をどう回避するか、撤退のタイミング、色々考えることができました」
一歩間違えば死の危険があるところで学ぶことではない気がするけど、イアンがいいと言うならそれでいいのだろう。
依頼完了として、倉庫で取ってきた鋼の糸を提出して代金を受け取る。宝石類も一緒に鑑定してもらい買い取ってもらった。宝石の買い取り金額も三人で分けようとしたら断固として拒否された。
鋼の糸回収依頼の料金も拒否されそうになったけれど、それは三人で受けた依頼だとごり押して受け取ってもらった。二人がいなければ俺は鋼の糸の回収ができなかったし。
鋼の糸はこの後細工師のところで加工されてストリングになるらしい。宝石は商人ギルドに売りに出されるそうだ。
「自分で売り込んだ方が高く売れるが、本当にいいのか?」
「商売人との交渉は慣れている人がやった方がいい」
「確かに。買い叩かれるだけかもな」
はははと笑うギルさんと別れて、ジェシカさんとイアンとも別れる。ご飯を食べたいけれどその前に風呂に入りたい。
部屋に帰りシャワールームに入って洗濯物を干しっ放していた現実に阻まれた。畳んで仕舞わなければならないけれど先に風呂だ。
『ナイト、今大丈夫?』
『はい。どうされました?』
『洗濯しようと思って。洗うものがあったら寄越してくれる?』
『ありがとうございます。ではアースに持って行ってもらいますね』
はいはーい。乾いているものをとりあえずベッドの上に投げておいて風呂の準備をする。にゅっと風呂敷を咥えて現れたアースが浴槽代わりの桶を見てキラキラと目を輝かせた。
「アースも入る?」
「ギュ!!」
本当に風呂が気に入ったんだな。とっとと服を脱いでお湯を溜めている間に頭と体を洗い、アースの装具を外して体をさっと洗って桶に浸かる。ダンジョンの中にいたのだろうに、アースの鱗はそんなに汚れていなかった。性質の問題なんだろうか?
泳いでいるアースを見守りながらゆっくり体を温めて風呂から上がる。
アースの体を拭いて着替え、なんとなく鏡で顔を確認して違和感を覚えた。
「……目の色が変わった?」
青色が強くなったか? 母さんにキトンブルーだと言われていた青灰色が、藍色に近くなっている気がする。
ますます父さんに似てきてしまった気がする……父さんの色を考えると暗めの紫くらいまで変わることはありえるのか?
まあ色素が薄い人って髪の色も目の色も変わるって言うしな。さすがに髪が赤くなることはないだろうけれど、目が紫になるくらいならまあいいか。仮面だと誰に見られるわけでもないし。
「ぎゅー?」
「なんでもないよ。今日はこっちで寝るかい?」
「ぴゃ!」
覗き込んできたアースに頭を撫でて、仮面を戻してダイナーに降りる。
ナイトには念話でアースがこちらで寝ていくことを伝えた。ロボの修行についても訊いたんだけど、楽しみにしておいてくれとしか教えてもらえなかった。
何が起こっているのだろうか。
考えても仕方ないのでご飯にしよう。今日はボイルした鶏肉と野菜をライスペーパーのような生地で包んだものだった。生春巻きっぽい。
食べ慣れないものだけれどソースにスパイスが効いてて美味しい。深みというのか?少し苦みがあってちょっとピリ辛。チリソースではないみたいだ。
「口に合ったかい?」
「ああ。初めて食べる味のソースだけれど新鮮で美味しい」
アースも気に入ったらしく、お皿に並んだ包みを器用に一つずつ食べている。
「カカオや唐辛子を混ぜたソースなのよ。癖があるけど元気になりそうな味がするでしょう?」
カカオってソースになるのか。チョコレートのイメージしかなかった。
混む時間ではないのでナヒカさんもビスタさんものんびりしているから、少しゆっくりさせてもらおう。
カカオは粉だったので、鍋を借りてミルクココアを作る。砂糖の代わりに蜂蜜を使った。このくらいだったら作れるんだけどなぁ。魚とか捌けるけど焼けないとかいうポンコツ仕様な料理下手どうにかしたい。
「カカオをミルクで溶いて飲むなんて考えもしなかったわ」
「体を温められるし健康にもいいらしい。これからの季節冷えるから、朝や就寝前におすすめだ」
せっかくなのでナヒカさんとビスタさんにも飲んでもらう。アースにも用意していたのだけれど、余程気に入ったのかすぐに飲みきってじっと見てきたので俺のもあげた。マグカップに顔から行っている。
「レシピ貰っていいの?」
「勿論。レシピと呼べるかは謎だが」
カカオを牛乳で溶いて蜂蜜入れただけです。この世界のカカオ粉が地球のピュアココアパウダーに似てて良かった。
「子供が喜ぶ飲み物は少ないからな。有難いよ」
この世界ジュース無いもんな。紅茶とか牛乳、あとは水か。今度ナイトに子供が喜ぶ飲み物の作り方知らないか訊いておこう。
「あ、ユウここにいたのね」
声を掛けられて振り返るとヴァネッサさんがいた。
「何かあったか?」
「洞窟の話で忘れてたけど、ナイトの装備を騎士団から預かってたのよ。私の部屋に置いてあるから取りに来て」
「了解した」
騎士団も帰還してたのか。口周りをココアまみれにしたアースの口を拭きながらヴァネッサさんの後ろについて歩く。
バジリスクを倒したとき武装してたから何を渡していたのだろうと考えていたけれど、甲冑一式だった。元・正式武装か。
「本当に助かったって伝言を預かっているわ。あと、依頼報酬も今渡しちゃうわね」
伝言は受け取りましたが。
「依頼報酬?」
「やっぱり忘れ去ってたわね……大平原での討伐は騎士団からの依頼だったから報酬が出るのよ。はい、金貨50枚」
……。
置かれた麻袋に無言になる。三日で500万円かぁ。
「多すぎないか?」
「少ないくらいだと思うけど。ナイトの装備を借りた代金も入ってるらしいけど、一人でペリュトン相手したことなんかが加味されているらしいわ」
ペリュトンの相手はしてたけど、それ以外放置してたことはマイナスにはならないんですか? ここでヴァネッサさん相手にごねてもどうしようもないのでとりあえず受け取っておく。
素材の買い取り金額とかは別で貰っているからそろそろ金貨の総数が1000枚を超えそう。
重量は感じないはずなのに鞄が重い気がする。
孤児院に寄付するか。
ホールに戻るとウーさんがいたのでちょっと相談に乗ってもらおう。
「ウーさん、少しいいか?」
「はい。何かありましたか?」
「孤児院に寄付をしたいんだが、どのくらいが妥当だろうか」
ウーさんのアドバイスを受けて、孤児院には銀貨50枚を寄付することになった。金貨は大きな買い物をするとき以外は使い勝手が悪いうえに、あまり大きな額を渡すとお金があると思われて夜盗が入ったりすることがあるらしい。
大きな商家だと防犯もしっかりしていそうだけれど孤児院だとそうもいかないもんな。
「必要であれば両替をしましょうか?」
「いいのか?」
「はい。変なことをしようとしているのならお断りしますが、寄付なら問題ありませんよ」
やったぜ、お願いします。ちょくちょく買い物はしてるんだけど銀貨50枚はちょっと無いです。
何があるかわからないので金貨10枚を銀貨100枚に両替してもらった。50枚一纏めにして仕舞っておく。
「すぐに行かれますか?」
「いや。今日は部屋で用事を済ませるよ」
「承知しました」
そろそろ日が暮れる時間だし、まだ洗濯してないから。
訓練場の工事の進捗も気になるけれど、完成してから見たいし部屋に戻ろう。アースもお腹いっぱいになったからか眠そうだし。
アースをベッドに寝かせてひとまず洗濯を済ませる。この洗濯の仕方も慣れてきたな。干し終わってから、窓から差し込む西日に気づいてボムが入った瓶を窓枠に置いておく。
ベッドに座って洗濯物を畳んでいるとアースが膝の上に乗ってきた。可愛いなぁ。
ちょっと畳みにくいけれど可愛いは正義なので問題ありません。アース、可愛いは正義だし問題は無いんだけど靴下噛まないで。それおもちゃじゃないからね。
犬とかもだけどなんで靴下大好きなの? 洗濯してるものだとしてもなんかやめてほしい。臭うの?
あ、そういえばボムが大きくなることとサウスに名付けたことを報告するの忘れてた。まあいいか。思い出したときに言おう。
アースから靴下を死守し、畳み終わった洗濯物をクローゼットと鞄に仕舞う。ちょっと早いけれど寝てしまうか。ボムの瓶に布を被せてベッドに転ぶとアースが腕に顔を乗せてきた。可愛い。
イマジナリー妹がホワイトタイガーのお腹の上で昼寝している夢を見た。さすがに酷くないか?
この歳で妹とか…………妹か……いや、普通に嬉しいな。まりちゃんと呼んでいたから、家の名付けの系統から茉莉とかじゃないだろうから、真理か万里で「まり」かな。真理だと英智と若干被るから万里のほうかな。
……イマジナリー妹の名前を真剣に考えるの止めよう。
顔を洗って着替え、アースの顔を絞った布で拭いてからダイナーに降りる。
玉子焼きとベーコンを挟んだサンドイッチとコンソメスープにサラダ。温かい紅茶が美味しい。
今日は孤児院に行って、上着を買いに行こうかとぼんやり考えているとジェシカさんもダイナーに降りてきたので一緒に朝食を食べる。
「そうだ。ジェシカさん、西の森にはいつ行こうか」
「そうですね……明日はお暇ですか?」
「ああ。空いている」
「では」
「ジェシカ」
ん? 振り返るとまたまたヴァネッサさん。ちょっといい?と声を掛けられてジェシカさんがホールに行く。
「振られたな」
「らしい。残念だ」
ビスタさんに言われて肩を竦める。何かあったんだろうか? ジェシカさんが呼ばれたということは魔物関係ではないのか?
朝食は食べ終わったけれど、一応ジェシカさんが帰ってくるのをアースと遊びながら待っていると10分ほどで戻ってきた。
扉から顔だけ覗かせて眉間にしわを寄せている。
「ユウさん、護衛依頼なんですが、西の森でなくてもいいですか?」
「勿論。ジェシカさんの行きたいところでいいが」
何があったんでしょうか?
一難去ってまた一難と言うほどではないけれど、主人公君わりと忙しい。




