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勇者の息子は地球出身  作者: 潮柳
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第64話 鷹から生まれる鳶もいる

 半日以上掛かってしまったがスチール・スパイダーを依頼のとおり30体倒して素材を回収する。ゴーレムは25体いた。結構混ざっているな……。

「さすがにここまで多いと事前に教えてくれそうなものだが」

 イアンの訓練には危なすぎる。ヴァネッサさんがそんな危険を冒させるとは思えないし、ギルドで把握していない事態なのだろうか。腕を組むとジェシカさんも同じことを考えていたようだ。

「東の森から逃げ出してきて、ここに棲み着いたとかでしょうか」

「可能性はあるな。ここを出たら山の主に訊いてみるか」

 虫が増えたと言っていたけれど、果たしてゴーレムは虫なのか。

 訓練自体は最終的にイアンが腕を擦りむいた程度で終わった。途中危ないことも何度かあったけれどフォローが間に合って良かった。

 氷でドームを作り、遅くなってしまったが昼食をとる。

「でも、これだけのゴーレムがいて僕やジェシカさんがほとんど無傷なのには驚きです」

「ユウさんのおかげですね」

 お役に立てて何よりです。

「諦めたからな」

「諦めた?」

 イアンに首を傾げられたので肩を竦める。

「本当なら訓練である以上はある危険でも程度イアンに任せるべきなんだろうが、今回は少しでも危なければ氷も雷も使ってどんどん介入することにしていた」

 実際氷は多用したし、二度ほど雷も落とした。安全を保証できるのが俺しかいない以上見守るとかいう選択肢は無い。

 過保護と言われようが気にしない。保護できる子は全力で保護します。

 さて、では戻りましょうか。

 外に出るとバターとビクターと一緒にサウスがいた。俺たちに気づいたようでこちらを向く。

「戻ったか」

「どうしたのです?」

 大きなグリフォンに驚いて俺の後ろに隠れる二人に大丈夫だと手で示す。

「彼はこの南の山地の主のグリフォンだ。サウスという」

「私はヒトを取って食ったりはしないからそう怯えるな」

 あ、サウスはヒトを食べないのか。

「あまり美味くないからな」

 おっふ。ほっとした顔をした二人がまた俺の後ろに隠れた。

「サウス、正直に言えば良いというものではありません」

「元々グリフォンは食人種だ。この森のグリフォンが食わんというだけで他所の者が食わんとは言えん。油断するようになると危ないだろう」

 そうかも知れませんけどね。今じゃない。

 この森のグリフォンがヒトを食べないっていうことがわかったのはいいことなんだけでも。

「話を戻しますが、どうしてここに?」

 サウスに訊きたいことはあったけれど、サウスがここにいる理由はわからない。

「この洞窟の中がどうなっているか気になっていたんだ。ユウが来ているなら訊いておこうと思ってな」

 この洞窟? 聞き返すとサウスがなんと言ったものか、と翼を広げたり畳んだりを繰り返す。

「以前はただの洞窟だったのだが……少し前に地震があったのを知っているか?」

 地震? 俺は知らないけれど、ジェシカさんが頷いた。

「半年ほど前に大きな地震がありましたが、それですか?」

「それだ。このあたりは特に大きく揺れた。地形が変わった所が多くあったから、ここもなのか確認しておきたかった」

 そんなに大きな地震があったのか。地形が変わるほどってなかなかだろう。でもその割には街や外壁に傷みは目立たなかったけれど。

「中は鍾乳洞のようでしたよ。地底湖があったのと、冒険者ギルドでは把握していなかったようですがスチール・スパイダーの巣にゴーレムもいましたね」

「鍾乳洞化に、地底湖の出現、魔物の生息地の変化か。全く……」

 はぁ、とサウスが重いため息を吐く。

 地底湖はともかく、地震でただの洞窟が鍾乳洞になったり、魔物の生息地が変わったりするのだろうか。

「全て地震のせいなのですか? 鍾乳洞化や生息地の変化は関係なさそうですが」

 少なくとも鍾乳洞化するのはおかしい。鍾乳洞は最初から鍾乳洞なはずだ。

 疑問を口にするとサウスが頷いた。

「勿論、ただ大地がずれた程度ではそんなことは起こらない。しかし今回の地震はポセイドンが関わっていた」

 ポセイドン。

 サウスがわかりやすく顔を顰める。

「あの阿呆はお花が見たかっただの、蝶々が見たかっただのという巫山戯た理由で地震やら津波やら起こす」

 お花見たかったかぁ。

 もしかしてポセイドンもゼウスと同じで『悪意無く災厄を撒く』タイプなのだろうか。

「気を付けよ。ポセイドンは基本的には害意の無い友好的な魔物だが、根本が狂っている」

 根本が狂っている。

「あれが起こす地震や津波も、人や建物には被害を出さないが地形は変えるし畑を飲む。あれは人の営みを見ているようで全く見ていない。種族的に仕方が無いが、命がどう紡がれているのかわからないのだ。獣王を含む一部を除いて関わるべきではない」

 ポセイドンすごい言われようだな。言い方的にポセイドンも複数いるのか。ジュウオウが何かはわからないけれど、とりあえず強そうな知らない魔物に近づかないようにしよう。

「まあゴーレムならば外に出てくることは無いだろうが、念のためギルドとやらに報告はしておいてくれ。私も気をつけて見ていよう」

「承知しました」

 確認しなければいけないとは思っていたけど、原因がわかっていると報告しやすい。最深部まで調べたわけじゃないからまた調査隊とか組むことになるかもな。

 飛び立っていったサウスを見送っているとジェシカさんに肩を叩かれた。

「ところでユウさん、『サウス』とは?」

 ひぇっ。



 サウスに名前を付けたの黙ってたのがバレて怒られた。今度からちゃんと報告します。

 帰るには遅いので、少し麓に移動してから野営をする。晩ご飯を食べて、ぷかぷかと漂うボムを見ながら見張りをしているとイアンが起きてきた。

「どうした?」

「今日のことを反省会していたら目が冴えてしまって」

 反省会してたのか。えらいなぁ。今日のイアンに反省するところなんて無かったと思うけれど。

 イアンにホットワインを差し出すと、受け取って横に座った。

「ユウさんは反省会とかしますか?」

「勿論、と言いたいが、どちらかというと猛省しつつ説教されていることが多いな。私はどうにもやり過ぎるから」

「『火精霊の槍(イグニス・ランス)』みたいなことですか?」

「そのとおり」

 知らなかったとはいえウェストに名付けちゃったり、山凍らせたり、みんなの頭上に血を降らせたり。血を被らせた以外は人的被害が出てないのが救いか。

 しかし反省が活かせてないな……。昨日も思いつきでボブスレーしたのを反省したところだったのに、今日も好奇心で呪文言ってみたり。

「イアンは面白そうとか、できるかな、で魔法を使ったりするんじゃないぞ」

「そんな感覚で使ってたんですか」

 使ってました。

 しばらく一緒に今日の反省会をしていると、イアンがじっと俺を見てくる。

「どうした?」

「あ、すみません。ユウさんが誰かに似ている気がしたんですけど、思い出せなくて」

 誰だっけ、と首を傾げるイアンに驚いた。顔の半分以上が隠れているのによくわかるな。そしてシオンさんはイアンにも俺のことを黙っていてくれたのか。

 天幕を覗いてジェシカさんが眠っていることを確認する。

「さて、誰だと思う? ちなみに私は父にそっくりだ。父はシオンさんの友人だからイアンも会ったことがあるかもしれないぞ」

「えー、誰でしょう?」

 真剣に考えているイアンに笑う。

「そういえば、イアンはシオンさんの息子だってことで困ることなんかは無いか?」

 訊いてみるときょとんを目を丸くした。そして腕を組んで考える。

「少なくともレニアの街では無いですね。生まれたときから住んでますし、みなさん僕をただの子供として見てくれます」

 そうだろうな。訓練場でわちゃわちゃとみんなで取っ組み合いをしていたのを思い出す。シオンさんの息子だからと萎縮されていてはああはならないだろう。

 俺にだって父さんの息子だからとウィルが遠慮してくることも無いし、ヴァネッサさんに報告されてもいないっぽい。個人の実力主義なんだろうな。

「でも、他の街に行くとちょっと言われます。色が違ってもお父さんに似ているので息子とわかっちゃうみたいで。お父さんのようになれよ、とか、お父さんの息子なんだからどのくらいできて当然とか」

 あー、やっぱりそういうこと言ってくる奴いるのか。父さんが警戒しているのはそういう連中だな。

「お父さんのことは大好きですし、お父さんに似ているのが嫌だなんて思ったことは無いんですけど、僕が失敗するとお父さんの顔に泥を塗っちゃいそうで緊張します」

 イアンは真面目だな。しかしその真面目さはしんどそうだ。

「泥を塗るくらいシオンさんは気にしないだろう。どんどん塗っておきなさい」

「えー?」

「その程度シオンさんは自分で拭える。逆に息子だからとイアンが無茶な依頼を受けさせられて怪我でもした方がずっと傷付くし心配するだろう」

 いまいち納得していなさそうなイアンに、指先で仮面をつついた。

「私の父なんて、面倒に巻き込まれるといけないと言ってこんなものまで寄越してきた。親にとっては自分のせいで子に被害が及ぶこと以上に嫌なものなんて無いだろう」

「ユウさんのお父さんも名の知れた方なんですか?」

「ああ。なんならシオンさん以上に有名かも知れないぞ」

 首を傾げるイアンに、仮面をバングルに変える。スカイブルーの目が見開かれた。

「な、え……リアムさん? でも、え?」

「正解。貴族連中に知られては面倒だから顔を隠して出自を伏せている」

 パチパチと目を瞬くイアンの頭を撫でて鬣を乱す。

「街でも数人しか知らないから、秘密にしていてくれ」

「は、はい。勿論です。けど、本当に? お父さん、リアムさんに子供がいるなんて一言も……」

「18年間誰にも言わずにいたらしいからな。勇者パーティも私の存在を知らない」

 ぽかんと口を開いているのを閉じさせ、肩を竦めてみせる。

「さっきの話に戻るが、親ができていたことは子にもできて当然と言われると私はイアン以上に困る。父はシオンさんに負けたことが無いだろうが、私はシオンさんに勝つどころか、一撃入れるのすらあと10年掛るぞ」

 最早泥パックの域。鳶が鷹を生むの真逆だ。

「真面目なのはいいが、気にしすぎるのも良くないからな。シオンさんのことは気にせず、自分にできることをゆっくりと増やしていけばいい」

 むしろその歳でカッパーランクなんて十分すぎるだろう。14歳って言ってたから、大体の子はアイアンに上がれるかどうかだと聞いている。

 俺の顔をまじまじと見つめていたイアンが頷く。

「わかりました。僕なりにできる範囲を考えて頑張ります」

 よしよし。危ない依頼でも今回みたいに安全を確保できる人が近くにいればいいんだけどね。親が云々なんて言ってくる奴に期待できないからな。

「あの、僕以上に似ていますけど、ユウさんはリアムさんに似ていて困ることとかありますか?」

 え、どうだろう。

「私の住んでいた国では父は少し変わった人くらいの認識をされていたからな」

「勇者がちょっと変わった人な扱いをされる国って一体」

 そもそもお祖父ちゃんが大地主だったから、地元だとお祖父ちゃんの方が有名だったし。伊佐美さん家のお孫さんって扱いだったなぁ。

 あー、でも電車で遠出したときに喫茶店とか家電量販店とかに行ったらスタッフの人にすごい緊張感を持って見られたな。「せめて英語が通じてくれ」みたいな念を感じた。父さんゲルマン系の顔だから英語も危ういと思われるのかも。

 駅で忘れ物を届けたら「日本語が堪能ですね」って言われたりもしたなぁ。あと、何をしに日本に?的なテレビ番組に街角取材されたり。道に迷った海外の方に道を訊かれたり。

 堪能ですよ、日本語。母国語ですから。普通に友達と遊んでいるだけですよ、母国ですから。そして道案内はできなかったので電話越しに英智に道案内してもらった。聞く読む書くはできても話せないよくいる日本の高校生だったもので。

 誤解されることは多かったけれど、地球では困ることはそんなに無かったな。

「まぁ……そうだな。地元以外では仮面生活を強いられることぐらいだろうか」

 世界樹の種子製の仮面は着けてる感が無いから、全然気にならないんだけどね。


父親たちが化け物すぎて主人公君は自分が鷹である自覚が無いし、イアン君も自分が鷹である自覚がありません。

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